中小企業が発展していく過程では、経営者視点をもつ人材やマネジメントに長けた人材がいくらでも必要になります。
内部育成は勿論ですが、外から経験者を採用して、会社をさらに一段進化させる判断も必要です。
そこで1つの選択肢に上がってくるのが、大企業出身者のベテラン採用です。
「いやいや、大企業出身者のようなベテランは中小企業では使えないよ・・・」とあなたは思うかもしれませんが、大企業出身者も人それぞれです。
採用の仕方、活用の仕方次第ではないでしょうか。
大企業出身者 が中小企業で成功しづらい5つのギャップ
たしかに「大企業出身者が中小企業に転職して失敗した」という事例はありますし、私もそういう方をたくさん目にしてきました。
ではなぜ大企業出身者は中小企業に適合するのが難しいのでしょうか?
それは仕事環境における5つのギャップが作用しているからです。
専門性のキャリア vs ゼネラルキャリア
大企業の総合職は複数部署をローテーションしながらキャリアを積み上げていきます。
したがって全社的視野が磨かれる反面、役職者になるほど専門性に欠けます。
中小企業はあまり人事ローテーションがありません。ずっと同じ職種の人が大半です。
役員であっても何らかの専門領域を持ち、プレイヤーとしての仕事も担っている人が多いです。
業務範囲の違い
中小企業は階層が少ないので多能工にならざるを得ません。
幹部社員は高度な意思決定をする一方で、事務作業、時にはお客様へのお茶出し、忘年会の企画まで実に広い仕事をやっています。
大企業は役職に応じて仕事のレベルが分担されているので、幹部は手を動かす仕事をあまりやりません。
意思決定の場数の違い
中小企業は20代の社員でも支店長などの役割を担うことがあります。
支店長である以上、オフィスをどこにする?、事務機器は何を揃える?、採用はどのように?、営業戦略はどうする? などを日常的に考え、意思決定していきます。
小さいことではあっても沢山の意思決定を経験するので、意思決定の場数を踏んでいきます。
私は30歳の時に初めてベンチャー企業で働き始めました。
経験値も少ない若造でしたが、経営企画室長として上場準備プロジェクト、全社のERPシステム導入、資金調達、大手企業との提携スキーム作りなどを任せて頂きました。
最終意思決定者はもちろん社長でしたが、その手前で意思決定する難しさと怖さを体感したものです。
一方で大企業の意思決定は、最終意思決定権者に至るまでに幾つか階層があり、関係者間で合意をとりながら承認をもらっていくシステムなので、自ら重要な意思決定をする経験をあまり積めません。
スピードとアバウトさの違い
中小企業の意思決定は、スピーディーで少々アバウトです。
現場の責任者が社長に決裁をもらえればそれで前に進むので、非常にスピードが早いです。
立派な説明資料なども滅多に作りません。
簡単な資料と口頭説明で、曖昧な余地があってもどんどん進んでいきます。
一方、大企業はゆったり精緻です。
決定するまでのステップが非常に長く、少しでもリスクを避けるべく意思決定の精度を高めていきます。
結果としてビジネス自体のスピードが遅くなりがちです。
人種のるつぼ vs 同質的文化
中小企業は人種のるつぼです。
上司部下の年齢逆転も当たり前、学歴や採用ルートなどのバックグラウンドも全然違います。
大企業よりも女性活躍が進んでいることも多いです。
大企業の同質的な文化とはかなりギャップがあり、マネジメントのやり方も異なってきます。
中小企業が 大企業出身者 の採用を成功させる3つのポイント
この5つのギャップによる環境の違いがあるので、大企業出身者が大企業時代の感覚のまま転職し、普通に従前の感覚で仕事を開始したら、それはもう高い確率で失敗します。
ところが残念なことに、そういうケースは本当にたくさんあります。
企業にとっても採用された本人にとっても非常にもったいないことです。
このミスマッチをいかに減らすか? という観点で、採用成功させる3つのポイントをお伝えします。
ポイント1: すぐに同化させようとしない
採用した大企業出身者をすぐに中小企業の文化に同化させようとしても無理があります。
慣れない行動や発言があったとしても、最初から否定するのは良くないですね。
何らかの領域で貢献してもらいながら、徐々に新しい環境に慣れていってもらうしかありません。
受け入れる社長や社員達がその人の経験をレスペクトする姿勢も欠かせません。
ただし、先の5つのギャップがある事はあらかじめしっかりと伝え、本人に認識してもらいます。
そのギャップに対してどのように対処していくか、本人も受け入れる側の社長も考えておく必要があります。
ポイント2: 大企業出身者が力を発揮しやすい仕事につける
大企業出身者の強みを活かした仕事をまかせましょう。
専門性の高い人材の場合
- 専門性(生産管理、品質管理、経理・財務、マーケティング、海外戦略など)を徹底的に発揮してもらいましょう。
- ただし中小企業の社員達が分かる言葉で、決して威張らず、丁寧に指導してもらいましょう。
専門性が高くない人材の場合
- 中小企業に一番足りない人材は、各部署にまたがる全社的な問題や誰も経験したことのないタスクを推進できる人です。組織の上下左右を見ながら機動的に動ける人です。それを大企業出身者に任せてみましょう。
- 例えば、全社の残業削減プロジェクトの推進、労務管理の改善、全社の経費削減プロジェクト、各事業のリスク検証とその対策、仕入れ外注先の取引関係見直し、会議体の整備、創立30周年イベントの企画など。
- いずれも会社全体を広く見る視野、公平で偏らない姿勢が求められます。大企業には高い見識とプライドを持っている方が多く、調整力もすぐれているので、向いています。
- 何でも屋の仕事なので、ポジション的には総務部長、管理部長、社長室長などに位置づけ、柔軟に動けるポジションが良さそうです。
ポイント3: 採用で 大企業出身者 の適性をしっかり見極める
ポイント2のように能力を発揮してもらうためには、採用時の見きわめが何より大切です。
大企業出身者にも色々な方がいるので、中小企業に適合しやすいタイプか否かは相当な差があります。
それを考える上で、3人の事例をご紹介します。
大企業出身者のベテランで中小企業へ転職し、非常に上手く適合された方々です。
事例1 Kさん
大手銀行から上場ベンチャー企業の管理部長に転職。主に財務経理責任者。
勢いに乗った企業風土において、その勢いを理解しつつ、絞めるところは厳しいスタンスで臨み、社長に信頼されている。
社員からも頼りがいのある存在となり、部下がどんどん育っている。
事例2 Tさん
大手商社から不動産業界の総務部長に転職。
腰の低い人柄、国内外含めて様々なプロジェクトを手掛けてきた経験を活かして、全社的なプロジェクトを何でも任されている。
広い視野、知識、経験、厳しさで番頭さん的な立場になっている。
事例3 Hさん
大手製造業からサービス業に転職。
全く異なる業界への転職だが、ずば抜けた洞察力、分析力、情報収集力を活かして事業戦略を担当。
社長と共に会社の将来を考える存在として信頼されている。
誰からも学ぼうとする姿勢、驕らない人柄も評判。
まとめ
事例の3人の事例も踏まえつつ、採用においてはこのような観点で見極めましょう。
- 何らかの領域における専門性、スキルの有無
- 仕事への真摯なスタンス、当事者意識
- 誰とでもフランクにフラットにコミュニケーションできる人柄
- 考える力、向学心、好奇心
- 手が動く実務能力
- 経営者的な広い視野、経験
- 自社の社員が誰も持ち合わせていないような豊富な経験
- 部下育成の経験
全てを満たすのは難しいですが、上記のうち2つ備えているだけでも会社に貢献できる可能性は十分あり、3つ備えていれば中小企業で十分活躍できるのではないでしょうか。
どのようなキャリアを歩んだ人であれ、所属する組織にただ同化した人ではなく、自分なりの考えを持ち、多少の軋轢がありながらも道を切り開こうと頑張ってきた人は、中小企業でも多いに活躍すると思います。
どちらかと言うと、保守本流の人より傍流の人、子会社をさすらった人、冷や飯を食った人がいいですね。
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