経営理念 ・ビジョンはとてつもなく有効な経営ツールである(後編)

2020.07.16

 
あなたの会社に経営理念・ビジョンはありますか?

あるとしたら、それを経営にどのように活用していますか?

前編では

 

  • 経営理念・ビジョンがなぜ必要か?
  • どのように経営に役立つか?

 

これらを、私自身が体感してきた実例を交えてお伝えしました。

前編はコチラ ➔会社の理念・ビジョンはとてつもなく有効な経営ツールである(前編)

 

後編では、経営理念とビジョンをうまく活用すると具体的にどのような効果が得られるか、

その効果を加速するための仕掛けなどについてお伝えします。

 

経営理念とビジョンができること

 

経営理念は経営者の思いや理想を表現したものであるため、何というか高尚なイメージがあります。

そのため「経営理念は経営ツール」という表現は少々抵抗があるかもしれません。

しかし、経営理念を高尚な存在のまま飾っていてはもったいありません。

経営理念を有効な「経営ツール」として活用すれば、とてつもない効果を発揮します。

 

具体的に得られる効果はこのようなものです。

 

  • 社長が会社をどうしたいのか?が伝わる
  • 迷った時の判断軸になる
  • 社員の行動をあるべき方向に導く
  • 上司の部下指導に使える
  • 組織の力を引き出す
  • 採用力があがる

 

個々に説明していきます。

 

経営理念は社長が会社をどうしたいのかを伝える

 

「社長は会社をどのようにしていきたいのか?」

社員は意外と理解していないものです。

会社が小さい時は社長が何を目指しているか、社員は自然と感じ取ってくれます。

しかし組織が拡大してくると、

 

  • 「社長は会社をどうしたいの? どこを目指しているんだろう?」
  • 「うちの会社のビジョンって何なの?」

 

みたいな声が増え、求心力が徐々に弱まってきます。

もし経営理念・ビジョンが存在し、それを普段から語りかける場があれば、社長の思いと現場の距離が縮まります。

 

経営理念は迷った時の判断軸になる

 

経営理念は意思決定の際の判断基準になります。

例えば、

 

  • とても儲かりそうだが、理念にそぐわないビジネスの買収話があったときどうしますか?
  • 環境の激変でリストラせざるを得ない時に、何の費用から削減していきますか?

 

2つ目の質問の場合を少し考えてみます。

会社で発生する費用は全て利害関係者(株主、顧客、役員/社員、取引先、地域社会など)に関わるものです。

外注費を減らせば取引先が泣きます。

人員削減すれば社員とその家族が困ります。

役員の給与を削減すれば役員とその家族が困ります。

カスタマーサポートの人員を減らせば顧客の満足度が下がります。

どの費用を削減するか決めるためには、机上の計算だけでなく、利害関係者に対する会社の理念が問われます。

 

メルカリの例

 

メルカリさんは以前、スタートした事業を3ヶ月で撤退するという、通常の会社ではなかなかできない意思決定をされました。

その背景には経営理念・ビジョンが関係しています。

会社のミッションに「世界的なマーケットプレイスを創る」という定義があり、

「メルカリ級に成長しない事業はやらない」という明確な方針があるからこそ、大胆な決断ができるのです。

 

経営理念は社員の行動をあるべき方向に導く

経営理念

 

経営理念は社員に仕事のスタンスや心がけを示し、その方向に導くものでもあります。

ただし条件があります。

経営理念を定めるだけでは社員の行動を導くパワーがありません。

経営理念の内容と日々の仕事の間にはどうしても距離感が生じるので、経営理念を社員が意識できる存在に近づける工夫が必要です。

 

ここで登場するのが「行動理念、行動指針、ミッション・ステートメント、クレド」などと言われるものです。(←会社によって呼び方が異なる)

 

例えば成長ベンチャーの代表格であるサイバーエージェントさんには

「21世紀を代表する会社を創る」

というビジョンがあります。

 

非常にチャレンジしがいのある魅力的なビジョンですが、社員の普段の仕事がビジョンにどのようにつながるかは意識しづらいものです。

そこで「ミッション・ステートメント」が用意されています。

「ミッション・ステートメント」では、

 

  • 若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止。
  • 迷ったら率直に言う。
  • 能力の高さより一緒に働きたい人を集める。
  • 法令順守を徹底したモラルの高い会社に。
  • 挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。
  • (他10条)

 

など計15条の定義がされています。

人の評価、コミュニケーション、採用基準、チャレンジ精神などに関するスタンスが非常に明確に書かれていますよね。

普段の仕事において15条の定義を実行すればビジョンに近づくという関係性が、ビジョンとミッション・ステートメントの間にできています。

 

繰り返しになりますが、経営理念・ビジョンを定めるだけで社員の行動に影響を与えるのは難しいです。

そこに行動理念やミッションステートメントが連動すれば、経営ツールとして一気にパワーアップします。

業績評価指標などとも関連させることによって普段の仕事から意識しやすくなり、会社の目指す方向に社員を導きやすくなります。

 

経営理念は上司の部下指導に使える

上司の部下指導力には相当なバラツキがあるものです。

各々の上司任せにしていると、会社としてどのような人材を育てるか、どのような行動を推奨するかに一貫性が出ません。

 

しかし先ほどの行動理念、ミッションステートメントがあれば、上司は部下指導がやりやすくなります。

サイバーエージェントさんの事例には「迷ったら率直に言う」という項目がありましたね。

「迷ったら率直に言う」が会社のルールなので、部下の本音を引き出すのが苦手な上司がいたとしても、部下側が意識して意見発信してくれます。

「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止」の定義がなければ、若手の台頭を奨励する上司もいれば、デキる部下をつぶす上司もいるでしょう。

しかし会社が定義するお蔭で、上司にピリッと緊張感が走り、若手は大事にされる感を感じ、人を育てる文化につながっていくのです。

 

経営理念は組織の力を引き出す

 

組織の1人1人が同じ目標を持ち、お互いがそこに向かって力を合わせれば、とてつもない力を発揮する。

このことは仕事やスポーツなどの場面であなたも経験したことがあるはずです。

 

映画とドラマでヒットした「チア☆ダン」は福井県の県立高校の実話をもとにしています。

そこのチアリーダー部は「全米制覇!」というとてつもないビジョンを掲げ、それを先生と生徒が本気で目指して練習に取り組んだことで、本当に達成してしまいました。

もしそのビジョンを掲げていなければ決して実現できなかったことです。

組織に共通の思いが浸透すれば、人は想像を超える力を開花させます。

 

経営理念は採用力を上げる

 

経営理念・ビジョンは採用においても力を発揮します。

 

  • 採用面接の場で、あなたの会社の面接官は自社の将来像や可能性をどのように語っていますか?
  • 個性や魅力を伝えきれていますか?

 

会社によってはこのようなわかりやすい魅力を訴求できるかもしれません。

 

  • ずば抜けて給料が高い
  • 業界トップクラスの成長率
  • 商品の知名度が抜群
  • 福利厚生が抜群

 

しかし多くの中小企業ではこのような魅力は打ち出しづらいのが実際のところ。

そこで他社と差別化できるのが経営理念とビジョンです。

 

求職者は会社の今の姿だけを見て転職先を決めるわけではありません。

事業内容、業績、仕事内容だけで決めるわけでもありません。

社長の志、会社の将来性、進む方向、社員の姿勢、職場の雰囲気などをよく見ています。

会社の将来に向けた意志が経営理念・ビジョンとして明確に表現されていれば、求職者の理解が深まります。

さらに面接官の行動や発言が経営理念・ビジョンに沿っており、理念と社員の姿勢に一貫性が感じられれば、求職者にとって大きな魅力の1つとなるはずです。

 

中小企業こそ経営理念・ビジョンを大切に

 

大手企業の社員に聞いてみると、自社の経営理念やビジョンを普段から意識している人はあまりいません。

就職活動においてもそれが入社の動機になるケースは少ないです。

なぜなら大手企業には知名度、事業の安定、雇用の安定、高い給料、福利厚生といった明確な魅力があるからです。

ことさらに社長の志や思いを発信していく必要もありません。

 

しかし中小企業は違います。

残念ながら中小企業は外見ではなかなかモテません。

しかし、内面でモテればいいのです。

自社の社員に対しても、就職を検討してくれる人に対しても、自社の個性を伝えていく。

個性なので万人受けを狙う必要もありません。

自社らしさ、自社のなりたい姿をしっかりと伝え、わかりやすく伝え、社員の行動を導いていくことが会社の発展につながるのです。

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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