360度評価 を活用する会社、導入を検討する会社が増えています。
背景には、従来型の人事評価への見直しがあります。
人事評価を単なる「お給料や昇給昇格を決める手段」と考えるのは既に時代遅れで、評価を「成長を促進する貴重な機会」として活用する認識が広がっています。
360度評価はまさに「成長促進」に適した仕組みです。
本人の仕事ぶりを周囲の人達がどう見ているかを多面的にフィードバックすることで、多くの気づきを与えてくれます。
ただし、使い方次第で有効に機能することもあれば逆効果になるリスクもあるので、導入にあたっては重要な観点を事前に検証する必要があります。
今週のブログでは、360度評価の導入を検討している企業に向けて、導入検討時のポイントをお伝えします。
目次
360度評価 とは
360度評価とは、直属の上司だけが部下を評価するのではなく、評価される本人(=被評価者)の上司、部下、同僚など複数の人が同時に評価を行う仕組みです。
360度評価にはこのようなメリットがあります。
360度評価 のメリット
複数の人から評価されることで、評価の客観性が増す
: 上司のみの評価だと偏りが出る可能性があるが、それが是正される
周囲の人がそれぞれ自分をどのように見ているかが分かり、自己改善の参考になる
複数人からの評価のため、被評価者は真正面から結果を受け止められる
: 通常の上司のみによる評価の場合、結果が悪くても「上司は自分の事を正しく評価してくれない」という自己解釈が成り立つが、周囲全体からの評価が悪いと被評価者としても否定が難しく、受け入れざるを得ない
360度評価 のデメリット
メリットの裏返しがデメリットでもあります。
評価者が被評価者のことをあまり分かっていない場合、評価結果に意味がなくなる
例えば評価者が「よくわからないからとりあえず(5段階の)真ん中の3で評価しておこう」のようなことが起きると、360度評価を行う意味がない
上司単独の評価に比べて360度評価は結果が強いインパクトを持つため、被評価者がショックを受け自信をなくすこともあり得る
360度評価 の方法

人数
360度評価では、被評価者の上司、部下、同僚など複数名が同時に評価を行います。
評価者の人数が少な過ぎると特定の人の評価に大きく引っ張られてしまうので、理想は10人前後です。
小規模組織においては10人は難しいこともありますが7~8人は確保したいところです。
逆に多すぎると実務運用面の負担が重たくなるので、自社に合った人数を考えましょう。
評価結果の算定
評価結果の算定は、全評価者の点数の平均点を取る方法が一般的です。
評価者の人数が多い場合には、最も高くつけた人と最も低くつけた人を外して平均点を出すことで、極端な点数の影響を排除できます。
360度評価 実務において考慮すべきこと

給与に反映させるか否か
360度評価という言い方をせず、「360度フィードバック」と呼ぶ会社もあります。
これは、給与や昇進に関わる人事考課には使わず、あくまで本人の気づき、成長を促すためだけに使う、という考えによります。
この場合、昇格昇給などは目標達成評価などの別の評価方式にもとづいて行い、360度はその結果を本人へのフィードバックのみに使います。
先述の通り、360度評価は評価者の被評価者に対する理解の度合いなども関係し、評価結果が適切に出る場合とそうでない場合があります。
よって、この場合は「給与には影響させない方が安全」という判断です。
一方で、上司のみによる評価より360度評価の方が妥当な結果が出ると判断できる場合には、結果を人事考課として活用する選択肢もあります。
ただ、人事考課に活用する場合であっても、360度評価のみで人事考課を確定させているケースは少なく、
「目標達成度評価+360度評価」のように、別の評価方式と組み合わせて実施することが多いです。
例えば
目標達成度による評価 70%
360度評価 30%
このように割合を変えることによって、360度評価の結果が給与に影響し過ぎない程度にコントロールしています。
評価者をどのように選ぶか

誰が評価するか?で結果が大きく変わるため、評価者は慎重に決める必要があります。
被評価者とある程度仕事上の接点がないと評価できないため、なるべく偏りなくバランスの良い人選が求められます。
イメージ的にはこんな感じがベターです。
直上司1名、その上の上司1名
同じ部署の先輩2~3名
同じ部署の同期や後輩2~3名
隣の部署/関わりある部署の管理職1~2名
隣の部署/関わりある部署の先輩1~2名
隣の部署/関わりある部署の同期や後輩1~2名
評価者を誰にするかを決定する方法は3つのやり方があります。
上司が選定する
部下の仕事をよく分かっているので、部下評価にふさわしい周囲の人を選ぶことができる。
ただし、上司が部下に対して否定的に見ている場合、部下に厳しい評価をつけそうな人だけを選ぶ可能性があり、部下の納得度が下がる
被評価者本人が選定する
被評価者が自分の仕事を分かってくれている人を選べるので、被評価者にとっての納得度が高い。
ただし自分を高く評価してくれそうな人だけを選ぶことがあるので、「仕事上の関わりがある人、先輩後輩などのバランスをとること」などの条件は決めておくとよい
人事など第三者部門が選定する
上司または被評価者本人が選定する場合のデメリットを解消すべく、第三者的立場である人事などが選定する。
ただし、人事が現場の状況をどこまで分かっているか次第なので、規模の大きい会社には向かない。
おすすめは組み合わせ方式
- 上司が選んだ評価者の妥当性を人事がチェックの上で決定
- 評価者に組み入れるべき数名は上司または人事が選定し、残りの評価者を被評価者本人が決定 など
被評価者は社員全員か一部のみか
全社員の評価に360度評価を用いるケースと、「管理職以上」などの特定の人に限って取り入れるケースがあります。
いきなり全社員に導入するのではなく、まずは管理職から始めてみようという会社もあります。
管理職は上司、部下、他部署など様々な関係者のハブ的役割でもあるので、360度評価と親和性があります。
管理職としての振る舞い、マネジメント能力を自ら振り返る上では360度評価は有効な手立てと言えます。
ただし、管理職によっては部下からの評価を気にし過ぎて部下に遠慮する人も出かねません。
評価結果を給料にまで反映させるとそのリスクが高まるので、まずはフィードバック目的で活用し、管理職の気づき、成長を促すのも1つの方法です。
評価結果の開示

平均点のみか、それぞれの結果か
360度評価の結果を被評価者にどのように開示するかも複数の方法があります。
例えば評価者が10人いた場合、下記を選択します。
10人の評価結果の平均点のみを伝えるか
10人それぞれの結果を伝えるか
平均点のみでも意味は十分にありますが、10人のばらつきまで伝えると、
「10人のうち3人は高い評価だけど、4人は低い評価で、結果は中程度なんだ」
と実態が分かるので、より内省する要素が多くなります。
ただし被評価者が10人それぞれの評価結果を見た際、「悪い評価をつけたのは恐らくAさんでは?」という推測ができてしまうリスクもあります。
匿名か、実名か
評価者10人の結果を伝える際、匿名とするか実名も開示するかも併せて検討が必要です。
多くの会社では匿名を採用していますが、一部実名開示を選択する会社もあります。
職場風土として、普段から率直に指摘し合ったり、心理的安全性が確立している環境であるならば実名方式も選択肢となります。
一方でそのような風土ができあがっていない会社が実名開示するとハレーションを引き起こす可能性があるので、慎重な判断が求められます。
何を評価項目とするか

360度評価では何を評価するかという点で一定の制約があります。
「目標達成度」などの評価は、上司であれば業務詳細や経緯がよくわかるので評価可能ですが、同僚などが評価するのはハードルが高いです。
このような項目は360度評価には組み込まず、上司による別の評価方式で扱った方が良いでしょう。
360度評価に向いているのは、行動評価や基礎的なビジネススキルなど、上司だけでなく部下や同僚も判断しやすいものです。
行動評価項目の例
- 主体的な取り組み
- チームメンバーへの協力姿勢
- 粘り強さ
- 素直さ
- 規律
- 経験のない仕事へのチャレンジ姿勢 など
基礎的なビジネススキルの例
- 小まめな報連相
- コミュニケーション力
- クイックレスポンス
- 工夫改善
- 学習能力
- 資料作成力
- 問題解決力 など
管理職の場合のマネジメントスキルの例
- リーダーシップ
- 信頼
- 部下育成
- 部下コミュニケーション
- 問題解決
- 業務運営管理
- 調整力
- 交渉力 など
以上、360度評価を取り入れる際に検討すべき主なポイントについてお伝えしました。
まとめ
360度評価は従来型の人事評価に比べて客観性と多面的な視点を取り入れやすく、社員が自分の強みや課題に気づき、成長するきっかけを生み出します。
一方で、導入する思想がしっかりしていないと逆に混乱を引き起こすリスクもあるため、導入前の慎重な設計が欠かせません。
評価者の人数や選定方法
給与への反映可否や評価対象範囲など
結果の開示方法
評価者全員が評価しやすい項目の設定
これらを事前に整理し、自社に合った運用方法を決めることで、360度評価は単なる評価手段ではなく「社員の成長を促す仕組み」として機能します。
社員が安心してフィードバックを受け取り、学びを行動に変えていける環境を整えることこそが、導入成功の鍵となるでしょう。
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