ビジネスパーソンがこれからの時代を生き抜いていくための1つのキーワードが「 自律的なキャリア形成 」です。
具体的には、自分のキャリアを他人に委ねるのではなく、自らキャリアの目標を設定し、それに向けて自己研鑽していくことを意味します。
別の言い方をすると、会社の人事異動に自分の将来を委ねるのではなく、会社を「自分のやりたい事を実現するための舞台」として活用することです。
このような時代における人材育成や人事制度はどのようにあるべきでしょうか?
社員からは、「うちの会社は先が見えない」「キャリアプランが見えない」などの声があがることもありますが、それに迎合しすぎると本人のためにも会社のためにもなりません。
今週のブログでは、先が見えない時代の人材育成と人事施策、そして社員のキャリア形成についてお伝えします。
目次
キャリア形成の前提として理解しておくこと
定型業務が減少
金融機関などを筆頭に、事務業務の多い会社では業務の自動化、省人化が加速度的に進んでいます。
データを収集して整理して別の書式にまとめる作業や、分散している情報や調査データををまとめて報告書にするような仕事は確実に減っていく方向です。
大卒新入社員に与える仕事が減っているという話もよく聞きます。
上司の補佐として資料をまとめたり、書類を処理したり、顧客からの問い合わせに対応したり、という下請け仕事が減ってきたためです。
新人なのでいきなり一人前の仕事を任せるわけにもいかず、困っている図式です。
このように創意工夫の度合いが少ない定型業務は減る方向にあり、ビジネスパーソン1人1人が専門性や知恵を磨いていかないと新しい時代に適応できません。
ゼネラリスト志向<専門家志向 の時代
会社都合による人事異動が大幅に減りつつあります。
職種をまたぐ異動、地域をまたぐ異動は原則行わない会社もありますし、異動させる場合でも本人の同意を得るケースが多くなりました。
ジョブ型人事制度を採用し、社員1人1人に専門性の高いキャリアを歩ませるケースも増えています。
地域間異動が減少している背景は、夫婦共働きが増え父母で分業しながら子育てするので、単身赴任を受け入れる土壌がなくなったこと、リモートで仕事ができるようになったことなどに拠ります。
また職種間異動が減少している背景は、生涯で何度か転職するのが一般的になってきたため、ビジネスパーソンが自分の専門性を重視し職種転換を避ける傾向が強まったことです。
会社都合で色々な職種を転々とすると、転職市場で価値のあるキャリアを築けない恐れがあるからです。
会社側も、社員を定年まで養うことは難しいので、職種を転々とさせるより、社員が退職しても外で通用する力をつけてもらいたいという事情も影響しています。
以上の変化から明らかなのは、社員1人1人が自分のキャリアに意志を持つ重要性です。
さまざまな局面において、自分は何をやりたいか?どうなりたいか?が問われます。
キャリア目標を立てるのは、決して簡単なことではなく、見つからないこともあります。
ベテランになっても迷うことが多々あります。
それでも考えることを放棄せず、自分らしいキャリア、自分が最も力を発揮できる仕事、自分らしい働き方を問い続けることを求められる時代です。
社員をどのように導いていくか
このような時代において、社員1人1人が自分らしいキャリアを築き、持てる力を最大限発揮できるように導くことは会社の大事な役割です。
そのためには、社員が受け身の考え方を捨て、自らキャリアを切り開く意志をもつことが、育成の出発点になります。
キャリアの考え方の転換
学校教育のシステムは、小学校→中学校→高校→大学と進むレールが決まっており、カリキュラムも在籍年数も決められています。
どこの学校に行くかという選択はあるものの、大半の人は社会人になるまで決断というほどの決断をしません。
社会に出れば本来レールはなくなるはずですが、従来型の終身雇用に近い会社では、そこにもレールが敷かれていました。
自分で決断をする必要がなく、数年に一度の辞令に従って仕事をしていくという、受け身の立場で歩んでいくことが一般的でした。
「今の職場は3年いるから、そろそろ異動かな・・・」 こんな会話が普通にされている時代でした。
しかし、今後においてはそれは超レアケースと言わざるを得ません。
他人が敷いたレールの上を歩むのは大学生で終わりです。
あなたの会社の社員に出発点として理解してもらうべきは、「社会人には他人が敷くレールはなく、自らレールを作っていくことがキャリアである」ということです。
キャリアは十人十色
若い社員からは「(今の会社で働いていても)先が見えない」「キャリアプランが見えない」という話がよく出ます。
その声にはどのように対応しているでしょうか?
そもそも“先”という言葉は未来を表す言葉です。未来は誰にも見えません。
見えないのが当たり前であり、見えないからこそ、今の努力が未来につながるという大原則は理解してもらわなければなりません。
高度成長期の時代に働いていた人だって決して先が見えていたわけではありません。
貧しかったためキャリアなんて言葉すらない時代に、がむしゃらに前に向かって働いていました。そうして気づけば経済が大きく発展していたにすぎません。
バブル期に入社した世代は、若い頃は好景気が当たり前と思っていたかもしれませんが、その後こんなに環境が変わるなんて、誰も予想していなかったでしょう。
つまり「先は見えないものであり、誰も保証してくれない。先は自ら作るものである」
これをしっかり伝えるのが上司や先輩の責任です。
キャリアプランも「先」はわからない
5年後10年後の会社がどのような状態にあるかは経営者ですら分かりません。
もちろん経営計画などは立てるものの、5年10年という期間は予想外のことが起きるには十分な期間なので、どうなっているかなど決してわかりません。
その状況の中で
「あなたは3年後には●●の仕事に異動し、さらに2年後にはチーフに昇格し、給料はこの程度になり、30歳前後でマネージャーに昇格するのが標準です」
こんなことを言えるでしょうか?
言うだけは簡単ですが、何の保証すらないものを伝える意味はあるでしょうか?
就活学生がキャリアプランを求めるのはもちろん分かります。
彼らはまだ働いたことがなく将来が不安でたまらない状況なので、ざっくりとしたキャリアプランを示してあげることは一時的にはありかもしれません。
しかし、いざ社会人になったら真実をしっかり伝えていかないと、結局後で苦労するのは本人たちです。
「先が見えない」受け身の社員たちの導き方
特に「キャリアプランが見えない」という発言をする社員に限って受け身の人が多いです。
「(受け身的に)目の前のことをちゃんとこなしていたら将来どうなるか?」という質問と同義であったりするので、そういう人に何となくのキャリアプランを明示するのは誰のためにもなりません。
キャリアは十人十色。人それぞれ。
運もあるし、縁もあるし、色んな要素で決まります。
しかし何より大事なのは、自ら不断の努力することに他なりません。
一生懸命学んで、目の前の仕事に一生懸命取り組んで、苦しい時に逃げない。
そして仕事を通じて自分が得意なことを増やしていけば、自ずと望ましいキャリアに近づいていくという黄金律を教えてあげるのが会社として真摯な姿勢ではないでしょうか。
迷う社員には具体的に何を示していけばよいか?
「先が見えないのは当たり前」、「キャリアプランは自ら描くもの」という説明をしましたが、思い悩む社員を突き放すだけではついてこれなくなってしまいます。
自律度の高い社員であれば、突き放しても自ら食らいついてきます。
しかし普通の社員は何か示してあげないと、どこへどのように進んだらよいか分からなくなります。
そこで社員に示すと効果的なのが、下記の4つです。
「実際の事例」
「社内キャリアの可能性」
「やりたい仕事につくための必要スキル」
「報酬」
実際の事例
未来のキャリアを伝えることはできませんが、これまでの実例を示すことはできます。
事例:先輩社員のAさん
新卒入社後、法人営業を4年間、カスタマーサクセスの仕事を3年やり、その途中でチーフに昇格、その後は”ずっとやりたかった”マーケティングの部署に異動
このような事例を伝える際に大事なのは、異動してどんな仕事、役割を担ったかという情報だけでなく、なぜそうなったかという理由です。
「法人営業時代に人一倍努力して新規顧客開拓でどのような工夫をしたか?」
「カスタマーサクセスに異動してからチームメンバーのマネジメントに苦労し、どのようにしてそれを脱却したか?」
というストーリーです。
さらに希望者が多いマーケティングに異動できたのは、法人営業時代の創意工夫力、顧客満足度の高さ、カスタマーサクセス時代の組織づくりの努力の姿勢が評価されたからという理由もセットで伝えます。
このような事例を数名分示すだけでも、何もないより全然参考になります。
順調なキャリアの人だけでなく、不遇の時代を経験した人の事例もとても有用です。
事例を知った社員は、自分のキャリアをどう描くか考える上ではとても参考になるはずです。
社内キャリアの可能性
社内にどんな仕事があるかを示すことも意味があります。
ジョブ型人事制度の会社では、社内の全ての職種、役職の仕事内容や必要スキルが明示されています。
ジョブ型制度にするか否かにかかわらず、社内のさまざまな仕事の内容が分かれば、「将来こんな仕事をしてみたいな」という目標が湧きやすくなるでしょう。
可能であれば、他の部署に異動するための条件であったり、社内公募する職種であれば社内公募の時期や選考方法なども示すといいですね。
社員はリアルな目標設定がしやすくなります。
やりたい仕事につくための必要スキル
さまざまな職種の仕事内容を公にすると同時に、その仕事に求められる能力、必要な経験も示してあげましょう。
自分の行きたい部署やポジションに求められることがわかれば、それに向けて自分で努力をしやすくなります。
もし社員育成のために研修を企画する場合、全員一律のメニューは基本科目に絞り、その先は自ら学びたいものを自主的に学べる仕組みが望ましいです。
こうなりたい!この部署の仕事をやりたい
↓
そのためには自分には何が足りないか?
↓
不足を埋めるために何を学んだらいいか、何を経験したらいいか?
この3ステップで自分のキャリアを考えられるようになるのが狙いです。
報酬
役割に応じてどの程度の報酬がもらえるかも社員の大きな関心事です。
人事制度のある会社であれば、等級に応じた報酬レンジや、給与テーブルがあるはずです。
その情報をある開示することで、自分の役割が上がったときの報酬目安を想定することができ、目標への原動力につながります。
まとめ
社員から「先が見えない」「キャリアプランが見えない」という声が出ることがあります。
この問いは、問い自体がズレてしまっているので、正しいキャリアの考え方を伝え、望ましい方向へ導いていく必要があります。
キャリアステップを登山に例えると
「先が見えない」「キャリアプランが見えない」という人は、何歳で何合目のどのルートに到達しているかを知りたがっています。
しかし、途中でどんな天候になるか、個々の体力はどの程度か、登山の装備は万全か、といった諸条件により、いつ何合目に到着できるかという保証はできません。
社員に伝えるべきは、何合目にどのような場所があるかということと、そこに到達するためにはどのような準備や道具や体力が必要かを教えてあげること。
さらに必要な準備をするための後押しをしてあげるのが会社の役割ではないでしょうか。
「いつ何合目のどんな場所に到達するかはあなた次第です!」と明確に言い切り、キャリア自律を促すことが、これからの時代に皆が幸せになるための出発点です。
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