今の時代、「 多様性 」は活力ある組織を作るために欠かせない重要な要素として語られています。
多様性の真逆である「金太郎飴のように同質的な集団」においては、構成メンバーから似たような意見しか出ず、異論を唱える人もいないので、イノベーションが起きづらくなります。
一方で、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が集まる組織では、対話を通じてさまざまな物の見方、発想、建設的な対立を通じた新たな境地などが開かれることで既存のやり方のブレイクスルーが起きたり、新たなサービスなども生まれやすくなります。
しかし、多様性の意味をはき違えると企業は混沌に陥ってしまう恐れがあります。
せっかく多様な人材が集まっても、
「多様性=何でも自由」
「多様性=個別最適」
といった誤った捉え方が広がると、組織は目的地を見失い、1人1人の発言や行動がバラバラになり、チームとして機能しなくなってしまいます。
多様性の持つ本来の力を発揮させるためには、組織としての方向性や共通理解が欠かせないからです。
今週のブログでは、会社組織における多様性の価値を失うことなく、「共通の物差し」と「多様性」を両立する組織運営についてお伝えします。
目次
多様性にまつわる誤解

民主主義社会における「多様性」は、比較的「自由」に近い意味をもちます。
法律という最低限のルールを守っていれば、1人1人の価値観、考え方、発言、行動などはかなりの範囲で自由が認められており、それが良しとされる社会です。
しかし、そのバランスが崩れると上手く機能しなくなる事も有り得ます。
「多様性=何でもあり」
「多様性=他者への配慮よりも自分の自由が優先」
このように捉える人が増えると、社会は機能しづらくなります。
本来、自由が成り立つ背景には、目に見えないルールや規範を守ること、お互いへの思いやりが存在しています。
学校の道徳の授業で習うようなマインドを皆が備え、近所付き合いや集団活動を通じて一定の規範が習得されていれば、そこから先は自由でも社会は秩序が保たれます。
しかしながら、このベースとなる道徳心や規範が薄れると「何でも自由」はリスクを伴うものになります。
企業における多様性の誤解
さて、企業で考えてみるといかがでしょうか?
企業は何らかの目的のために人が集まり、相互に機能し合いながら、目的に向かって進んでいくチームです。
かつ、ただの集まりではなく、それぞれが給料をもらいながら自分の専門性を活かしてアウトプットを出すプロフェッショナル集団でもあります。
よって組織が力を発揮するためには「チームがいかに機能するか?」を最優先に組織が運営されなければならず、そこには組織のルールや決め事が生まれます。
しかし「ダイバーシティ経営」などの言葉が強調される時代背景では、組織のルールよりも個人の自由意思を優先し過ぎるケースが見られるようになりました。
「多様性」を誤解した例
新型コロナウィルスを契機にリモートワークが普及しました。
ところが、コロナ収束後に会社が出社を要請すると、「一度得た働き方を手放したくない」と出社拒否を主張する声も出始めました。
リモートワークはさまざまなメリットがあるので、今後も企業は上手く活用すべき働き方です。
一方で、仕事の性質によっては対面の方が望ましいこともあるので、会社が目的に応じて出社要請するのは何らおかしなことではありません。
クリエイティブな仕事や企画業務などでは対面での偶発的な会話や相互作用がが成果を高めるとされていますし、社員同士が顔を合わせることには多くのメリットがあります。
会社がこうした事情を踏まえて出社要請をするのであれば、それを受け止め、ただ拒否するのではなく、チームにとって最適なあり方を議論するのが本当の意味の多様性ではないでしょうか。
共通の規範・ルールが必要
多様性を維持しながら、皆が共通のゴールに向かっていく組織に必要なものは何でしょうか?
アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、組織が成立するために必要な3つの条件を「組織の3要素」として提唱しています。
共通目的
ミッション、ビジョンなど会社が目指しているものを社員それぞれが理解し、大切なものと認識していること
貢献意欲
自分の所属する組織、会社に貢献したいという能動的な意欲をもっていること
コミュニケーション
メンバー同士が相互に理解、信頼し合い、フランクで活発なコミュニケーションができていること
組織が成立するにはこの3つの要素が揃い、相互に結合させ続けることが重要だとしています。
上記の3要素を組織に定着させるためには、目的を定めること、皆が主体的に貢献するような企業文化をつくること、お互いのコミュニケーションを大事にすることが欠かせません。
それを具現化するには、多様な人材が集まっただけでは不十分です。
組織の目指すゴールや大切にする価値観、支える規範・ルールという土台が明示され、それを社員皆が共有してこそ、多様な人材による強固なチームができあがります。

経営理念や行動指針は多様性の土台
企業は経営理念とセットで「行動指針」「バリュー」などを定めているケースが多くあります。
これは社員が当該企業において守るべき行動基準や大切にすべき価値観を明確に言語化したもので、企業の個性と方向性が反映されます。
企業文化を作る上でとても大切な背骨にあたるもので、社員の行動を適切な方向へ導く役割があります。
例:チームワークを大事にし、お互いの助け合いを重視する会社
このような会社では、行動基準として「他者への献身的な協力やサポート」を定めるでしょう。
ラグビーやサッカーなど集団競技を見ていると、守備の手薄なエリアがあれば、異なるポジションの人がすぐにサポートにいきます。
会社の業務においても同様に、互いに補完し合う姿勢を求めているからこそ、そのような行動基準を定めます。
しかし、組織の中に「自分のことだけやれば良い。他人が困っていようが自分の職務範囲を超える仕事は絶対にやらない」という人がいたらどうなるでしょうか?

「悪貨は良貨を駆逐する」がごとく、その人の悪い影響が他の人に波及し、組織はギスギスし、やがて皆が協力しない組織になってしまうかもしれません。
しかし、企業とは共通の目的に向けて「チーム全体がいかに最適に機能するか?」を最優先に組織運営していくものです。
個人の自由を何でも認め、企業の理念や価値観に反する言い分に引っ張られるのは逆効果です。
もし個人の自由を際限なく認めていたら、企業組織は成り立たなくなってしまいます。
だからこそ、企業は自信をもって、自分たちの価値観や行動基準を明確にし、揺るぎない姿勢で示すことが重要です。
会社が掲げる行動基準や価値観を好まない人は、採用の段階で避けるべきです。
万一入社後に大きなズレが生じた場合には、双方にとってより良い選択を考え、別の道を探してもらうよう説得することも必要でしょう。
他にもいくつか事例を挙げておきます。
その他の事例
コミュニケーションを重視する会社
社員同士のコミュニケーション頻度や深さを重視する会社でありたいならば、それを行動指針等に明確に定めます。
その場合、オンライン会議で顔出ししない人を放置してはなりません。
お互いが顔を合わせ笑ったりアイコンタクトをとるのは関係性を築くために大事なことだと考えるからです。

顧客接点を大切にする会社
顧客重視の行動を大切にし、その対応の良さが評価されている会社があります。
その会社では業務の性質上、時期によって週末や休暇のタイミングでお客様対応が必要になるケースがあります。
そのため、社員には自発的な出勤と、お互いの協力的な出勤日調整を奨励しています。
採用する場面ではこうした状況をきちんと伝え、顧客重視の姿勢を行動指針として明確に定めておくことが重要です。
もし「自分は週末は出たくない」と拒否する人がいても、特別の事情がない限り許容すべいではありません。
以上の事例で示したように、多様性は「個人の際限なき自由」や「個人のわがままの主張」を優先することではありません。
むしろ、1人1人が会社にとって大切な規範やルールを守るという土台があってこその多様性です。
そのしっかりした土台の上で、多様な人材が安心してそれぞれの視点や価値観にもとづく意見を交わし、チームとして最高のアウトプットにつなげていくのが、企業にとって目指すべき多様性の姿です。
まとめ
多様性のある企業組織とは、1人1人が自分の思い思いに自由に振る舞う組織ではありません。
共通の目的や大切にすべき価値観、行動基準といった土台を大切にした上で、多様な人材がはばたく組織です。
人と同様に会社にも独自の個性や価値観があります。
様々なタイプの人が誰でも順応できるような会社にしようとすると、逆に個性が失われ、誰もが満足できない組織になってしまいます。
会社は何を目指しているのか? 何を大事にしているのか? 何を守るべきか?
このような会社独自の考え方を明確に示し、それを揺るぎなく貫いていきましょう。
その土台がしっかりしていれば、多様な人材が交じり合って、それぞれの力を大いに発揮し、より強固な組織になっていくはずです。
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