会社組織の多くは「 ピラミッド型組織 」です。
社長 - 部長 - 次長 - 課長 - 主任 - 担当 といった階層型の仕組みです。
一方で、こうした階層構造がなくてもビジネスが問題なく機能しているケースも存在します。
なぜそのような組織が上手く回るのでしょうか?
そもそも組織にピラミッド構造は必要なのでしょうか?
今回のブログでは、このような視点から、改めて組織設計のあり方を考えてみましょう。
目次
「 ピラミッド型組織 」でなくても機能する事例
経営コンサルティング会社のケース
コンサルティング会社の組織はかなりシンプルで、固定的な階層構造はほとんどありません。
私がかつて勤めていた会社では、当時戦略コンサルティング部に30人ほどの人員が在籍しており、
全体を束ねる責任者はいましたが、メンバー間での上下関係は実質的にありませんでした。
部内では複数のプロジェクトが同時進行しており、各自が複数のプロジェクトにアサインされます。
例えば
- AプロジェクトではXさんがプロジェクトリーダーを務め、私はメンバーとして参加
- Bプロジェクトでは私がリーダーとなり、そこに30人の中の2人がメンバーとして入る
- Cプロジェクトでは隣のサプライチェーンコンサルティング部の人がリーダーを担い、メンバーはサプライチェーン部から2人、戦略コンサルティング部から私含む2人が参加
このように、プロジェクトによって責任者を担う立場になることもあれば、メインの担当者として責任者を支える場合、サポート的に担当者として関与する場合など、同じ人がさまざまな立場を担うのが普通でした。
つまり、会社全体がプロジェクトをベースに動いていて、それぞれのプロジェクトに責任者はいるものの、固定的な上司部下の関係はありません。
部署間をまたがるプロジェクトチーム組成も日常茶飯事です。
結果として、固定的なピラミッド型の組織構造がなくても何ら問題もなく仕事は進んでいました。
IT企業のケース
次の事例は、マネージャーの成り手がいなかったので持ち回り制でやってしまおうというケースです。
あるIT企業では、15人のプロジェクトチームにおいて、特にプロジェクトリーダーまたは管理職に相当する人を設けていません。
全員が完全にフラットな組織です。
元々はプロジェクトリーダーを決めようとしましたが、手を挙げる人がいませんでした。
頭を悩ませた上で導入したのがリーダー業務の持ち回り制です。
具体的な業務内容は以下の通りです。
- プロジェクトの全体進捗の管理
- 進捗が遅れている場合の対応と関係者への指示
- お客様への進捗報告
週1回の定例ミーティングでは、その週のリーダーが中心となって進捗確認を行い、対策などは皆で相談し、リーダーがお客様に報告するというやり方をとっています。
実施してみるとこのやり方にはメリットがありました。
1人1人が受け身にならず、主体的に助け合いながら進める雰囲気になった
15人で分散することで特定の1人に負担がかかり過ぎることがなくなった
結果としてプロジェクトは円滑に進行し、チームの結束力も強化されています。
プロジェクト型の業務以外でも通用するか?
上記2つの事例はいずれもプロジェクト中心に業務が動く業態なので、ピラミッド型組織に依存しない組織運営がやりやすいところがあります。
ではプロジェクト中心ではない業態、例えばさまざまな機能が複雑に関わり合う製造業などの組織でも、この考え方は通用するでしょうか?
私は十分通用すると考えます。
なぜなら製造業であっても小売業であっても病院経営であっても、全ての仕事はプロジェクトの集合体と言えるからです。
社内的に“プロジェクト”という呼び方をしていないだけで、あらゆる仕事はプロジェクトとみなすことができます。
例えば
- 月次決算
決まったメンバーで毎月ルーティン的に動かす「月次決算プロジェクト」
- 生産ラインの生産性改善
関わるメンバーが「生産性改善プロジェクト」を担っている
- 商品の配送効率向上
商品企画・生産・物流の部署が関わる、組織横断的な「配送効率プロジェクト」
各プロジェクトの責任者とメンバーが明確で、それぞれの役割がはっきりしていれば、適切に仕事を進めていけるでしょう。
しかし、多くの会社の部署横断的な業務にありがちなのは、関わる部署同士がお見合い状態となり、責任や役割が曖昧なまま進めてしまうパターンです。
これではうまくいきません。
例えば、A部とB部に関わる仕事を進める時にその仕事の責任者はA部の部長なのか、もしくはB部の部長なのか、はたまた関わる担当者の誰かが責任者になるのか・・・
その辺りを曖昧にしたまま進めてしまうと、結果として途中で頓挫します。
これを防ぐためには、最初から「〇〇プロジェクト」と定義し
- プロジェクト責任者決める
- メンバーの役割を明確にする
- ゴールと達成期限を決める
これらのルールを実行すれば、もっと仕事がスムーズに進むでしょう。
情報流通が ピラミッド型組織 を不要にする
もう1つの事例として、ピラミッド型組織を維持しつつも、情報流通の工夫により新たなメリットを創出したケースをご紹介します。
この会社ではITツールを活用して、役職に関係なく全社員に情報が流れる仕組みを導入しました。
具体的には、日々の業務報告を全社員がいつでもどこでも閲覧可能にしたのです。
従来の情報の流れはこうでした。
- 現場で何か問題が起きるとまず課長に報告
- 課長はさらに部長へ
- 部長は関連する部署の部長に共有
- 関連する部署の部長から部下へ対応指示
非常に長い経路なので時間がかかるだけでなく、途中でいつの間にか立ち消えになるという課題もありました。
しかしITツールを導入以降、日々の業務報告を社員同士がリアルタイムで把握できるようになり、大きな変化がありました。
それは現場同士でスピーディ―に問題解決に動くにようになったことです。
営業担当者が商品の在庫不足を情報発信すると、生産現場や物流の担当者がその情報を見て即座に対応
上司に報告して、さらに上の上司に報告してというまどろっこしいプロセスを全て中抜きして現場同士で解決するので、経営の改善スピードが早くなった
これまで社員達は自分の部署周辺の情報しか知らなかったのが、ツール導入以降は会社全体の動きを知ることができるようになり、視野の拡大、視座の向上など育成効果も出ています。
今の時代はSNSで世界の情報が瞬時に拡散されるように、会社内の情報もITの力を使えば瞬時に関係者に届けることが可能です。
情報の民主化のハードルが劇的に下がっているので、この魔法の手段を使わない手はないでしょう。
組織設計と情報の流れのコントロールは一体で考える必要があります。
このような情報共有の仕組みを自社にどのように取り込むかは、組織デザインの一つのテーマになるのではないでしょうか。
「 ピラミッド型組織 」は不要か?
ここまで、ピラミッド型組織に依存しなくとも業務が回る事例を示してきました。
では、ピラミッド型組織がなくても会社は成り立つのでしょうか?
上司がいない組織が成り立つでしょうか?
この問いについては、私自身も試行錯誤を重ねていますが、まだ明確な答えには至っていません。
ただ、答えは両極端にはなく「ピラミッド型組織」と「フラット型組織」の中間に最適解があるのではないかと感じています。
ピラミッド型の固定的な上司部下の関係がなくなると、それはそれで次のような問題が出てきます。
社員の評価、給与決定は誰が行うのか?
個々のプロジェクトは回るとしても、部署全体の視点での資源配分や優先順位は誰が決めるのか?(ex. Aプロジェクトは期間短縮し人員を増やし最優先で進めて欲しい、Bプロジェクトは当面の間凍結、等々)・問題社員がいた場合に対処するのは誰か?
各社員の育成の仕組みづくりや、スキルの足りない社員への教育は誰が行うのか?
社員の勤怠や有休取得の承認は誰がやるのか?
トップダウンで一気に進める業務があった場合、誰が陣頭指揮をとるのか?
ピラミッド構造に頼らず社員1人1人が主体的に動くフラットで自律的な組織は非常に魅力的ですが、その限界もあることがわかります。
- 平時の業務推進には強いものの、大きな問題への対処や危機のリーダーシップに弱い
- 会社を大きくドライブする局面、一気にサービスを立ち上げる局面なども、先導する上司が明確な組織の方に優位性がある
まとめ
今回は「 ピラミッド型組織 」について「フラット型組織」という対照的な組織運営とも比較しながら考察しました。
ピラミッド型組織とフラット組織、どちらか一方の組織に正解があるわけではなく、
業態、競争環境、事業のステージ、会社の直面する課題、企業文化などを総合的に勘案し、自社組織に適したあり方を考え続けることが何より大事だと思います。
かつてGMを巨大自動車企業に育てあげたアルフレッド・スローンはこのように述べています。
「経営管理の成否は、集権化と分権化との調和にかかっている」
引用:『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』アンドリュー・S・グローブ
今も昔も、組織設計の悩みは変わらないのかもしれません。
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