実は見過ごされている マネージャーの権限 |チームの成果を左右する巨大な権限の使い方

2024.10.31

マネージャーの権限

中間管理職であるマネージャーにはどのような権限があるでしょうか?

例えば、稟議決裁の場面ではマネージャーが承認できる金額の基準が設定されていたり、営業組織であれば一定金額の見積書を提出できるなどの権限が与えられています。
 

しかしそれ以外のさまざまな業務において、具体的に権限が明文化されていることは稀です。

多くの場合、マネージャーとその上司との間で、お互い摺り合わせしながら、何となく権限の範囲が決まっている、というのが現状ではないでしょうか?
 

マネージャーによっては「中間管理職なんて何の権限もないよ・・」とぼやいているかもしれません。
 

しかしながら、実際はマネージャーは表向きの権限以上に巨大な権限を有しています。

この権限の使い方次第で、チームの成果が左右され、マネージャーの力量が如実にあらわれます。
 

今週のブログでは、部長とマネージャーの間でも話し合われることが少ない、実は見過ごされているマネージャーの巨大な権限についてお伝えします。

 

マネージャーの最大の権限

 
マネージャーが持っているとても大きな権限、それは「仕事の割り振り」「仕事の優先順位づけ」です。
 

仮にあなたが5人のメンバーがいる人事部のマネージャーとして着任したとします。
 

マネージャーの権限

 
着任直後、あなたは5人のメンバーそれぞれにどの仕事を割り振るかを決めるでしょう。
 

検討した上で、5人のうち古株の社員2人には、昔から担当している勤怠・給与計算業務を継続してもらうこととしました。

中堅社員2人は、採用業務に専念させ、もう1人の若手社員には、人事企画業務として、新入社員教育および人事データの整理、人事システム見直し、人事制度の運用などを担当してもらいます。

マネージャーであるあなた自身は、人事制度の企画設計、働きやすい環境づくり、労使対応、今後に向けた人材戦略と実践施策などを行うこととしました。
 

 
 
続いて、あなたは仕事の優先度を指示します。
 

勤怠・給与計算を担当する古株社員の2人

2人に対して特に仕事の優先度の指示は出さず、自分が着任する前と同様の業務に注力してもらい、毎月の給与計算が確実に回るようお願いをしました。
 

採用業務担当の中堅社員2人

中途採用のうち特に緊急度の高い3職種に注力するように指示し、3職種の人材に強みをもつ人材紹介会社との取引を新たに増やすよう指示しました。
 

人事企画業務の若手社員

タレントマネジメントシステムの導入検討、人事データの整備、社員教育を並行して推進するよう伝えました。

 

以上の内容は、マネージャーのあなたが自らの権限により自ら考えて決めたことです。
 

恐らく上述したマネージャーの判断(部下への仕事の割り振りや優先度指示)の細部については、世の中の多くの部長はマネージャーにお任せではないでしょうか?

メンバーの業務分担について、部長からざっくり方針が示されることはあっても、マネージャーの判断がよほどずれていない限り、特に細かい修正は入らないのが一般的でしょう。

何かを買うとか、契約するという話ではないので、稟議決裁基準にも全く該当せず、上司も細かく突っ込みを入れてきません。
 

結果として、仕事の割り振りと優先順位づけは、マネージャーが大きな裁量を持って決定できる仕事と言えます。 

 

仕事の割り振り&優先順位づけという権限

 
それぞれの部下にどのような仕事を担当させ、日々の時間をどの業務に注力してもらうか?

というマネージャーの決断は、チームの成果に大きな影響を及ぼします。
 

まず投資金額で考えてみましょう。
 

5人の部下+自分の人件費合計が月間200万円(1人あたり34万円平均)だったとします。

社会保険料やオフィス代やPCなど諸々の経費を含めると、ざっくり倍の400万円/月と仮定します。

マネージャーはこの「400万円/月」という大きな投資の使い道を決めることになります。
 

上手く投資すれば400万円が活きたお金になりますし、適切でない判断をすれば400万円の投資に見合う成果が出ません。

5人のメンバーにどのような仕事をまかせ、何から優先的に着手してもらうか次第で、400万の価値が変わってくるのです。
 

400万円を何に投資するかという絶大な権限をもっている以上、この権限をどう活用すべきか真剣に考えなければなりません。
 

命取りになる「仕事の割り振り」

 
先ほどの事例では、古株社員に、従前と同じ勤怠・給与計算業務を任せることとしましたが、本当にそれが正しいでしょうか。
 

長年同じメンバーでやってきた業務は属人的になっていたり、問題箇所に気づいていながら見過ごしている可能性もあります。

もっともっと効率化できる余地もあるかもしれません。
 

このような状態で「これまでやっているから」という理由だけで同じメンバー2人に担当を継続させてしまうと、大きな改善チャンスを逃しかねません。

よって、一部は新たな人に担当させて新鮮な視点を取り込んだ方がよい可能性もあります。
 

次に、採用業務に2人、人事企画業務に若手1名を配置した点についてです。

もし現状で何よりも採用業務の優先度が高ければ、適切な配置と言えます。

しかし人事企画業務にも優先的に進めるべきことがあるならば、採用業務を1.5人程度とし、0.5人分は企画系業務に割り当てる手もあります。

特に企画業務は若手担当者の経験も少ないので、中堅クラスのメンバーが関与することで、業務の質・スピードが改善することが期待されます。
 

また採用業務に中堅2人を配置しても、フルタイムでみっちりやる仕事がなければ、その分無駄な投資になりかねません。

さらに中堅2人のうち1人は採用業務の経験が豊富で自らやりたいと思っていますが、もう1人は労務トラブル対応などを担当してきた人で、採用業務への関心も少ないです。

本当にこの人を配置するのが最善の判断なのかも考えなければなりません。

興味が低いメンバーに採用を任せても、効率が落ちたり、無駄な投資になる可能性があるからです。
 

 
400万円/月を上手に投資するために、以下のようなさまざまな観点を考慮の上で業務割り振りを決定する必要があります。

 

業務の重要性

業務ボリュームと難易度

メンバーの経験値、能力、適性、意欲

1人1人の責任(何に責任をもたせるか)

1人1人の仕事量

成長機会

非属人化

マンネリ防止 など
 

マネージャーはこれらの観点をもとに最適な業務割り振りを考えることが求められます。

 

「仕事の優先度」は生命線

どの仕事を先に進め、どの仕事を後回しにするかは、チームの成果の鍵を握るポイントと言えます。
 

多くの組織では「重要かつ緊急の仕事」「重要ではないけれど緊急の仕事」に追われがちで、
最もやるべき「重要だけど緊急でない仕事」にはほとんど手がついていません。

それだけでなく「重要だけど緊急でない仕事」をいくつも同時進行で抱えてしまい、結果として何一つ進まないなんてケースもよくあります。
 

このような状況を防ぐためにも、マネージャーが「重要だけど緊急でない仕事」のうち、何に最も力を注ぐべきか、明確に指示する必要があります。
 

先ほどの事例をさらに詳しく見てみましょう。

 

採用担当の2人

 
採用を担当する2人には3職種に強い人材紹介会社を増やすことを重要テーマとして与えました。

しかし、採用の問題を紐解いていくと、離職者が多すぎて幾ら採用しても充足しないという問題があることが分かりました。

この場合、緊急業務は新たに採用することですが、「重要かつ緊急でない問題」は離職を止めることです。

そこに誰かが切り込まない限り、いつまで経っても根本的な問題は解決されず、対処療法の繰り返しとなってしまいます。

現在起きている問題の本質を見きわめ、それを解決する仕事の優先度を上げさせるのはマネージャーの仕事の中でも特に大切な役割です。

 

勤怠・給与計算業務の古株2人

 
この2人には特に優先度高い業務を示すことなく、従来通りのルーティンの維持しか伝えていません。

しかし本来は、給与計算業務の中でも時間のかかる原因となっている業務の効率化、ミスが出やすい業務の見直しなどが必要です。

今までやってきたことを変えてもらうには、現状の課題を検証した上で、最も改善すべきテーマに絞って、優先度高いミッションを指示しなければなりません。

 

人事企画業務担当の若手

 
この若手担当者には、重要業務を色々と与えすぎており、何が優先度の高い仕事か分かりません。

元々経験値も少ない社員なので、1つ優先度高いタスクを与え、それが片付いたら次のタスクというように、順に進めていく方が成果が上がります。

 

まとめ

 
どの部下に何をやってもらうか(仕事の割り振り)と、どの仕事から優先的に着手してもらうか(仕事の優先順位)

これらを決めるのは、マネージャーが成果を出す上で最も重要な判断と言っても過言ではありません。

 
しかもこの仕事は上司から細かな承認を求められることはなく、マネージャーが絶大なる権限によって判断できることです。

「マネージャーにはあまり権限がない」などという声を聞くこともありますが、実は決してそんなことはありません。
 

多大なる人件費投資の使い道において、マネージャーは権限を持っているのです。

その権限に気づいて十二分に活用できれば、マネージャーの仕事はとてもダイナミックで面白い仕事です。
 

ぜひチームとしての最高のパフォーマンスを目指していきましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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