人が育つ会社とは ?現場と人事がそれぞれ果たすべき「人材育成の責任」とその内容

2024.09.19

人が育つ会社とは

「人材育成は人事部門の仕事だ」と思っている人が少なからずいます。

現場は業務を推進する役割であり、育成は人事が行うべきという考えです。
 

しかしよくよく考えてみましょう。
 

人材育成の目的は、その人の仕事の成果を最大化すること、現場の各部門のゴールは、チームの成果を最大化することです。
 

個人の成果(成長)がチームの成果にダイレクトにつながるものである以上、育成責任が人事にあるというのはおかしな話で、それはあくまで各部門にあります。
 

今週のブログでは、人が育つ会社になるための育成責任の所在と、現場と人事の役割のあり方についてお伝えします。

 

人材育成の責任は現場にあり

 
例えば自動車部品を扱う中小メーカーの営業部に、第二新卒の中途採用社員が3人配属されたとします。

3人はそれぞれAグループ、Bグループ、Cグループに所属となりました。

さて、このときの育成責任は誰にあるでしょうか?
 

まず3人それぞれを育成する直接の責任は、直上司にあります。

彼らが会社に慣れ、業務を覚え、お客様を担当し、サービスを提供できるようになるまで、みっちり指導するのが直上司の役割です。
 

同時に、営業部として3人の育成を加速するため、先輩社員と3人の勉強会を開催したり、短期間工場研修に行かせたり、ソリューション営業の研修に行かせるなど、組織的なサポートも行います。
 

一方で、このような育成プロセスがない会社もあります。

 
3人を営業部に配属しますが、最初に上司が簡単に指導するだけで、「あとはやりながら覚えていってね」と放任し、結果を求めるケースです。

これはOJT(On-the-Job Training)の名の下に放任主義に陥っている典型例です。
 

このとき、現場の上司は「3人のその後の育成は人事が行うべき」と考えていますが、人事は何をすべきかわからず、時間的余裕もなく、結果として何も行われない状態です。
 

これでは、後者の会社は前者の会社に太刀打ちできません。

部下の育成は部署の成果に直結します。

その育成を人事にまかせるということは、自分の部署の成果を人事に委ねていることに他なりません。

 

成果に直結する現場の教育

人が育つ会社とは

 

現場での教育は、その仕事でより成果を上げるための実践的な教育が主役です。

知識・スキルの習得、技能の習得などが中心で、それは仕事の成果に直結します。
 

営業職であれば、商品知識、商談スキル、新規営業スキル、プレゼンスキル、見積の作成方法、契約書知識などの教育を通じて、“売れる営業担当者”を育てます。

製造職であれば、工場の5S、生産管理の知識、品質管理の知識、機械の知識と操作技術などの教育を行い、“生産ラインの効率化・改善を推進できる人材”を育てます。
 

教育の方式としては
 

  • 上司からの日々の指導
  • マニュアル確認
  • テキスト学習&テスト
  • 動画などオンライン教材の学習
  • ロールプレイング
  • 研修参加
  • 勉強会
  • 課題図書の読破 など
     

このようにさまざまなものが考えられます。

 
こうした教育の内容/方式は、現場の仕事に根差した内容である必要があるため、直上司や現場主導で企画~実施までを進めることが欠かせません。 

  

では、仮にこれらを現場主導ではなく人事に任せたらどうなるでしょうか?
 

例えば、営業職の育成においては、外部の研修業者をつれてきて、一般的なプレゼン講座を開講するかもしれません。

製造職向けには、5Sに関する一般的な研修を企画するかもしれません。
 

しかし、

それらは実際の現場の教育ニーズに合っているでしょうか?

他社も受けているような一般的な内容の教育で、他社との競争に勝てる人材を育成できるでしょうか?
 

 

営業であれ製造であれ、仕事には自社特有のやり方が存在しているはずです。

社員のレベルも会社によってまちまちです。

より実効性の高い教育を行うには、現場が主導権をもって、自社に最適な教育を推進してこそ、初めて有効な育成が実現します。

 

人事の行う教育との棲み分け

 
一方で人事にも社員教育における大きな役割があります。

それは汎用的な知識・スキル、考え方の教育です。
 

イメージしやすいものとしては、このようなものがあります。
 

  • 新入社員研修(ビジネスマナーやビジネス基礎知識)
  • 階層別研修
  • リーダーシップ研修
  • 人事評価研修
  • 理念や行動指針の勉強会 

 
これらは各部署の業務内容の違いに関係なく、全社横断的に共通で求められるのものです。
 

特徴として、短期的な業績向上を図る取組みというよりは、長期にわたって成果を上げるための基礎になるものです。

このような教育を各部署が個別に実施するのは効率が悪いので、人事が推進主体となって進めるのがいいでしょう。

 
ただし、直上司や現場は、人事が企画する研修に部下を参加させるだけではなく、研修を通じて部下が何を学び、行動がどのように変わったかをしっかり確認してください。
 

研修の企画~実施までは人事にお任せだったとしても、研修結果のお任せはNGです。

なぜなら、仕事で成果を上げるために研修に参加した以上、その学びが日々の仕事にどのように活かされているかを確認するのは人事ではなく現場の部署、上司の仕事だからです。
 

例えば、管理職研修に参加した部下が
 

「研修の内容が一般的な内容だったので、当社のようなプロフェッショナル集団のマネジメントには使いづらいものだった」
 

という感想をもち、実際に仕事においても変化が見られないとしたら、人事にフィードバックして改善を伝える必要があります。

それによって人事が推進する教育もさらによいものに進化していけるはずです。

 

まとめ

 
人材育成を人事に丸投げしている会社は非常に危険な状態にあります。

現場は日々の業務に直結した実践的な教育を通じて、社員がしっかり成果を上げるための育成に責任を持つべきです。

人事に依存してしまうと実際の業務に適さない一般的な研修に頼ることになり、他社との差別化ができず、競争力の低下につながるリスクが高まります。

現場と人事部門が連携し、それぞれの強みを活かして育成を進めることで会社全体の競争力を高めることができるのです。
 

人事と現場の連携を深め、より強力な人材育成体制を整えていきましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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