なぜ、 会社が安定 すると人が育たなくなるのか?持続的に人が育つ環境をつくる具体的な方法

2025.08.29

会社が安定

会社が大きくなるにつれて、逆に人材が育たなくなるという矛盾があります。
 

例えば急成長したベンチャー企業では、創業期から事業を軌道に乗せるまでを牽引してきたメンバーが経営陣となっていることが多いです。

ここからさらに次のステージへの成長を目指す上で、次の世代から人材が育つのを期待しますが、思うように芽が出てこず、結果として中途採用に依存するケースは少なくありません。 
 

大手企業でも同様に、大きな変革期に中核として挑戦した世代には人材が揃っているものの、その下の世代からは有力な人材が出てこないという現象が見られます。
 

共通しているのは、会社が成長・または大変革してある程度落ち着いてくると、

次の世代では「チャレンジ」や「創意工夫」の余地が減り、変革推進できる人材が育ちにくくなる

という点です。

 
今週のブログでは、成長過程においてどの会社もぶちあたるこの壁を、いかにして乗り越えていくかについてお伝えします。

 

なぜ、会社の創業期・急成長期・混沌期には人が育つのか?

会社の創業期・急成長期・混沌期などは、のちのち会社を支える重要人材が育ちます。

なぜ育つのか? その理由はとてもシンプルで、「育つ環境が自ずと用意されているから」です。
 

これらの時期は特段の研修もなく、丁寧に教えてくれる上司もおらず、先例もない、

いわば「ないないづくし」の環境です。 
 
 

誰も教えてくれない

自分で調べ、自分で動いてみながら、何とか方法を見つけていく
 

頼れる人もいない

自分で考え、自分で決断する
 

ルールもあまりない

自らルールを定める
 

担当業務範囲も曖昧

気づいた問題は何でも首を突っ込んで解決していく
 

社外の偉い人と会う場

連れて行く上司もいないので、自ら乗り込んでいく

 

このような経験を日々繰り返しているうちに、主体性、自考力、決断力、判断力、ネットワーク力、度胸などが磨かれ、ゼロ → イチの力、混沌から仕組みを作り出す力が備わっていきます。

部分最適に陥ることなく、全社的な視点も自ずと獲得できるようになります。
 

このように、創業期や急成長期、混沌期においては、元々優秀な人材でなかったとしても、与えられた環境の力によって人材が育つメカニズムが組み込まれていると言えます。

 
最近、安定した大企業がベンチャーで創業期や急成長期を経験した人材を欲しがるのは、まさに大手の安定した環境では得られない経験をしている人材だからです。

 

なぜ、会社が安定すると人が育たなくなるのか?

 

急成長したベンチャー企業がビジネスモデルを確立し、上場したタイミングくらいになると、この「人材が育たない問題」に直面します。
 

なぜその現象が起きるかは、先ほどの創業期や急成長期に人が成長することの裏返しでもあります。

安定期になると、人材が育つメカニズムが失われていくのです。

 

守りの意識

 
かつては「何でも挑戦して失敗したらまた次やり直せばいい」という精神で急成長を成し遂げた企業も、業績が一定規模になり上場できるレベルになると、失敗を恐れるようになります。

大きな案件の失注やクレーム等によって会社の業績に影響が出るのを恐れるため、若い人材に大胆にまかせられず、上司も細かく指示・管理をするようになります。

「石橋がなくても無理矢理渡ろうとしていた風土」から、「石橋を叩いて渡る」風土に徐々に変わっていってしまいます。

 

ルールや前例による縛り

 
会社が大きくなる過程でルールや縛りが出てきます。

マニュアルなど明示的なルールもあれば、先人の経験則にもとづく暗黙の縛りなどもあります。

ルールやマニュアルなどが整備されることで事業運営の安定度や拡張性は増す反面、個人が自分の判断で自由に動ける余地が減り、思考範囲も狭まります。
 

 

部署間の縦割り主義

 
会社が大きくなると部署の数が増え、部署間の役割も明確に区分されるようになります。

組織を機能的に運営するためには止むを得ないことではありますが、社員の視点は「全社視点」より「部署最適」に偏ります。 

 

社長との距離

 
創業期からある時期までは社長と社員全員がとても近い距離で仕事をしており、新人が社長と会話することも頻繁にあります。

社長が何をしたいと思っているか、社長が今何を重視しているかなど、日常の接点の中で十分に理解できます。

ところが組織拡大とともに社長が遠い存在になり、社長の言ったことが伝言ゲームで伝わるようになると、話が間違って解釈されたり、弱まったりで、現場は経営トップの考えを正しく理解できなくなります。

 

採用面

 
会社の地名度があがり、業績がよくなってくると、以前よりも安定志向の人材が入ってくるようになり、挑戦を好まない社員の割合が高まります。

 

以上のように、会社が安定してくると、チャレンジ風土が弱まり、前例踏襲型の仕事、縦割りの仕事、経営者感覚に欠けた仕事が増え、人材が育ちづらい環境が勝手に組み込まれていきます。

普通に運営しているだけでは、この迫りくる波から逃れることはできません。

では、いかにしてこの波に飲み込まれることなく、人が育つ環境を維持していけるでしょうか?

 

人材が育つ環境を維持するために

 

メガベンチャー企業などでは、経営者が「会社が大きくなっても当社はベンチャー精神を忘れない、ベンチャーマインドを維持する」と仰ります。

それは、放っておくとどんどんベンチャーマインドが薄れ、挑戦しない企業風土になっていくのを恐れているからに他なりません。
 

このジレンマを打破するには、意図的に抗う具体的な仕組みを入れていく必要があります。
 

以下でその対策について紹介します。

 

業務の与え方

定型業務ばかりやっていては人は育ちません。

できるだけ自分で考える裁量、工夫余地を与え、試行錯誤する毎日を送ってもらいたいです。挑戦の要素も加えて欲しいです。

そこで、どんな社員も最低でも業務の2割以上を答えのない仕事、チャレンジ要素のある仕事に取り組むと決めることです。

個々の上司に委ねるのでなく、会社の制度として組み込むことが重要です。

優秀でチャレンジングな人材には2割と言わず、5割でも10割でも与え、どんどん新しいことをやってもらいましょう。

 

目標設定はストレッチゴール

目標管理制度を入れている会社が多くありますが、目標設定の水準はまちまちです。

同じ会社の中でもレベル感がかなりばらついています。

改めて目標管理の原点に立ち返り、目標は必ず「本気で頑張れば何とか届くレベル」のストレッチゴールに設定することを徹底しましょう。

これも本人任せにするのではなく、会社目標→部署目標→個人目標という形で、ストレッチを連動させる仕組みを作ることが重要です。

 

小チームに分ける

組織が大きくなるほど、1人1人の当事者感は薄まってしまいます。

そこで、例えば10人の営業部署であれば、それを3つの小チームに分け、それぞれに目標を持たせることで、疑似的なチーム経営を体験させることができます。

「アメーバ経営」のように、各組織の損益を見える化して、部署長は常に数字を意識し、経営者マインドを養うのも良い方法です。

 

競争原理の導入

安定ステージの企業はついつい現状維持、守りに意識が傾きがちですが、競争原理はそれを崩す有効な仕組みです。

競争には2つあります。
 

外部競争

ライバル企業などの動向を注視し、いかにライバルに負けない成果を出すか?という観点から工夫改善、チャレンジを促します。

内部競争

営業担当者同士、同期同士、部署長同士など、社内のあらゆるレイヤーで健全な競争を仕掛け、現状維持ではいられない雰囲気をつくります。
 

なお、競争環境を用意する上では、業績の数字の見える化、表彰制度などによる優秀人材の可視化、部署毎の目標達成状況の見える化など、わかりやすく比較できるデータが必要です。

 

プロジェクト型組織の活用

通常の組織は日々の業務運営に追われているのが現実です。
チャレンジを促しても、なかなか新しい事に時間を割けません。

組織間の利害対立や利害調整で変革がなかなか進まないことも多々あります。
 

そこでプロジェクト型組織を活用するのも有効な手立てです。

例えば、従来の業務のやり方を部署横断的に大幅に見直す必要がある場合、各部署から数名の人材を集めプロジェクト化します。

プロジェクトは所属部署の利害に捉われることなく、全社最適視点で動いてもらいます。
 

メンバーは通常業務7割と並行してプロジェクト業務3割というように明確に業務に位置づけ、プロジェクト自体は社長直轄などにして、本気であることを示し、尻すぼみにならないようマネジメントします。

 

優秀人材の抜擢と人事の権限

ゼロからイチを作る仕事に自らチャレンジできる人材は貴重です。

そのような人材は会社の財産なので、会社の未来を担う仕事にどんどん抜擢し、将来の経営幹部候補として特急列車に乗せて育成していくべきです。

現在の所属部署でも高い成果を出している人材なので部署長は放出したがりませんが、それでは宝の持ち腐れです。

優秀人材の異動については社長-人事ラインに強い権限を持たせ、軋轢があろうとも異動させられるルールを整えましょう。

 

子会社など別組織の設置

安定した企業風土の中にいながら大胆なチャレンジを促すというのは、そもそも無理があります。

そこで、新事業を別会社化して運営する、一部の業務を切り出して別会社化するなども有効な方法です。

既存のルールや常識にとらわれることなく、新会社に配置された人達が当事者意識をもってチャレンジすることが可能です。

既存の組織とコンフリクトが生じる可能性はありますが、そのコンフリクトを上回る変革の可能性と、社員達のチャレンジ経験という財産が得られます。

 

キックオフイベントなどの活用

組織が大きくなるにつれ、自分の部署のことしか知らず、全社的視野が失われていきます。社長の方針なども伝わりづらくなります。

そこで定期的なキックオフイベント等で、全社の動き、各部署の動きを知る場が有効です。

社長の方針をダイレクトに聞く機会も貴重です。

できるだけダイレクトに皆に情報を届ける場として用意してみてはいかがでしょうか。
 

 

チャレンジ、失敗を奨励する風土

新たなチャレンジを促しても、チャレンジした人が報われる風土がなければ持続しません。

チャレンジには失敗がつきものですが、その失敗を責められ、評価が下がるようなことがあれば誰も挑戦などしなくなります。

人が成長する過程では、失敗から学ぶ経験にこそ大いなる価値があります。

人事評価においても、それを後押しするような仕掛けができるといいですね。

 

スキルマップと育成サポート

創業期や急成長期は混沌の中に放り込まれ、右も左も分からないまま突っ走ることが結果として人材育成につながりましたが、会社がある程度安定してくると、社員にそのような育成環境を与えることは容易ではありません。

そこで経営幹部になるまでの道筋を明示することが重要です。
 

どのようなスキルをつけ、どのような経験を踏めば、マネージャーに上がり、さらに経営幹部を担っていけるかを誰にでも分かるように整えます。

そのための独学のやり方、会社が用意する研修、推薦図書、推薦外部教材、他流試合の機会などが分かるようなスキルマップと学習の連動を提示しましょう。
 

人の成長においては、会社でできる事もある一方、本人自らの自助努力も不可欠です。

本人自ら目標をもち、自己投資(お金&時間)のスタンスを養うためにも、スキルマップはとても有効です。

 

まとめ

 

急成長していた会社も、やがて事業が成熟し安定期に入ると、かつてのような「人材が自然に育つ環境」は失われていきます。

挑戦や工夫の余地が減り、ルールや前例に縛られ、縦割り思考が広がる組織の中では、人材育成が停滞しかねません。

であるからこそ、経営側が意図的に挑戦の場や仕組みを設計し、社員がチャレンジ、試行錯誤できる環境を維持することが欠かせません。

今回紹介したような仕組みを戦略的に組み込むことで、安定期の企業であっても持続的に人を育てることが可能です。

「安定したらあとは守り」になってしまわないよう、意図的に安定の中に挑戦を組み込むこと。

 それこそが、会社の持続的な成長と、次世代を担う人材育成につながるはずです。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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