自社株を社員に 持たせるのは、一般的に上場企業や上場を目指すベンチャー企業が活用する方法です。
メリットは、社員の目線がオーナーや経営者に一歩近づくことです。
社員が会社全体の業績に関心を持つようになり、会社の成長と共に自分の資産も増えていくというWin-Winの図式を作ることができます。
自社株を社員に持たせる手法は上場企業の専売特許ではありません。
上場していない中小企業であってもこれを活用するメリットは非常に大きいのです。
今週のブログは、未上場の中小企業でも社員に自社株を持たせるメリットをお伝えします。
目次
自社株を社員に 持たせるメリット
経営者は等しく、社員に対して
「もっと業績にこだわって欲しい」「もっと経営者視点をもって欲しい」
と願っているのではないでしょうか。
しかしそれは簡単なことではありません。
オーナーや社長は会社の業績が自身の財産や評価に直結するので、会社の業績にこだわるのは当然です。
しかし一般社員にとって、(よほど業績連動報酬の会社でない限りは)会社の業績がどうであろうと自分の実入りにはさほど大きく影響しません。
必死に頑張って会社に貢献したところで、株主ばかりが儲かって自分に見返りがなければ、やがてその情熱も冷めてしまうのが人の心です。
もちろん社員はお金のためだけに働いているわけではありませんが、お金が重要度の高い要素であることは否めません。
しかし基本給などの固定給を上げることは簡単ではなく、そこで効果を発揮するのが株式です。
株式であれば株を保有するオーナーから社員に譲り渡す個人間売買なので、会社の損益への影響なく付与可能です。
株価は会社の価値そのものなので、社員が株式を保有していれば、自分の財産が会社業績に連動して動くこととなり、非常に励みになります。
人材の力に業績依存する会社こそ 自社株を社員に 持たせるべき
「会社の発展の原動力は誰の力によるものか?」を考えてみると、社員に株式を持たせる意義がより濃く理解できます。
資本家と労働者の時代であれば、例えば資本家が巨額の富を投じて工場を作り、機械を買い、材料を仕入れます。
工場のラインで単純労働者を雇って製品を作り、それを販売して儲けます。
このビジネスにおいて、大きなリスクをとって投資した投資家(株主)がリターンを全て受け取るのは自然なことです。
雇われた労働者に給料は払いますが、それ以上の利益分配をするという考えには至りません。
しかし現代の産業の多くはサービス業です。
創業者が設立時に背負うリスクはさほど大きな金額ではありません。最初の投資よりも、その後に雇った社員の能力や努力によって会社の成長が決まります。
例えば、今を時めくGAFAのような会社は、創業者の卓越したアイディアと実行力で初期の成長を成し遂げましたが、その後の発展は創業者の能力だけでは全くもって限界があります。
マーケティングのプロや営業のプロも加わります。
知的財産のプロ、テクノロジーのプロ、人事のプロ、ロビー活動のプロなど、様々な優秀人材がチームとして機能することで、会社は更に発展していきます。
会社の発展の原動力はほとんど全て人の力に依存するビジネスといって過言ではありません。
GAFAは幹部/社員にかなりの株式を持たせていますが、仮に創業者が一切自分の株式を渡さず独り占めしていたらどうなっていたでしょうか?
恐らく社員はそこまで身を粉にして働かなかったでしょうし、いい人材も入ってこなかった可能性があります。
介護ビジネスで成長した会社の例
もう少し身近な中小企業の例で考えてみましょう。
介護ビジネスで成長したある会社は、創業オーナーが介護施設の可能性に目をつけて起業し、地域密着型で成長を遂げてきました。
しかしこの成長を成し遂げた要因は社長の先見性やチャレンジ精神だけではありません。
介護施設の初期の責任者がお客様を大切にして細やかな運営やスタッフの育成までしっかり行ったことで、評判を得ました。
最初の施設で育てられた社員が、次の施設、またその次の施設の運営で力を発揮しました。
顧客獲得においては、マーケティング担当者自らwebマーケティングを必死に学び、競合に比べていち早くネット上で集客する術を確立しました。
正に「社員全員で成し遂げた成長」です。
この会社の創業者にしてみれば、社員に自社株を持たせる判断も持たせない判断もどちらも可能でしたが、社員に自社株を持たせる選択をしました。
成長の理由や成長に貢献した人達を考えたら、創業オーナーが株式を独占するのは不自然だと感じたからです。
社員の自社株保有を促進して成長した2大未上場企業
1960年に大学生が立ち上げた会社から今や日本でトップ10に入る時価総額8兆円まで上り詰めたリクルートホールディングスは、上場するまでの数十年間、未上場企業でありながら社員に自社株を持たせ、「全員経営」を貫いてきました。
マスク生産や家電商品で急成長しているアイリスオーヤマは、未上場企業でありながら社員に自社株を持たせ、会社の成長を創業家と社員が分かち合っています。
リクルートもアイリスオーヤマも、創業者の資本力や能力だけで成長できるビジネスではありません。
社員のアイディア、実行力、改善力、粘り強さなどがあってこその成長です。
だからこそ、社員が「ここは自分の会社」という当事者意識をもって働いてくれるよう工夫してきたのだと思います。
この2社は社員の自社株保有が会社の成長の原動力になった見事な例と言えるでしょう。
未上場企業こそ 自社株を社員に 持たせるメリットがある
未上場企業で社員に自社株を持たせる会社は少ないですが、非常にメリットの大きい施策です。
実は、上場企業や上場を目指す未上場企業よりもメリットが大きいと言えます。
上場企業の場合、あえて会社が自社株購入の機会を作らなくても、(インサイダー取引規制等にふれなければ)直接市場から自分で株を買うことができるので、あまり稀少性はありません。
さらに会社の規模が大きいと、自分の頑張りと会社全体の業績に距離があるため、株価と自分の仕事が繋がっている感がありません。
上場前のベンチャー企業は幹部や社員にストックオプションを付与するのが一般的です。
自社株を保有する社員は上場に向けて最後の一踏ん張りを乗り切ろう!という原動力になりますが、いざ上場すると、社員が株を売り始め、全て売却した頃に退職するというのはよくある現象です。
上場時の株価が最高値で、その後業績が低迷する企業は「上場ゴール」と言われますが、会社の業績だけでなく株を持つ社員の気持ちも上場ゴールとなってしまい、一体何のために株を持たせているのか分からないケースもあります。
未上場中小企業の場合のメリット
一方で未上場の中小企業が社員に株を持たせる場合は上場ゴールという考えがないので、社員は退職まで自社株を持ち続けるのが通常です。
保有期間が長いので、会社の長期的な成長と自分の株の価値が連動します。
会社が小さい分、自分や自分の部署の頑張りが全社の業績にダイレクトに影響しやすく、日々の仕事にも張り合いが出ます。
そして何より、未上場企業の株式は市場で買うことができない貴重な資産です。
それをオーナーから譲り渡してもらえれば、社員は会社経営の一員として大いに士気が上がることでしょう。
まとめ
未上場中小企業が報酬制度を考える上で、社員に自社株を持たせるのは1つの有効な方法です。
特に社員の頑張りが会社の発展にダイレクトに関係する会社であるならば、オーナーが株を独占するのではなく一部でも社員に分け与え、運命共同体として経営していくと成長の可能性が高まるはずです。
実際の運用にあたっては、株式をいつ誰にどの程度売却するか?価格はどのように設定するか、退職時の買い取り方法なども決める必要があるため最初に少し手間はかかりますが、
仕組みが回り始めれば、成長を側面から強力に支える制度になっていくでしょう。
こちらの記事もおすすめです。