視座を高める
社員の育成において、多くの会社で「社員の視座を高めたい」というニーズがあります。
育成対象が管理職や経営幹部であれば「経営者の視座をもってほしい」
担当者であれば「部署横断的な視座をもってほしい」「もっと高い志で仕事をしてほしい」
このような意味合いが含まれています。
一方で、社員の視座はどうやったら高められるでしょうか?
これはなかなか難しいテーマでもあり、一筋縄ではいきません。
今週のブログでは、「視座が高いとはどのようなことか?」「いかにして社員の視座を高めるか?」という深遠なテーマを掘り下げていきましょう。
目次
「視座が高い」とは?

視座という言葉は日常あまり使う言葉ではないので、その意味を押さえておきます。
辞書で調べると視座=「物事を見る姿勢や立場」とあります。
具体的にイメージしてもらうために、視座の高い人とはどのような人か、ビジネスの場面を想定した例をいくつかご紹介します。
視座が高い人【ケース1】
営業部の担当者は、顧客の細かいニーズにできるだけ応えたいと考えています。
一方で、製品をデザインする設計部署としては効率性の観点からある程度パターン化された型に収めたいと考えています。
双方の考えが真逆なので、会議等の場で営業部と設計部は対立してばかりです。
しかし、双方の部署を管掌する事業部長は次のように考えます。
「重要大口顧客に対してはある程度細かいニーズにも対応すべきだ。一方で、取引額の小さい企業に対してはパターン化された商品を提供できる方法を、双方の部署で協力して進めてほしい」
視座が高い人【ケース2】
ある漁場では、乱獲が問題になっています。複数の漁師が、獲れる限り獲りまくり、目先の利益を追求しています。
しかしそのような乱獲を続けていたら、いずれ魚がいなくなり、漁業自体が成り立たなくなる恐れがあります。
それをよく理解している漁業組合長は、漁業自体の未来のリスクや持続性を考え、すぐに乱獲をやめ、漁獲量をコントロールするよう働きかけました。

ケース1・2に見る視座の高さ
ケース1における事業部長の視座の高さとは、双方の部署の着地点を考えられる立場の「高さ」でもあり、見る範囲の「広がり」でもあります。
ケース2の漁業組合長は、目先の利益ではなく、長期的な利益や存続を踏まえた「長期時間軸」で物事を見られる視座の高さを持っています。
もう2つ事例を見てみましょう。
視座が高い人【ケース3】
ある会社では、営業担当者に高額のインセンティブをつけた結果、顧客に必要以上に高い商品を売り込む営業スタイルが当たり前になっていました。
目先の売上はそれで上がりますが、営業担当者の意識は次第に
顧客満足 < 自分の収入
に傾いていきます。
このままではいずれ顧客から信頼を失い、社会からも批判されかねません。
会社の信頼失墜を恐れた営業部長は、インセンティブ方式の変更を社長に提言し、顧客の信頼を第一とする営業スタイルに転換させました。
視座が高い人【ケース4】
今期は全社の営業利益率を高めることが目標となっており、各部署でそのためのコスト削減活動を行っていました。
カスタマーサポートの部署においても、従来よりも人員を減らし、その分チャットボットによる問い合わせ対応やFAQの充実を図りました。
ところが、この会社がお客様から評価されていたのは、他社よりも圧倒的に充実したカスタマーサポート体制にありました。
その強みのど真ん中の業務を人員削減してしまい、顧客の問い合わせに寄り添ったサポートを受けられなくなったことから、サービスの解約が増えてしまいました。
これを知った経営者は、すぐさまカスタマーサポート業務におけるコスト削減を中止するよう指示しました。
ケース3・4に見る視座の高さ
ケース3の視座の高さとは、企業は単に利益を上げればよいのではなく社会の役に立ってこそ認められる「社会性」の視点を持ち合わせている点です。
単に利益を上げる事業に満足せず、お客様から信頼され尊敬される会社にしたいという営業部長の「志」の高さでもあります。
ケース4の視座の高さとは、自分達の会社が存続するために最も大事な提供価値は何か?という「センターピン」を外さない「経営者視点」にあります。見る「高さ」でもあります。
全社でコスト削減を進めているからといって、何でもかんでも削減すればいいというのは部分最適の発想です。
会社にとって削減してよいコストとそうでないコストを俯瞰的に考えられるのは「全体最適」の見方と言えます。
視座の高い人が持ち合わせている観点
さて、以上4つのケースを通じて、視座の高い人が持ち合わせている観点が見えてきました。
「高さ」
「広がり」
「長期時間軸」
「社会性」
「志」
「経営者視点」
「全体最適」
これらの観点から物事を見て考えられる人は「視座が高い」と言えるでしょう。
社員の視座を高めるには、このような観点をいかにして身に着けられるかがポイントになります。
社員の 視座を高める には?

視座は急に高められるものではありませんが、日々の仕事の取り組み方次第で、1年後、3年後、5年後の視座の高さは大きく変わります。
視座の高い社員を増やすために、今のうちから積み重ねていける方法は、主に下記の4つのアプローチではないかと私は考えています。
視座の高い経営理念
難易度の高い仕事
問いかけ
インプット/外部刺激
詳しく見ていきましょう。
視座の高い経営理念
ジョンソンエンドジョンソン社の経営理念「我が信条」はとても有名です。
自社が果たすべき4つの責任について非常に深くて具体的な内容が書かれており、単なる営利企業を超えた高い規範を自分たちに課しています。
例えば、その3つ目にはこのような内容が記されています。
我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。世界中のより多くの場所で、ヘルスケアを身近で充実したものにし、人々がより健康でいられるよう支援しなければならない。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、健康の増進、教育の改善に寄与し、適切な租税を負担しなければならない。我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない。
そんなジョンソンエンドジョンソン社も、かつては経営理念が「お飾り」で誰も意識しないものでした。
ところが、1980年代に、有害物質の含まれる薬を販売して多くの死者を出す事件を起こします。その教訓から理念を作り替え、理念に沿って経営する会社へと変わってきた歴史があります。
経営理念で目指すゴールが高く、それを本気で目指す経営を行えば、社員の視座は自ずと高まります。
日頃からその理念を意識し、理念実現に向けて会社をどうしていくかを経営陣が真剣に議論しているならば、社員の視座もそれに引っ張られて高まっていくことでしょう。
難易度の高い仕事
できるだけ難易度の高い仕事を社員に担わせることで視座は高まります。
例えば先ほどの営業部と設計部の対立の例がありましたが、彼らに対して「お客様の細かなニーズに応えつつ、設計のパターン化、効率化を図る方法を考えなさい」というお題を出すのです。
難しい課題というのは、相矛盾する2つの事を同時に成立させようとするものです。
「品質を追求してコストは度外視」と言えば、社員は品質のことだけ考えればよくなります。
一方で「品質とコストを両立させる」と言えば、相矛盾する両者をいかにしてい成り立たせるかを必死に考えます。
必死に考える過程で、部分最適の思考ではなく全体最適思考が養われます。
同時に、物事を広く捉える視点も養われます。
過去に毎年10%成長だった事業を、3年後に2倍の規模にするよう考えてください、というお題も有効です。
過去と変わらず10%成長であれば、営業部の営業努力で何とかなるかもしれませんが、2倍にしようと思ったら、商品の在り方、ビジネスモデルなどを根本的に見直す必要があり、考えなければならない範囲が劇的に広がります。
結果として、経営者の立場で考えざるを得なくなります。
全社的なプロジェクトの責任者を担う、新規事業を立ち上げる、子会社の経営を担う、なども視座を高める素晴らしい機会になるでしょう。

問いかけ
視座を高めてもらいたい社員に対して、日々のやり取りにおいてどのような問いかけをするかも、ボディブローのように効いてきます。
結果に対して目先の対策を話し合っているだけでは、視座は高まっていきません。
先ほどお伝えした、「視座の高い人が持ち合わせている観点」それぞれにおいて、次のような問いをぜひ投げかけてみてください。
※育成対象として課長クラスを想定した場合
高さ
あなたが部長の立場ならどのように考えますか?
社長の立場ならこの問題をどのように判断しますか?
広がり
関わっている〇〇部の人から見たらどう思われますか?
この見直しによって他部署にどのような影響をもたらすと思いますか?
長期時間軸
その施策は長期的にはどのような効果をもたらすと思いますか?
社会性
お客様は本当にそれを望んでいますか?
会社の常識は社会の非常識などを言いますが、社会からみてどのように見えると思いますか?
志
これで満足せずもっと高みを目指すとしたらあなたは何をやりたいですか?
当社はこの水準で満足してしまっていいのでしょうか?
経営者視点
あなたが経営者だったらどうしますか?
相談する人は誰もおらず、自分1人で最終決断するとしたらどう判断しますか?
全体最適
自部署のことだけでなく〇〇部と□□部も含めて全体最適の方法を考えてください
普段からこのような問いかけをされ、自分なりに考え抜いて仕事をしていたら、確実に視座は高まっていくはずです。
インプット/外部刺激
直接の仕事以外からでも視座を高めることは可能です。
自分では経験していないことであっても、他者の経験や事例を学習すれば、視座を高める気づきやきっかけになります。
視座の高い人、様々な経験をしている人など、外の人と会って話す
優れた経営者から学ぶ
さまざまなビジネスの成功事例や失敗事例を学ぶ
自分の業界以外のことを知る
世界の政治・経済・社会・技術の動向を知る
歴史、科学、哲学、文学、美術などさまざまなジャンルに興味をもつ
このような知的刺激や人との交流がある人とない人では雲泥の差がつきます。
インプット/外部刺激によって、知の広がり、引き出しの多さ、思考の深さ、観察眼の鋭さが養われ、それらは視座を高める上での大きな財産となるでしょう。
まとめ
社員の視座を高めたいというニーズは多くの会社にありますが、なかなか一筋縄ではいかないテーマです。
視座とは物事を見る姿勢や立場であり、視座の高い人は、日頃からその高さや広がりはもちろん、「長期の時間軸、社会性、志、経営者視点、全体最適」といった観点から物事を捉えています。
社員ひとりひとりの視座を高めるためには、こうした観点を日々の仕事の中で少しずつ身につけていくことが必要です。
そのための方法として、今回紹介した4つのアプローチ「視座の高い経営理念」「難易度の高い仕事」「問いかけ」「インプット/外部刺激」をぜひ実行してみてください。
急激に変わるものではありませんが、このような日々の積み重ねによって、確実に高い視座が形づくられていくでしょう。
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