なぜあなたの注意は「 部下に伝わらない 」のか|相手が変わる抜本的な改善ステップ

2025.09.26

部下に伝わらない

先日あるカフェにて、隣の席でその店の店長とスーパーバイザー(店長の指導役)がミーティングをしていました。

店長にはスタッフにパワハラ的な言動をするという問題があるようで、スーパーバイザーがその点を注意していました。

 

スーパーバイザー

「あなたはお店の事をとてもよく分かっており、運営管理も緻密で凄くいいところだけど、スタッフに怒鳴りつけたりパワハラ的な言動をしてしまうことで、結果としてお店のスタッフが安定していないから、それは絶対に直して欲しい」

店長

「わかりました。今後はそういうことがないよう気をつけます」

 

このやり取りの後、スーパーバイザーは満足した表情で帰っていきました。

店長に対して「今後はしっかり気を付けて改善してくれるだろう」と期待していたと思います。
 

ところがその数分後、店長は店頭のスタッフに対して
 

「そのやり方は違うだろ!先週指導したばかりなのに、何でできないの?ちゃんと人の話聞いてんの?」

 
と、かなり強い口調かつ大きな声で叱責していました。

 

この現象が示しているのは「注意しただけでは行動は変わらない」ということです。

 

上司が部下に指示したり注意するだけでは、部下は簡単には行動を変えてくれません。

こういったことは実は多くの職場で起きている現象です。
 

では、どうしたら部下は行動を変えてくれるでしょうか?

今回のブログでは、そのヒントを探っていきましょう。

 

伝えるだけでは人は変わらない

 

あなたもこんな光景を目にしたことがありませんか?
 

決められたことをしっかり守れない社員A君がいたとします。

ある日、A君の上司のB課長が、B課長の上司にあたるC部長から注意されました。

 

C部長「A君の問題は前にも起きたことだぞ。しっかりB課長が指導しなきゃだめだよ」

B課長「はい、わかりました。申し訳ありません。二度と起きないよう、A君に厳しく伝えておきます」

 

このやり取りを経て、B課長はA君に注意しました。
 

さて、それから2週間ほど経ちました。

A君は再び同じ問題を起こしてしまい、上記のやり取りが再び繰り返されることとなりました。

 

なぜ伝えても変わらないのか?

 

中間管理職が上司に対してよく口にする言葉です。
 

「部下にしっかり伝えておきます」

「部下に方針を徹底させます」

「部下に落としておきます」
 

この発言の後、具体的に上司がどのような行動をとっているかというと、ほとんどの場合、部下に対して指導すべきことを口頭で指導、伝達しているだけです。

その上で部下の行動が実際に変わったかというと、伝えた2~3日は変わるかもしれませんが、その後はすぐ元通りになります。
 

なぜでしょうか?
 

その理由は、改善を要望している内容のハードルが高いからです。
 

もし口頭で伝えるだけで簡単に変わることであるならば、恐らく最初からその問題は起きないか、もしくは軽く一言指導しただけでとっくに直っているはずです。

変えるのが簡単ではない事柄、自分自身の習慣や考え方を変えなければならない高いハードルであるからこそ、口頭で伝えただけでは変わらないのです。

 

部下の行動を変えるための向き合い方

 

では「指示や注意を伝えるだけでは変えられない改善ハードルの高いこと」を部下に改善してもらうためにはどうしたらいいでしょうか。

冒頭のカフェの場面を例に考えてみましょう。
 

あなたがスーパーバイザーだったら、店長のパワハラ癖を直すためにどのようにアプローチしますか?

 

原因を探る

まず最初に、起きている問題の原因・背景を把握する必要があります。

店長がそのような行動をとる背景には何らかの原因もあるはずなので、まずはそこを探ってみます。
 

調べてみると、このようなことがわかりました。
 

彼が店長になる前はスタッフ指導も小まめで面倒見のよい先輩と思われていたのに、店長になってしばらくしてからパワハラ傾向が出てきた

同時期に、店舗の売上目標の引き上げと、現場のスタッフの離職が起きていた
 

どうやら、プレッシャーや焦りが店長のパワハラ言動の1つの要因になっていたようです。 

店長の力量や店舗の事情に対して、目標設定に無理があったので、そちらの面から修正を行う必要性が判明しました。

 

抜本的な改善ステップ

 部下に伝わらない

 

原因を探ったことにより、「店長のプレッシャーを減らすこと」が、パワハラをなくす1つの解決案になることはわかりました。
 

とはいえ、それだけで一度習慣になってしまったパワハラ気質が急に直るとは思えません。

そこで、いくつかの作戦を立てて、抜本的な改善を進める必要があります。

作戦として、以下のステップに沿って進めていきます。

 

現状の自己認識を深める

明るい未来を握る

PDCAの組み込み

遊び心&団体戦

罰則


詳しく見ていきましょう。 

 

現状の自己認識を深める

 
店長本人が自己認識できていない場合、パワハラが起きている問題をしっかりと認識させる必要があります。

例えば店舗のスタッフに対して匿名のアンケートを行ったり、スーパーバイザーが自ら各スタッフにヒアリングするなどを通じて、

スタッフたちがパワハラを受けた経験・内容・どう思っているか などの実際の情報を集めます。
 

注意点として、同時に「店長のいい所」もヒアリングしましょう。

いい所も必ずあるはずで、それとセットで問題点を伝えた方が効果的です。
 

集めた情報はスーパーバイザーの口から店長本人にしっかりと示します。

本人はショックを受けるかもしれませんが、まず自分がパワハラを行っているという事実を知ることが改善の第一歩です。

 

明るい未来を握る

 
店長自身が「変わろう」と思わなければ改善は進みません。

まずはパワハラ気質を直すことに店長が納得する必要があります。
 

納得してもらう上では、改善した先の明るい未来を共有しましょう。
 

上司であるスーパーバイザーが、店長のことを本気で思って、一緒に直していこうという寄り添いスタンスも大切です。
 

スーパーバイザー

「パワハラ気質を直せば、スタッフがもっと楽しく働き、店長のことも慕ってくるはず。店長の着実な運営などは素晴らしい長所だから、この欠点を直せば、さらにお店に活気が出て、売上だって上がるはず。スタッフが友人を『一緒に働こうよ!』って誘ってくることもあるはずだよ」

「自分の行動を変えるのは楽じゃないけど、これを乗り越えたらすごい経験になるよ。他の店舗でも同様にパワハラが問題視されている店長がいるけど、そういう人たちにも、あなたが頑張って乗り越えた経験を話して助けてもらいたい」

「私もできることは最大限サポートするか、一緒に直していこう!」

 

このように明るい未来を示して、共に改善に向かっていきましょう。

 

PDCAの組み込み

 
改善目標を立てたら、目標に向かって行動できているかを確認する仕組み=PDCAサイクルに入ります。

改善目標を決めるだけでは、徐々に改善意識が薄れ、やがて元通りになってしまいます。
 

そこで、毎日思い出し、意識してもらう仕掛けが必要です。
 

今回のケースの場合、例えば店長からスーパーバイザーに提出している日報の中に、「パワハラ行動改善」という項目を入れます。
 

日報:パワハラ行動改善

  • その日パワハラ的な言動や行動がなかったかを自分自身で振り返る
  • 改善に取り組む中で何か悩みや困りごとがあれば、その相談も記載する

     

スーパーバイザーが店長と顔を合わせる機会が週に1回だとしても、

この日報を読んで「おやっ?」という気になることがあれば、すぐに駆け付けたり、電話で話すなどでサポートすることができます。

また店長本人も毎日自分の行動を振り返る機会となり、パワハラ行動の抑止力になります。

 

遊び心&団体戦

 
楽ではない事を改善するのは本人にとって負担が大きく、孤独な戦いになりがちです。

そこで、ちょっとした遊び心とチーム全員の協力の仕組みを取り入れます。

例えば、スーパーバイザーから店長&店舗スタッフに対して、このようなゲームを提案してみます。
 

スーパーバイザー

「今後店長はパワハラ的な言動や行動をしないよう心掛け、いい雰囲気のお店づくりに向けて本気で改善していく覚悟ですので、皆さんもぜひ協力してください」

「ここに箱を用意します。皆さん毎日の退勤時に、その日パワハラ的な扱いを受けたと感じたら、赤いカードを入れてください。店長が意識して態度や言動を直そうとしている努力を感じたら青いカードを入れてください」

「1ヶ月経って、赤いカードの方が多かったら、店長が皆さんにお菓子を差し入れします。青いカードが多かったらスーパーバイザーの僕が差し入れします」

 

このような手法を取り入れることで、店長1人だけが直す孤独な戦いではなく、店舗というチーム全体で直す団体戦に変わります

月末に箱を開ける楽しみもあり、ちょっとした遊び心が改善を促進する支えになるはずです。

 

罰則

 
決して罰を与えたいわけではありませんが、行動を変えるための最後の歯止めとして罰則ルールを設けることは有効です。
 

深刻なパワハラであれば、会社の就業規則に則って何らかの処分があるのが通常なので、それにはもちろん従います。

それに加えて「半年経っても今のパワハラ行動が改善されない場合には、店長職から外れる」といった約束事も必要です。
 

会社としてもスーパーバイザーとしても店長本人の改善を心から望んでいるし、支援もしますが、最後は本人が自ら強く改善しようと思わなければ何も変わりません。

他者に依存せず、自ら行動を変えなければならないという責任を本人にしっかり引き受けてもらう

そのために一定の罰則を設けておくこともマネジメントの手綱さばきとして必要です。

 

以上のようなステップで改善プランを設計すれば、単に店長に対して「パワハラを慎むように」と口頭指導するだけより、遥かに大きな改善効果が得られます。

ただの口頭指導はその場の対処療法にすぎません。

抜本的な問題解決のためには、上記のように仕組みを作って、仕組みの力で改善を促進していきましょう。

 

 

 

まとめ

 
変えるハードルが高い問題ほど、単に「気をつけてください」と伝えるだけでは絶対に変わりません。

「ひたすら変わるまで伝え続ける」方法もありですが、時間がかかり効率が悪いです。本人の自主性や納得感も高まりません。

 
変わるために有効なのは、仕組みの力です。
 

今回の店長のケースのように、抜本的な改善ステップを組み込むことで、口頭指導だけでは得られない本質的な行動変容が期待できます。
 

マネジメントとは、指示や指導で相手を強制的に変えさせることではなく、人が変わるための舞台を整えることです。
 

今あなたの目の前にいる部下には、どのように変わってもらいたいですか?

一歩ずつ、真に効果的な改善の仕組みをつくっていきましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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