人事部長の採用問題(前編)では、「完璧な【 人事部長 】は稀有な存在であり、採用したくてもそもそも出会うこと自体が非常に難しい」という話を、その背景や原因も含めてお伝えしました。
この10年の間に、人事責任者に期待される役割が加速度的に増大したため、今の変化の時代に適応できる経験と能力を兼ね備えた人材はマーケットでも稀少です。
今週のブログでは、人事部長をなかなか採用できず困っている会社が、この問題を現実的にどのようにクリアしていけばよいか?についてお伝えします。
目次
完璧な「 人事部長 」を探し続けるのは時間の浪費
時々、数年単位で自社にふさわしい人事部長を探し続けている会社があります。
大事なポジションなので安易に採用しないスタンスはいいと思います。
採用できない間は社長や管理部長が補っているので、短期的な問題は出ていません。
しかし、人事として本来やるべき事が進んでいるかというと決してそうではなく、解決すべき課題が年単位で放置されていたりします。
そのような状況で「完璧な人事部長」とのご縁を待ち続けるくらいなら、代替策によって課題を前に進めた方がいいでしょう。
人事部長 に頼らずとも会社の人事業務を円滑に進める3つの方法
前編でお話ししたように、人事部長(人事責任者)に期待される役割は膨大です。
パーフェクトな人材が不在の現状では、1人の人事部長に人事の全てを担ってもらうのは大変なので、人事部長の手腕だけに依存しない方法で対応していきましょう。
会社が行うべき人事業務を円滑に進めるために、具体的に考えられる方法が3つあります。
人事機能を分散する
まずは、人事の仕事をざっくり分けて考えてみましょう。
以下のように、人事が担うべき領域は多岐にわたります。
① 戦略/企画
人材ポートフォリオ、組織設計、人件費管理、(経営理念と連動した)人事ポリシー、人事制度(評価・等級・給与)の設計、働く環境設計など
② 採用
新卒・中途・アルバイトなどの採用計画から採用活動実施、入社後フォローなど
③ 配置・評価
配属決定、人材の発掘、異動。人事評価、昇給昇格の運用など
④ 教育
パフォーマンス向上に向けて育成計画、トレーニング実施など
⑤ 労務
就業規則、労働契約、社員の各種手続き、勤怠や残業の管理、給与計算、健康管理 など
①は頭脳や構想力、経営センスが求められる仕事です。
②~④は人の採用から教育まで、1人1人が活躍できる環境を作る仕事。人事に最も期待される領域です。
⑤は社員が安定的に働く仕組み作り、どちらかというと守りの実務家型の仕事です。
それぞれ求められる能力適性が異なるため全てをカバーできる人はなかなかいません。そこで、人事部長が責任をもつ領域を限定してみます。
①戦略/企画
これは例えば社長自らが進められます。
経営企画部門を設置している会社であれば、社長と経営企画で相談しながら進めることも可能です。
②採用 / ③配置・評価 / ④教育
基本的には人事が担うものの、一部の業務は他部署で担う方が効率的です。
例えば営業担当者の育成などは営業の業績に直結する内容なので営業部門が進めた方が責任が明確です。
アルバイトの採用などは、必要な各現場に委ねてもいいと思います。
各部署で個別に行った方がよいことは各部署に振り分けます。
⑤労務
通常であれば人事の仕事ですが、総務部が担っている会社もあります。
②~④の仕事とは使う脳みそが違うので、別の部署で対応することも検討してみましょう。
このように人事機能を分散させることで、人事部門の役割を限定できます。
限定すれば自ずと人事部長の責任範囲も狭まるので、②~④の最重要領域で徹底的に成果を出せる組織を人事部長に作ってもらうのです。
人事部長の下に優秀な外注先をおく
先ほどの人事の役割のうち、①戦略、②採用業務、④教育などはその領域にプロがいるので、外部の顧問、コンサルタント、副業者などを上手く活用します。
例えば社員教育の企画から実施まで精通した外部の人材を、人事部長の下に教育責任者として設置し、ブレイン(推進実行役)として動いてもらいます。
人事部長が社員教育の経験があまりなかったとしても、信頼できる外部責任者がいれば、十分に回すことが可能です。
⑤労務は、多くの会社がそうしているように、社労士事務所としっかりタッグを組むのがいいですね。
労務管理の知識と経験を備えた人材は多くないので、社労士さんに定期的に課題の洗い出しと対策検討、細々した実務の対応を担ってもらうことで、人事部長の経験不足を補えます。
社内異動
人事部長の採用となると通常は外部のマーケットから採用することを考えますが、そうではなく社内異動による登用を考えてみましょう。
こちらの図は前回のブログでも出しましたが、各部署の最高〇〇責任者(CXO)に求められる能力・資質です。
最高人事責任者は多様な能力・資質を広く求められますが、これに近いスキルを求められるのが最高営業責任者です。
営業から人事に
営業の優秀な人材を人事に異動させるのは、その資質からして非常に合理的で有効な方法といえます。
営業のできる人材は、人事部の経験はなくとも、人事に求められる能力を兼ね備えています。
会社のことも深く分かっているし、経営者の考えもよく理解しているものです。
足りないのは人事の専門知識ですが、本人の意欲があればキャッチアップできないものではありません。
外注先も上手く活用すれば、人事部長としての役割を十分に果たすことが期待できます。
ただし、気合根性一辺倒で営業成績をあげたタイプ、恐怖政治でチームを率いてきた管理者タイプは人事部長には不向きです。
向いているのは、成果をあげるのに苦労しながら、試行錯誤を重ね、自分だけでなくチーム全体の力を使って成果を出してきたタイプです。
まとめ
理想の人事部長の採用ができなくても、人事としてやるべき事を進めていく方法を3つお伝えしました。
1つ目は、人事部長の責任範囲を狭めることで、求める経験・スキルを緩和すること
2つ目は、外注先を上手く活用することで、人事部長の弱点を補うこと
3つ目は、人事経験者の採用ではなく、社内の営業部門から抜擢すること
今や人事部門の大半の業務はコストセンターではなく、プロフィットセンターと言えます。
人事部長が担っている仕事が会社の将来に大きく影響します。
もしも人事部長の採用に困っているならば、もう一段採用基準を落としても人事機能がきちんと回る方法をぜひ考えてみてください。
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