採用面接 はなぜ失敗するのか【前編】~採用担当者の判断を曇らせる「信じすぎ問題」とその克服法

2024.12.12

採用面接 

採用において、慎重に面接を重ねたつもりでも、いざその人が入社してみたら「期待値に遠く及ばない」ということは少なくありません。

特にミドル層や幹部層などの採用は、失敗した場合のリスクが大きいので、採用する側は慎重に進めますが、それでも上手くいかないケースがあります。
 

その原因は大きくわけて2つに集約されます。

1つは面接のやり方の問題です。面接で相手の能力や行動をしっかり見極めることができていません。

もう1つは企業カルチャーとの相性です。相手に能力があったとしても、自社のカルチャーに合うか合わないかのジャッジが疎かになっています。
 

今週のブログから3回シリーズにて「採用面接で相手の能力および適性を見極められない原因と対策」についてお伝えします。

今回(1回目)は、面接で採用担当者の目を曇らせる「信じすぎ問題」とその対策を見ていきましょう。 

 

採用面接 で能力を適切に見極められない原因

 

ミドル層幹部層の採用では、候補者の業務経験が豊富なため能力を見極めやすいように思えますが、それほど簡単ではありません。

 
実際には「面接ではとても有能に見えた人が、いざ入社してみたら期待外れだった」ということが起こり得ます。
 

その原因はさまざまですが、採用担当者の判断力を曇らせる「信じすぎ」の問題は大きな要因の1つです。

 

採用担当者の判断力を曇らせる「信じすぎ」問題

 

1 エージェントのセールストークを信じすぎる

2 職務経歴書を信じすぎる

3 在籍企業名や肩書きのバイアスにとらわれる
 

これらの課題について詳しく見ていきましょう。

 

エージェントのセールストークを信じすぎる

採用面接

 

採用プロセスにおいて、エージェント(人材紹介会社)からの紹介は有力なチャネルです。

しかし、エージェントが推薦する理由をすべて真に受けるのは危険です。

 

エージェントが企業に紹介するとき、候補者のことを

「Aさんは前職で非常に高い評価をされ、実績十分。御社にぴったりの人材です」

というように売り込んできます。
 

それ自体はエージェントの仕事でもあるので何ら悪いことはありません。

とはいえ、採用する企業側としてはこれを「参考情報」程度に扱い、過信しないことが重要です。
 

エージェントにもよりますが、たくさんの候補者1人1人とじっくり面接した上で企業に推薦しているとは限りません。

仮に面接していたとしても、候補者の人物を正しく見極めるのは容易ではないため、

エージェントも候補者の真の実力や適性は分かっていないと考える方が賢明です。
 

エージェントのセールストークを信じすぎる問題点は、面接の開始時から「Aさんは優秀な人材に違いない」というバイアスを持ったままスタートすることになるので、面接官としての判断力を鈍らせる恐れがあります。

 

職務経歴書を信じすぎる

 

職務経歴書は候補者の魅力を最大限引き出すべく作成されたものです。

エージェントから書き方指導なども受けているので、非常によくできています。

しかしそこに書いてあることを文字通り信用するのは危険です。

 

実績について

例えば、Bさんの職務経歴書に

「医療機関からの大型プロジェクトの受注実績が豊富 累計●億円の実績」

と記載されていても、それが実際にBさん個人の能力であると評価することはできません。
 

Bさん個人の力で受注したのか、上司が主導する営業の補佐的にBさんが関わっていたのか、部下の受注を後方支援していたのか・・・

その詳細までは職務経歴書からは伝わってきません。
 

さらに言えば、Bさんの会社の商品力がものすごく高かった場合、誰が営業しても受注できた可能性もあります。

あるいは、対象医療機関との長年の深い取引関係がその成果を後押ししただけかもしれません。
 

このように、Bさんのチームの状況、顧客の状況、商品力など様々な周辺情報が分からない限り、職務経歴書からその人の能力を判断することは難しいのです。

 

根拠について

職務経歴書にはしばしば

「社内表彰を受賞」

「業務プロセス改善により生産性を30%向上させた」

といった記載があります。
 

これは、社内での表彰などをできるだけ職務経歴書に書き、数字であらわせるものは数字で表記するようエージェントの指導もあるからです。
 

しかし、社内表彰はそのレベル感(難易度が高い賞なのか否か?)が分かりませんし、本当にその表彰を受けたかどうかは証明しようがありません。

生産性向上について30%改善したと書かれていたとしても、どのような根拠の30%なのか、詳細な計算式がない限り、その価値はわかりません。

本当に30%改善したかの証明もしようがありません。

 

以上のように、職務経歴書はそのまま評価できる情報ではありません。

あくまで「ざっくりこういう仕事をしてきた方なのだな」という大枠の理解に使用し、詳細な能力評価は別のプロセスで行いましょう。

 

在籍企業名や肩書きのバイアスにとらわれる

 

在籍企業名

誰もが知っている有名企業に在籍していた人だと、ついつい「優秀な人材なのでは?」というバイアスが入ってしまいます。

ごくごく一部の人材輩出企業と言われるような企業であれば多少はそのバイアスを持っていてもよいかもしれませんが、

ほとんどの場合、名の知れた企業に在籍していたことと本人の能力には相関がないと思った方がいいでしょう。
 

特に、誰もが知っている企業を短期間で転々としている人は要注意です。

ブランド力のある企業を好む傾向があるのと同時に、どこにいってもコア人材になれていない可能性があるため、こうした経歴の背景を慎重に精査する必要があります。

 

一方で、全く聞いたことがない中小企業にも優秀な人材はいます。

中小企業の方が経営者に近い上、若いうちから責任ある仕事をまかされている場合も少なくありません。
 

これらの背景を考慮し、企業名などに左右されることなく候補者を公平に評価する姿勢が重要です。

 

 

肩書き

肩書きについても同様に注意が必要です。

「役員」という肩書きを持つ候補者が必ずしも優秀な人材とは限りません。

相対的には優秀な部類に入る可能性は高いですが、それもあまり信じ込まない方が賢明です。
 

例えば、社内の派閥争いがある会社などは、運よく新社長の派閥に入っていれば、取り巻きの1人として役員に任命されることもあります。

この場合、仕事の能力はほとんど関係なく、新社長への忠誠心が高かったか、ゴマすりが上手か、などが影響しています。
 

長年会社で頑張ってくれた論功行賞として役員に任命されるケースもあります。

この場合、その人が長年貢献されたのは間違いないですが、役員たる能力を備えているかどうかは別の議論です。
 

また、会社によっては通常の会社でいう部長クラスに対外的な重みを持たすために執行役員と名づけているケースもあります。

このような背景を理解し、あまり肩書きで候補者を判断しないよう注意しましょう。
 

役職名はとくに実際の職務内容や能力を正確に反映していない場合があります。 

「課長」としてメンバー5人をマネジメントしていたとしても、実際は個人としてのプレイヤー業務に90%以上力を注ぎ、本来のマネジメントはほとんどしてないというケースもあります。

管理職だからといって、マネジメント力が備わっているかは別問題。ここも注意が必要です。

 

管理職としての実力を見極めるための面接質問例

 
候補者の管理職としての経験を深く掘り下げるには、以下のような質問が有効です。
 

管理職としての1週間の業務の時間割をざっくり教えてください

管掌組織の目標は何ですか?

それを分解した部下人の目標は何ですか?

部下の目標と組織全体の目標達成のために何をやっていましたか?

部下の進捗管理は、どのようなやり方(会議、レポート、ホウレンソウなど)で行っていましたか?

進捗が思わしくない時はどうしていましたか?

部下の育成はどのようにやっていましたか?

部下の特徴、課題、あなたの指導法を教えてください。

 
などなど

 

在籍していた企業名や肩書きにとらわれることなく、面接の場で冷静に実力を見極めていきましょう。

 

まとめ

今回は採用面接における「信じすぎ」の問題に焦点を当て、それぞれの背景と対策をお伝えしました。

しかし、これらのバイアスを取り除くだけでは候補者の本当の能力を見抜くにはまだまだ不十分です。
 

採用の成功には、面接プロセスそのものを見直し、具体的な改善を加えることが必要です。

例えば、面接でどのように質問を組み立てるのか、限られた時間でどこに重点を置くべきなのかといった、面接の進め方そのものが重要な要素となります。
 

中編(2回目)では、こうした面接プロセスに隠された課題を掘り下げ、その改善策について詳しく見ていきます。

お楽しみに!

 

 

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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