「一人当たりの 採用コスト 」の新常識|採用の費用対効果を測る5段階検証法

2023.10.20

 
採用市場は長らく売り手市場が続いており、企業にとっては 採用コスト が大きな負担となっています。

少しでも採用コストを引き下げようとさまざまな手段を試していますが、採用の費用対効果検証は「数字のマジック」に要注意です。
 

例えば、有料求人媒体に年間500万円を使い、以前は10人しか採れていなかったのが、15人とれるようになれば、採用コストは50万円/人から33.3万円/人に下がり、一見下がったように見えます。

「採用コストが下がった」と喜んでしまいそうですが、実際はこれだけを見て「下がった」と言い切ることはできません。 
 

今週のブログでは、採用コストを適切に分析するための5段階の検証方法についてお伝えします。

 

採用コストの整理

 

採用にかかる費用には直接・間接含めて主に以下のコストが考えられます。
 

直接採用コスト(求人媒体掲載や人材紹介会社への掲載料や成功報酬など)

採用実務担当者の人件費採用代行会社への外注費(外注している場合)
※求人票作成、媒体のスカウト、応募者対応、面接日程調整、入社サポート等の実務を行うためのコスト

面接官の人件費
 

さらに、人材を採用して戦力化するまでの間に以下のコストがかかってきます。

教育コスト
 

1人の人材を採用して教育して戦力化するまでには長い道のりとさまざまなコストがかかっていることが理解できると思います。

では上記のコストをどのように管理していけばいいでしょうか?

以下、5段階の採用費用対効果検証方法についてお伝えします。
 

 

第1段階:直接採用コスト 

 
有料求人媒体への掲載料、人材紹介会社への成功報酬など、外部に支払った費用の合計額を採用人数で割って算出します。
 

  • 有料媒体掲載に500万円を投資して10人採用
  • 人材紹介会社経由で5人採用して合計の成功報酬額が600万円
     

合計1,100万÷合計15人=73万円

 
これが第一段階における採用コストです。

 

第2段階:採用実務担当者の人件費+採用代行会社への外注費

採用コスト

 

採用業務では細かな業務がたくさん発生します。
 

  • 募集する人材のターゲットについて関係部署と打合せ
  • 求人票の作成
  • その内容に基づいて有料求人媒体や人材紹介の担当者と打合せ
  • 応募に対して返信を書く
  • 書類選考
  • 面接日程の調整
  • 有料媒体でスカウトをうつ
  • indeedで求人がweb検索で表示されやすいよう記載内容をチューニングする

・・・など
 

仮に上記の仕事を採用実務担当者1名が業務時間の70%を使って担いつつ、応募者受付対応やスカウトなどの業務を外注しているとしたら、費用はこのように算出します。
 

  • 担当者1名の人件費年間400万円×1.5(※)
    (※ 社保、事務所、備品、光熱費等の社員諸経費として人件費の50%を加える)

    =600万円

    600万円×70%=420万円
     
  • 外部の代行会社への支払い=月30万円×12か月=360万円
     

合計780万円

 

第1段階の費用と合算

1,880万円(1,100万円+780万円)÷15人=125万円

 

第3段階:面接官の人件費

 

採用選考プロセスでは、採用する部署の上司の面談、その後の最終面談が入るのが一般的です。

仮に今回のケースでは、1次面接が職場の直上司にあたる人、2次面接がその部署の部長だとすると、それに要するコストが以下のように算定できます。

採用数15人の場合の面接数を実際の歩留まりに合わせて計算することになります。
 

(今回のケース)
 

採用15

最終面接数は45(最終面接3人に1人が入社に到達)

1次面接数は135(1次面接3人に1人が最終面接に到達)
 

さらに以下の前提を実態に合わせて算出します。
 

  • 面接時間:1時間程度
  • 部長の人件費:年収800万×1.5÷年間所定労働時間2,000時間=6,000円/時間
  • 直上司の人件費:年収600万×1.5÷年間所定労働時間2,000時間=4,500円/時間

 

以上により、
 

  • 部長のコスト=面接45人×1時間×6000円=27万円
     
  • 直上司のコスト=面接135人×1時間×4500円=61万円
     

合計88万円

 

第2段階の費用と合算すると、
 

1,968万円(1,880万円+88万円)÷15人=131万円

 

以上が採用活動にかかる費用の合計です。

 

第1段階の外部に支払う採用費だけの採用単価は73万円でしたが、その他の社内業務コストなどを足すと131万ということで、倍近くかかっていることが分かります。

採用コストを引き下げる議論をする場合、第1段階の費用対効果検証はどこの会社でも行っていますが、第3段階までは意外とできていない場合があります。

第3段階まで含めた採用コスト全ての検証も欠かせません。

 

第4段階:教育コストも考慮

 

1人の人材を採用しても、即戦力の中途採用以外は教育に相応のお金がかかります。
 

「うちはOJTしかやっていないのでお金はかかりません」

 
こうおっしゃる方もおられますが、OJTのために上司や先輩社員が費やしている時間(コスト)を忘れてしまっています。

それも含めて算出してみましょう。

 

仮に今回のケースではOJTしか行っておらず、チーフクラスの社員が自分の仕事の1割程度の時間を使って6ヶ月かけて指導すると仮定します。
 

  • 月間人件費: チーフクラス年収400万円×1.5÷12か月=50万円
  • 指導コスト: 50万円×10%×6ヶ月=30万円

 
指導コスト合計: 30万円×15名=450万円

新規採用した15名の指導に合計450万円の費用がかかっていることがわかります。
 

第3段階の費用対効果検証にこれを合算すると
 

2,418万円(1,968万円+450万円)÷15人=161万円

 

以上が、15名を採用して半年かけて戦力になるまで指導するコストも入れた、1人当たりの採用単価です。

 

第5段階:早期離職者も考慮した採用コスト

 

最後の第5段階の採用コスト検証は、早期離職も踏まえたコストを測定します。

ここまで含めて費用対効果を算出している会社は滅多に見ませんが、早期離職者が多い会社ではこの検証が不可欠です。

 

例えば今回のケースで、15名新規採用したうち、20%にあたる3名が1年以内に離職するとします。

1年以内に離職ということは、教わる時代を経ていよいよ戦力として貢献し始める前に離職しているので、その人の採用+教育コストが全て無駄になったと言っていいでしょう。
 

言い方を変えると、15人採用したうち3人は途中離脱し、12人のみが社員として貢献する状態に至ったということです。
 

具体的な採用コストで考えた場合、第4段階で以下のように算出した
 

2,418万円÷15人=161万円
 

これを15人ではなく12人で計算します。

 
2,418万円÷12人=201万円

 
1人当たり採用単価が161万円から201万円に跳ね上がりました。

この201万円という数字はどのように解釈したらいいでしょうか?
 

例えば、社長が

「当社で社員が1人辞めたら、その穴埋めの採用にいくらかかると思っていますか?」
 

と問いかけた場合、直接の採用費だけならば第一段階の73万円です。
 

しかし採用プロセスにかかる費用、入社後の教育費用、そこまでお金をかけても離脱する人のコストまで入れたトータルで考えるべきです。

よって「201万円かかります」という回答が正しいです。
 

201万円をかけないと、穴埋めとして人を採用して1人前に育てることができません。

加えて、ここでは算定していませんが、社員の離職から欠員補充して教育完了するまでの期間の機会損失まで含めると、もっと投資額は大きくなります。

よって、社員には「人1人辞めたら、最低でも201万円、さらに+機会損失という莫大なお金がかかるんだよ」と伝える必要があります。

 

まとめ

 
採用の売り手市場が続く中、企業の 採用コスト 負担が重くなっています。

採用コストの引き下げが1つの課題になっていますが、採用コストは複眼的に捉える必要があります。
 

有料媒体への掲載料などの外部に支払う直接採用コストの引き下げは勿論必要な観点ですが、直接採用コストを引き下げても入社後の離職が増えてしまっては、全く意味がありません。

入社までにとどまらず、入社後まで含めたトータルコストを下げられているか?という観点が必要です。
 

“採用にかかるコスト”ではなく、“採用して戦力化するコスト”という広い視点で考えてこそ、本当の意味での費用対効果が測れます。
 

「社員が1人やめたら、その補充にいくらかかるか?」を考える時に、採用費だけで議論するのではなく1人前に育つまでのコストを加味することと同義でもあります。

 
ぜひ5段階の費用対効果検証で、自社の採用上の課題を考えてみてください。 

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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