逸材
「人有るところに人なく、人なきところに人あり」
これは諸葛孔明が語った三国志の名言の一つです。
この言葉には、「人との縁はどこにあるかわからない」という意味が込められています。
仕事で言うと、優れた人材はどこにいるか?と考えた時に、いかにも人材がいそうな所にはおらず、人材がいなさそうな所にいる・・・というようなことです。
一般的に「優秀な人材」は、華やかな場所やわかりやすい肩書きを持った人の中にいると思われがちです。
例えば、社長の目が届く本社、花形部署、有名企業出身者、高学歴者などです。
しかし、実際にはそうではないことも多くあり、地方支店や海外子会社、地味な部署、学歴では目立たない人の中に隠れていたりします。
中小企業は1人の逸材によって未来が大きく変わります。
その逸材を見つけて伸ばすことが、経営者にとって何より大事な仕事。
優秀な人材を見過ごしたり、能力を発揮できない環境に置いたりすれば、会社の機会損失や人材流出につながります。
よって、経営者は社内の逸材を決して見逃さず、見出し育て活かす道を探さなければなりません。
今週のブログでは、その具体的な方法についてお伝えします。
目次
社内の 逸材 を見逃すリスク
中小企業の社長は常に自社の人材で誰が優秀かを意識していますが、優秀な人材の情報が必ずしも社長に伝わるとは限りません。
そこには人の評価に伴うさまざまなバイアスがかかるからです。
社長は、部長や課長などの管理職から優秀な社員の情報を聞くことが多いですが、それを伝える管理職層自体が時にバイアスの原因となります。
「 逸材 」を見逃す原因となる評価バイアス
よく見られるバイアスとして以下のようなものがあります。
- 自分のポジションを脅かす人材を評価しない
(管理職の自己防衛本能)
- 若い人材に(優秀であっても)大きな仕事をまかせるのは無理と決めつける
(自分の経験や価値観の押しつけ)
- 自分の指示を素直に聞き入れる人を評価し、意見してくる部下を評価しない
(好き嫌いによる判断)
- 性別によって評価がぶれる
(こびりついた価値観に左右される)
- 残業しない人を評価しない
(自分の経験や価値観の押しつけ)
- 数字の結果しか見ずに人を評価する
(その方が上司にとって楽なため)
- 花形部署の人材を高く評価し、業績の悪い部署の人材を押しなべて低く評価する
(表面的に見てしまう)
- 目立たない人材を評価しない
(自分から人物を探そうとしていない)
人それぞれではありますが、実際、上記のようなバイアスを持たずにフラットに人物評価できる人は少数派ではないでしょうか?
結果として社長に「●●さんは優秀です!」と入ってくる情報が信頼に足る情報とは言えません。
管理職だけでなく社長自身の判断基準も上記のようなバイアスがかかっている場合があるので、人の評価は非常に難しいことと言えます。
「 逸材 」とはどんな人?
逸材を見逃さないためには、逸材の特徴を正しく判断する基準が必要です。
下図は「社内で評価されるが実は逸材ではない人材」と、「見逃しがちな逸材」を、多少極端に表現したものです。
逸材と間違いやすい人材 | 見逃しやすい逸材 | |
成果 | 図抜けた成果を出すがやや安定しない | 安定的に成果を出す |
成果を出す環境 | 仕組みの整った環境において、そのルールの上で成果を出す | 物事が整備されておらず混沌とした状況でも打開して成果を出す |
実務能力 | 特定の仕事で大きな成果を出すが、違うことをやらせるとできない | 得意な仕事がありつつ、他の仕事をやらせても一定のクオリティを出す |
熱意 | 熱意を前面に打ち出すが長続きしない | 一見淡々と仕事をしているが秘めた熱意がずっと継続する |
周囲への気遣い | どちらかというと自分中心 | 周囲が仕事をすすめやすいよう配慮する |
上手くいかない時の対処 | 他人のせいにしたり、気持ちがダウンしたりする | 自責思考で、耐えて粘り強くやり抜く |
受容性 | 自分の成功体験に固執しがち。上司以外の意見に耳をかさない | 他人の意見や環境の変化を受け止め、自分が変わろうとする |
対上司 | 基本は服従。おだてるのも上手 | 上司の指示を尊重するが、言うべき意見は言う。おだてるのは上手くない |
対部下 | 自分の指示通りやらせようとする | 部下の素質を開花させようとする |
対同僚 | 好き嫌いが出る。気の合う同僚とは深く付き合う | 誰に対してもフェアに接する |
周囲からの評価 | 上司からの評価は高いが、同僚や部下からはあまり高くない | 全体的に高いが、上司からの評価のみ低い場合がある |
自己評価 | 自己アピールが上手で、自己評価が高い | 冷静に自分のできている事と足りない所を見つめられる |
所属 | 業績好調の花形部署 | 業績の悪い部署や地味な部署 |
コミュニケーション | 相手を説得しようとする | 相手の話を傾聴し、相互の理解を深めながら、最適解を探っていく |
リーダーシップ | 自分の管轄範囲以外のことはあまり関わろうとしない | 役職や職務分掌に関係なく、自ら主体的に会社を良くするための発言、行動をとる |
前職の経歴 | 有名企業 トンがったイメージの企業出身 | あまり聞いたことのない会社 |
働く目的 | ・お金を稼ぐこと ・自分が認められること ・自分が有名になること | ・仕事を通じて感謝されること ・人の役に立つこと ・社会に貢献すること |
いかがでしょうか?
両者の能力・スキル面だけを見ればそれほど大きな差はありませんが、総合的に見たら右側の「見逃しやすい逸材」が圧倒的に会社にとっての逸材と言えます。
逸材 の4つの条件
「優秀だが逸材ではない人」「本当の逸材」
両者の大きな差は下記の4点に集約されると言えるでしょう。
■ 自分にベクトルが向いているか、他者に向いているか
■ 持続力があるか
■ 素直に変化や違いを受け容れられるか
■ 整っていない環境やレールの敷かれていない環境で創造的に粘り強くやれるか
例えば新規事業を責任者として推進していくにあたっては、全く手掛かりのない状況から事業を構築していくことになります。
次々に壁が立ちはだかりますが、それを粘り強く諦めずに乗り越える持続力が欠かせません。
自分の能力だけでは壁は超えられないので、他人の意見を素直に聞き、自分自身を変化させていく柔軟さも必要です。
何よりリーダーとして組織を作っていくには、自分本位の人物では周りからの支持を得ることはできません。
よって「仕事ができる」と言われる人材の中でも、この4点を備えている人こそ真の逸材と言えるでしょう。
私の感覚的には「100人に1人程度」の非常に貴重な存在です。
逸材を見落とさない方法
社員数が100人、200人規模を超えてくると、社長も自社の社員の能力を把握しづらくなります。
通常の業績評価を通じてある程度まで優秀な人材は把握できるものの、逸材を見落とさないためには、社長が現場とダイレクトに接点を持つ必要があります。
具体的には下記のような方法が考えられます。
逸材を見落とさないための具体的な方法
- 社長と社員と直接話をする機会をもつ(現場を回るもよし。ランチ会などもよし)
- 何かの節目の時に職場改善などの提案論文を出させる(文章を書かせると問題意識の深さ、思考の深さがよくわかる)
- 社長自身も、日報や週報などで報告されている内容に目を通す
- 人物眼のある人事担当者などに社員と接点を沢山持たせ、そこから情報を得る
- 360度評価等で、同僚や部下からの評価の高い人に着目する
逸材 には経験を積ませよ!
逸材は放っておいても自ら学び、自ら行動するタイプですが、その才能をさらに開花させるにはより厚みのある経験が必要です。
野球選手が
高校野球 → 大学野球 → プロ野球 → 大リーグ
・・・と、自分の活躍する舞台を移していくように、社内の逸材にも活躍する舞台をより高難度のステージへ導いてあげてこそ、真の経営リーダーに育っていくでしょう。
これ!と思う逸材には
部署異動 → より大きな組織のマネジメント → 社内横断プロジェクトのリーダー → 事業責任者 → 子会社の経営/新規事業立ち上げ
このように意図的に経験を積ませていくのが望ましいです。
逆に逸材に研修などは用意しなくても大丈夫でしょう。
逸材は自ら仕事を通じて学び、経験知を蓄積し、自分よりも優れた人材から素直に吸収していくからです。
逸材を社内で登用すると、周囲の嫉妬があるかもしれませんが、100人に1人の逸材の登用に遠慮する必要などありません。
社長が盾となって、逸材の成長を後方支援してください。
それが会社の未来につながるからです。
まとめ
中小企業では社内の逸材をいかに見出し、伸ばしていくかによって会社の将来が大きく変わります。
しかしながら、社内で優秀な人材が適切に評価され、その情報が社長の耳に入るとは限りません。
様々なバイアスによって、本来評価されるべきでない人が出世するのはよくある話です。
このような問題を解決するためには、自社にとっての逸材とはどういう人物かを見きわめ、逸材の情報が社長の耳に入ってくる仕組みを整えていくことが必要です。
そして見つけた逸材に次々チャンスと試練を与え、次世代幹部として育てていきましょう。
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