AI全盛時代に向けて備えるべきスキル 【第1回】インプットこそ最大の武器。 インプット なき人はAIに使われる運命

2025.06.19

インプット

今回から3回にわたって「AI全盛時代に向けて備えるべきスキル」をテーマにお届けします。
 

AIが仕事に深く入り込む今、人間にしかできないことは何か?が、これまで以上に問われるようになってきました。

本シリーズでは「AI時代を生き抜く力」を以下の3つの視点から掘り下げていきます。
 

第1回:情報の蓄積が武器になる ― AI時代を支える「インプット力」

第2回:考える力が差をつける ― AIを動かし評価する「思考力・概念化力」

第3回:人間らしさが価値になる  ―AIにはない「対人スキル・感受性」
 

今回はその第1回。

まずは「AI時代になぜインプットが重要なのか?」を考えていきましょう。

 

「 インプット 」は思考の出発点

 
インプットとは、情報を仕入れ、知識を蓄えることです。

それによって、何らかの課題に対して的確に判断したり、新たな発見ができる助けになります。

さらに、物事を多角的に見る「視野」を拡げ、俯瞰した視点から見られるよう「視座」を高める土台にもなります。
 

今のAIは、指示を出せば必要な情報を集め、分析し、資料作成までやってくれます。

これまで手間のかかっていた作業を考えると、とてもありがたい時代です。
 

では、人間側には何の知識もなくてよいのでしょうか?
 

知識量、情報量では逆立ちしてもAIにかなわない以上
 

「人間はあえて知識など持つ必要はなく、毎回AIに考えてもらえばいいのでは?」 
 

そう考えたくなる気持ちも分かりますが、はたしてどうでしょうか?
 

ここで、ある事例をご紹介します。

 

【事例】AIを活用した提案で、上司に再検討を命じられたKさん

柔軟に採用するための面接方法

 

Kさんは上司から、このような指示をもらいました。
 

「今のオフィスの建て替えに伴い1年後に立ち退く必要があるから、次の新しいオフィスをどうするか提案して」
 

指示を受けたKさんはさっそく生成AIを用いて次のような指示を出しました。

 

KさんがAIへ出した指示

 

現在品川駅から5分ほどの場所にオフィスがあり、今度移転を考えている。

従業員数は150人ほど。出社日・リモート日は半々。

賃料の総額は現状とあまり変わらない水準にしたい。今の賃料は月600万円程度。

できれば駅から徒歩3分以内で、駅からオフィスまで雨に濡れずに行けるとベター。

社員の多くは東海道線沿線や、渋谷乗り換え、新橋乗り換え、東京乗り換え。

どのようなオフィスがいいか提案してください。

選ぶ時の注意点もあわせて教えて。

 

その後、何度かAIとキャッチボールしながら、以下のような回答(サマリー)を出してもらいました。

 

AIの回答サマリー

 
おすすめエリアと賃料相場
  

品川駅周辺

  • 特徴:現状維持で移転しやすい、駅直結多数、雨天対応◎
  • 賃料相場(坪単価): 約25,000〜30,000円
  • 想定賃料総額(月額): 約500万〜600万円

田町・浜松町

  • 特徴:東海道・山手線ユーザーに◎、品川より賃料やや抑えめ
  • 賃料相場(坪単価): 約20,000〜27,000円
  • 想定賃料総額(月額): 約400万〜540万円

大崎

  • 特徴:湘南新宿ラインも利用可、駅直結ビルあり、割安感あり
  • 賃料相場(坪単価): 約18,000〜24,000円
  • 想定賃料総額(月額): 約360万〜480万円

渋谷・恵比寿

  • 特徴:渋谷乗換え組に便利、再開発で新築物件豊富だが賃料高め
  • 賃料相場(坪単価): 約28,000〜35,000円
  • 想定賃料総額(月額): 約560万〜700万円

 
※賃料は共益費込みの目安。面積200〜250坪想定(フリーアドレスや出社率調整で対応可)

 

選定時の注意点

  • 出社率を踏まえた座席数調整(例:150名中90〜100席)で面積・賃料抑制
  • Web会議用の個室・共用スペースの設計が必須
  • 駅からの導線(地下通路やデッキ)やセキュリティ・耐震性も重視

 


 

このように、AIはKさんが投げかけた問いに対して忠実にベーシックな提案を出してくれました。

Web会議用のスペースのハイブリッド勤務への対応配慮など、視点もさすがです。
 

ここまでのKさんの仕事のやり方には特に大きな問題はありません。

AIを積極活用してアイディアを出してもらうのはとても実用的です。
 
 

ところがKさんは、この後すぐに上司の所へ行き

「AIからこのような提案がありましたがいかがでしょうか?」

と相談してしまいました。
 

上司は当然ながらこう返答します。

「あなた自身の意見は?」

 

AIが答えを出しても、考えるのは人間

 

以上の例で言えることは、AIは賢く答えてくれるけど、その答えが妥当であるか・どのような案にするかを最終的に考えるのは人間の仕事であるということです。 

 
Kさんは表面的な質問を投げかけただけで、あとは答えまでAIに頼ってしまい、自分の意見を持てていませんでした。

これではただの伝書鳩です。
 

私も時々感じますが、AIと数回キャッチボールすると、”いかにも正しそうな” 答えが返ってきて、それで仕事が終わった気になってしまうんですよね。
 

でも、本当に必要なのは「その答えでいいのか?」「他に検討すべき観点は?」と問い直す力です。

 
最適解が何かを判断して、意思決定するのは人間の仕事です。
 

意思決定するためには、人間の側に情報が必要です。

そしてその源にあるのが、日頃のインプットなのです。
インプットがなければ、AIの答えをただ鵜呑みにしてその通り実行するしかなくなってしまいます。

 

AIにはない視点

Kさんは先ほどのAIの回答を参考にしつつ、本来どうすれば良かったのでしょうか?

例えば、より良い考えに深めていくには、以下のような観点も考慮する必要がありました。

 

考慮すべきだった観点

 

現状のオフィスのいい所を、社員はどのように感じているか?

社長は新オフィスについて、どんな考えを持っているか?

現在のオフィスの課題は何か?
 
  社内のコミュニケーション不足?
  収納の不便さ?(少ない/多すぎる)
  ペーパーレス化の必要性?
  荷物が多くて雑然としている?
  会議室不足?
  ランチに行く場所が少ない?
  インターネット回線の遅さ?

通勤の利便性は?社員の居住地との関係は?→ どのエリアが社員にとって最も通勤が便利か?

取引先が訪問しやすい場所か?来やすい場所はどこか?

新オフィスに全員分の席は必要か?

オフィスの場所は都心中心部である必要があるか?

社員数はこれから増えるか?減るか?

社員食堂など、福利厚生的な設備は必要か?(※採用力との関連)

現状の賃料は、会社の規模や業績に対して妥当な水準か?

そもそも、オフィス自体が本当に必要なのか?

 

考えれば考えるほど、オフィスを決めるためにはこのようにさまざまな観点から検討を進めなければなりませんが、AIは上記のような多岐にわたる観点について、自ら進んで回答を出してはくれません。

1つ1つの観点についてKさんからAIに質問すれば答えてくれますが、逆に言えばKさんが質問しない限りは触れてくれない話題が大半です。
 

つまり、Kさんが自ら思いつかない限り、非常に浅い思考レベルのまま移転プラン検討を進めることになってしまうのです。
 

Kさんの思考から漏れてしまった観点には、AIが自分から出せない視点があります。
人の気づく力、想像する力による人間ならではの視点です。

 

インプット があるから気づく、判断力が高まる

インプット

 

Kさんが上記のような観点を思いつけなかったのは、日頃のインプット不足が多分に影響しています
 

たとえばこんな情報を持っていれば、考えの幅は広がっていたはずです。
 

オフィスを廃止したり、縮小して人数分の席をつくらない会社の事例

このような情報を知っていれば、自社のオフィスは果たして必要か?というそもそも論に気づけます。
 

オフィスレイアウトの工夫が、生産性や社員の交流に与える影響

効率と健康のために立ち仕事席を設けたり、自分の机の高さを着席時と立って仕事時で変えられる机もあるなど知っていれば、そのような観点も検討対象になります。

社員同士の交流スペースを作っている事例も多々あります。
 

ペーパーレス化によって収納スペースを減らす動き
 

本社を地方に移転した企業の取り組み事例

自社では最初から東京都心部ありきで考えてよいか?と考えるきっかけになります。


 
こういった事例や知識がぼんやりとでも頭の中にあれば、「オフィス探し」という仕事が発生した瞬間から、色々な発想がわき、知りたい情報が浮かんできます。

また他社のオフィス移転事例(移転の前後でどのような変化があったか?移転して良かったこと・良くなかったことなどの情報)をリサーチすれば、自分では浮かばなかった着眼点が次々と出てくるでしょう。

 

つまり、インプットの質と量こそが、判断力や提案力を支えるのです

 
良質のインプットがあれば良い判断に近づく可能性が高まり、インプットの質量の低い人は適切な判断に到達しづらくなります。
 

後者の人は、Kさんのように中途半端にAIに使われてしまい、自らAIを使い倒して適切な解を導き出すことができません。
 

AIをより良く使うためにも、インプットは不可欠であります。

 

アウトプット偏重がもたらす「 インプット /学び」の危機

 

ビジネスの世界では「アウトプット重視」になりがちです。
 

「行動することが大事」「結果を出すことが正義」・・・

 
たしかに実行力は重要ですが、それが強調されるあまり、土台となるインプットが軽視されてはいないでしょうか。

 

かつては、若手社員は日経新聞を読むことが当たり前とされ、週刊誌や業界紙に目を通すことも普通に行われていました。

私も若手社員時代は、毎日複数の新聞記事から自社に関わる記事を切り抜き、そのコピーを部署全員に配布する役目がありました。

 

スマホで情報を得ている“つもり”になっていないか

 
今はいつでもどこでもスマホがあるので、ビジネスパーソンが活字に触れる機会は増えていますが、それは仕事脳を高める上で役に立っているでしょうか?
 

SNSやニュースアプリから流れてくる情報を見ているだけでは、自分の興味のある話題だけに偏り、知識が浅くなってしまいます。

その結果、多角的な視点や気づき力が不足し、AIが提示する情報に対して「正しいかどうか」の判断ができない人が増えつつあります。
 

誰もがスマホを持っているので、スマホでたくさんインプットされているような錯覚に陥りますが、実際は中身の薄い情報が大半です。
 

改めて良質なインプットとは何か?を問い直すべきでしょう。

特に若手ビジネスパーソンには、(多少の強制も含めて)良質の情報に触れさせ、見識を広げ、広いものの見方ができるよう導いてあげるべきでしょう。

 

良質のインプットを得る方法

 

インプットの重要性は理解していても、「何をどう読めばいいのか?」「どこから始めればいいのか?」と迷う人も少なくありません。

ここでは、ビジネスパーソンにとって実践的かつ効果的なインプットの手段をいくつか紹介します。

 

新聞

 

  • 日本経済新聞はやはりビジネスパーソンには王道
     
  • 個々の企業の話題、業界トレンド、技術、政治・経済、株価、金融、グローバルなど内容が多岐にわたっている
     
  • 自分に興味ない記事も所々目を通すことで視野が広がる
     
  • 紙面と電子版で目につく記事が異なるので、それぞれアプローチした方が厚みが出る
     

 

ビジネス雑誌・Webメディア(NewsPicks、日経ビジネス、東洋経済、週刊ダイヤモンドなど)

 

  • 特定テーマの特集記事があるので、その分野について知見を深められる
     
  • 毎号の特集にさまざまな話題が来るので、自分自身の知識の幅、関心が広がる

 
 

書籍

 

  • 一つのテーマを深堀りし、著者も多大なる労力をかけて作り込んでいるので、相対的に中身が濃い

    「ビジョナリーカンパニー」や「イノベーションのジレンマ」などの本に代表されるように、長年の膨大なデータを検証しながら、企業組織の法則を解明していくような本は、新聞や雑誌では決して得られない深い知と思考の機会を授けてくれる

    ピーター・ドラッカーの本などは、知の巨人が何をどのように思考しているかを追体験でき、凡人を二歩、三歩前進させてくれる
     

 

ブログ・メルマガ

 

  • 何らかのジャンルで深く切り込んだ特定分野の専門的な視点を得やすい
     
  • ただし、自分の好みに近いものばかりを読んでいると、思考が偏る可能性もある
     

 

動画メディア(PIVOTなど)

 

  • 手軽に情報収集でき、面白いネタに出会える
     
  • ただし、YouTubeの性格上いかにPVと閲覧時間を増やすかを考えるので、自己啓発やマネー系のネタが多くなりがちで、ビジネス思考力を高めるためのインプットとしては弱くなりがち
     

 

どれか一つだけということはなく、それぞれの長所を理解した上で、上手くmixしてインプットを行うのがおすすめです。

 

人間の幅を拡げるインプットとは?

 

マネジメントを行う立場の人、リーダーシップを発揮すべき人、大きなチャレンジをしようとする人は、

情報収集のインプットだけでなく、「自分自身の幅を拡げる」 「器を広げる」ためのインプットも必要です。
 

ライフネット生命の創業者である出口治明は、書籍やインタビュー等で「人・本・旅」の大切さを唱えておられ、私も賛同します。
 

この3つには共通点があります。

それは、自分の知らない価値観、文化、世界、考え方に触れることができるところです。
 

人:対話を通じて他者の思考や価値観に触れる

 

  • 人と対話することで、自分にはない発想や意見に出会い、自分とは全く異なる思考があることに気づきます。
     
  • 共通点があることにも気づきます。自分の思考の癖も自覚できます。

 

本:他者の知恵を時間も空間も超えて学べる

 

  • 本を読むことで、遠く離れた時代や国の知恵を学べます。
     
  • 小説を通じて、自分とは全く別世界にいる人の生き様や暮らしを追体験できます。

 

旅:世界を俯瞰し、自文化を客観視する力が養われる

 

  • 旅をすれば、日常の枠を超えて、世界を多角的に見る目を養えます。
     
  • 特に海外旅行にいくと、たくさんの違いに気づき、普段何とも思っていない日本の生活や習慣を客観的に見ることができます。

 

このように、自分の“幅”を広げられるインプットは、AIにはできない「感受性、理屈に依存しない鋭い直感、多面的なものの見方、相手の立場に立って考える力」などを育ててくれます。
 

さらに「人・本・旅」に加えて、自然の中で静かに過ごし、風の音、せせらぎ、鳥の声、虫の声に耳を傾け、動植物を観察するものいいでしょう。

レイチェルカーソンの名著「センス・オブ・ワンダー」を読むと、人間の感性を磨く上でそれらがいかに大事かが沁みわたってきます。
 

アートや音楽、映画に触れるのもいいでしょう。

普段眠っている感情や感性が自分の中に起き上がってきます。

 

AIにはない“感性”が、最大の価値になる

 
”感性” はデータや根拠を元に何かを積み上げる思考とは異なります。

今と未来に向けて、理論だけにとらわれずに判断する力の源と言えます。

今の段階のAIは、過去の情報を整理・推論して合理的な方向性を提言することはできますが、感性を高めた人間が持ちうる直感や第六感は備えていません。

感性こそ、AIには模倣できない “人間らしい判断” の源になるのです。

逆に言えば、こうして人が感性を磨くインプットを怠れば、人間ならではの価値をどんどん出しづらい時代になっていくでしょう。

 

まとめ

 
AIに「知識」という土俵で対抗しても敵いません。

しかし、AIの出した答えに対して「それって本当?」「その答えで合ってる?」と問いかけるのは人間の役目です。
 

AIの答えを鵜呑みにするのではなく、「足りない視点は何か?」「この判断は本当に妥当か?」と気づける人間になるためには、インプットが不可欠です。
 

「AI時代にはクリエイティビティが大切」とも言われます。

しかし、創造的な発想も、深い人間理解も、未来を読む力も、その土台には必ず「インプット」があります。
 

インプットとは単なる知識のことではありません。

正しく判断し、感性を高め、人格を高め、心豊かに生きていくための土台となるものです。

 

次回、シリーズ第2回は AIを動かし評価する「思考力・概念化力」です。お楽しみに。

 

 

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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