中小企業の新卒採用 は本当に必要か?今こそ「 新卒採用の意味 」を問い直す時

2022.05.20

「 新卒採用の意味 」を改めて考えるべき時にきています。

日本は新卒採用のやり方において、独自の「新卒一括採用」という仕組みを長らく維持してきました。
 

  1. 毎年決まった時期になると学生が一斉に就職活動をスタートし、各社の選考プロセスのふるいにかけられながら内定を獲得していきます。
     
  2. 一部の理工系学部を除けば学生時代の専攻と応募職種にはあまり関係がなく、ほとんどの人が就活の中で希望業界・やりたい仕事を絞り込んでいきます。
     
  3. 新卒採用された新人は長期雇用を前提に一から教育を受け、数年おきにジョブローテーションを繰り返しながら、管理職へと育っていきます。(特に大手企業の場合)

 

長年続いてきたこの仕組みに徐々に変化が生じているのを皆さんも感じていると思いますが、今後さらに大きな変化が予想されます。
 

特に中小企業の新卒採用はますます向かい風に直面します。
 

そんな今こそ、「新卒採用って本当にやる意味があるの?」

という根源的な問いを立てる所から考えるべきかもしれません。

今週のブログでは、新卒採用市場の変化を踏まえ「あなたの会社が新卒採用、ひいては人材採用をどのように行っていったらよいか」を、ともに考えていきます。

 

新卒採用は人材が定着しない

 
昔から新卒入社者の定着率はよくありません。

厚生労働省が毎年公表している「新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率」における令和2年の事業所規模別3年以内離職率は次の通りです。
 

新卒採用の意味

 
小さい会社ほど離職率が高く、500人未満の会社では10人採用したら3年後までに3~6人が辞めるのが通常の姿です。

 

最初に就職する会社で、どのくらいの間、働いていたいと思うか

 
もう1つ興味深いデータが、ソニー生命保険が社会人1年目と2年目のビジネスパーソンに実施したアンケートです。

(「社会人1年目と2年目の意識調査2022」(2022年4月21日公表))
 

 
「最初に就職した会社で定年まで働きたい」
 
社会人1年生:25%

社会人2年生:15.6%

 

最初の会社で定年まで働きたいと思っている人は、入社時点で4人に1人、1年後にはさらに減少して15.6%しかいません。
 

就活学生達は時代の変化を敏感に感じ取っており、
 

「会社は生涯守ってはくれない」

「自分のキャリアを会社任せにはできない」

「専門性・スキルを高めないと生き残っていけない」

 
このような前提で就職活動を行い、企業に就職してきます。
 

よって今後を展望すると、新卒社員の定着率が下がることはあっても、上がることは考えにくい状況です。

せっかく新卒採用を行い教育しても「数年後には去ってしまうリスク」を前提に組織を考えていかねばなりません。

 

「新卒採用を嫌う中国」に近づく日本

「新卒採用を嫌う中国」に近づく日本

 
以前中国で人材ビジネスに携わっていたころ、日本との違いにびっくりしたものです。

中国では、一部の大手企業がトップクラス人材を新卒採用する以外は、多くの企業が新卒を採用したがりません。

大卒の就職率は半分程度、データによってはもっと低いとの情報もあります。
 

採用したがらない理由はこのような理由です。
 

「入ってもすぐに辞めてしまう」

「どんな仕事したいのか定まっていない。ふらふらしている」

「ノウハウを学んで他社に転職するだけ」
 

新卒採用で就職できなかった学生達は卒業後インターンでどこかの会社に潜り込み、そこで働きながら自分のやりたい仕事を見つけ、正社員の口を目指して活動を続けていきます。

学歴社会でもあるので、一度社会人になった後、夜間大学院に通ったり、学位取得や専門能力獲得に余念がありません。
 

よく言えば会社に依存することなく、自己投資をしながらキャリアアップを目指す社会です。

セーフティーネットが弱いので、自分のキャリア優先で(やや自分本位で)ジョブホッピングを繰り返す社会でもあります。
 

日本とはずいぶん違うと思っていましたが、今の日本で起きている変化は非常に近いです。

中国のシステムがいいとは言えませんが、日本も徐々にそちらに向かっていると痛感します。

 

「 新卒採用の意味 」あなたの会社でも新卒にやらせる仕事がなくなる?

あなたの会社でも新卒にやらせる仕事がなくなる?

 
既に金融機関などの事務業務の多い業界では、業務の自動化、AIによる代替が加速しています。
 

メガバンクの2023年春新卒採用予定数は1,100人と、5年前の3分の1に減少しています。(日本経済新聞)

 
一方でIT技術者を中心に即戦力の中途採用は増やしています。

事務業務の大幅減少により新卒採用の必要性が減り、フィンテックを念頭に情報技術のスキルを保有する中途採用人材に重きを置きはじめました。

 

日本では工場の仕事は長い歴史の中でどんどん機械化されてきました。

オフィスワークにおいてもいよいよ本格的に事務作業・単純作業の自動化、半自動化が加速しており、今後新入社員のような見習いレベルの人にやらせる仕事は減少していきます。
 

専門性がなく、知識、経験、判断力が伴わないレベルの社員ができる仕事が限られていきます。
 

新入社員の側の意識も変化しており、入社して何年も単純作業やスキルのつかない仕事につかされると、自分の成長に不安を感じて辞めてしまいます。(近年そのような退職事例を頻繁に聞きます)

 

新卒同士の格差はますます拡大

新卒同士の格差はますます拡大

 
企業が新卒に対して始めから即戦力を求め出すと何が起きるでしょうか?
 

それは横並び給与の崩壊です。
 

既にIT系職種を中心に新卒に高額報酬を用意する企業は枚挙にいとまがなく、これが徐々にほかの職種にも広がっていきます。
 

かつてはどこの会社も大卒給与は20数万円という相場でした。

今後は特段スキルや能力の高くない人材はこの相場が維持され、即戦力人材や優秀人材の報酬はもっと上がっていくでしょう。
 

財務体力のある会社とない会社による初任給格差もついていく時代なので、人件費水準の低い中小企業は、今まで以上に優秀な新卒学生を採用しづらくなる恐れがあります。

 

インターン選考の活発化

 
経団連と大学などによる産学協議会は、2022年4月、インターンシップの評価を採用選考に活用することを認めました。

従来はインターンシップの情報を採用選考に使用することは不可とされていたので、表立ってそれをする企業はありませんでしたが、今後は明確に選考のためのインターンシップが活発化します。
 

2024年度卒業以降の大学生からルール適用となるので、今の大学2年生からインターンシップによる青田刈りが加速し、優秀な学生は3年生の夏頃にはかなり囲い込まれてしまう可能性もあります。

インターンシップでよい学生を確保するには、魅力的なインターンシップの企画、実施が求められます。
 

インターンシップを企画する余裕のない中小企業はますます不利な立場に置かれるでしょう。

 

「 新卒採用の意味 」中小企業はどうなるか

 
ここまで述べてきたように、中小企業にとっての「新卒採用」は逆風が強まります。
 

  • もともと高い新卒の離職率が今後さらに上昇(採って教育してもすぐに辞めてしまう)
     
  • 新卒にやらせる事務仕事が社会全体として減少(単純事務作業をやらせていると辞めてしまう)
     
  • いい人材がさらに採りづらくなる
    • → 優秀人材の初任給が上昇
    • → 会社毎の初任給格差拡大
    • → 人気企業、大手企業のインターンシップによる青田刈りが加速

 
とはいえ、新卒採用ならではのメリットが依然あることは変わりません。

「一度に多くの人材を確保できる、育成効率がいい、企業文化を体現する人材を育てやすい」などのメリットがあります。

新卒採用に逆風があることを踏まえつつ、会社としてどこに向かうかが問われています。

 

新卒採用の意味 逆風に立ち向かう方策

 
この逆風に立ち向かうためのいくつかの大胆な方策についてお伝えします。
 

①新卒採用をやめる

 
いい人材がなかなか採用できない、入ってもすぐにやめてしまう。

ならば、思い切って新卒採用をやめて、中途採用に専念します。
 

中途採用市場は、新卒採用市場ほど会社規模の大小が有利不利につながりません。
知名度のない会社であっても色々と工夫しがいがあります。 

 
そこで、会社としての中途採用力を徹底的に高め、中途採用でいい人材を補充していきます。

中途採用に強い会社になり、新卒採用に頼らなくても人材が確保できる状況をつくりあげるのです。

 

②人を増やさない

 
毎年の自然減を数名の新卒採用で補っている会社であれば、思い切って補充をせず、減った人員で従来通りの仕事を回します。

つまり生産性を高め、少ない人員でより大きな収益を上げる方向に舵取りをする考えです。
 

 

③新卒採用強者になる その1

 
新卒採用でいい人材を採るべく、相応の体制と投資を行います。

市場全体でみると新卒採用に力を入れる会社が減る流れなので、超優秀人材の獲得競争では負けるとしても、中の上クラスの人材の市場は逆にチャンスになるかもしれません。

中の上クラスの中で自社の社風に合った人材を採れるように、選考フロー、選考方法、条件面、入社後の業務などを1から見直します。

新卒学生にも早いタイミングで仕事を任せ、主体的に仕事に取り組める環境をつくっていきます。

 

④新卒採用強者になる その2

 
③は採用方法の改善によって新卒採用力を高める方法ですが、④は新卒学生の一部から支持を得る個性ある会社になることです。

例えばこのようなことをあえて特徴とします。
 

  • 終身雇用、年功序列
  • 飲み会重視
  • リアルな場重視。社員同士の交流超活発
  • 大家族主義

 
これらは一時代前の職場環境で今の時代では圧倒的マイナーな立場になりますが、あえてこのような環境を好む少数派学生にとっては得難い存在に映る可能性があります。

 

逆に「最先端スタイル」もありですね。
 

  • フルリモート(居住地はどこでもよい)
  • 転勤なし
  • 週休3日
  • 業務のIT環境は最先端
  • ティール組織型運営
  • 性別年齢国籍一切問わず

 
これも1つの形です。

ここまでできる会社は限られるかもしれませんが、尖った分だけ個性ある人材を集められる可能性が出てきます。
 

上記以外にも、特徴を際立たせる要素はたくさんあります。
 

■ 仕事の意義・やりがいで圧倒的な達成感がある

■ どこの会社よりもスキルが身につく

■ 独立しやすい

■ 自然環境豊かな場所にある、子育て環境が抜群

■ 社員食堂が抜群においしい、毎日のおやつタイム

■ インセンティブが高い、業績賞与がとても高い

 

以上、③と④は新卒採用の弱者である中小企業が、逆風が吹く新卒採用市場において自らの存在感を示し実効性を高める方法でした。

 

「 新卒採用の意味 」まとめ

 
あなたの会社にとって、「新卒採用」は今後も魅力的な人材獲得手法と言えるでしょうか?
 

新卒採用はいい人材を採るのが難しく、せっかく採用してもなかなか定着してくれません。

この向かい風は今後さらに厳しくなることはあっても、楽になることはなさそうです。
 

そこで、これまで続けてきた新卒採用のあり方をいったん再考すべきタイミングです。

漫然と続けるのではなく、人材確保の方法として「新卒採用」をどのように位置づけていくか、改めて考えてみてください。
 

その上で新卒採用を継続するのであれば、具体的にどのような作戦で自社に合った人材を確保していくか、本気で成果を出すための知恵と行動の戦いが始まります。

 

 

こちらの記事もおすすめです。
 

 

 

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

筆者プロフィール詳細