採用面接はなぜ失敗するのか【中編】〜当たり前と思ってきた 選考手法 から脱却し、精度を高める秘訣

2024.12.20

採用面接はなぜ失敗するのか? 選考手法

前編では、採用面接における「信じすぎ」の問題に焦点を当て、採用担当者の判断を曇らせる3つの課題について解説しました。
 

 
中編では、さらに踏み込んで、選考手法そのものに潜む問題点と改善のポイントを掘り下げていきます。
 

特に、以下の4つの課題に注目します。

1. 経歴を一通りなめるだけの面接をやってしまう

2. 短い面接時間で見極められるという幻想

3.「〇〇の業務はできそうですか?」と未来のことを聞く

4. 基本能力のチェックが漏れる
 

これらは、採用の精度を大きく左右する要素です。

それぞれの課題について詳しく見ていきましょう。

 

経歴を一通りなめるだけの面接をやってしまう

選考手法

 

採用面接でのよくある進め方が、職歴順に業務内容やポジションを聞いていく方法です。

このやり方自体が悪いわけではありませんが、転職回数が多い候補者の場合、この確認だけでかなり時間がかかってしまいます。
 

さらに、候補者側もこのような面接をされることを想定しているため、流暢によどみなく回答してくることでしょう。

候補者にとっては自分の伝えたいことを自在に伝えやすい面接です。
 

結果として、面接が予定調和となり「候補者がアピールしやすいだけの場」になる恐れがあります。 

 

 

ではどうすればいいのでしょうか?

職務経歴の全てを網羅的に確認する必要はなく、2社程度に焦点を絞ることです。
 

ポイントは

  • 直近の会社の中から経歴上、特に重要な2社を選択する
  • その2社での経歴を深く深く聞く

 
( 新卒で最初に入った会社に関して簡単に確認することは有用です。最初の会社の仕事の習慣や癖がその後のキャリアに影響を与えるケースが多いためです。)
 

経歴を聞くときは、候補者が当時その会社で働いていた日常風景が目に浮かぶくらい、解像度を上げて質問をしていきましょう。
 

質問の例

 
社風や職場の特徴

業務内容(1週間、1ヶ月の具体的なサイクル、実際にやっている仕事の中身)

業務上の課題と取り組み

上司はどんな人か

部下の人数や各々の特徴

関わる他部署はどのような組織か

関わる外部主要取引先はどのようなところか

出社とリモートの頻度

何に責任をもっていたか?

レポートライン、レポートの仕方は?(よく使うコミュニケ―ション手段)

マネジメントスタイルは?(上述の質問回答などを活用)

成果を出した仕事の成功要因、成果におけるその人の役割、苦労、乗り越え方

上手くいかなかった仕事の背景、理由、その人の役割、学んだこと

上司からの業績評価結果、その理由、改善すべきと指摘されたこと

 

短い面接時間で見極められるという幻想

中途採用の選考では、書類選考→1次面接→2次面接というのが最もポピュラーで、1回あたりの面接時間は約1時間が相場になっています。

これを仮に「定番選考手法」としましょう。

 
この定番選考手法は誰が決めたのでしょうか?

実は多くの場合、何となく過去からの習慣で定番面接手法が採用されているにすぎません。

しかし、この面接方式が、良い人材を見抜く上で最適なやり方だと証明されたことは恐らくないでしょう。

「定番選考手法」が本当に最適なやり方なのか、改めて振り返る必要があります。

 

時間

 
相手の仕事の能力を見極めるのに、本当に1時間で足りるでしょうか?

会社によっては面接に加えて食事の場をもうけたり、職場の同僚数人に順番に面接してもらう会社もあります。

やり方に正解はありませんが、重要なのは職種やポジション、会社の状況にふさわしい面接時間や方法を確立することです。

 

面接回数

 
面接回数を多くするとエージェントから「他社より選考スピードが遅いと採用できません」と指摘されるかもしれませんが、それを理由に選考を急ぐ必要はありません。
 

候補者にとって、面接回数が多いのは面倒である反面

「じっくり自分の事を見極めてくれている」(=入社後のフィット確率が高まる)

というポジティブな側面もあります。
 

急いて採用に失敗してしまったら、コストも時間も膨大な損失となります。

他人に惑わされず、自社にとって最適な選考プロセスとは何かをしっかり考えてみましょう。

 

「〇〇の業務はできそうですか?」と未来のことを聞く

 

面接官「〇〇の業務はできそうですか?」

候補者「これまでの経験を活かせばできると思います」
 

さて、このような質問と回答で何か有意義な情報が引き出せるでしょうか?
 

このやり取りだけでは、実際に「〇〇業務ができるかできないか」を判断する根拠は得られません。

なぜなら、候補者は「できません」と言ったら採用されないので「できると思います」と言う以外に回答をしようがないからです。

 

具体例を示します。

前職で人事部に在籍し、労務管理などを担当していたCさんが面接に来ました。

採用企業では「今後人事制度の見直しを進めたい」と思っており、それができる経験者を探しています。
 

そこで面接官がこう質問します。

「労務管理を経験され、当該企業の人事制度なども理解していたと思うので、当社に入ったら、その経験も活かして人事制度の見直しをお願いすることになると思います。Cさん、この業務はできそうですか?」

Cさんが回答します。

「制度自体をつくった経験はありませんが、基本的知識はあるので、できると思います」

 

さて、この回答を聞いた面接官はCさんの業務適性についてどのように判断できるでしょうか?

冷静に考えてみれば、このやり取りだけでは「実際にできるかできないか」は全く判断できないということがわかると思います。
 

 

効果的な質問の例

 
Cさんが「人事制度の見直し」という具体的業務をできるかどうかを見極めるためには、実際にCさんが担当してきた労務管理と人事制度設計の仕事の違いを抑えた上で、以下のような質問が必要です。
 

Cさんが在籍した企業の人事制度はどのような特徴がありましたか?

その制度の良かった点と課題は何ですか?

 ➡︎もしCさんがその課題の見直しを担当していたら、どのような制度変更をしたと思いますか?

当社で人事制度の見直し作業を進める場合、どのような点が難しいハードルだと考えますか?

Cさんから見て、当社のような業態で人事制度を設計する際、どのような制度が適していると思いますか?

当社の人事制度には現在●●という課題があります。Cさんなら、どのような解決方法を考えますか?

 

上記の質問は決して正しい答えを出してもらうために聞くのではありません。
 

知らない業務に取り組むための思考力があるか否か?

人事として普段から「人事制度がどうあるべきか」という自分なりの意見を持っているか?

普段からちゃんと勉強しているか?見識を広める努力をしているか?
 

これらを見極めるための質問です。

 

候補者の業務経験を理解して質問を設計する

 
人事制度設計の業務は明確な正解がありません。

会社の歴史、経営者の考え、マーケット動向、業種や職種の特徴などを踏まえながら、対話を通じて作り上げていくクリエイティブな仕事です。
 

一方で、Cさんのやってきた労務管理は、どちらかというと既存の知識を使い、現場で起きた問題に事後的に対処する仕事が多いので、人事制度設計とは頭の使い方が異なります。

その違いを踏まえて先のような質問をすれば、人事制度設計を進める素養があるかどうかを見極めることができます。

 

注意点 

 
多くの人の場合、過去に経験した仕事を再現することはできますが、過去にやった事がない仕事にチャレンジして成果を出すのはハードルが高いです。

よって、過去に経験していない仕事は、転職先の会社においても基本的には「できない」を前提として面接するのが現実的です。
 

もし過去に経験していない仕事を、その人が入社後に担えるか否かを見極めたいならば、

「できると思いますか?」と聞かず、上記の人事制度の質問のように何を聞くべきか、あらかじめ設計して面接に臨みましょう。

 

基本能力のチェックが漏れる

 

最後に、選考における盲点として「基本的な能力のチェックが漏れるリスク」についてお伝えします。 

候補者がそれなりの年齢かつ役職経験者である場合、面接官は「基本的な業務は当然できるだろう」という前提に立って面接を進めますが、実はこの前提こそが落とし穴です。

実際には、基本的なスキル不足が原因で転職先で力を発揮できないケースが少なくありません。
 

例えば
 

エクセルを多用する業務なのに、エクセルスキルが極端に低い

ITツールを使うのが超苦手

口では立派なことを言うが、アウトプットを作れない。手が動かない

思い込みが激しく、相手の言ったことを正しく理解できない

伝え方が下手で、相手に伝わらない。誤解を招く

メールのレスポンスが極端に遅い

仕事の進捗管理ができない、書類の整理ができない

部下や外注先に威張る

などなど
 

実はこのような基本的な所作でつまづく人は少なくありません。
 

面接においてこれらを見逃し「基本能力の足りない人」を採用すると、その人にいくら専門性があっても組織としてなかなか機能しません。

特にマネジメントの仕事を任せる場合には「基本能力」の欠如はさらにリスクを伴います。
 

よって、これらを測るためのチェックが必要不可欠です。
 

最低限、面接プロセスの中で下記のような質問をしましょう。

 

スキルの確認

 
例えばエクセルやパワーポイントが求められる職種では、口頭で相手のスキルレベルを確認する質問も可能です。

「これまでにどのようなデータを扱ったか?」

「他人のエクセルを見てわかりづらい、上手くないと思うのはどのようなケースか?」

「関数やグラフ作成はどの程度対応できるか?」

といった具体的な質問を投げかけることで、候補者のスキルレベルを把握できます。

実務力がある人なら、かなり具体的な返答があるはずです。

今の時代はオンライン診断ツールなど様々な方法があるので、簡単なスキルチェックテストを実施するのもいいでしょう。

 

思考力・伝達力の確認

 
候補者の考える力、伝える力を見極めたい場合、面接でのコミュニケーションに加えて、会社で推奨している本や資料を読んでもらうのがいいでしょう。

内容についての意見や感想を次の回に報告してもらってください。

報告を聞けば、その候補者の思考力、情報把握力、伝える力などがよくわかります。

 

メールや書類管理ルールの確認

 
メールのレスや書類管理については、「あなたのルールは何ですか?」と聞いてみるのが一番です。

それなりに考えて仕事している人であれば

「メールのレスは原則1営業日以内」

「誰からのメールであれ、スルーはしない」

「CCを多くし過ぎない」

「タイトルを具体的に書く」

など、自分なりのルールを答えられるはずです。
 

一方で、特に何も出てこない人は「感覚的に仕事をしている人」だと判断できます。
 

書類管理についても

「ファイル名称に〇〇のルールをつけています」

「部内で共有する資料には□□のルールをもうけています」

などの回答が出てくるでしょう。
 

いつも「あれ、、、あの資料はどこいったかな?」と資料探しばかりしている人は、マネジメントには向かない人と判断ができます。

 

まとめ

限られた時間で人を見抜くことは容易なことではありません。

採用面接という活動自体が、その難易度の高い壁を攻略する仕事でもあります。

だからこそ、何となく慣例に倣うような選考手法から卒業し、自社の仕事に真に必要な人材の見極め方をとことん考えてみましょう。
 

「採用面接で相手の能力を見誤るのはなぜか?」

前編と中編では、その原因と対策についてお伝えしました。

この内容を参考に、ぜひあなたの会社の採用手法を見直してみてください。
 

次回のブログでは、能力があるにもかかわらず、企業カルチャーと相性の悪い人を採用してしまう原因と対策についてお伝えします。

 

 

 

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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