企業は「 労務部門 」の人材不足にどう対処する?経営陣が理解すべき労務の8つの顔

2024.11.15

労務部門

近年、多くの企業が人事部門の人材不足に悩んでいます。

単に人手が足りないという問題ではなく、経営が求める仕事に対応できる人材がマーケットに限られているということが大きな課題です。
 

かつての人事部門の主な仕事は、新卒採用、給与計算、労務管理、パターン化された新人研修と階層別研修の運営、人事異動の橋渡し役などでした。
 

そこに新たに下記のような仕事が加わり、難易度も複雑度も大幅に上昇しているのが現状です。
 

人的資本経営に向けた人事データの統合、管理、分析、提言
HR Techと言われるように、さまざまなクラウドツールの活用と対応
採用の難易度激化&採用手法の多様化
リスキリングや幹部育成など攻めの教育への対応
ジョブ型など新たな人事制度の導入、運用
リモートワーク、副業など様々な働き方への対応
残業管理、有給取得、女性管理職割合、男性育休取得など、国から求められるルール、提出物などへの対応
 

結果として、どこの会社もこれらの業務に追われ、対応に四苦八苦しています。
 

中でも労務部門は会社の人事管理の中心的な役割を担っていますが、この部門自体の人員が安定せず、キャパシティが不足していたり、組織運営に課題を抱えているケースが多くあります。

 

本日のブログでは、労務部門の安定化に向けて、経営陣が理解しておくべき点をお伝えします。

 

「 労務部門 」は社内でも理解されていない

 

労務部門の仕事は裏方で地味なものが多いため、その具体的な仕事内容は社内でも十分に理解されていません。
 

経営陣はもちろん、各部署の責任者でさえも「勤怠データを集計して、給与を計算し、労務トラブルに対応する部門」という程度の認識に留まっており、実際の業務の詳細まではあまり知られていません。
 

さらに業務の性質上「ミスなくこなすのが当たり前」とされるため、稀にミスが出た時のネガティブ評価はつきやすい反面、安定して業務を遂行していることが評価されることは少ないのが現状です。

 
労務部門に属している社員も、黙々とPCに向かって作業するタイプの人が多いので、派手さや自己アピールもあまりなく、輪をかけて評価されにくくなりがちです。
 

このような評価のされにくさが、結果として労務部門の人材の離職につながり、ひいては組織の安定性も脅かしています。

 

労務部門は8つの顔を持つ

 
労務部門は8つの顔を持つ部門と言えます。

8つも!?と思われるかもしれませんが、実はさまざまな領域にまたがる仕事の特性を備えています。
 

  1. 事務のプロ
    出退勤や給与手続きなど膨大な事務を正確に処理
     
  2. 専門家 兼 法の番人
    労働法や規則にもとづいて運営し、ルールを守らせる
     
  3. BPRコンサルタント
    複雑で手間のかかる業務の効率化とプロセス改善を推進
     
  4. コールセンター
    社内からの様々な問い合わせに対応
     
  5. カウンセラー 兼 アドバイザー
    個々の社員と向き合い、対話する
     
  6. 社内マーケター
    様々な手続きや提出物など、面倒くさいことを社員にやるよう促し、動いてもらう
     
  7. データベースエンジニア
    人事データをストックし、組み合わせて分析し、人事戦略に活用
     
  8. 経営陣説得者
    人事関連の意思決定は経営マターが大半なので経営陣に説明、説得する

 

それぞれの役割を詳しく見ていきましょう。

 

事務のプロ

 
社員の出退勤情報のチェック、給与計算、身上変更に関する手続き、社員への書類発行、雇用契約の締結、行政への各種手続きや申請など、細かな事務作業が膨大にあります。

よって、正確かつスピーディーに事務処理を行う能力は、この役割を果たす上での必須条件です。

     

    専門家 兼 法の番人

     
    人事関連には、労働法に始まり、社内の就業規則や各種規定、人事制度など、多くのルールが存在します。

    労務部門はこれらのルールに精通し、深い専門知識をつけると同時に、公正かつ公平に確実に運営することが求められます。

      例外を作らず、法令や社内ルールを遵守して運営する厳しさが必要です。
       

      BPRコンサルタント

       
      勤怠入力~給与計算~給与支給までのプロセスは非常に細かな業務の連続で成り立っており、このビジネスプロセスをいかに効率的かつ正確なものにするかが問われます。

      理想は、できるだけ少ない人員でミスなく無駄なく、スピーディーに業務を回すことです。

        そのためには、業務の分析、フローの効率化、ルール化、チェックプロセスの効率化、業務の自動化など、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の視点が欠かせません。

        目の前の業務をこなすだけではBPRが進みません。よって、常に改善の視点が求められます。

         

        コールセンター

         
        労務部門には社内から多くの問合せが入ってきます。

        その量は会社によって違いますが、給料、残業、休日、社保、年末調整、各種手続きへの問合せなど、さまざまな問合せが、時期を選ばず発生します。

          社員だけでなく、アルバイトなどあらゆる雇用形態の人から問合せが入るのも労務ならではです。

          コールセンターの会社同様、問い合わせによる負担を減らすためにも、わかりやすい情報提供、QAの充実、チャットボットの導入など、対応方法の工夫が欠かせません。

           

          カウンセラー 兼 アドバイザー

           
          心の機微にふれる仕事が多いのも労務部門の特徴です。

          パワハラ、セクハラ、メンタル、健康問題、事故、会社への不満、解雇トラブル等々、従業員が抱えるさまざまな問題の相談事が労務部門に寄せられます。

            各部署で対応しきれない難易度が高い事案が多く、対応力が問われます。

            社員と話をする場では、相手の気持ちに寄り添い社員側の立場になってサポートする側面と、会社側の立場で厳しく接するべき側面があり、両面の対応が求められます。

             

            社内マーケター

             
            労務の仕事は、社員に行動してもらわなければならないタスクが多々あります。

            提出物の期限までの提出、管理職による月末の勤怠承認、年末調整などの申請書類の提出、人事評価の提出、退職に伴う手続き、身上変更の提出などなど、とにかく従業員の対応を前提として業務が成り立っています。

              そのお願いを従業員がちゃんとやってくれないと労務部門の仕事が滞ってしまうので、関わる全員に行動を促す工夫が必要です。

              これらの仕事は他人の行動に影響を及ぼさねばならないという意味で、マーケティングのセンスが求められます。

              相手が行動してくれるような、分かりやすい言葉、その気にさせる表現、リマインドさせるタイミングも重要です。

              モノを買ってもらうためのマーケティングとは異なりますが、労務部門でもAIDMAの法則は理解し、相手に伝え行動してもらえるような言語表現力(口頭/テキスト)を鍛えるべきでしょう。
               

               

              データベースエンジニア

               
              今の時代は人事データの有効活用が問われます。

              入社前の経歴に始まり、経験業務、スキル、資格、毎年の評価結果、業績、異動履歴、社内昇格試験の結果、研修履歴、組織サーベイの結果、賞罰、勤怠実績など、さまざまなデータを組み合わせて、人事異動や育成方法の最適化を考える必要があります。

              これらのデータは個人単位で検証するだけでなく、A部門とB部門を比較したり、異なる年度の新卒入社グループを比較するなどの活用もできます。

              経営陣から求められるデータを抽出し、分析して、提言まで行うには、基礎となるデータベースを平時から整え、そのデータを的確に扱う方法にも長けていなければなりません。

                 

                経営陣説得者

                 
                労務の仕事は、経営陣から直接承認を得たり、経営陣と密に相談しながら進める内容ばかりです。

                加えて、労務の仕事の多くは、「法律でこうなっていますので」だけでは説得できないこともあり、経営陣の考え方や自社のカルチャー、個々の問題に応じて、都度最適解を考え、対応策を合意形成していく必要があります。

                そのため、経営陣に納得してもらえる提案力と説明能力が求められます。

                 

                以上が労務部門ならではの8つの顔です。

                傍目が想像する以上に、労務部門の仕事は多岐にわたり、多彩なスキルを求められる仕事であると言えます。

                  このさまざまな顔を1人で使い分けられる人もごく稀にいますが、組織づくりにおいては、社員の強み弱みも考慮して分業していくのが現実的なアプローチです。

                   

                  経理の仕事と比較してみると

                   
                  労務部門の仕事について、もう一段リアリティを持ってもらうために、経理の仕事と比較してみます。

                  労務と経理のどちらも専門的知識が必要で、数字を扱う細かい実務があり、行政への提出書類も多い点で共通しています。

                  しかし、比べてみると労務の方が圧倒的に求められる役割が広いことがわかります。

                   

                  労務部門 の組織づくり

                  非常に多岐にわたる役割の労務の組織はどのように設計するのが適切でしょうか?

                  上表の表にある役割のうち、「1~3」は社内でも比較的理解されてる仕事ですが、「4~8」に関しては、その業務負荷や重要性についてあまり理解されていないのが現状です。

                  経営陣はまず「4~8」の役割についても理解し、これらの役割を効果的に果たせるように組織、人員を考えます。
                   

                  なお、業務のアウトソーシングについても検討が可能です。
                   

                  1と4:アウトソーシングが可能です。

                  2と3:一部外注できるものの、社内で対応すべき領域が残ります。

                  5~8:社内に精通し、他部署との調整が迅速にできる人材が必要であり、現実的にアウトソーシングは難しいです。

                   

                  結果として以下のような人材によるチームになるのが現実的ではないでしょうか。

                  (人数は会社規模、業務の複雑さによります)

                   

                  【社外人材】

                  給与計算業務の一定範囲を外注
                   

                  【社内人材】

                    事務業務に優れた担当者 +  仕事の早い派遣社員

                    社員対応などに強みを持つ担当者

                    上記の実務力・知識があり、部下の業務管理もできる中間管理職(データ扱いにも明るい)

                    社内発信、BPR、データ扱い、他部署調整力に長け、経営陣説得力のある部門責任者

                   

                  まとめ

                   
                  労務部門は、企業の運営を支える重要な役割を担っています。

                  一見地味に見えることも多い部門ですが、実際には「8つの顔」で示したように、さまざまな分野にわたる多様なスキルで幅広い業務をカバーしています。

                  経理と比較しても、労務部門に求められる役割(&スキル)がいかに多岐にわたるかが明らかです。

                  この労務部門の役割と重要性を理解し、業務に対する適切な支援と人員配置を行うことが、部門の安定化と発展に直結します。
                   

                  労務部門がその力を十分に発揮し、企業全体の安定と成長を支える存在となるべく、組織基盤を築いていきましょう。

                   

                   

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                  筆者紹介

                  株式会社SUSUME 代表取締役

                  竹居淳一

                  「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

                  筆者プロフィール詳細