中高年のリスキリング は「スキル」習得にあらず?マインドセットの変容が次のキャリアを切り開く

2025.12.26

中高年のリスキリング

ビジネス環境の変化により、リスキリングが求められる時代です。
 

特に中高年世代は、従前のキャリアからの転換も視野に入れたリスキリングが必要とされています。

しかし社会全体で見た場合、リスキリングを通じて職種を越えた移動や、転職成功が増えているとは言えません。
 

リスキリングの気運が高まっているものの、「何を学び、何を変えれば次の道が開けるか」が曖昧なままになっているのが現状ではないでしょうか。
 

リスキリングという言葉のとおり、新たなスキルを獲得することに主眼が置かれていますが、スキル獲得だけでセカンドキャリアの道筋をつけるのは容易ではありません。

少しプログラミングを学んだところで、ITエンジニアとして生計を立てられるだけのスキルと経験値を獲得するのは並大抵のことではないでしょう。

例えば50歳まで営業職の人が、経理や法務などのスキルを新たに学んで職を得る道もハードルが高いでしょう。
 

私が常日頃感じているリスキリングの課題は、「スキルの獲得」よりも「マインドの変容」の方が効果が大きいにもかかわらず、そこが軽視されているところです。
 

今週のブログでは、中高年のキャリア転換において大きな影響をもたらす「マインドの変容」についてお伝えします。

 

中高年の転職市場動向

 

日本の労働市場では慢性的な人手不足により、中高年の転職市場が広がっています。
 

株式会社プロフェッショナルバンクが2025年に実施した調査では次のような結果が出ています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000043.000005100.htmlより抜粋引用

 

調査概要 「45歳~50代のミドル・シニア人材の転職」に関する調査

調査人数 331人

調査対象 45歳以上で転職または転職活動をしたことのある45歳~50代のビジネスパーソン

 

45歳を超えてからの転職活動における「求人数の感覚」

  • 想定通りだった(31.4%)
  • 想定よりも多くの紹介があった(24.8%)
  • 想定よりも非常に多くの紹介があった(15.7%)
  • 想定よりも非常に少ない紹介だった(14.5%)
  • 想定よりも少ない紹介だった(13.6%)

 

上位の3項目を合わせた、求人数が想定通りまたは想定超えと感じたミドル・シニア人材は7割を超えており、中高年を対象とする求人の数は十分あることが伺えます。

 

同社が同じく2025年に企業の経営者や人事に行ったアンケートでも、同様の傾向が出ています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000005100.htmlより抜粋引用

 

調査概要 「45歳~50代のミドル・シニア人材の採用」に関する意識調査

調査人数 1,013人

調査対象 45歳~50代の人材の採用経験がある企業に属する経営者/人事責任者/人事担当者

 

45歳~50代の求人の応募者について、以前と比較してどのような変化を感じるか

  • 変わらない(49.2%)
  • 増えた(45.4%)
  • 減った(5.4%)
     
     

約半数は、以前よりも45歳~50代の応募者が増えたと感じています。
 
 

45歳~50代の人材の採用を強化していきたいと思うか

  • 強化したいと思う(54.5%)
  • 非常に強化したいと思う(28.3%)
  • 強化したいと思わない(15.4%)
  • まったく強化したいと思わない(1.8%)

 

『非常に強化したいと思う』と『強化したいと思う』を合わせて、8割超の企業が中高年人材の採用を強化したいと考えています。

 

45歳~50代の人材の採用において最も期待すること

  • 即戦力として、高度なスキル/経験の発揮(54.5%)
  • 管理職として、組織マネジメント能力の発揮(34.5%)
  • 変革や業務改善をリーダーとして推進(7.6%)
  • 若手社員・中堅社員の指導/育成を牽引(3.5%)

 

最も期待されているのは、従前の経験による専門能力の発揮であり、続いてマネジメント能力が期待されています。

 

45歳~50代の人材採用において不安な点

  • 給与や待遇面における他社員とのバランスの考慮(35.3%)
  • 柔軟性や新しい技術への適応力(30.7%)
  • 組織風土/組織文化への適応(30.2%)
  • 健康面や体力面(29.1%)
  • 若手社員とのコミュニケーション(24.0%)
  • ITスキルやデジタル技術の習得(14.9%)

 


 

以上の調査より、次の点が読み取れます。
 

企業の中高年を採用する意欲は高く、中高年側の転職活動も活発である

企業が中高年の採用で特に期待しているのは高度な専門スキルや経験

次いでマネジメントスキル

一方で、柔軟性、新しい技術(IT、デジタルスキル含む)の習得、組織風土への適応、若手とのコミュニケーションが不安視されている

 

結果をふまえると、高い専門性や豊富な経験を有し、その能力が転職先でもバッチリ活かせる人は比較的スムーズに転職先で活躍できそうです。

しかし、従前の専門スキルが活かせると想定して転職したのに、実際はそのスキルが通用しなかったというケースも少なくありません。
 

そのような場合、マネジメントスキルや柔軟性、学習能力のある人は期待に応えることができますが、ない人は企業側の不安要因が顕在化してしまう可能性があります。

 

中高年のミスマッチの要因

 

特に中堅~大手企業で働いていた人が、中小~中堅企業に転職した場合、ミスマッチが頻繁に見られます。

さまざまな現場でその理由を解明していくと、昔も今もミスマッチの理由は変わっていないと感じます。
 

それは「スキル」ではなく「マインド」の問題です。
 

専門スキルというものは、会社の規模、業種、企業の発展段階に応じて発揮の仕方が異なるため、前職の専門スキルが100%活かせるというケースはあまり多くありません。

ほとんど活かせない、ということすらあり得ます。

その時に支えとなるのが「マインド」です。

 

以下では、マインドに起因する問題によって転職先に適応できない典型事例をお伝えします。

さまざまな会社で見られる典型事例なので、事例を通して必要な「マインド」とは何かを考えてみてください。

 

手が動かない人

 
中小企業では上の役職の人でも細かい雑務を自分で行っています。

電話受け、資料整理、スケジュール管理、会議の設定、他部署との時間調整など、秘書がいる人なら自分でやらないような業務も行っています。
 

大きな会社にいて、そのような業務を長らくやってこなかった人の中には「アシスタントをつけてくれないと仕事が回らない」と言い出す人がいます。

最近は減っているとはいえ、女性社員をアシスタントと勘違いし、コピーや電話受け、お茶汲みなどをしょっちゅう頼んでしまう人もいます。
 

ここで「あれ?この会社は以前いた会社とやり方が違うな。何でも自分でやらなきゃダメだな」と気づき、柔軟に行動を変えられる人は問題ありません。

一方で、以前の習慣から抜け出すことができず頑なに雑務をやろうとしない人は、すぐに周囲から煙たがられ、それだけで職場に馴染めなくなってしまいます。

 

学ばない人

 
「手が動かない人」と少し近いですが、中小企業ではPCの細かい設定なども自分でやらなければなりません。

社内システム部門の担当者が来て、手とり足とりやってくれることはありません。

そのような時は、自分自身でマニュアルを見たり、ネットで調べたりして、トライする姿勢が必要です。
 

どうしてもできない時にヘルプを依頼するのは問題ありませんが、まず自分で学ぼう、自分でやってみようとしない人は周囲から「手のかかる人」レッテルを貼られてしまいます。

さらに業務推進においても、これまで経験のない知識を習得したり、その会社の業務の特徴を学んだり、ITスキルを学んだり、とにかく学ぶことがたくさんあります。
 

素直にかつ貪欲に学べる人はどんどん適応しますが、学ぶ習慣がなく、何でも人に頼り自分で学ぼうとしない人は能力を発揮しづらくなります。

 

 

上から目線の人

 
中小企業は色々なものが整備されておらず、大手企業から来た人にとっては「レベルが低い」と映ることがあります。

中小企業は資源が限られるので、ある領域には徹底的に力を入れている反面、それ以外の部分はかなりぐらついたアンバランス走行です。それに気づき、認識を変え、やり方を変えられる人は適応がスムーズです。

一方で、「レベルが低い」と決めつけ、できていないところにばかり着目し、上から目線で指摘ばかりすると、経営陣や幹部と折り合いが悪くなってしまいます。

 

業務範囲やレポートラインにこだわりすぎる人

 
慣れない仕事や新たな仕事を依頼された時に、

「その仕事は自分の業務ではありません」

「その話は正式に聞いていないので動けません」

と言う人がいます。
 

中小企業では、担当者のはっきりしない仕事、どの部署が担当か明確でない仕事がゴロゴロ転がっています。

また社内の情報も組織図のピラミッドに沿って綺麗に流れてくることは稀で、非常に属人性の高いルートで情報が流通しています。
 

よって、組織図などの型にこだわりすぎると仕事が進みません。

「あれ?これって自分の仕事?」と思うことはあっても、柔軟に受け止め対応していくのがベターです。

そのような姿勢を示すと、周囲から信頼され頼られるようになります。

 

 

完璧を求めスピードが遅い人

 
中小企業にはややこしい意思決定の仕組みや何段階もの稟議書はありません。社長が決めればそれが結論です。

よって、物事の決定スピードが速いです。
 

一方で、意思決定に際して立派な資料や多方面から検討し尽くした材料などはないので、決定根拠が不十分に見えるかもしれません。

大手企業から来た人にとっては気持ち悪いかもしれませんが、自分の考え方を変えて、「完璧を求めるよりも、70~80点でいいからスピード重視で動こう」とする必要があります。
 

精緻に考えつくすよりも、どんどん動いてやってみる仕事スタンスに転換できるかが成否の分かれ道です。

 

部下に期待しすぎる人

 
中小企業では、部下に「大きな方向性を指示」しただけでは動いてもらえません。
業務の細かいところまで踏み込んで、具体的な指示を出す必要があります。

さらに、指示した後に放っておくと、結局何も進んでいない、なんてことも日常茶飯事です。

もし進んでいなかったのならば、「本来、部下の方から報告してくるべき」と思っていると、足元をすくわれます。
 

進んでいないとしても部下に決して悪気はありません。
遂行するための能力が不足していたり、具体的なやり方を考えられなかったり、報連相のイロハを十分に理解していなかったり、大量の仕事に追われていたりで、結果として進んでいないのが現実です。

部下への指示が必ずしも期待通りには進まないという前提で、小まめに管理し、励まし、尻叩きするマネジメントスタイルに変容が求められます。

 

以上、中高年の転職におけるミスマッチの典型例をお伝えしました。

 

スキルよりもマインド

中高年のリスキリング

 

お伝えしたミスマッチの典型例に共通しているのは、「過去の自分の習慣や固定観念を変えられるかどうか?」という点に尽きます。
 

環境が大きく変わる以上、自分自身の仕事の仕方、周囲とのコミュニケーションの仕方などもアップデートしなければなりません。

ところが、その重要さに気づかず従前のスタイルを押しつけると、不協和音が生じ、最終的にはミスマッチが生じて退職していくことになります。
 

新しい環境を受け入れ、柔軟に対応し、未知のことを貪欲に学んでいく姿勢こそが何より求められています。
 

冒頭でリスキリングの課題についてお伝えしました。

リスキリングの課題は、「スキルの獲得」よりも「マインドの変容」の方が効果が大きいにもかかわらず、マインド変容が軽視されている点 にあります。
 

ミスマッチの事例で感じられるように、知識やスキルを磨くことも大事ですが、

それよりも、過去の自分の思考様式や習慣を脇に置き、新しい環境に適応する柔らかさと、学ぶ姿勢、自分を変えていく変革マインド・チャレンジ精神が必要です。
 

リスキリングのプロセスにおいて、このようなマインドをいかに獲得していくかが抜け落ちている限り、リスキリングはなかなか上手く社会的に機能しないのではないでしょうか。

 

リスキリングで学ぶべきマインド変容

 
まとめとして、中高年のリスキリングに際して学ぶべきマインドについてお伝えします。

 

転職したら、最初から影響力を出そうと力み過ぎず、まずは新人の気持ちでよく理解し、受け入れる。学ぶところからはじめ、周囲の話をよく聞く

自分の意見や前職での経験を無理に押し通そうとしない。いずれ自分色をもっと出す時が来るが、焦らない

色眼鏡でものを見ない。性別、年齢、学歴、相手の雇用形態などで偏見を持つことなく、誰とでもフラットに、フランクに接することを心がける

物事をポジティブにとらえる。できていないことに目くじらを立てない

曖昧なことを明確にすること自体にエネルギーを注ぎ過ぎない。曖昧なままでもまずは動いてみる

部下に対して上から目線になったり、馬鹿にしたりしない

できないことを見て「あれもできてない、これもできていない」と言わず、できている強みに着目し、「できていないから自分が入社したのだ」と思ってポジティブに取り組む

雑用、雑務も楽しむ

 

もし企業が中高年に最も期待する 「高度な専門スキル」 がなかったとしても、上記のようなマインドで仕事ができれば、必ずや社内で認められ、頼られ、長年培った経験値を活かした活躍ができるはずです。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

筆者プロフィール詳細