人事の仕事で会社の 生産性向上 に貢献するには?6つの具体的なアプローチ

2026.05.29

生産性向上

今月発表された「毎月勤労統計調査2025年度分結果確報」によると、働く人々の名目賃金は前年度比2.5%増となったものの、実質賃金は前年度比0.5%減という結果でした。

つまり、給料の伸びが物価上昇ペースに追いつかず、結果として生活がより苦しくなっているのが実情です。
 

人件費を管理する人事部門にとっては非常に頭の痛い問題ですよね。

家計が苦しくなればなるほど、社員は給料をより重視するようになります。

会社の財源が限られる中、どうやって社員の給料を上げていけるでしょうか?
 

給料を引き上げるには、その原資となる会社の稼ぎを増やすことが大前提です。

具体的には、社員1人当たり時間当たりの稼ぎ、つまり「生産性」を向上させなければなりません。
 

人事はその「生産性向上」に大きく関係する部門です。

しかし、日常業務においてどこまで生産性を意識できているでしょうか?

何となく「生産性向上は、売上をつくる営業部門やコストを管理する現場部門の仕事だ」と思ってはいませんか?
 

今週のブログでは「会社の生産性向上に人事はどう貢献できるか?」というテーマでお伝えします。

 

「愛」だけではパンは買えない

 
Love doesn’t buy bread(愛だけではパンは買えない)

という西洋の諺があります。

どれだけ仕事にやりがいがあっても給料が低ければ生活できない、という解釈もされる言葉です。

現在の物価上昇やインフレ傾向などを踏まえると、働く人を取り巻く環境はますますこの言葉寄りになっていくのではないでしょうか。
 

日本人は比較的、お金だけでなく「仕事のやりがい」や「職場の人間関係」を重視する傾向があると言われています。

しかし、会社がそのエンゲージメントに甘んじていては、いつか痛い目にあいます。

社員に安定的に働いてもらうには、報酬水準の引き上げは避けて通れない時代なのです。

 

人事 が仕掛ける「 生産性 」向上策 

 
人事はバックオフィス(間接部門)であるため、直接売上を立てたりコストを削ったりする部門ではありませんが、実は組織の生産性向上に大きく貢献できる部門です。

では、人事部門として具体的に何ができるでしょうか?
 

まずは「生産性」の定義を抑えておきましょう。

生産性はこのように求めます。
 

【付加価値】 = 売上 - 外部購入価値

【生産性】  = 付加価値 ÷ (従業員数 / 労働時間)

 
生産性を上げるためには、上図の黒い矢印が示す方向へ、それぞれの要素を動かす必要があります。
 

  • 売上を増やす(
  • 外部購入価値(材料費・外注加工費など)を減らす(
  • 分母となる従業員数/労働時間を減らす・最適化する(

 

これを人事の各業務(採用・定着化・異動・人材育成・人事評価・組織風土)に落とし込んで考えてみましょう。

 

採用:ただ「人数」を満たすだけでは意味がない

 
採用の仕事は「必要人員数の充足」を目標に進めますが、数の充足は基本的には生産性向上につながりません。

「生産性」を軸にすると、例えばこのように考えられます。
 

生産性が現状維持になる採用

既存の営業担当者の月間平均売上が500万円だった場合、同程度の売上を上げる力を持った人材を何人採用したところで生産性はほとんど変わりません。
 

生産性が上がる採用

同じ1ヶ月間で1000万円を上げられる人を採用すればダイレクトに生産性が上がります。

さらに、自分が1000万円を売上げるだけでなく、他の人にやり方を教えて同僚の平均売上を500万円 → 700万円に上げられる人を採用できたならば、生産性改善効果は更に大きくなります。
 

生産性を大胆に高める採用

その上を行くのは、顧客探索や商談プロセスの効率化/AI活用等による業務効率化を進め、1人当たりの月間売上を500万円2000万円に跳ね上げるような仕組みを作れる人です。

このような人材はまさにゲームチェンジャーです。

採用できれば、従前とは比べものにならない生産性をたたき出し、報酬をたんまり上げる余力を作り出せます。

生産性向上

 

ここまで分かりやすくするため売上金額の例でお伝えしましたが

  • 製造現場の生産効率化
  • バックオフィスの事務業務効率化
  • 外注費の圧縮

など、コストサイドを大胆に改善して生産性を上げられる人材の貢献度も絶大です。
 

採用業務において人事が意識すべきは「生産性を向上させられる人材を採用できているか?」という視点です。

そのような人材と巡り会えたならば、たとえ給料が他のメンバーより抜きん出るとしても、是が非でも採用すべきです。

 

定着化:「長くいてもらうこと」の本当の意味

 
長く在籍するほど技能が熟練し、生産性が向上する職種においては、離職防止(リテンション)が生産性向上に直結します。
 

人事として、いかに長く働いてもらえるかを考え、給与アップ、働きやすさや職場風土、ライフイベントの両立支援など、さまざまな対策を考える必要があります。

離職が発生すると、新たな人員の採用コスト、教育コストなどの「外部流出コスト」が増えて生産性を押し下げてしまうので、その観点からも離職防止は重要です。
 

一方で、在籍期間が長いからといって、生産性向上につながらないケースもあります。

一定年数経験すれば業務を十分に習得しでき、1人前として活躍ができる職種の場合、その時期を過ぎると生産性は横ばいか、場合によっては下がるケースもあります。
 

そのような職種においては、定着化を無理に推進することはあまり意味がありません。

  • 別の職種に転換して心機一転力を発揮してもらう
  • ネクストキャリアに向けた「前向きな卒業」を支援する

こうした仕組みをデザインすることも、人事の大事な仕事となります。

 
生産性が上がらないまま年齢を重ねる社員を多く抱えることは、会社全体の生産性向上、報酬引き上げのアキレス腱となりかねません。

 

異動、リストラクチャリング:あえて「人を減らす」工夫をしてみる

職場によっては、人が多すぎるために非効率が生まれているケースがあります。

本来は5人でできる仕事に8人を配置しているため、業務が重複して行われていたり、時間を持て余す社員が発生したりするパターンです。

こうした状況を見つけたら、人事は当該部署を適切な人員数に絞り、余った人材を人員不足の部署に異動させて、生産性の適正化を図る必要があります。
 

また、今在籍している人員数が適正と思ってはいけません。

例えば社員が1人退職するからといって、すぐに後任採用を進めるのはご法度です。
 

まずは1人減った状態で業務を回せるような工夫を考えてみましょう。

それが実現できたとしたら、ダイレクトに生産性が向上し、給料を上げる余力が生まれます。
 

現場が「人が足りない、採用してほしい」と言ってきたとしても、いったん冷静に検証してみる必要があります。

今まで7人で回していた業務を、1人採用して8人にすれば生産性は下がります。

まずは7人で過度な負担なく回せる方法がないかを考えてみましょう。

 

人材育成:現状維持から「課題解決」へのシフト

 
新入社員の研修や、作業を習得するための教育などは、あくまで最低限の能力にキャッチアップさせるための育成なので、会社の生産性向上に寄与するものとは言えません。
 

本当に生産性向上につながる育成とは、(営業職ならば)より高い売上をあげるための能力開発、例えば商談スキルや提案力の向上などが該当します。
 

さらにインパクトの大きい育成は、今の仕事を同じように繰り返す現状維持派ではなく、「より良い方法」を考え、改善行動に移せる人材を育てることです。

現状を良しとせず、深い原因究明や新たな発想を通じて大胆な生産性改善を推進できる人。そのような人を1人でも増やすことができれば、人事の貢献度は絶大です。
 

そのための育成では、育成テーマを 「スキル習得」 だけに置かず、以下の2つの要素に力を入れる必要があります。 
 

クリティカルシンキング

クリティカルシンキングの得意な人は「今のやり方のままで本当によいのか?」と問いを立てることができ、顧客動向、競合の動き、データの動きなどから変化や違和感を感じとり、盲点を見つけ、進化の糸口にすることができます。

生産性向上を推進する上で不可欠の能力といえるでしょう。
 

リーダーシップ

現場で見つけた気づきや改善案を、独りよがりにせず周囲を巻き込み、組織全体の改善へと展開していくにはリーダーシップが欠かせません。

個人で完結する業務の改善ではなく、組織全体に関わる生産性向上の成否は、リーダーシップ人材が会社に何人いるかにかかっています。

  

加えて、組織全体の生産性向上に大きな効果があるにもかかわらず意外と放置されているのが、管理職のマネジメントスキル教育です。
 

管理職のマネジメントスキルが向上すると

部下の育成、チームビルディング、業務効率化、チャレンジ精神など広い範囲で組織力の向上につながります。

結果として、売上アップ、コストダウン、業務改善などを通じて生産性向上をもたらすなど、管理職の成長は当該部署の生産性向上に比例します。

管理職登用時の初期的な軽い研修で終わりではなく、継続的にマネジメントスキルを磨く機会を提供すべきです。

 

人事評価:「生産性を高めた人」が報われる仕組みへ

 
人事評価で大切なことは、「生産性を高められる人がちゃんと評価され、会社の中核になっていくこと」だと思います。
  

例えば、以下のような2人がいた場合、どちらを評価すべきでしょうか?
 

ベテランAさん

古株社員で長年の取引企業があるので売上金額は大きいものの、過去5年間はやり方も成果も全く進化していない(生産性は停滞)
 

若手Bさん

入社3年目で売上金額はAさんにかなわないものの、毎年工夫を重ねて、個人の生産性を急カーブで向上させている
 

ここで、売上金額(=絶対値)の大きいAさんを高く評価するのではなく、Bさんのような生産性の変化度合いを評価する制度であるべきです。
 

生産性を上げない限り、今以上に給料を上げることはできないのですから、生産性を高める社員を名実ともに高く評価しましょう。

それが社員にも明確なメッセージとして伝わります。
 

平均レベルの社員同士の評価精度を高めようとする人事の細かい努力も大切ですが、そこに終始しても、会社の生産性向上に殆ど寄与しません。

 

組織風土:「過去の否定」を歓迎する

 
良い組織は高い生産性を実現する可能性が高いです。

なぜなら、生産性向上策は過去を否定することがセットになることが多いからです。
 

「〇〇報告会議を廃止しましょう」

「●●のサービス業務を縮小しましょう」

「顧客情報を個人が囲い込まず共有財産にしましょう」

 
このような従来のやり方の否定・見直しは時に受け入れたくないものですが、それでも、過去を否定する意見を周囲が冷静に受け止められるか否か、真摯に向き合える組織であるか否かで結果は異なります。

例えば、若手社員が従来のやり方に疑問を唱える意見を出したとき、ベテラン社員が頭ごなしに否定したり封じ込める組織では、生産性の向上は望めません。
 

組織としての学習姿勢の影響も大きい

生産性の高い仕事をする同僚がいた場合、皆がその人から積極的に学ぶ風土があるでしょうか?

成果を上げるために、学び教え合う土壌があるでしょうか?

どうあるべきかを謙虚に議論し、良いものは柔軟に受け入れ、相手が先輩であれ後輩であれ優れたところはどんどん教わり高め合う風土が備わっていれば、その組織の生産性は確実に上がっていくことでしょう。
 

各部門のカルチャーをつくるのは部門責任者の仕事ですが、組織開発の観点から人事がサポートできることは無数にあります。

それぞれの部門が、生産性を高められる組織風土になっているかどうか、人事として定点観測し、必要ならば後方支援していきましょう。

 

まとめ

人事が生産性向上を担うとは、単に採用数を増やすことでも、研修回数を増やすことでもありません。

大切なのは、その活動の先に「どれだけの付加価値が生まれ、生産性向上につながるか」という視点です。

 
人事部門は日々、採用、育成、評価、配置、定着化、組織風土づくりに取り組んでいます。

しかし、それらが「会社の生産性をどう高め、どう社員の報酬へ還元していくのか」まで明確にデザインされているケースは、あまり多くありません。 
 

「ルーティン業務」としての人事から脱却し、社員の給与アップにダイレクトに貢献できる人事になれるかどうか。

今回の内容をヒントに、ぜひ自社の人事業務を「生産性」という物差しで見直してみてはいかがでしょうか。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

筆者プロフィール詳細