採用面接はなぜ失敗するのか【後編】〜 企業風土 や成長ステージに合った人材を正しく見極めるには?

2024.12.26

企業風土

「採用面接はなぜ失敗するのか」というテーマでお送りする3回シリーズのブログ。

前2回(前編/中編)では、「採用面接で相手の能力を見誤るのはなぜか?」という観点から、その原因と対策についてお伝えしました。
 

 

3回目となる今回のブログでは、

能力があるにもかかわらず、企業カルチャーや企業の成長ステージと相性が悪い人を採用してしまうことで生じるミスマッチについて

その原因と対策についてお伝えします。

 

人材の「能力」だけではなく「企業との相性」を見極める重要性

企業風土

 

採用においては、候補者の能力を評価するのと同時に、その人が会社のカルチャーに適合するかの見極めも必要です。

仕事の能力には、どこの会社でもどんな環境においても通用する能力と、特定の環境でのみ発揮され、環境が異なると発揮できない能力があります。
  

一般的に、これらビジネスパーソンの能力は

・ポータブルスキル(持ち運びできるスキル)

・非ポータブルスキル(持ち運びできないスキル)

という区分で分けられます。

 

ポータブルスキルは本当にポータブルなのか?

 

通常、ポータブルスキルの定義には

対人スキル、論理的思考力、マネジメント能力、問題解決能力、交渉力 などが含まれています。

しかし、これらの能力は本当にポータブルだと言えるでしょうか?

 

例:対人スキル

 
Aさんの前職の会社は、新卒採用の生え抜き社員が中心の年功序列的な環境でした。

その環境下で社内の人間関係をしっかり築き、成果を上げてきたので、自身では「対人スキル」を強みとして認識していました。

 
しかし、転職先は多種多様な人材がいて、年下の上司や年上の部下もいる環境でした。

周囲は中途入社のAさんに対して「お手並み拝見」という態度で、あまり積極的に交流してこようとしません。

さて、Aさんはこの環境下においても、前職同様に「対人スキル」を十分に発揮できるでしょうか。
 

 
真の「対人スキル」があれば転職先でも次第に人間関係をつくっていけますが、前職の閉じた環境でしか通用しないものだった場合、転職先では大きな苦労を伴います。 
 

このように、「対人スキル」という通常ポータブルスキルの定義の中にある強みであっても、実際は環境に左右されるのです。

前職でできていた事が、転職先ではできないという事も生じます。
 

そのため、人材と企業カルチャーとの相性を慎重に見極めることが重要です。

 

企業と人材の相性の見極め方

 
転職先の会社において、前職時代と同様に力を発揮できるかを見極めるには、以下の3つの角度から検証するといいでしょう。
 

・上司との相性

・マネジメントスタイルとの相性

・企業風土との相性

 
ひとつずつ具体的に見ていきましょう。

 

上司との相性

 

言わずもがなではありますが、上司との相性はとても重要です。

上司との相性は候補者のパフォーマンスに直結します。

 
上司には以下のようなタイプの違いがあります。

 

◆論理派 感情派

論理的なやり取りを好むタイプの上司は感情的な意見を好みません。

逆に気持ちや感情を大切にするタイプの上司に論理を持ち出すと「机上の空論だよ・・・」「理屈はそうだけど・・・」と言われがちです。
 

◆忠誠心重視型 意見歓迎型

自分への忠誠心を強く求めるタイプの上司は、部下に意見を言われることを好みません。

一方で、部下の率直な意見や提案を歓迎し、建設的な議論を重視する上司もいます。
 

◆緊張感を伴う高要求型 リラックス型

常に緊張感が張り詰めていて仕事の要求度が高いタイプもいれば、仕事中の会話や冗談を楽しむタイプの上司もいます。
 

◆スピード優先型 緻密さ重視型

スピードを重視して何でもすぐ行動する、とりあえずやってみることを求める上司もいれば緻密さ、精度を求めるタイプもいて、こういう上司に急いて生煮えのアイディアを持っていくと駄目出しされます。
 

◆報告要求型 自由裁量型

細かな報告を求めるタイプもいれば、逆にある程度はお任せで、たまの報告でよいタイプもいます。 
 

 
 
このように、少し書き出してみただけでも、上司が望む仕事のスタイルが多種多様であることがわかると思います。

よって、候補者がその上司と組んで上手く成果を出していけるか?という観点での検証が必要です。

候補人材が上司になる人と同じタイプである必要はありませんが、あまりに真逆だったり合わない項目が複数あったりすると、上手くいかない可能性が高まります。

また、「前職の上司がとてもいい人でした」と仰る方の場合、前職の上司のタイプは要確認です。
その人と転職先の上司のタイプが真逆である場合、転職後に上司と合わず苦労する可能性が高いです。

 

注意点

 
一方で、上司との相性のみで採用可否を決めるのはおすすめしません。

なぜなら、上司は将来的に変わる可能性もあるからです。
 

よって、候補人材に対して見極めるべきなのは、色んなタイプの上司に合わせられる柔軟性やコミュニケーション力を備えているかどうかです。
 

真に優秀な人材は、上司のタイプを問いません。

それぞれのタイプの上司の特徴を受け入れ、上司の長所を生かしつつ、自分の特徴や短所と補い合う関係を作れるので、誰が上司でも上手くいきます。
 

採用面接で見極める際には、タイプの違いを考慮しつつ、タイプが違う同士であっても歩み寄りで乗り越えられる柔軟性がある人材かどうかを、しっかり判断しましょう。

 

マネジメントスタイルとの相性

 

会社によって、求められるマネジメントスタイルが異なります。

特に、組織の仕組みや人員構成の違いが、マネジメントのやり方に大きく影響する場合があります。

例えば、以下の2つの会社を比較してみましょう。

 

◆仕組みが整っていて優秀な人材が揃っている会社 

部下が力を発揮しやすい環境を整え、後方支援するスタイルに向いています。

部下に指示を出せば、指示した内容にとどまらず、改善や改良を加えたアウトプットを提供してくることが期待できます。
 

◆仕組みが未熟で、優秀な人材が少ない会社

マネージャー自身が陣頭指揮をとり、方針決定から実務の細部まで目を光らせて牽引していかねばなりません。

指示を出しても、伝わらない、または実行できないことがあるため、直接関与しながら進捗を細かく確認し、状況を改善していかなければなりません。

 

事例:未熟な組織でのマネジメント適応の難しさ

 

かつて私が発展途上ステージのベンチャー企業にいた際、優秀な人材集団で有名な会社から転職してきた人がいました。

その方はマネジメントに慣れるのに2~3年を要しました。

従前の会社では「言えば動いてくれる部下」が当たり前だったのに対し、

転職した会社では、部下の能力や主体性が不足しており、思うように動いてくれません。
そのため、経営者視点の仕事から若手担当者レベルの実務まで往復してこなす必要があり、転職初期は本当に苦労されていました。 

 

上記はマネジメントスタイルの代表的な違いですが、他にも会社の経営スタイルや成長ステージによってさまざまな観点で違いが発生します。
 

マネジメントの違いの例
 

トップダウン型組織のマネジメント
vs
ボトムアップ型組織のマネジメント
 

統率型リーダーシップによるマネジメント
vs
サーバントリーダーシップによるマネジメント
 

厳格なKPI・進捗管理によるマネジメント
vs
管理の緩いマネジメント(数字による管理は厳しくない)
 

決定事項は簡単には覆らない前提下のマネジメント
vs
朝令暮改OKで目まぐるしく変化するマネジメント
 

若手中心の組織のマネジメント
vs
幅広い年齢層の組織のマネジメント
 

男性中心の組織のマネジメント
vs
女性中心の組織のマネジメント

 

このようなマネジメントの違いは、会社の歴史、業界、経営者の考え方、ビジネスの内容などによって生じるものです。
 

例えば、装置産業(製紙、化学、鉄鋼など)のマネジメントは

どちらかと言うと長期目線、安定運営、リスク防止の観点が重視されます。
 

一方で、スマホゲームやアプリ業界のマネジメントは

とりあえずやってみる、駄目なら修正する、リスクをとる、スピード重視といった特徴があります。

 

候補者の適応力を見極める方法

 
採用時にマネジメントスタイルとの相性を見極めるにはどのようにしたらいいでしょうか?

そのコツは、候補者の前職時代のマネジメントがどのようなスタイルであったか、具体的な話を通じて確認することです。
 

候補者の上司・部下はどのような人達か?

レポートラインはどうなっているか?

報告の頻度や内容は?

会議はどのような内容と雰囲気か?

会社の意思決定はどのように行われていたか?

会社から評価されるマネージャーはどのような人か?
 

このように具体的な質問を投げかけ、その話をさらに深堀りしていってください。
 

あなたの会社のマネジメントスタイルと候補者の前職のスタイルとのギャップが大きい場合は、適応が難しくなる可能性があります。

特に前職のスタイルを長年続けてきた方は、簡単にはマネジメントスタイルを変えられないでしょう。

 

 

マネジメントのあり方を考えている人か?

 
もう1歩踏み込んで聞いておきたいことがあります。

 
候補者が

・自らの考えにもとづいてマネジメントスタイルを選んできたか

・何となくその会社のカルチャーに従ってマネジメントを行ってきたか

の違いです。
 

前者の人の場合、同じ会社に10年間在籍していたとしても、異動した部署によってマネジメントスタイルを変えたり、会社の成長ステージに応じて手法を変えているはずです。
 

つまり、何となくマネジメントしているのではなく、どのようなマネジメントスタイルが望ましいかを考えながら仕事をしてきた人と言えます。
 

このような人材であれば、前職と新しい会社のマネジメントスタイルに開きがあったとしても、柔軟に適応できる可能性が高いでしょう。

後者の人の場合、先輩上司のやり方を真似てマネジメントをしてきただけで自分自身でスタイルを選びとっていないため、転職した場合に対応できない可能性が高いです。

 

企業風土との相性

 

人の個性のように、企業の個性もさまざまです。

 
企業風土は、個々の候補者が職場環境に適応できるかどうかを見極めるうえで、極めて重要な要素です。
 

昨今はダイバーシティ(多様性)が議論され、企業には色んな人材がいてこそ力を発揮できるとして注目されていますが

その反面、異なる文化を持つ人材を採用する場合には、慎重な検討が必要です。

あまりに違うタイプの人が入ってくると、過去から作り上げてきた良い風土が失われる恐れもあるためです。 

 

企業風土の違いの例

 
スピード重視の社風
vs
じっくり時間をかけて意思決定する社風
 

多少のリスクは背負って飛び込む社風
vs
石橋を叩いて渡る慎重な社風
 

報告や相談が組織図の縦の流れを遵守する社風
vs
組織図にこだわらず自在に意見をぶつけ合う社風
 

「上司の言うことは絶対」の社風
vs
「上への意見、提言も奨励される」社風
  

政治的な動きや社内対立の多い社風
vs
お互いの関係性がよくフランクな社風
 

後輩の育成、若手の育成を重視する社風
vs
育成に力を入れず勝手に育つのを待つ社風
 

遅い時間までよく働く社風
vs
皆が定時帰社する社風
  

真面目でコツコツタイプが多い社風
vs
派手でスタンドプレーが多い社風
 

など
 

以上のように、会社によって社風はさまざまです。

 

企業風土とのミスマッチの影響

 

例えば、真面目な社員が多い会社の採用面接に、派手なスーツと強い香水をつけた遊び人風の候補者が現れたら、恐らく採用を控えるのではないでしょうか。

その人が、真面目な社員の間に座って仕事するイメージが全く湧かないからだと思います。
 

企業風土と働く個人の相性は、双方に親和性がなければその関係は長くは続きません。
 

人材を見極める上では、企業風土と候補者がこれまで働いてきた会社の風土が近い方が望ましいです。

特定の企業風土に長らく身をおいていた人が違う風土に馴れるのは、急に異国で暮らすようなものであり、簡単に適応できるものではありません。
 

よって、候補者を見極める上では「簡単には慣れない、変えられない」と思っておくのが賢明です。

 

事例

 
私がこれまで接してきた方々で、ほぼ例外のなかった事例をお伝えします。

 

◆政治的な動きの多い会社に長く在籍していた人

自分と気の合う人とやたら親しくなって年中飲みにいったり、気に入らない人の悪口を言いふらしたり、他人の噂話に妙に関心を示したりします。

仕事に没頭することよりも、政治的な動きで地位を上げたり、給与を上げることに関心が強い習性は転職先でも出てしまいます。そう簡単には治りません。
 

◆「上司の言うことは絶対」という文化の会社に長く勤めていた人

指示されたことをひたすら忠実にこなす仕事の仕方に慣れているので、自分の頭で考える癖がついていません。

上司の指示が正しかろうと間違っていようと、とにかくそれをやるという仕事を追求してきたからです。

特に、転職先が「自ら問題を見つけ、課題設定し、自らが中心となって解決に導くことを期待する会社」の場合、致命的に適応が難しいことでしょう。

 

代表的な例をお伝えしましたが、企業風土との相性が悪い場合、急に直すことは難しいので、

できるだけあなたの会社の社風に近い環境で働いた経験があるかをじっくり判断してください。

 

企業風土と候補者の相性を見極めるポイント

 

企業風土との相性を見るための面接のコツをお伝えします。
 

候補者が過去に働いてきた企業の風土を詳しくヒアリングする

候補者の前職、前々職、もしくは新卒入社した会社の社風について、先ほど示した企業風土の違いも参考にしつつ、詳しく聞いてください。

その人にどのような習慣、習性が身についているかが分かるよう、色んな角度から質問してみましょう。

多感な時期に一番長くいた会社の社風の影響、直今長くいた会社の社風の影響を強く受けていることが見えてくると思います。

 

候補者の企業風土に対する認識を確認する

「その社風をどう思いますか? いい所と悪い所を教えてください」と質問しましょう。

自分自身や自分のいた会社を冷静に見られる人ならば、その社風の良しあしと、自分の振る舞いについて分析することができます。

自分自身を客観視できる人であれば、異なる企業風土に対応する力は高いと言えるでしょう。

 

候補者の適応力を探る質問をする

さらに以下のような質問をすることで、新しい企業風土への対応力を探ることができます。
 

「当社は〇〇の社風ですが、あなたの前職と比べて求められる仕事の仕方がどのような違うと思いますか?」

「それに適応するために、あたなは具体的に何を捨て、何を新たに獲得する必要がありますか?」

「当社の社風は、あなたがこれまで働いてきた社風と大きく異なります。無理に当社のような会社で働くメリットは何ですか?」

「これまで異なる社風の会社に転職したことはありますか?」 「その時は、どのような違いがあって、どのように乗り越えましたか?」

 

まとめ

3回シリーズで「採用面接はなぜ失敗するのか?」というテーマを掘り下げてきました。
 

採用のミスマッチによる無駄は計り知れません。

入社してすぐミスマッチが発覚して退職となる場合は双方の傷が浅い方ですが、一定期間在籍した上で「やっぱり当社では無理だよね」となると、多くのロスが生じます。
 

エージェントへの紹介手数料

入社後一定期間が経つと、エージェントへの紹介手数料は返ってきません。
 

再採用にかかる費用と時間

採用活動をやり直すことでコストがさらに膨らみ、手間もかかるので他の業務に影響を及ぼします。
 

引き継ぎや業務指導の時間

前任者の仕事の引継ぎをしたり、周囲の人が業務を教えた時間などが全て無駄になります。
 

組織の再構築が必要になる

管理職で採用した人の場合は、再度組織を練り直す必要があり影響はさらに大きくなります。
 

ミスマッチによって引き起こされる数々のロスを考えれば、採用段階における手間など大したことはありません。

・本当に自社のカルチャーや仕事に合う人材か?
・自社の仕事に適応できる人か?
・求める能力を備えている人か? など

これらをじっくり見極めましょう。
 

ある程度しっかり時間をとって面接を行い、何人かの目(=複数段階の面接ステップ)を通して検証の精度を高め、見極めるのに適した質問を出すことに留意してください。

面接官が何となくその場で思いつく質問を候補者にぶつけるのではなく、何を見極めるかをあらかじめ書き出し、それを検証するにふさわしい質問内容を用意しましょう。
 

採用とは、企業の未来を左右する重要なプロセスです。

一度の採用ミスが及ぼす影響は大きいですが、逆に適した人材の採用が企業にもたらす利益も計り知れません。

本シリーズでお伝えした内容をもとに、貴社の採用プロセスを見直し、ぜひ精度を高めていただければ幸いです。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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