ゆるブラック企業 という言葉を聞いたことはありますか?
「ゆるブラック企業」とは
- 働き方改革を通じて残業を減らすことが目的化
- 負荷のかかる仕事を避け、チャレンジしなくなる
この結果として人材が成長しなくなった会社のことです。
ブラック企業は論外として、社員に楽な仕事しかやらせない「ゆるブラック企業」も大きな問題です。
本来企業が目指すべきは、ブラックかホワイトかゆるブラックか、そういう議論を超えて、社員がイキイキ意欲的に仕事に取り組み、社員が成長し、会社も成長する循環を築くことです。
今週のブログでは、十数年の労働環境の変化を振り返りつつ、働く環境をどのように設計していくかについてお伝えします。
目次
ブラック企業問題の変遷
少し歴史を振り返ってみます。
ブラック企業が問題化したのは2000年代後半からでした。
「ブラック企業〜日本を食いつぶす妖怪 今野晴貴著」(文春新書)というベストセラー本が出版されたのは2012年のこと。
ブラック企業を放置できないという社会の流れが加速しました。
それまで私の中でのブラック企業問題とは「単に社員をこき使い、異様に残業が多い会社と個人の問題」という認識でしたが、この本を読んではっとさせられたのは、ブラック企業問題は「会社と個人の問題に留まらず、社会に転嫁された問題である」という点です。
ブラック企業問題はこのような図式です。
- 新卒を大量採用し、激しい根性教育でふるいにかけて追い込む
- 脱落者の一部が心や体を病み、社会復帰できない状態になる
- あとは国にお任せ(失業保険受給者を増やして社会に責任転嫁する)
著者が本のサブタイトルに“妖怪”とつけた理由がよく分かりました。
2015年に続編として出版された 『ブラック企業2〜「虐待型管理」の真相』 (文春新書)では、社員の人格や人間性を無視したマネジメントがはびこる現実に警鐘を鳴らしました。
その後の流れはこうです。
2015年 電通社員の自殺事件が社会に衝撃をもたらし、働き方改革の流れがさらに加速
2016年 政府にて「働き方改革実現会議」が設置される
2018年 働き方改革関連法が公布
労働法が改正され、残業時間の上限規制(原則として月45時間・年360時間)が定められ、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から施行されました。
この影響で、2018年〜2020年初頭までは「働き方改革」という言葉を聞かない日がないくらいの過熱感がありました。
そこに突如新型コロナウィルスがやってきて、色々なことがガラガラポンになりました。
ブラック企業問題と働き方改革がもたらした功罪
ブラック企業問題は埋もれていた闇に焦点を当てたまでは良かったものの、この問題が働き方改革の話へ繋がる過程で「残業削減活動」にすり替わってしまったのが不幸でした。
真の悪であるブラック企業の撲滅は中途半端なまま、ブラック企業の特徴の1つである長時間残業ばかりが問題視され「長時間残業が悪だ」という論調に偏っていきました。
「残業の多い会社 ≒ ブラック企業」という誤解も招いてしまいました。
本来働く人にとって大切なことは、「残業時間が長い短い」ということではなく、職場でイキイキ意欲的に仕事ができることです。
さらに仕事を通じて経験値や能力を高め、いっそうやりがいのある仕事につき、給料も上がっていくことです。
残業が多すぎて心身の健康を阻害するのがよくないことは確かですが、残業削減の話にフォーカスしすぎた結果、そもそもの働く目的や意義の追求から話がずれてきてしまいました。
「 ゆるブラック企業 」の出現
働き方改革の過程では、多くの企業が残業時間の削減に知恵を絞りました。
世間の風潮もあり、若い社員に残業させないよう気を遣う上司が増えました。
厳しいことを言ったり、仕事を与え過ぎると「ブラック企業」「ブラック職場」と言われかねないので、上司が部下に遠慮するようになりました。
そして腫れ物に触るように部下に接する上司も多くなってしまいました。
日経ビジネス2021年11月15日号に掲載された『“いい会社”になったはずなのに何か変 その会社「ゆるブラック」です』に興味深い事例があります。
大手化学メーカーを退職したKさんは、2016年に新卒入社以降、働き方改革が進むにつれて職場がどんどん良くなると感じていました。
ところが、仕事の質よりも残業しないことを優先する上司の指示を見ているうちに違和感が芽生え始めました。
決定的だったのは、新人研修のプログラムについて議論している時でした。
自分の体験をもとに様々な改良のアイデアを提案したのに、先輩から「いずれも良い考えだけど、それをやるには時間が必要で残業が増えちゃうよね」と言われ却下となり、研修プログラムはそっくり前年踏襲となったのです。
その後も負荷のかからない成長感のない仕事が続いたため、Kさんは退職を決意しました。
転職先では残業も土日出勤も時々あるものの、やりがいは格段に上がりました。
この例からもわかるように、残業時間削減は、良い会社・イキイキ働く環境を作るための一手段でしかありませんが、手段を目的化したために様々な問題が起きているのです。
真の意味で社員がイキイキとした会社とは?
繰り返しになりますが、本来働く人にとって望ましいことは「仕事の時間や量が少ない」ではなくこのような状態です。
- 職場でイキイキ意欲的に仕事ができること
- さらに仕事を通じて経験値や能力を高め、いっそうやりがいのある仕事につき、給料も上がっていくこと
これを実現するために、3つの軸で考えてほしいと思います。
① 仕事のやりがい
社員の成長に大きく影響する要素です。
その人なりにチャレンジできる難易度の仕事を与え、かつ業務に相当集中して取り組んでも若干残業がはみ出るくらいの仕事量が成長を早めます。
量が少なく質へのこだわりも弱ければ、決して将来の成長は見込めません。
② 働く環境
社員がのびのび、思う存分に力を発揮してもらうための環境づくりも重要な要素です。
職場の同僚同士の関係性、相互協力できるチームづくりは何よりも大事ですし、働き手の家庭事情やライフスタイルにできるだけ合わせた働き方も有効です。
③ 企業文化
これは社員に対する会社の考え方についてです。
人事ポリシーを定めている会社では、この点について考え方をまとめていると思います。
立派な制度や働く環境を用意しても、根本の思想の部分と矛盾していたらうまくいきません。
①も②も高い状態だとしても、③の根本思想が低い状態だとしたら、やがて矛盾が噴出します。
逆に現状では②が低くてても、①と③で高い状態を貫くことができれば、今後かなり伸びシロがあるとも言えます。
ちなみに真のブラック企業は①が高いどころか最初から無茶な目標を無理矢理課され、②と③は言うまでもなく低い状態です。
まとめ
ブラック企業になってはいけませんが、ホワイト企業になればいいという単純図式でもありません。
残業削減や働く環境改善にばかり注力し、肝心要の社員の能力が高まらなければ、企業はやがて衰退の一途を辿ります。
もし「ゆるブラック企業」になってしまったら、皆、楽で心地よいぬるま湯につかったまま、やがて企業が存続の危機を迎えます。
その時になって初めて、社員1人1人に外で通用する力がついていなかったことに気づかされるのです。
ブラックとかホワイトを超えて、「社員に本当に望ましい環境とはどんな環境か?」ということを軸に考えれば、あなたの会社をどのように導いたら良いか、あるべき姿がきっと見えてくるでしょう。
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