社員の意識改革 に向けた人事の作戦|言葉よりインパクトを与える人事メッセージ

2024.04.12

社員の意識改革 は簡単なことではありません。
 

例えば、モノ売りに徹してきた企業が、突然

「当社の営業は今期からソリューション営業部隊に変化する!」

とメッセージを発したところで、実際問題、現場はなかなかついてこれません。
 

過去ずっと小まめにお客様を訪問して顧客との接点を強みにしてきた営業担当者にとって、ソリューション営業(お客様の課題をヒアリングし、課題を解決するような商品やサービスを提案するスタイル)は相当にハードルが高いことです。
 

しかしながら経営的には待ったなしで変化しなければ生き残れません。
 

今のような変化の激しい時代は、企業風土や仕事のやり方を根本から見直す必要に迫られることが少なくありません。

その局面においては、目指す方向を社員に伝え、共有することも大事ですが、それ以上に効果的な方法として人事が切れるカードがあります。
 

今週のブログでは、社員の意識変革に向けて、言葉にするよりも社員に大きなインパクトを与える人事の打ち手、人事メッセージの活用についてお伝えします。

 

インパクトある人事異動

社員の意識改革

西武百貨店

 
最近のニュースで、ファンドとヨドバシカメラに買収された西武百貨店の大規模な人事異動が話題となりました。

役員が管理職に降格するなどの人事異動があったことで、社員はいよいよ経営の大きな変革を感じ取り、戦々恐々としているようです。

  

業績不振に陥った中堅アパレル企業

 
業績不振に陥ったある中堅アパレル企業では、創業社長が外部から招聘された社長に交代しました。

創業社長は豊かなアイディアで次々と新ブランドを立ち上げ、華やかなイメージを作り上げてきましたが、台所事情は火の車。

実際は採算のとれないブランドが多いにも関わらず、創業社長の「いずれ好転する」という言葉に誰も反論せず、業績は悪化の一途をたどっていました。

ブランド企画部門は社内の花形とされており、作るブランドがいずれも赤字でも責任を感じていませんでした。

交代した新社長は不採算ブランドを一気に廃止し、収益性の高い2ブランドに経営資源を絞り込みました。

同時に企画部門の人員を1/3に減らし、収益管理や生産性改善に強い人材をセールスのトップに抜擢しました。
 

この大ナタにより社員も意識が変わり始めました。
「アイディアを出してブランドを作る人が偉い」という価値観を180度変え、利益を出さなければ会社は存続できない、それに貢献できない人材はリストラされる!というマインドに変化していきました。

 

上記2例は業績不振をきっかけにトップが交代し、象徴的な人事異動が行われたものですが、このように主要ポジションの人事異動は社員の意識に大きなインパクトを与えることがわかります。

 

ミドルマネージャーの異動も大きな変化をもたらす

 

ある中堅上場企業では、管理部門のマネージャーが政治的な動きをする人でした。

自分に忠誠を誓う社員を出世させ、異論を唱える者は冷や飯を食わされていました。

管理部門全体として面倒な仕事はなるべく避け、マネージャーは毎晩部下と飲みに行き、飲ミュニケーションでマネジメントを行っていました。
 

しかしそのような行動は部門内での公正さや職務への真摯さを欠くものと見なされ、また他部門からも批判が続出したため、社長はマネージャーを別の人材に交代させました。
 

新しいマネージャーは実務に精通した人物で、1人1人に具体的な業務目標を持たせ、週単位でその改善状況を確認し、ハードワークを求めました。

前のマネージャーに忠誠を誓うだけで実際には仕事をしていなかった社員達はすぐに能力不足が露見し、逆に冷遇を受けていた人材が目の色を変えて頑張り、輝きを見せ始めました。
 

マネージャーの交代により、評価の尺度が変わり、求められるものが変化したことにより、1年後には他部門からも評判のよい管理部門に変貌しました。

 

この例からわかるように、ミドルマネージャーであっても一定の権限をもつポジションの人事異動は現場に大きな変化をもたらします。
 

人事異動がない状態で社員に変革を求めても効果は薄いですが、上層部が変わることで社員の生存本能が刺激され、思考も行動も変化していきます。

 

人事が及ぼす強力なメッセージ

 

人事異動以外にも、言葉にするよりも社員に強いインパクトをもたらす人事メッセージとして、下記の6つがあります。

社員の意識変革を促進するために、人事は人事のカードとして何ができるかを考えていかねばなりません。
 

人員削減

組織解体

アウトソーシング

中途採用

採用基準の変更

評価制度/昇格試験

 
それぞれ説明していきます。

 

人員削減

仕事の生産性が上がらず、多くの人員が重複した仕事をしているような場合があります。

指導しても改善が進まない場合、一気に当該部署の人数を半減させます。

最初は「半分も減らされたら仕事が終わらない」と反発が出ますが、半年もすると半分の人員で従来通りの業務が回っている、なんてことは少なくありません。

減らされて初めて、無駄な仕事をやめたり、重複する仕事の役割分担を明確にしたり、知恵を出すようになります。

特定部署の人員数を減らすのは、人事上の大きなメッセージとなります。

 

組織解体

 

ある広告会社では営業部門に営業1部~3部まで3つの部署があり、担当顧客別に分かれていました。

その中の3部だけ、いつも目標を達成できず、社員の士気も低く、離職率も高い状態でした。
 

会社としても3部の部長を何度か交代させましたが、なかなか浮上せず、また3部のメンバーも自分たちが変わらねば!というマインドが希薄でした。
 

そこで、3部を廃止して2部に統合。

3部はこのままでは良くなる見込みがないので、2部の部長の傘下に入って立て直す判断をしました。
 

元3部のメンバーは肩身が狭い上、2部は目標達成への意識が非常に強いメンバーたちだったので、頑張らざるを得なくなりました。

ただし元3部社員の一部は2部のやり方についていけずに退職していきました。
 

直る見込みのない組織、負け組根性になってしまっている組織は、組織長を入れ替えるのも手ですが、思い切って廃止するというカードも時に有効です。

 

アウトソーシング化、システム導入

ある中堅商社の営業企画部門などでは、営業の数字集計作業に多大なるエネルギーをかけていました。

各支店のデータを集め、共通のフォーマットに入力し直したり、間違いを修正したり、営業会議用に資料作成したりする仕事です。
 

とても手間のかかる仕事ですが、付加価値はほとんど生み出していないにも関わらず4人もの社員がこの仕事に関わっていました。

創意工夫の少ない仕事なので、当該社員たちは成長もしていません。

けれど「自分達は忙しくて、とても頑張っている」との自己評価でした。

 

そこでこの業務を新しいシステムにより自動化し、一部の手間のかかる仕事はアウトソーシングすることで、社員の仕事をほぼゼロにしました。

 
4人は自分がずっとやってきた仕事がなくなってしまい、大きなショックを受けました。

上司からは「今後は処理する仕事ではなく、集計した数字を分析し改善策を考える仕事に移行してほしい」と言われましたが、最初は一体何をやっていいか分かりませんでした。
 

業務の性質が180度変わり、2名の社員は努力して対応しましたが、他の2名はついていけず別部署に異動となりました。
 

自社の社員がやるべき仕事とは何か? この問いは重要です。社員という存在は、力をつけて生産性を高め給料も上がっていく循環を作らない限り、長く会社に残ってくれません。

であるからこそ、社員がやるべき仕事とそうでない仕事を区別し、後者を自動化、アウトソーシング化によって消滅させることも社員に対する明確なメッセージとなります。

 

中途採用

 

新卒採用中心だった会社が中途採用を行ったり、生え抜き社員が中心だった部門に中途採用した人材を入れることもインパクトがあります。

生え抜き社員はどうしても古くからのやり方を当たり前と思いがちです。

異なる環境で経験を積んできた人材を迎えることによって、いい意味で予定調和をかき乱すことができます。

一時的に発生する衝突や反発もよい刺激です。

このような化学反応を起こすことで、生え抜き社員も新しい視点を持つようになり、意識も変わっていきます。

 

採用基準の変更

 
従来の採用基準の見直しも現場にインパクトを与えます。
 

例えば

男性しか採用していなかった製造ラインに女性を採用する

初任給を上げて従来よりも優秀な新卒学生を採用する

現場経験がない新卒をマーケティング部門に直配属する

即戦力の技能を持つ学生は入社5年目と同水準の給与で採用する  など

 

これらの措置により、会社がどのような人材を求めているか、会社がどのような組織を作ろうとしているかが社員に明確なメッセージとして伝わります。

先輩社員は新たな挑戦に直面し、時には危機感を覚えることもあるでしょう。

 

評価制度、昇格基準の見直し

 

評価制度がインパクトをもたらすのは自明のことと思います。
例えば以下のような制度変更は社員の意識を大いに刺激することでしょう。
 

  • 年齢に基づく給与体系の廃止と、年功要素の排除
     
  • 配偶者手当や住宅手当の廃止と、その分の業績連動給の増加
     
  • 在籍期間の業績評価による退職金の金額変動
     
  • 上司からの評価ではなく、360度評価による業績評価
     
  • 一定以上ランクの昇格にはTOEICの特定スコアを要求
     
  • 部長に昇格するにはITスキルを測るテストの合格を要求

 
などなど。

 

給料にダイレクトにつながる話なので、社員は敏感に反応します。

評価制度をどのように変えるかは多角的な角度から検証する必要ありますが、社員の意識を変えるには非常に影響力のあるものです。

 

まとめ

長年トップダウン社風で運営されてきた会社は、社員が上の指示をこなすことに懸命になり、自ら考えない習慣がついている場合があります。

このような状況では、現場で自ら課題を見出し解決していく動きが不足しているため、トップが引退すると途端に会社が弱体化します。
 

そのリスクを避けるため、現場が自ら考えて動ける組織にするためにはどうすればいいでしょうか?

経営陣、各部門責任者などがそれぞれの観点から対策を考えますが、人事は人事として想定し得る打ち手を繰り出す必要があります。
 

トップダウン社風から現場主導型の社風に変化していくには、人事としてどのようなカードが切れるでしょうか?

一番変えるのが難しい“社員の意識”をどうやったら変えることができるでしょうか?

ぜひ頭を悩ませてみてください。

 

 

こちらの記事もおすすめです。

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

筆者プロフィール詳細