企業の変革の必要性が叫ばれるようになって何年経つでしょうか?
バブル崩壊以降の30年近い年月の中で度々言われてきたので、「変革」という言葉自体が日常的な用語になり過ぎ、本当の意味で「今変わらねば」という迫力が感じられない企業が多いように思います。
あたかも岸田政権の曖昧模糊とした経済政策が醸し出すような「具体性と戦略性と実行プランが不在」の状態です。
この2年間はコロナ防戦で先を考える余裕がなかったかもしれません。
見方を変えれば、本来早く変革すべきだったタイミングにコロナ禍が来たため、変革が先送りになったケースもあると思います。
今回のブログでは、中小企業の課題とともに中小企業の経営者がこの先真剣に向き合うべき構造変革の問題についてお伝えします。
目次
共通する「 中小企業の課題 」
私が様々な中小企業のお客様の現状に向き合ったり、ご相談を受けたりする中で、「歴史ある中小企業の問題の本質はほとんど同じ」だと感じています。
概ね次のような状況です。
- 戦後から高度成長期に至る過程で、先々代や先代が何らかのきっかけで下請けとしての仕事を開始
- お客様の要望に必死に食らいついていく過程で徐々に事業基盤が確立
- 経済成長と共に事業が拡大。創業家としてもそれなりの財産を蓄積
- バブル崩壊以降お客様の成長が鈍化。値下げ圧力が高まり収益力が悪化
- 市場環境の変化、顧客ニーズの変化、テクノロジーの変化に対応遅れ
- 規模が小さく競合との差別化がないため、価格競争に埋没
- 社員の高齢化と若手人材の採用難が進行
- デジタル化投資がノウハウ不足と財源不足で進まず生産性が低迷
- 新規事業、新商品、海外展開等が思うように進まない
- 財務内容の悪化
- 社長/幹部社員の高齢化、事業承継などの課題が同時進行
今「中小企業で元気な会社」というと、IT関連、半導体やEVなどの成長産業に連なる会社、またはコロナ特需系や、時代に合わせて業態転換を図った会社などでしょうか。
高度成長期はどの業界に属している企業も成長機会に恵まれましたが、今は業界全体が伸びているところは少ないので、他力本願ではなく自助努力で成長を掴むしかありません。
インバウンド景気は徐々に回復は見込めるものの、ただ待っていてもいつになるか分かりません。
戦略を描いて自ら切り込んでいく会社こそが、荒波を乗り越えていけると思います。
さらに立ちはだかる荒波
さらに悪いことに先の厳しい状況に対して、コスト増という荒波が押し寄せてきます。
人件費増
既に最低賃金は過去数年上がり続けています。
今後の人件費は上がることはあっても下がることはないでしょう。特にいい人材の採用には相応の投資が必要になります。
既に大卒新入社員の給与格差は月収20万円〜60万円くらいまで差がつくようになりました。
成長力のあるベンチャー企業の給与水準は大企業並みに上がってきています。
2021年12月の派遣社員の募集平均時給は、三大都市圏で前年同月比39円(2.5%)増の1632円で、最高水準を更新しました。(エン・ジャパン調べ)
働き手に1632円払うということは、企業が派遣会社に支払う時間単価は2200円~2300円です。
様々な領域で人件費は増加傾向にあり、特に専門性の高い人材、事業推進人材やマネジメント人材の人件費はどんどん上がっていくでしょう。
仕入れコスト増
爆食中国が食糧輸入大国に転じたことを主因に、食料の価格上昇が激しく、我々消費者にも目に見える影響が出ています。
当面続く世界の人口増加や途上国の経済発展により、資源や資材の価格も上昇圧力が続くでしょう。
物流費もエネルギーコストも上がる一方です。
日本に来る外国人旅行客が日本の物価の安さにびっくりするということは、円が弱っている証拠であり、円で行う買い物は苦しい戦いを強いられます。
人不足とモノ不足
上記2つのコスト増は単にコストの問題だけではありません。
価格高騰は需給バランスが崩れることを意味しているので、労働市場においては人材供給不足で「人が全然採れない」、資材市場においては「必要な材料が買えない」という、事業を回せなくなる事態も想定しなければなりません。
中小企業は未来に向けて何をするべきか?
ここまで目がクラクラするような話が続いて申し訳ありません(笑)
しかし誇張しているつもりもありません。
あなた自身も日々の仕事の中で、生活の中で感じられていることだと思います。
冒頭にお伝えした中小企業共通の課題は、長い年月をかけてじわりじわりと今の困難な局面につながってきました。
依然コロナの影響はあるものの、その先を見据えた打開策はもう先延ばしはできない時期にきています。
今は事業再構築を考える最終コーナーと言えるのではないでしょうか。
この局面においてまず最初に行うべきは、「自社の成り行きの未来を正しく把握すること」です。
「今の状態に対して特段の大胆な打ち手をせず日々の現場対応を繰り返した先」に待ち受ける未来を把握するのです。
業界動向、主要取引先動向などからある程度売上の予測ができると思います。
経費、人件費も同様です。
社員の高齢化で技術伝承が危うくなり、後任の人材が確保できないリスク等も考えます。
自動車業界のCASEの波のように技術革新で需要が丸ごと消失する業界もあるかもしれません。
この予測を楽観、中立、悲観で立ててみましょう。
それによって、自社の未来に向けて今何も手を打たなくていいのか、または本気で企業変革に取りくむべきかが見えてくるでしょう。
中小企業は改めて「強み」を知ろう
では、いざ企業変革を進めるとなった時に何をすればよいでしょうか?
その判断の根拠となるのは自社の「強み」です。
長年下請けを続けてきた会社の社長に尋ねると、多くの方は「うちの会社は特に強みはないなあ」と仰ります。
それは本当でしょうか?
人が自分のいい所に気づいていないように、会社も同様です。
だから取引先や仕入先、同業他社などに聞いてみてください。
客観的な視点を持つ第三者と議論してみるのもいいでしょう。
自社の強みがどこにあるのか?
- 商品力?
- 技術?
- 社員のノウハウ?
- コスト競争力?
- スピード?
- 変化対応力?
- 戦略/戦術?
- 企業文化?etc.
これを見きわめることが、変革の一手を考える大きなヒントとなります。
中小企業の議論には外部人材を入れる
強み把握や変革の議論においては、社内の人材だけで話し合ってもあまり新たな視点や拡がりが出てきません。
「変革の担い手は、よそ者、若者、バカ者」という言葉があるように、多様な人材の視点を入れて議論してください。
外部の視点は重要です。
変革の実行者にも、そのような外部からの人材を入れた方がいいでしょう。
中小企業の戦略とは?
中小企業は創業以来戦略がないまま今に至っているケースが多くあります。
時代背景として、戦略を特に考える必要がなかったとも言えます。
それは、「元々ご縁のあった顧客のために一生懸命商品・サービスを提供し、その商品・サービスを別の顧客が興味を持ってくれて売上を増やしてきた」という発展形態が多いからです。
しかし、今後戦略を立てるということは、自ら顧客を選び、市場を選び、そこに商品・サービスを提供しながら競争優位性を作っていくことです。
今まで戦略を立てなかった会社も、今後の変革においては戦略が不可欠です。
改めて戦略とは何か?ということについて、参考までに幾つかの定義を記載しておきますので参考にしてください。
戦略とは?
企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく構造化されたアクション・プラン
グロービス
一定の目的のため、顧客を絞り、自社の強みを用い、競合より安い、またはより価値のある商品サービスを提供するための将来に向けた計画
清水勝彦
自分が将来達成したい姿を描き、それを達成するために自己の経営資源と自分が適応すべき経営環境とを関連付けた地図と計画のようなもの
沼上幹
いかに競争に成功するか、ということに関して一企業が持つ理論
Peter F. Drucker
今の時代ならではの追い風
今置かれている環境の厳しさの一方で、実は中小企業にめぐってきた多くのチャンスもあります。
それは人材です。
いい人材を社員として採用するのは益々難しくなりますが、過去はあり得なかった人材の活用方法が、今はあります。
コロナ禍で加速した多様な働き方です。
- 優秀な人材が本業の傍らで週に1日程度、副業で地方の中小企業を支援する
- 優秀な人材が独立しフリーランサーとして様々な企業の仕事を同時進行的に請け負う
- プロフェッショナル人材を顧問として一定期間活用する
- 都心在住の人材を地方企業が(例えば週3日オンライン勤務の社員として)雇用する
- 退職する社員と契約して、週2日程度の業務委託で継続してもらう
- スポットコンサルなどを活用し専門家の知見を手軽に収集する
このような様々な人材活用の方法が近年加速しており、優秀人材の正社員採用が難しい中小企業にとっては大きなチャンスとなっています。
まとめ
長い年月をかけて歩んできた中小企業の多くは今試練の時を迎えています。
厳しい現実は多々ありますが、ピンチの裏には必ずチャンスがあります。
今は現状を見つめ直し強みを再定義した上で、時代に合わせた新しい姿をデザインするラストチャンスと言っていいでしょう。
日本の経済を支えてきた中小企業が新たな形で生まれ変わる。
その未来を信じて進んでいきましょう。
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