会社は誰のために存在するか ~予算作成を機会に考えてみませんか

2017.03.19

 

ちょうど来年度の予算策定中の方が多い時期ではないかと思います。

予算の立て方は会社によって様々ですが、「とりあえず前年比10%増」みたいな超ざっくりの決め方をする企業が結構あると思います。

なぜ10%増なのか聞いてみるとあまり根拠はなく、「減収予算はあり得ないし・・、横ばいじゃ格好つかないし・・」といった感覚からきていたりします。

その気持ちはわからなくないですが、ちょっと勿体ないですね。

なぜなら予算は、言い方を変えれば1年間の事業計画だからです。
年にたった1度の機会なので、じっくり議論して、会社の思いや魂を込めた事業計画を練り込んで頂きたいものです。

 

会社は誰のために存在するかを考える

計画を真面目に立てようとすると考えるべき事が沢山ありますが、
何より大切で根本的な問いは「会社は誰のために存在するか?」だと思います。
利害関係者の誰を大切にするかというポリシーです。

ここが定まらないと、具体的な事業方針や施策に背骨が通りません。

90年代後半、私がコンサルティング会社で働いていた頃は株主重視が叫ばれ始めた時代。

利害関係者で大事なのは、
1、株主
2、顧客
3、従業員
みたいな議論がよくありましたが、今思えば米国をはじめとする資本主義の暴走の始まりでもありました。

(それ以降、米国の経営者は大量のストックオプションを取得し、株価を上げて巨額の富を手にしたのは周知の通りです。米ヤフーの再建に失敗したマリッサ・メイヤーが120億円もの退職金を手にしたのは象徴的な出来事でした。株主重視経営が株価重視経営、経営者報酬重視経営にすり替わってしまったのです)

2000年代半ば、私は上場企業のIR責任者として年に200件近い投資家ミーティングを行っていましたが、「増収増益で当たり前」みたいな投資家(=株主)のプレッシャーは非常に強く、いい意味で緊張感もありましたが違和感も感じました。

多くの投資家は投資先のビジネスやそこで働く社員、事業の社会的意義などに関心が薄く、買い時と売り時を考えるばかり。

上場企業は株主にきちんと向き合うべきですが、株主の意見が会社にとってどこまで有用かは冷静に見極める必要がありました。

 

株主重視の行き過ぎから従業員重視への流れ

2008年に「日本でいちばん大切にしたい会社」がベストセラーになったのは、株主を過度に重視する風潮へのアンチテーゼが社会に受け入れられたのだと思います。

あの本では、幸せにすべき対象の優先順位を次のように位置付けていました。

1、従業員とその家族
2、外注先・下請企業の社員
3、顧客
4、地域社会
5、株主

株主を軽視している訳ではなく、1から4まで順に満たせば自ずと5に利益が生まれるという、自然の摂理に則ったような考え方です。
家族が含まれているのも特徴的ですね。

さて、皆様の会社は誰のために存在しているとお考えですか?

私は会社の規模、成長段階、業種などによって重視する順序は色々あっていいと思いますが、
今の時代は“カネ余り&ヒト不足”の時代なので、株主(お金を出した人)よりも人材を大切にすべき点は異論ないのではないでしょうか。

 

軸が定まれば方針が明確になる

誰を大切にするかの軸が固まれば、会社の方針も定まってきます。

  • 従業員の満足度や定着率を大きく改善したいのであれば、売上を伸ばすことと、働き方や制度、仕事の喜び、企業風土の改善などに時間とお金を費やすことのどちらをとりますか?

  • 結婚式場ビジネスが好調で受注に受注を重ねてきたものの、現場のスタッフが疲弊しサービスが落ち顧客に迷惑をかけているとしたら、それでも拡大して売上を伸ばしに行くか、いったん受注を落としてサービスの改善に力を入れるか、会社の考え方が分かれるところです。

  • その薬があれば命が助かるお客様が大勢商品を待ちわびているのに、今の生産ラインでは余力がない時、それでもリスクをとって増産(拡大)に進みますか? それとも現行設備の範囲に収まる受注としますか? どちらが正しい正しくないではなく、会社の考え方次第です。

  • 短期的な利益よりも地域の発展や雇用を重視し、地域振興に予算を割く会社は、なぜそういう判断ができるのでしょうか?

予算には会社の経営哲学が色濃く反映されるべきであり、その哲学を具体的な計画まで落とし込んでいった先に予算ができあがります。

この機会に、敢えて禅問答のような問いを自らに発し、頭をうんうん捻ってみてはいかがでしょうか。

 

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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