大手から中小 への転職でも有効なもの
リスキリングが国をあげてのテーマになっています。
その背景には、「生涯1社を勤め上げる」が現実的でなくなったこと、それに応じた人材の流動性の高まり、AI導入等による仕事の変化、人口減少による社会全体適材における適所の促進などがあります。
会社としても、一個人としても、スキルをどのように獲得し、そのスキルを仕事でどのように活用していくか、現在と未来を常に考え続ける時代となりました。
リスキリングの議論では「Re-skill」というだけあってスキル学習が着目されますが、スキル偏重にならないよう意識する必要があります。
スキルを学び直すと同時に、「価値観」も学び直すことが欠かせません。
今週のブログでは、リスキリングにおける価値観の重要性についてお伝えします。
目次
社会人の学びとは?
社会人の学びには、「仕事に直接役立つ学び」と「一見仕事にはつながらないが実は役立つ学び」の2種類があります。
前者は「経理の人が簿記を勉強する」とか、「倉庫作業の仕事をする人がフォークリフトの資格を勉強する」、「営業の人がマーケティングを学ぶ」などです。
後者は哲学の本を読むとか、ナポレオンやチャーチルの人生に学ぶといったものです。映画を見たり、小説を読んだり、趣味に没頭するのも実は仕事に役立ったりします。
リスキリングは2種類ある
リスキリングは「仕事に直接役立つ学び」をすることを中心に議論されますが、これはさらに2つの学習に分類できます。
①スキルの学習 と ②価値観(考え方)の学習 です。
例えば55歳で役職定年になる人が次の仕事の準備をする際
①スキルの学習として、会計を学ぶ人もいれば、プログラミングを勉強する人、データサイエンスを学ぶ人、特定分野の研究を究める人、色々な方がいると思います。
その時にセットになるのが②価値観の学習です。
価値観の学習とは
「スキルの学習で得たことを発揮するために必須となる考え方」とも言い換えられます。
例えばIT関連の仕事をするのであれば
- その業界特有の仕事の仕方
- 業界人との接し方
- スピード感
- 若い人とのコミュニケーションのあり方 など
学問の世界を目指すのであれば
- 利潤追求の企業社会と教育界の違い
- 学生との接し方
- 人前で話す仕事の心得
- 職場での関係の作り方 など
これらを学ばずにスキルの学習だけに偏重すると、せっかくテクニカルなスキルはつけたとしても新しい環境に適応できず、学んだ力が十分に発揮されません。
価値観学習の第一歩は目的と目標
長年同じ会社で働いてきた人は、自分のキャリアデザインを苦手とする人が多いです。
会社の異動命令に従って色んな仕事を経験してきたため、自分自身で次に何をするか考えて決断してきたことがないからです。
さて、そんな人がリスキリングをしたとき、どんなことが起こるでしょうか。
リスキリングで何かを学ぶ際、キャリアにおける次の目的、目標があるならば、自ずと何を学ぶべきかが見えてきます。
しかし次にやりたい事、目指す仕事がなければ何を学んだらよいか分からず、結果としてお勉強のための勉強になり、それはもはやリスキリングではなくなってしまいます。
例えば、起業家は勉強して準備を整えた上で起業するわけではありません。
〇〇の事業をやりたい、世の中に貢献したい、お金持ちになりたい、有名になりたい、といった目標が先にあって起業し、事業を大きくする過程で色んなことを学んでいきます。
順番はそれと同じです。
「自分自身が何をやりたいか」「何を自分の目標として次のキャリアを歩むか」
これを徹底的に考え深めること。
自分の明確な意志を持つことが価値観学習の第一歩です。
「価値観の学習」具体例 大手から中小 への転職
なぜ「価値観の学習」が大事なのか。
身近な例として大手企業→中小企業へ転身する人材に起きる問題で説明します。
大手から中小 への転職が失敗しがちな理由
50~60代の大手企業出身者が中小企業に転身するケースが多くあります。
彼らは大手企業で培った技術、人脈、経験、マネジメント能力などを期待されて中小企業に迎え入れられます。
本人も大手企業の経験が中小企業に十分生かせるだろうと思って転職しますが、いざ入社すると様々なギャップに直面し、挫折する人が後を絶ちません。
なぜでしょうか?
本人の能力に起因する場合もありますが、能力よりも中小企業のカルチャーにフィットできない、中小企業特有の仕事の進め方に合わないといったケースが圧倒的に多いのです。
つまり、大手企業時代の価値観(考え方)を引きずったまま中小企業に飛びこんでしまったため、適応不良を起こしたということです。
価値観(考え方)の学習
このような失敗をしないためにも、中小企業に入社する前に下記のような価値観をリセットする学習、つまり「価値観のリスキリング」が有効です。
何も学ばずに中小企業に飛び込むより、事前に実態を理解し、従来の価値観を見直してから入社すれば、成功確率が高まります。
転職、職種転換、業界移行など、A→Bへ環境が変わる場合の「価値観のリスキリング」とはどのようなものか?を考える際の参考にしてみてください。
大手企業と中小企業の違いを知る
中小企業には以下のような特徴があります。それが良いか悪いかは別にして、現実を理解して受け入れることが第一歩です。
1 人材の違い
優秀な人が少ない、中途採用者が多い、離職率が高い、女性割合が高い、女性管理職が多い、など
2 マネジメントスタイルの違い
社長がYesといえば決まる、仕事が属人的、組織や権限が曖昧、中間管理職が脆弱、朝令暮改が頻繁、など
3 人事管理の違い
人事ローテーションなどなくほぼ全員が専門職に近い、評価は社長が全部決めている、やっている仕事の割に報酬が低い、研修など基本的に存在しない、など
4 ワークスタイル、文化の違い
社長と社員が近い、役職者もプレイヤー、精緻さよりスピード、資料をあまり作らない、評論家が嫌われ実行者が評価される、根回しや社内調整はあまりいらない、年長者をさほど重んじない、など
大手企業出身者が陥りやすい罠を知る
1 部下の管理が仕事と勘違いする
管理職もプレイヤー。部下に指示しても思った通りのアウトプットは出てこないので自ら頭も手も動かす必要
2 社長を恐れる
社長と社員の距離が近いので、気軽に相談にいってよい。恐れて接点が減ると、信頼が得られない
3 スピードについていけない
多少粗くてもスピード重視に慣れる必要
4 評論家になってしまう
中小企業はできていない事だらけ。あれがダメ、これがダメと評論しても意味がなく、どんどん解決していくことを望まれている
5 やったことのない仕事を恐れる
多能工的働き方を求められるので、「●●はできません、やったことありません」と言わず、どんどんトライしていく必要
6 コミュニケーションが遠回し
隣の部署に話をするのにわざわざ上司経由で伝えるようなまどろっこしいコミュニケーションは不要。縦横斜め、どんどんダイレクトな人間関係を築いていく必要
7 部下マネジメントが甘い
言えばやってくれるだろうというマネジメントでは前に進まない。指示をしっかりやっているか、指示したアウトプットが出てくるか、常に目を光らせていないと結果につながらないのが中小企業
8 経営者視点になれない
大企業の部長は中間管理職の要素が色濃いが、中小企業の部長は社長直の経営側の立場。社員視点ではなく経営者視点を学ぶ必要がある
9 偉そうにする
大企業の時の癖で、中小企業をどこか自分達より下と思っていると、それが態度に出てしまう。中小企業にいったら完全にそこの一員として謙虚に社員と接するのが原則
10 「出羽守(でわのかみ)」になる
出身企業の「〇〇会社ではこうしていた」「〇〇会社のやり方はこうだ」という発言ばかりだと周囲に愛想をつかされる。前職の経験は是非とも活かすべきだが、前職のやり方は1つの事例でしかなく、それが中小企業に当てはまるかは別問題
11 行動しないで情報収集
行動に移す前にとにかく情報を沢山あつめて何でも知りたいという人がいるが、中小企業ではそもそも情報が十分に整っていない。7合目くらいの理解で行動に移しながら、考えるスタイルに慣れる必要
活躍するための心がけ
■ 周囲の話をよく聞き、自分の意見や前職での経験を無理に押し通そうとしない(いずれ自分色をもっと出す時が来るが、焦らない)
■ 物事をポジティブに捉える。できていない事に目くじらを立てない。できている強みに着目する
■ 曖昧なことを明確にすることにエネルギーを注ぎ過ぎない。曖昧なままで流すことも時には必要
■ 上から目線でみたり、馬鹿にしたりしない
■ 社内政治には絶対に与しない。シンプルで率直なコミュニケーションを心がける
■ 評論家ではなく解決実行者になる。口だけでなく手足を動かす
■ すべての基礎は「笑顔」と「気持ちのよい挨拶」
■ 上司と小まめにコミュニケーションをとる(早期の信頼関係構築。期待値ギャップを生じさせない。新鮮な気づきを小まめに伝える)
■ 特に社長を恐れることなく、気軽になるべく多くコミュニケーションをとる
■ 難しい言葉やカタカナ言葉を多用せず、誰にでもわかる言葉で伝える
■ 小さな事でもよいので、皆が困っていること、誰も手をつけていなかった問題等に取り組み、周囲が助かる仕事をする → 周囲から早く認めてもらいやすい
■ 入社時に聞いていた仕事内容と異なる業務であっても、積極的に引き受ける
■ スピード重視で、即レス・即対応を心がける
■ 部下がいなくても自分1人でやり遂げるくらいの覚悟をもつ
■ IT知識、業務知識など、必要な知識があれば何歳になっても自ら積極的に学ぶ
まとめ
大手企業→中小企業へ転身する人向けの「価値観リスキリング」の事例を説明をしましたが、下記のようにパターンによって、リスキリングで学ぶべき内容もそれぞれです。
A. 日本での仕事 → B. 海外移住
A. 会社員 → B. 学校の先生
A. 会社員 → B. 地域ボランティア
A. 都心の企業 → B. 地域の企業 など
これ以外にもたくさんのパターンがあるでしょう。
転身する領域に応じて新たに技術や知識を習得する必要がありますが、それに加えて、従来の自分の価値観(考え方)を新しい環境に向けて見直すべき部分があります。
自分の良いところ、強みはもちろん持続しますが、考え方を変えないと転身先の環境に適応できないこともあるので、価値観(考え方)を改めて学び直すことが大切です。
自己成長を促進し、成功への道を切り拓くために、今の年齢にかかわらず、従前の自分に捉われることなく、柔軟な姿勢で変化に適応し続けていきましょう。
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