AI時代 の新・キャリア戦略|経験の価値が下がる中で評価される「ソフトスキル」とは?

2026.05.15

AI時代

最近のAIの浸透と転職市場を見ていると、社員の評価基準や採用の選考基準などが根本から変わろうとしているのを肌で感じます。

大きな変化のポイントは次の2点です。

 

1つは、これまで長年にわたる経験を積み重ねた人しかできなかった仕事が、AIの活用により、初級者でもできるようになることです。

これが意味するところは、経験による知識やノウハウの価値が相対的に下落していくことです。

結果として、経験に立脚して仕事の価値を出していたベテラン社員の価値も相対的に低下してしまいます。
 

2つ目は、同業他社から転職してきた経験者が、期待されたほど新しい職場で活躍できていない事例が散見されることです。

以前からそのような理由で「あえて中途採用で経験者は採らない」と決めている会社も一部にはありましたが、まだまだ少数派でした。
 

しかし、1つ目の「AIによるスキルの平準化」と掛け合わせると、今後は「業界経験」や「職種経験」というものの価値が、転職市場において徐々に減退していくでしょう。

特に今のような環境変化の速い時代は、過去の経験が「先入観」や「固定観念」となり、かえって足かせになることさえあります。
 

これからの時代は、過去の経験による知識やノウハウよりも、「別の能力」が一層重視されるようになっていくのではないでしょうか。

今週のブログでは、AIの普及によって人の評価軸や採用のポイントが変化していく可能性についてお伝えします。

 

経験やノウハウの価値が下がっている

 
あなたはこれまでのキャリアの中で、全く新しい職種に挑戦することになった時、どのように対応し、壁を乗り越えてきましたか?
 

私は過去に経営企画の仕事をしていた際、IR、広報、法務・知財、M&A、上場準備といった仕事をすべて未経験から担当する経験をしました。

いずれも前任者はおらず、その会社で初めてポジションが生まれた仕事だったので教えてくれる人もいません。

とりあえず知人でそのような業務をやっている人から話を聞いたり、本や雑誌を読み漁ったり、外部の専門家にも教えを請いながら、文字通り「手探り」でこなしていました。

 

今の時代なら?

今の時代に私が上記の未経験業務を担うことになったら、まず間違いなく、AIを活用するはずです。
 

例えばM&A業務の進め方を初心者向けに説明するよう指示すれば、それはそれは分かりやすく解説してくれます。

気になるところを更に深堀りしたり、具体的な事例を尋ねれば、業務の全体像はかなりくっきりと見えてきます。
 

もちろん、実際のM&Aは相手との交渉においてさまざまな利害や課題が絡み合うため、未経験者が最初から完璧にこなすのは簡単ではありません。

しかし、少なくとも「テクニカルな部分」や「業務の手順」などはAIをパートナーにすることで大幅にショートカットできてしまうのです。
 

特許出願の書類作成を初めて経験した時は、どう書いてよいか本当に分からず、弁理士さんのアドバイスや、さまざまな企業の特許出願書類を参考にしながら、四苦八苦して書きあげました。

これが今なら、出願に関する骨子を伝えてあげれば、AIがかなり完成度の高い出願書案を作成してくれることでしょう。
 

知財の初心者であっても、特許関連の基本的業務なら十分に回せてしまうのではないでしょうか。

 

これから価値が高まる「スキル」とは?

AI時代

 
業界経験や職種経験の価値が相対的に下がる中で、逆に価値の高まるスキルは何でしょうか?
 

それはポータブルなソフトスキルです。

どんな業種・職種であっても通用するポータブル(持ち運び可能)なスキルを指します。
 

その対極にあるのが、業界知識や職種知識などの「ハードスキル」で、これらは他の業界や別の職種に持っていっても活かしにくいという側面があります。
 

今後重視されるポータブルなソフトスキルは主に以下のように分類できます。

 

思考力

ロジカル/クリティカル思考、洞察力、問いを立てる力、課題発見力、問題解決力、創造力、分析力、学習力、AI活用力など
 

行動力

すぐ行動に移す、未経験に飛び込む勇気、変革力、やりきる力、継続力など
 

対人力

聞く力、伝える力、協働力、調整力、交渉力、感受性、サポーティブ、人を見る目など
 

仕事の進め方

緻密、丁寧、スピーディー、報連相徹底、時間納期厳守など
 

性格・姿勢

誠実、素直、前向き、明るい、裏表がない、他責にしない、逃げない、知的好奇心、他者からの信頼など
 

リーダーシップ

ビジョン発信、巻き込む力、責任を背負う覚悟、当事者意識など
 

マネジメント力

成果に向けた事業運営管理、業務設計と割り振り、問題解決行動、チームビルディング、動機づけ、人材育成など

 

改めて整理すると、どの会社においても、どの仕事においても、社員に身に着けて欲しい能力ばかりではないでしょうか?

このようなソフトスキルは、これまでももちろん重視されてきましたが、今後はこれが「コアスキル」としてさらに高く評価され、重宝されると思います。

 

事例:経理担当Aさんのキャリアチェンジ

 
経理部の担当者Aさんのケースを見てみましょう。

Aさんは主に決算業務を担当しています。

経理の決算業務の大半をAIが担うようになった時、Aさんはどうすべきでしょうか?

 

以前のキャリアパスで言えば、経理で決算業務をできるようになった人は、次のステップとして予実管理や、管理会計(事業部別損益や商品別損益などから現場の課題に切り込んでいく役割)へのステップアップを期待されました。

ところが今の時代、予実管理のデータ集計はもちろん、その分析までAIが担います。

部署損益データからどこにどのような問題が起きているかの仮説出しもAIで可能です。

Aさんは経理部で今後どのようなキャリアを目指せばよいか、先が見えなくなっていました。

 

そんな中、Aさんは会社の辞令で「人事総務部」に異動することになります。

最初のミッションは、仙台に営業支店を早期開設することでした。

Aさんは就職して以来、経理の仕事しかしてこなかったので総務の経験はありませんでしたが、実はAさんに次のようなポータブルソフトスキルが備わっていました。
 

「未経験に飛び込む挑戦心」 「高い学習力」 「AI活用力」 「周囲を巻き込む力」 「調整力や交渉力」 「スピード感」 「丁寧な仕事」
 

その結果、仙台支店の立ち上げは非常にスムーズに進みました。
 

Aさんは、その後も順調に、採用や人事評価などの業務をどんどん習得し、幅を広げていきました。

Aさんの前向きで明るい性格、粘り強さなども、仕事が上手く進むための大きな要因となりました。
 

このAさんの事例から言えることは「業務未経験であっても、その人にポータブルなソフトスキルがあれば、かなりの業務に対応できる」という事実です。

 

AI時代の「評価軸」と「採用軸」

 
今後は業界経験や職種経験よりもポータブルソフトスキルが求められるようになる、という時代の変化についてお伝えしてきました。

この変化は人材の価値基準に影響するため、会社的には採用と評価にビビッドに変化が出るはずです。

 

評価軸

業界経験、職種経験も変わらず評価されますが、その相対的割合は徐々に下がり、ポータブルソフトスキルの評価割合が高まるでしょう。

成果を出すための主要素が、「経験」よりも「現状分析力」 「チャレンジ志向」 「行動力」 「創造性」 「対人力」 「リーダーシップ」などにシフトしていきます。

よって、評価のやり方が成果評価であろうと能力評価であろうと、ポータブルソフトスキルが重視される評価方法に変えていく必要があります。

 

採用軸

評価軸同様に、経験者よりもポータブルソフトスキルの高い人に重点を置いて採用するようになるでしょう。
 

ただし、採用時の見極めにおいては特有の難しさがあります。

候補者の履歴書や職務経歴書には、業界や職種の経験、知識は詳しく書かれていますが、ポータブルスキルについての情報はほとんどありません。

企業は「書類選考」という、欲しい情報が書かれていない書類で一次選考しなければならない矛盾に直面します。

人材紹介エージェントにも、候補者のソフトスキルまで見極めているコンサルタントは殆どいないので、自分の目でしっかり見極めなければなりません。
 

そのため、面接スキル、特にポータブルソフトスキルの有無を見抜くための深い質問や会話が求められます。

また、これらのポータブルソフトスキルは短時間では見抜けず、実際に一緒に働いてみないと見えづらい側面があるため、できるだけリファラル採用やインターン的なお見合い期間を通じて、お互いをもっと良く知ってから採用したいと考える企業も増えるでしょう。

 

まとめ

AIによって「誰でもできる仕事の範囲」が広がったからこそ、今後はよりその人自身の資質が問われるようになります。

固有の業界知識や職種の専門性以上に、ポータブルソフトスキルが重視されます。

AI登場以前から長らくキャリアを築いてきた人たちにとっては、「これまでの経験が通用しなくなる」と聞くと不安に感じるかもしれません。
 

しかし、ポータブルソフトスキルのほとんどは誰でも心がけや努力によって身に着けられる力です。

これまで多くの人が苦手としていた複雑な知識、高度な分析、難解な文章の理解、センスの問われる企画書作成などの仕事は、習得するハードルがとても高いものでした。
ところがこれらの難解な仕事はAIに任せられるようになりました。

そのお蔭で、今後は誰もが自身の努力次第で力を発揮し、価値を生み出せるフラットな時代が来たとも言えるのではないでしょうか。

 
そう考えると、これからの働き方はもっと自由で面白いものに変わっていくはずです。
 

必要なのは「何を成し遂げたいか」という明確な意志と、それを支えるポータブルスキルです。

個々の社員が生み出す「価値の源泉」が大きな転換期を迎えている以上、企業側も「評価と採用」の基準や仕組みをアップデートすべき時が来ていると思います。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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