「 仕事の割り振り 」ができる上司とできない上司|部下を伸ばし、組織の未来をつくる任せ方

2025.10.31

 
上司は、「 仕事の割り振り 」において絶大な権限を有しています。
 

ここでいう割り振りとは、どの仕事を(What)、誰に(Who)、どのように(How)担当させるかという意味です。
 

“絶大”というのは、多くの組織ではほぼ上司の判断で割り振りを決定できるという意味に加え、

「割り振り次第でチームメンバーの成果や成長に大きな影響を及ぼす」インパクトを持つという意味です。

 

一方で、ビジネスの現場においては仕事の割り振り方が体系化されておらず、マネージャー1人1人が手探りで試行錯誤しながらやっているのが実態です。
 

今週のブログでは、上司が部下に仕事を割り振る際の考え方と実践のポイントを整理し、「仕事の割り振り」によって成果と成長を両立させる方法をお伝えします。

 

仕事の割り振り で考えるべきポイント

 

仕事の割り振りは、その場の思いつきや過去からの惰性で決めているケースが少なくありません。

「皆に公平に分配する」という発想に捉われ過ぎてしまっていることもあります。
 

仕事の割り振りで考慮すべきは、「業務の内容」×「メンバーの特徴」です。

どの仕事を誰に任せるかを、その両面から考える必要があります。
 

「業務の内容」と「メンバーの特徴」はさらに以下の要素に分けて考える必要があります。

 

業務の内容

業務の内容、求められるスキル・知識・経験

業務の難易度

業務の重要度

業務の緊急度

 

メンバーの特徴

(業務に求められる)スキル・知識・経験の有無

現在の業務負荷と当該業務ボリュームとのバランス

その仕事への関心、意欲

今後の成長に必要なこと

 

上記の要素を踏まえた上で、

「当該業務が着実に進む」「部下が意欲的に取り組める」「強みを発揮できる」「1人1人の部下が成長できる」

このような割り振りが望ましい姿です。

 

仕事の割り振り NGケース

 

仕事の割り振りにおいて典型的なNGケースをお伝えしておきます。

 

不要な仕事を割り振る

 
上司は部下がどの仕事にどの程度時間を使うかに対して、コントロールできる立場です。

よって、部下の時間を無駄にさせてはなりません。

あなたは自分の部下に、必要な仕事を効率よく進められる環境を提供できているでしょうか?

上司は自らに問いかけなければなりません。
 

必ずしもやらなくていい仕事、組織に価値をもたらさない仕事を割り振るのはNGです。

そういう仕事は部下の意欲を奪い、かつ成果に全くつながりません。

割り振る前に「その仕事は本当に必要な仕事か?」を問うてください。

 

同じ人にずっと同じ仕事を振り続ける

 
同じ人が同じ仕事をずっと担当していると、当人の熟練度も上がり安定感、安心感がある反面、その人の成長が制限されます。

また、その人が辞めた場合に「誰も業務が分からない」という属人化リスクもあります。

 

スキルの高い人に仕事を過度に集中させる

 
短期的にそうせざるを得ない局面はありますが、常態化を放置するとリスクだらけです。

当人が過度な業務負荷で体調を崩したり離職するリスクが高まります。

また一部の人に頼ることで他のメンバーの育成を怠ると、いつまで経っても組織全体の力が育ちません。

 

 

優秀な人材に単純作業ばかりを割り振る

 
優秀な人材に単純作業ばかりをさせていたら会社にとって大きな機会損失です。

メンバーそれぞれに能力に応じたチャレンジングな業務を割り振りましょう。

優秀な人材に伸びしろのない仕事ばかりさせていると、本人は成長を感じられず、離職リスクも高まります。

 

上司がやりたくない仕事を部下に振る

 
上司がやりたくない仕事を部下に割り振るのは上司の甘えです。

上司がやるべき仕事であれば、それはやりたい/やりたくないに関係なく、上司自ら担わなければなりません。
 

部下は上司の駒ではなく、お互いに役割分担し、お互いに責任を持って業務を進める関係です。

どちらが責任を持つべき仕事か、どちらがやるべき仕事かを根拠に、割り振りを判断する必要があります。

  

仕事の引継ぎ時、新しく採用した人に前任者と同じ仕事を機械的に割り振る

 
採用における”欠員補充”は、仕事の割り振りの観点では要チェック!です。

例えばAさんが退職し、代わりにBさんを採用した際、BさんにAさんが従前やっていたのと全く同じ仕事を割り振りがちです。

Aさんの退職は、Aさんのやっていた仕事の内容、やり方、必要性などを見直すよいチャンスです。
やらなくていい業務をやっていたかもしれないし、Aさん以外の人に担当させた方がよい業務もあったかもしれません。

よって、業務を点検した上でBさんに何を引き継ぐか考えるべきです。
さらにBさんの能力や適性も踏まえ、他のメンバーとの分担も加味し、Bさんに割り振る仕事を決めていきましょう。

 

 

本人が興味・関心のない業務、本人の強みが活きない業務ばかり割り振る

 
自分自身が興味ある仕事、強みが活きる仕事の方が意欲的に取り組むことができるので、できるだけ考慮するのが望ましいです。

もちろん本人がやりたい仕事ばかりを割り振るわけにはいきませんが、業務の一定割合は本人がやりたい仕事、強みある仕事にしましょう。

苦手かつ興味もない仕事ばかりだと結果として成果を出すこともできず、会社も上司も本人もアンハッピーです。

 

本人が嫌がる仕事を割り振らない

 
「私はその仕事をやりたくありません」と言われた時、割り振るのを諦めてしまう上司がいます。

諦めたくなる気持ちはわかりますが、それでも適切な割り振りを行うのが上司の仕事です。
 

やりたくなくても本人の成長に必要な経験であればそれを説得します。

チームとしてどうしてもその人にやってもらう必要がある仕事ならば、その背景も説明し、担当してもらわなければなりません。

 

部下が成長する割り振り方

  

仕事をどのように割り振るかによって、部下の成長度合いが変わります。

部下の成長スピードを上げるために上司が意識すべきことは何でしょうか?

 

役割・目的を明示する

 
仕事を割り振る際は、「その仕事の目的」「期待すること」「期限」を明確に説明しましょう。
 

例えば「営業の週次レポートを作成して」という作業内容だけ伝えると、部下は従来のフォーマットに沿ってレポートを作成を完遂することのみを自分の責任と考えます。
 

そうではなく、「営業の毎週の動きをデータで可視化し、次週の対策を効率よく議論できるようなレポートを提供することがあなたの仕事です」と伝えましょう。

このような伝え方をすると、従来のフォーマットが見づらければその修正も仕事の範囲に入り、レポートの分析精度も高めなければならなくなります。

このように仕事を割り振る際に、その仕事の目的、役割、責任を丁寧に伝えることで部下の取り組み姿勢が変わります。

 

メンバーの特徴を理解する

 
先ほど、仕事の割り振りで考慮すべきは、「業務の内容」×「メンバーの特徴」とお伝えしました。

メンバーの特徴については普段から把握しておかないと、いざ仕事を割り振る際に考慮することができません。
 

各メンバーの知識・スキル、経験、強み・弱み、やりたい仕事、成長に必要なことなどを理解しておきましょう。

これらの情報は漫然と部下と接しているだけでは絶対に分かりません。

部下の仕事ぶりを普段からよく観察し、コミュニケーションを重ね、この部下はどうやったらもっと成長できるだろう?と考え続けることが不可欠です。

 

仕事の割り振り

 

責任区分を明確にする

 
2つの仕事を同レベルの2人に担当させる場合、それぞれの仕事に1人ずつ責任者になってもらうのがおすすめです。

共同担当にして責任者を定めない割り振りをすると、最終的にどちらも責任を感じることなく、お見合いも増えます。

 

例えば、オフィス備品の購入を総務のAさんBさんの2名が担当するとします。

備品購入の仕事には下記の2つがあります。
 

各部署からの購入希望品を集約し、社内承認をとり、業者に取り次ぐという一連の流れをスピーディ―かつ効率的に行う仕事

各部署の備品購入額を取りまとめ、予算比、前年比、費用対効果などの視点から検証しコストを抑制する仕事
 

この場合、Aさんが責任者(Bさんは担当者)、Bさんが責任者(Aさんは担当者)という分担にします。

 

そうすることで、Aさん、Bさんで、何となく共同で分担しながら進めるよりも、明確な責任を持って仕事に取り組むこととなり、良い意味のプレッシャーが2人を育てます。
 

一定期間経過したら、の責任者をAさんBさんで逆転させることで、さらに2人の仕事のカバー範囲が広がる効果が得られます。

 

一部業務ではなく全体プロセスを担当させる

 
育成観点では、業務工程の一部分だけを担当させるのではなく、一連の流れに責任を持たせ視野を拡げた方が、社員が育ちます。

新入社員など知識・スキルが不足している段階では、工程の一部を担当させるしかありませんが、段階的に広い工程を経験させていくと、全体視点が身に着いていきます。
 

よくお客様の社長から 「社員の視座を上げるにはどうしたらいいか?」 という相談を受けます。

社長の視座が高いのは社長ならではの情報が入ってくることと大いに関係があります。
 

部長が担当する部門の情報しか頭になければ、社長の視座にはなれません。

担当者が目の前の業務に没頭しているとしたら、管理職の視座をもって部署全体最適を考えることは難しいでしょう。
 

仕事の割り振りにおいて、メンバーの受け持つ範囲、見る範囲を徐々に広げていけば、成長スピードを一段加速させられます。

 

作業に陥らせない

 
頭を使うことなく「ただ作業するだけの業務」は極限まで減らしましょう。

代わりに、仕事の目的に沿って改善・改良を行う業務の割合を増やしましょう。
 

作業だけに没頭させる業務の割り振りは、部下にとって最大の不幸です。

考える習慣がつかず、改善改良ができず、仕事の力が全然つきません。
 

作業が一定割合生じるのは仕方ないとしても、100%作業で埋めることは絶対に避けましょう。

考えて工夫する仕事の割合を少しでも入れ、段階的にその割合を増やしていきながら、当人の成長を支えてください。

 

 

任せる度合いの調整

 
仕事の割り振りには、上司と部下間の分担設計も含まれます。

「どこまでを部下に任せ、どこから先を上司が引き取るか」という分担です。
 

例えば営業職の場合、新人の段階では提案資料の一部の作成、見積書の作成などを部下に担当させ、商談自体は上司が全て行います。

新人がある程度慣れてくると、商談時の基本的な部分の説明は担当させ、顧客との調整や交渉などは上司が行います。
 

さらに経験値を積んだら、上司は商談に同席して横でサポートする程度。
さらには商談は全て部下に任せ、上司は同席もせず、必要な時にアドバイスする程度に移行していきます。

このように部下に任せる度合いは、上司が着実に設計して進めていくべきものです。
 

上司には、部下の力量、成長度合いをしっかり観察し、相手に応じた度合い調整が求められます。

優秀な部下にはどんどん任せる度合いを高め、そうでない部下はゆっくりではあるものの着実に任せる度合いの比率を上げていく。

そのようなマネジメントが求められます。

 

仕事を1つ増やすなら1つ削減(または効率化)する

 
仕事の割り振りでよくぶつかる壁は、部署全体の業務量がどんどん増え、皆が繁忙感に追われ、仕事を割り振れる部下がいない・・・という状態です。

仕方なく上司が引き取って1人で夜中まで残業するような事態に陥ることがありますが、これは本来の解決策ではありません。
 

上司が心がけるべきは、1つ仕事を増やすなら、1つ仕事を減らすことです。

トータルの業務量には限界があります。足し算だけではいずれ破綻するのは確実です。
 

1つ増やす分、他の業務を精査し、「実は不要な仕事」 「誰も使っていない資料」 「何の効果ももたらしていない会議」などを削減します。

もし現時点で必要な業務であっても、やり方を見直して業務量を徹底効率化することも可能です。

そのような削減の動きと組み合わせながら業務を増やすという意識が上司には必要です。

業務をなくす権限は部下にはありませんから、上司は常に目を光らせておかねばなりません。

 

柔軟な見直し

 
仕事をいったん割り振ると固定化しがちです。

しかし、各メンバーの担当業務が1年後も2年後もほとんど変わらないという状態は望ましくありません。
 

社内外の環境が大きく変化する以上、やるべき業務も移り変わり、各メンバーも成長に応じて担当業務が進化、深化していかねばなりません。

上司は定期的に業務の内容、割り振り、分担が適切な状態にあるかを点検しましょう。
 

今の時代の業務分担は、野球よりサッカーに近いものです。

野球は試合を通じて1人1人のポジションが固定的です。

サッカーは、原則的なポジションは決まっているものの、試合の形勢に応じて役割を変更したり、2人でやっていたタスクを1人が担当したり、逆に3人で守っていたのを5人で守ったり、柔軟に業務が移り変わっていきます。
 

メンバー同士がお互いにコミュニケーションとりながら、都度最適な業務分担を模索していくのがサッカーです。
 

仕事も同じで、メンバーを硬直的な役割分担意識にさせず、柔軟に可変的に業務が変わっていく組織であることもしっかり伝える必要があります。

 

まとめ

 

「仕事の割り振り」とは、チームの成果を出し、同時に部下の成長を促進するための、重要なマネジメント行為です。

日々の忙しさの中では、仕事の割り振りを直感で決めてしまいがちです。
 

しかし、優れた上司は「何をやらせるか」よりも「なぜそれをやらせるか」を考え、意図をもって業務割り振りを行います。

メンバーの特徴と業務の内容を丁寧に掛け合わせ、目的・責任・意図を持って割り振ることで、仕事の質もチームの力も驚くほど変わります。
 

割り振りの巧拙が、組織の未来を左右するとも言えるでしょう。

その責任と可能性を意識して、日々のマネジメントに向きあって下さい。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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