人材育成の方法(前編)人材が育つOJT の5つの要素

2020.06.18

 
人材育成に悩んでいる企業はたくさんあります。

「どんな研修をやったらいいですか?」

と相談を受けることもあります。

 

中小企業は予算がなく「なかなか人材育成ができない」という声を聞きますが、

中小企業であっても十分に人材を育成できます。

今回はその具体的なやり方についてお伝えします。

 

人材育成=研修とは限らない

人材が育つOJT

 

人材育成というと、外部講師を呼ぶ「研修」をイメージされがちです。

しかし、優れたビジネスパーソンが皆、研修を受けているとは限りません。

ではビジネスパーソンは何から学んでいるのでしょうか?

 

米国のLominger(ロミンガー)社による有名な調査で「70-20-10の法則」があります。

これは、リーダー人材達が過去に何から学んだか聞いたところ、このような結果になったというものです。

 

  • 実際の仕事の経験  70%
  • 他者(※)からの学び  20%
  • 研修  10%

 

※「他者」:上司、先輩、同僚、メンター、コーチ、ロールモデル、その他話を聞いた第三者など

 

 

この比率は恐らくあなたの肌感覚にも近いのではないでしょうか。

10%に相当する研修も有効な手段ではあります。

しかし何より大事なのは、70%を占める「仕事の経験」による学びです。

日常の仕事の中でいかに育てるか、つまりOJTの学習効果をいかに高めるかということにほかなりません。

 

人材育成を行う企業はOJTの中身を注視すべき

 

ただし、この“OJT”というのが曲者です。

【 とりあえず現場に放り込めば勝手に育つ = OJT 】

というような感覚を、お持ちではありませんか?

確かに現場に放り込むのは事実ですが、放り込まれる先は一体どんな現場でしょうか?

 

現場の方を基準に考えてみると

放り込むと人が育つ現場もあれば、人がなかなか育たない現場もあるということです。

 

新卒の学生が入社してきた場合を想像してください。

新人が働く環境を2つのパターンで対比してみます。

 

先輩社員が一生懸命働いているVSやる気がなさそう
仕事の目的や役割が明確VS目的や役割が曖昧
参考にする先輩や基本手順があるVS参考にするものが何もない
自分の成長や課題に気づく機会があるVS気づきの機会がない
上司や周囲が関心をもってくれるVS上司や周囲が無関心
仕事が単純VS頭を使って工夫する余地がある

 

あえて両極端のパターンで比べてみましたが、どちらの環境の方が人が育つでしょうか?

70%を占める“実際の仕事の経験”における育成効果を高めるには、現場での仕事のさせ方や環境が非常に重要な要素になります。

 

人材育成が加速するOJT現場とは?

 

仮に同じ能力を持った2人が同時期にそれぞれ転職し、医療機器の営業を開始したとします。

Aさんはa社にて、Bさんはb社にて。

担当する業務は一見同じですが、3年後の成長ぶりに大きな差が出ました。

差が生じる主な理由は、70%を占める実際の仕事の経験の“質”と“量”にあります。

医療機器営業という同じ仕事であっても、どのように仕事をするかという質と量によって、成長度合いが大きく変わるのです。

では実際の仕事を通じた(OJTでの)育成効果を高めるには、どのような観点を意識したらいいでしょうか。

 

1.  仕事の難易度/工夫の余地

 

仕事で頭を使い、工夫、改善する機会がありますか?

 

例:a社Aさんの場合

トラブルの多い難しいお客様を担当し、関係づくりから提案まで相当な工夫が求められます
新規開拓営業の仕事もあります。

詳しい業務手順書があります。

a社では手順を守りつつ、その手順が実態に合わない場合は柔軟に変更が可能。かつ手順書を顧客ニーズに応じてブラッシュアップすることが求められます。

 

例:b社Bさんの場合

安定取引の続く既存顧客のサポートが中心で、あまり頭を使う場面がありません。

詳しい業務手順書があり、b社ではその手順を遵守して進める事が求められます。

 

さて、AさんとBさんの3年後はどうなっているでしょうか?

 

2. 仕事の面白み

 

仕事はしんどい事もたくさんありますが、仕事のおもしろさに気づいた人は強いです。

仕事をおもしろいと思った人は、他人が強制しなくても勝手に自ら知識を吸収し仕事のやり方を改善し、成果を上げていきます。

つまり仕事のおもしろさを本人に気付かせてあげられるか否かは大きな分かれ道と言えます。

そこには、先輩社員が仕事を楽しんでいるかどうかなど、企業文化の影響も大きく関係しています。

 

3. 目標と測定

 

本人が心の底から目指そうと思っている目標はありますか?

あなたの会社の社員は「今年はこういう事をやり遂げたい、達成したい」という目標があり、それに向かって努力しているでしょうか。

もし与えられた目標があったとしても、本人がそれを目指す気がなければ意味がありません。

目標は、それが高いか低いかということより、自分の思いと納得感が重要です。

人に言われたから嫌々目指す目標ではなく、自分自身が目指すべきだと思える目標が頑張る原動力となります。

目標を立てたら、その測定も重要です。

定期的に目標の進捗状況を測定し、何が不足しているか、何を改善するか考える場が欠かせません。

 

4. 他者からのフィードバック

 

あなたの会社の社員は、他者からフィードバックをもらう機会がありますか?

自分の仕事ぶりを客観的に見るのはなかなか難しいことです。

例えば、こんなこともあります。

 

  • 顧客に良かれと思ってしているサービスが実は嫌がられている
  • 周囲に配慮しているつもりが、まわりからは全然そう思われていない
  • 自分では効率良く仕事していると思っているのに、実は同僚と比べて最も業務効率が悪い

 

こういう気付きは、他者が指摘しない限りなかなかわかりません。

 

  • 叱咤激励
  • 客観的な意見
  • 具体的な指導

 

などなど、他者のフィードバックを普段の仕事の中で得られることに意味があります。

年間まとめて1回というよりは、日常の中で小さなフィードバックがたくさんある方が効果的でしょう。

(間が空くと、伝える方も忘れてしまうので)

 

5. 経験の量

 

Aさんは年間200社の社長に提案を行っています。

一方のBさんは年間50社だけ。

1年も経てば、顧客の理解力、提案力、得られる情報など全てにおいて、AさんがBさんを凌駕するはずです。

今の時代は働き方改革等の一環で残業がしづらくなっているのは確かですが、

仕事の能力は経験の“量”に比例する側面があることは否定できません。

特に経験値が浅い人が仕事を覚える段階では「質より量」であることを忘れてはいけません

 

人が育つ仕事環境をつくることが人材育成の近道

 

ビジネスパーソンは仕事そのものを通じて育ちます。

従って日々の仕事をどのようなやり方で行うかによって、人の成長は大きく左右されます。

 

OJTと称して単に現場に放り込むだけでは、人が育つとは限りません。

先に述べた5つの観点を備えた現場にぜひ放り込んでいただきたいと思います。

 

今回は70%の「実際の仕事の経験」について考えていただきました。

次回の後編では、20%の「他者からの学び」について、効果的な人材育成の方法をお伝えします。

 

後編はこちら

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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