後任採用
人の退職が決まると、条件反射的に「後任を採用しなければ」と言う人がいます。
その時はあなたが「待った!」をかける役目です。
「社員が辞めたから後任を採用する」というのは一見普通の判断に見えますが、組織デザインや業務設計の観点からは安易で危うい発想でもあります。
人の退職は「その仕事は今後も必要か?」「同じ仕事のやり方でよいのか?」などを見直す絶好のタイミングです。
今週のブログでは、後任採用の望ましい姿についてお伝えします。
目次
なぜ安易に 後任採用 してはならないのか?

なぜ安易に後任採用してはならないのでしょうか。
その理由を、長年営業管理の仕事をしていた正社員Aさんの例で見ていきましょう。
Aさんの主な仕事内容は、各営業支店の業績データの取りまとめ、商品別売上データの集計、予算実績比較資料の作成などです。
長年担当しているので、各支店のメンバーともツーカーの関係。事務作業も早く、部署としてはなくてはならない存在でした。
そんなAさんが退職することになりました。
退職願いを受け取った上司は慌てふためき、「すぐに後任を採用しなければ」と動き始めました。
Aさんにはできるだけ退職日を先延ばししてもらいつつ、仕事の引継ぎ書作成をお願いし、同時に人事部とAさんの後任採用の相談を始めました。
この一連の行動は一見正しい対応のように見えます。
しかし、本当にそうでしょうか?
このやり方をしてしまうと、実は後々禍根を残すことになりかねません。
後任採用を判断する前に、少なくとも次のような観点から業務を見直す必要があります。
業務改善の観点

Aさんの業務は支店で集計しているデータや一部紙の資料を回収し、それを別フォーマットに加工し、さらに上司報告用資料に加工するという作業でした。
手入力やコピペ、さまざまな計算式で組まれてエクセルシート、一部複雑なマクロなどで成り立っている非常に属人的で複雑な業務です。
これをそのまま残していいでしょうか?
改めて作業ステップを検証し、作業の効率化、簡素化を進めるべきです。
手入力やコピペ作業をなくせば作業負荷とミス軽減につながるでしょう。AI等の活用によって自動化できる業務もあります。
Aさんしかできない仕事から卒業すべき時です。
引き継ぎ書の丸投げは危険
よくあるのが、Aさんに引き継ぎ書を作らせて、そのまま後任に渡してしまうケースです。
Aさんに引継ぎ書を丸投げし、上司がチェックしないのはリスキーです。
上司がの視点から、各業務が効率よく行われているかの診断をする必要があります。
業務の所属部署を見直す
さらに「その業務をどの部署が担うべきか」という視点も重要です。
業務内容によって、Aさんの部署が担うよりも別の部署で対応した方が合理的なものがあるかもしれません。そのため、業務移管の可能性も含めて検討することが重要です。
業務削減の観点

ベテランの人ほど、仕事内容がブラックボックス化しがちです。上司からも何をしているか見えていない部分があります。
例えばAさんの場合、支店の営業担当者が自分で入力すべき売上データを、月末営業担当者が忙しいからといって代わりに入力していました。
本来は営業自ら入力したものを管理側のAさんがチェックする立場なのに、それが崩れ、Aさんがやるべきではない業務を担っていました。
退職は業務の棚卸しのチャンス
このような問題は普段なかなか表面化しませんが、退職のタイミングで業務を第三者が洗い出すことで浮き彫りになります。
その他、今では誰も見ていないような資料を、過去からの習慣というだけで作り続けていることもありがちです。
Aさんがやっていた業務1つ1つが本当に必要か? という視点で見直すステップが欠かせません。
業務安定継続の観点

仮にAさんの業務を後任に引き継ぐとしても、その業務が難しすぎては引き継ぐことができません。
Aさんは長年その任務についていたので経験則や「あうん」の呼吸で処理していたことがありますが、後任にはそれが期待できません。
「誰でも回せる仕事」に設計する
Aさん退職をきっかけに、後任が1ヶ月程度で馴れる仕事のレベル、わかりやすさに変えていきましょう。
それをすることで、今後また退職者が出たとしても、焦る必要がありません。派遣社員で一時的にしのぐことも十分可能となります。
リスクヘッジの観点

金融機関では定期的に異動があり、引き継ぐタイミングで前任者の仕事に不正などの問題がなかったかを確認します。
同じことを本ケースでも行うべきです。
長期担当者にはリスクが潜むこともある
もちろんAさんを疑うわけではありませんが、多くの企業では日常的に監査する仕組みなどが十分に整っていないのが実情です。
そのため、退職のタイミングでは、リスクヘッジの意味でも業務チェックを行いましょう。
特に長年同じポジションにいた場合、例えば営業担当者が本来翌月に売上計上すべき案件を月内に押し込んできた時に、目をつぶって処理してしまうといった、不適当な対応が起きている可能性もあります。
後任採用の設計

上記の検証を経て、それでもAさんの後任を採用することが決まった場合、採用活動の前に考えておくべきことがあります。
仕事内容
組織として業務を見直した上で、改めて何をやってもらうかを明確にします。業務改善、業務削減、部署内の業務分担変更などを踏まえ、Aさんのやっていた業務とは多かれ少なかれ異なる定義になるはずです。
雇用区分
Aさんが正社員雇用だったからといって後任も正社員である必要はありません。逆にAさんが仮に派遣社員だったからといって、次も派遣社員であるべきともなりません。
後任の業務の難易度、業務のボリューム、安定的に働いてもらう重要性、AIへの代替可能性などを踏まえて判断しましょう。
例えば業務を見直した結果、週3日出勤で回る業務であれば、契約社員採用がふさわしいかもしれません。
将来的にAI等に代替されやすい業務であれば、当面の間は派遣社員でつなぐという考え方もあります。
採用ターゲット
前段の雇用区分とも関係してきますが、業務の難易度や必要スキルに応じてターゲットを考える必要があります。
安易に「Aさんのような人」という採用はNGです。
例えば検証の結果、「業務内容が難しすぎて採用が簡単に進まない」と判断した場合、全体の仕事の中から高度な業務は同僚のBさんが引き取り、比較的簡単な事務業務として後任を採用するという方針もあり得ます。
その場合のターゲットは「Aさんのような人」にはならないはずです。
報酬
Aさんの仕事を上記の観点から見直した上で後任を採用する場合、報酬水準も改めて設定する必要があります。
Aさんと同じにすればいいというわけではありません。
仮にAさんの仕事が報酬に比して高すぎた/低すぎたのであれば、後任採用のタイミングで適切な水準に見直します。
業務改善や業務軽減によってAさんの後任の業務レベルが下がるならば、報酬も併せて再検討することになります。
まとめ
社員の退職に際して、無条件に後任採用を進めてはいけません。
何も考えずに採用してしまうと、従前の無駄やリスクや属人性が温存されたままとなります。
後任にとっても、覚えにくく馴染みにくい仕事となるため、早期の離職を誘発しかねません。
社員の退職は、その人がこれまで担っていた仕事を見直すいいチャンスです。
業務効率化、無駄の廃止、仕事の難易度軽減、属人化からの脱却、リスクの発見と対策など、数多くの改善につながる可能性があります。
多少手間をかけてでも、ぜひ取り組むべきです。
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