経営者の悩み 「社員がついてこない!」の解決法

2021.08.05

社長がふと後ろを振り返った時、社員はついてきているでしょうか?

「気づいたら自分だけポツンと前方にいて、社員たちは遥か後方にいる」なんてことはありませんか?
 

多くの経営者から、「幹部の経営視点が足りない」「社員との間に(意識の面で)距離を感じる」といった言葉をよく聞きます。

そして、何とかならないか?と悩んでおります。
 

幹部の経営視点や社員の経営参画意識を高めるにはどんなことをすればいいでしょうか?

事例とともに説明していきます。

 

社長と社員に意識の差(ギャップ)があるのは当たり前

経営者の悩み

 
当たり前のことかもしれませんが、社長と社員は全く別物です。

私はかつて、会社員〜会社の社長を任される立場への変化を経験しました。

その時に痛切に感じたのは、「誰かに相談する仕事」と「最後は自分が決定し、その結果の責任を背負う仕事」は、似て非なるものだとということです。
 

当時の私はサラリーマン社長でしたが、創業社長や2代目、3代目社長の場合、代表者であると同時に大株主でもあるので、仕事に対する本気度は雇われ人とは比べ物になりません。

仕事もプライベートも関係なく、人生と会社が相当程度シンクロしています。

 
そんな社長の意識と社員の意識には大きな差があって当然です。

両者の違いは立場の違いが生み出す意識の差なので、社長の意識をそのまま社員に求めても、求められた方は困ってしまいます。

 
考え方を少し変えてみましょう。

あなたの会社の社員は奇跡のような確率によって今この会社で働いています。

その選択をしてくれていることに感謝し、「社員がこの会社で働いて良かったと思える経験をさせてあげよう」と考えることが全ての出発点です。

 

社長と社員の意識の差を埋めるには

 
社長と社員の間には明確なギャップがあることを前提とした上で、いかにそのギャップを埋めていけるかが、会社の成長力に直結します。

経営者視点をもつ幹部をいかにして育てますか?

社員の経営参画意識をどうやって形成したらいいでしょうか?

 

同じ情報を与え、同じ目線で考える

 
あるIT企業の社長は、幹部社員の経営者視点が弱いと嘆いていました。

会社の利益が近年伸び悩んでおり、何としても今の状況を打開しなければならないのに、幹部社員にその意識が足りないという悩みでした。

ところがその会社では、会社の業績を幹部社員にすら開示していません。

いくつか事業部がありましたが、事業部の利益がどの程度かも、幹部たちは全く理解していませんでした。
これでは何もできません。

 
例えば、八百屋さんが日々頑張って仕事する時、常に日々の売上と仕入れ原価を考え、粗利がいくら残ったかを意識します。

事業部長が自分の事業部の利益を知らずして、どうして業績にこだわることができるでしょうか?

 
幹部に経営者視点を持たせたいならば、まずは経営者の持っている情報と同等の情報を与えることです。

情報を隠さずできるだけオープンにしていくことで、考える土台が変わります。

 

船の目的地を告げる

 
今の時代の会社組織は長距離航海の船のようなものだと思います。

同じ目的地に向かって乗組員同士が役割分担して協力して進んでいく船です。

 
未来永劫、今の会社に固定的に根を張る人は少なくなりました。

自分の人生の一定期間、その会社のビジョンや使命に共感して、目的地まで共に進む集団の色合いが強くなっています。

 
だからこそ、船の目的地はどこか?その使命は何か?その船の特徴は何か?
ということをトップは明確に魅力的に発信する必要があります。

その発信を通じて、「この指とまれ!」と社員を巻き込んでいくのです。

 
社長が社員の仕事を見ていて「当事者意識が足りない」と感じるのは、社員が「当事者」になっていないからです。

よって、いかに当事者に巻き込めるかが大事です。
 

社員が言われた仕事を粛々とこなすために会社に来ている限り、当事者意識は出てきません。

同じ目的を共有した乗組員同士(当事者)になれば、目線が社長に近づいていきます。

 

社長は社員と対話する

 
社長が社員と感じる距離感は、双方のコミュニケーションの近さに比例している場合が多いです。

現場にしょっちゅう行って社員と会話したり、社員と公式非公式にたくさんコミュニケーションしている社長から、「社員と距離がある」という悩みを聞くことは滅多にありません。

社長室にこもっていたり、社員への伝達や指示を幹部経由ばかりで伝えていると、社員の声は入ってこなくなります。

全体朝礼などで直接社員に語りかけるのもよい方法ですが、何より直接雑談したり仕事の悩み相談にのったり、ダイレクトにチャットをやり取りするなどのコミュニケーションが有効です。

 

組織のサイズは小さく、自由度(裁量)を高める

 
ある社員食堂運営会社が、これまで展開してきたエリアを離れ、新たな食堂運営を受託しました。

その新食堂の開設を担当したメンバーたちは、あたかも自分のお店を開くがごとく主体的に取り組み、次々と押し寄せる難題をクリアしていきました。

メンバー同士、共に本気で仕事をした強いチームに育ちました。

 
一方で、従来からの食堂を担当している社員達は、本社に近いところで昔からの安定した仕事を担当しています。

普通に真面目にコツコツこなしてはいるものの、新食堂メンバーと比べたら、自ら職場をよくしていこうという当事者意識は低いものがありました。
 

 
これは2つのことを物語っています。
 

1つは、当事者意識は組織のサイズに左右されるということです。

組織理論では、組織の人数が少ない方が1人あたりの参加度合や責任割合が高くなります。

逆に人数が多いと、参加度合いが低下し、“社会的怠惰”が出ると言われています。

組織はできるだけ小さい方が「自分が主役感」をもって働きます。

 
もう1つは、仕事の自由度(裁量)で責任意識が異なってくるということです。

指示通り仕事をやらせたら、本人はその結果について自己責任は感じず、「指示した人に責任がある」と考えます。

一方で、自由裁量があり、自ら考え自ら選択したことならば、その結果について自己責任を感じます。

 
新食堂の仕事は過去に経験のない問題の連続で、いちいち会社に相談していたらとても回らないので、彼らは自分たちで考えて決断していきました。

社員が当事者意識を持って働くためには、組織をできるだけ小さくして主役感を持たせ、仕事に自由度や工夫の余地を入れることが大切です。

 

主体的に動ける人材を登用する

 
会社として様々な手を打った上でも、社員全員の経営参画意識が改善することは容易ではありません。

個々に相当な差が出てきます。

その時に大事なことは、社長に近い意識を持って動ける人材を、会社として評価し登用することです。
 

仮にもし、古参幹部が会社全体のことを考えず、自分の守備範囲をこなすことしか考えていなければ、それを見た社員も影響されてしまいます。

その幹部がずっと要職にあり続けたら、会社全体に出世の天井感が蔓延し、「頑張ってもこの会社では上に行くチャンスはない」と見放されてしまいます。
 

年齢などに関係なく、社長に近い意識を持って「自分が会社を良くしていこう」と思える人材をどんどん幹部に登用しましょう。

そうすると、その社員が更に周囲に影響を与える好循環を作り上げていきます。 

 

信頼と温かみがなければ組織に人はついてこない

 
ここまでお伝えした条件を全て満たしているにもかかわらず、社員が受け身で経営参画意識が弱い場合、その原因はどこにあるでしょうか?

(先ほどと少し矛盾するようなことを言いますが、)一生同じ会社で働く人は今後ますます減少していきますが、社員同士の関係が希薄化し、会社が単にお金を稼ぎにいくだけの場所になってしまっては元も子もありません。

中小企業には「社員は家族」のような感覚が今後も求められます。

「会社に行けば、そこに気心が知れた仲間がいて、他愛のない冗談を言い合い、助け合う関係がある」。

これが組織の強さの源泉です。
 

社員同士の個々のつながりや信頼が弱まってしまったら、社長がどんな格好いい旗を振ったところで、社員はついてきません。

社員は組織のことなど考えず、自分が生き残り、自分が損しないことばかりを考えるでしょう。

企業は営利組織なので仲が良いだけでは駄目ですが、組織内で互いの信頼関係があり、人間的な温かみのある組織こそ、社員が経営参画意識をもって会社のために頑張ってくれるでしょう。

 

まとめ

 
会社の全ての責任を背負う社長と社員の間に意識の差があるのは当然です。

その差を埋めて、社員に経営参画意識をもって欲しいと感じたら、これまでの社員との接し方や組織運営の在り方を見直してみてください。

「社員の意識が低い」と諦めるのではなく、社員が目の色を変えて仕事に取り組む組織をぜひ作っていきましょう。

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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