ダイキン工業さんのグローバル化を推し進めた井上会長は「経営者の仕事の8割は質問」と述べられています。
そして、このようにも仰っています。
最近の世の中の風潮を見ていると、対話やコミュニケーションが非常に不足していることを危惧する。
自分の主張を述べるばかりで、相手の話に耳を傾けたり、考えを引き出そうと問いかけたりする姿があまり見られない
(日経ビジネスより)
私もこれにはとても共感するところがありました。
色々な会社の仕事場でやりとりされる会話を聞いていると、お互いが噛み合っていなかったり、表層の会話で終わっていたり、相互理解が進まない場面に非常に多く出くわします。
仕事上の意思決定や行動はほとんど全て「対話が出発点」です。
であるにもかかわらず、その対話が深まっていないことに大いに危機感を感じます。
今週のブログでは、メンバーから良い考えを引き出し、部下の能力を伸ばし、問題を解決し、さらに組織が好循環に向かう、いいことづくめの質問法「ゴールデンクエスチョン」についてお伝えします。
目次
質問力 が事業の成否を分ける
先ほどのダイキン工業の井上会長は質問力についてこのように述べられています。
トップが現場のキーパーソンに絶えず質問をし、対話を繰り返すことで、組織としての実行力が非常に高まると確信している
(日経ビジネスより)
対話は1つの良い質問をきっかけに大きく展開が変わることがあります。
それだけ質問というのは大きな力をもっています。
7つのゴールデンクエスチョン
職場の正しい情報をつかみ、問題を適切に解決しながら、部下の思考力を伸ばし、職場コミュニケーションを改善し、組織を活性化することができる。
そんな効果抜群の質問を7パターンご紹介します。
ぜひ使えるものから現場でドシドシ活用してみてください。
・Why?(目的、原因)
・シンプル化質問
・具体化質問
・経緯・時間軸質問
・ギャップ質問
・視点ずらし質問
・数字質問
Why?(目的、原因)
例「そもそもなんで?」
Whyはあらゆる質問の中で最も強力なものです。
仕事の対話の中では、how(どのようにやるか?)やwhen(いつまでに?)、who(誰が?)はよく議論されますが、抜けてしまうのがwhy(何のため?)です。
仕事には本来必ず目的がありますが、その目的がいつの間にか置き去りにされ、手段の議論ばかりになりがちです。
常に原点に帰ることができるWhyをぜひ発してください。
例えばこちらの会話のやりとりをご覧ください。
「日報を出すよう言ってるのになかなか出さない社員が多いんだよね・・・」
「だったら社長から“日報提出は業務命令”と改めて伝えてもらうべきでは?」
「日報を出さない人を毎月集計してワーストランキングを出したらいいのでは?」
「上司で書いていない人がいるから部下も書かないんだよね」
「みんな書こうという意志はあるけど、書くネタがないのではないか?」
➡ そもそも日報を始めた目的って何でしたか?
このWhy?を投げかけることで、目先の対策ばかり議論している場に対して、改めて原点に立ち返った議論に戻す効果があります。
さらに、Whyは目的だけでなく「原因」を問う質問でもあります。
問題が起きた際、その原因をつきとめることなく、対策ばかり議論されるケースがあります。
原因が分からないのに対策を議論してもよい解決策は出てきません。
そんな時こそWhyの出番です。
「最近社員の離職率が高くなっているのですが、どうしたらいいでしょうか」
「福利厚生をもっと充実させるべきではないか?」
「リモートワークをもっと認めていいのではないか」
「当社のような中小企業だとなかなかキャリアプランが描けないのも問題だよね」
➡ そもそも離職率が高くなっている原因は何ですか?
離職率を改善すべく良かれと思って意見交換していますが、そもそも離職率が高い原因を分かっていなければ、対策の施しようがありません。
「原因は何か」「さらにその原因はなぜか?」というように「なぜ×5回」で原因を掘り下げていけば、真の原因に辿り着きます。
そこまでいけば対策は自ずと浮かび上がってくるでしょう。
もう1つの事例です。
「(立ち上げた新規事業の)顧客獲得が思うようにいっていません」
「じゃあランディングページの写真を変えてみたら」
「それもいいけど、商品のコピーを変えた方がいいのではないか」
「販促担当の〇〇さんは経験があまりないからなあ・・・」
➡ 「そもそもこの商品が狙っているターゲットは誰ですか?」
➡ 「この事業の目指すところはどこですか?」
新規事業は、立ち上げメンバーが強い思いを持ってスタートしますが、時間が経つにつれ、その思いよりも目先の集客手段やKPIの議論に偏りがちです。
そういう時こそ「そもそも論」に立ち返るWhyが有効です。
シンプル化質問
例「今の話を一言で言うと?」
物事をシンプルに表現するのはメリットだらけです。
会議等の場で話がだらだら長い人がいたら、皆が飽きてしまって何も頭に入らなくなりますよね。
シンプルに短い言葉でわかりやすく話してもらえれば、皆の理解が進み、良い議論になっていきます。
また話し手の中には、自分の意見がまとまっていなかったり、事前準備不足で、まとまりのない話を人がいます。
そういう時には「今の話を一言でいうと?」「今の話をシンプルにまとめると?」が非常に有効です。複雑な話であっても、最後の最後の要点は一言で言い表すことができます。
その一言を考えてもらうと、話し手の思考が大事なことにフォーカスされ、何が最も大事なことかを考える習慣につながります。
具体化質問
例「それって具体的にどんなこと?」
仕事の議論はリアリティが大事です。
お互いリアルにイメージできないまま議論をしてもお互いの理解が噛み合いません。
話の内容が分かりづらい場合にはぜひ「具体的にどのようなことですか?」「具体的な事例はありますか?」と聞いてみましょう。
経緯・時間軸質問
例「そうなってしまった経緯は?」
全ての事象には流れがありますが、一時点だけを断片的に切り取った対話も前に進みません。
時系列で本当の事実を十分に抑えないまま議論だけが先行していたり、起きた事象に対する皆の理解がずれているため、議論が誤った方向に行くことがままあります。
部下
「〇〇システムのコード番号の付け方がおかしいので、△△のように修正したいと思います。それによって□□のメリットがありますので、承認をお願いします」
上司
「メリットは理解できるけど、これまで(過去)はどのようなコード番号にしていたの?/なぜそのような不規則なコード番号になっていたの?/そのコード番号では過去どのような問題に直面していたの?」
部下
「そこまでは聞いていません」
この部下は、今この瞬間に彼にとって見える問題だけを議論の対象にしているため、相談された上司もその提案が良いのか悪いのかピンときません。
〇〇システムのコードをめぐるこれまでの経緯を順を追って明らかにすることで、何が問題となっており、どのように直していくべきかが明解になります。
ギャップ質問
例「仮にこうしたらどうなりますか?」
話が膠着した時に有効なのはギャップ質問です。
相手が現在考えている範囲を引き延ばして、違った観点で考えてもらうための質問です。
例
ある商品の売上拡大策を議論していて、メンバーから提案された内容の効果があまり期待できない提案だったら、以下のような質問を投げかけてみましょう。
「仮に今の売上を半年後に倍にしようと思ったら、どのような施策を考えますか?」
「お金がかかってもいいから、理想的な最も望ましい販売促進プランはどのようなものですか?」
人の思考は気づかないうちに制約を設けていることがあります。
例えば、売上拡大策を考えるときは勝手にこのような思考になってしまっていることがあります。
「何となくだけど年率10%程度の成長にしておこうか・・・」
「大きな投資は会社が認めてくれないだろうなぁ・・・」
この思考の制約から解放してあげるのがギャップ質問です。
視点ずらし質問
例「あなたが〇〇だったらどう思いますか?」
相手の見ている視点を変えてあげることで、思考に広がりを持たせ、議論を活性化させる質問です。
立場を変えて考えさせる視点
(担当者に対して)「あなたが仮に部長の立場だったらどう思いますか?」
「この問題について社内で一番詳しい●●さんだったらどう考えると思いますか?」
建前でなく本音で考えさせる視点
(優等生的な回答に終始する人に対して)「あなた個人の考えをぜひ聞かせてもらえますか?」
(本音を話さないタイプには)「世間一般的にはどう考えたらいいと思いますか?」
ベンチマークの視点
「ちなみに他社は、このような問題をどのように対処していますか?」
「前の会社ではどのようにやっていましたか?」
以上はいずれも変化球の質問です。
直球ではなく変化球を投げかけることで、相手から思わぬ意見が出てきてとても面白いです。
数字質問
例「数字で把握していますか?」
議論が印象論ばかりで事実を押さえていないことがあります。
事実に基づいた事象を最も明確に物語るのは数字です。
数字をしっかり押さえた質問をすることで、議論が本質にフォーカスされたものになります。
「先月の売上が大きく落ち込んでいるので、何か対策が必要です」
「各部署の目標を上積みしましょうか?」
「毎週数字の進捗を確認するようにしましょう」
これでは数字の読み込みの甘い表面的な会話で終わっています。
以下のように質問してみれば、議論の内容がぐっと本質に入っていきます。
「売上を支店別に分解すると、どこの支店が特に落ち込んでいますか?それとも全ての拠点が同じように落ち込んでいますか?」
「売上を商品別に分解すると、どの商品が特に落ち込んでいますか?」
「前年は先々月と先月でどのくらい差がありますか?」
売上が落ち込んだという総論に終始してしまう場合には、数字を分解したり、推移を比較することで、事象をより正確につかんだ議論に転換できます。
「製造ラインの部品の保管場所、保管方法を直したことで業務効率が改善しました」
と胸を張る報告があったら
「どの程度改善しましたか? 数字で把握していますか?」
と問いかけてください。
すぐに答えは出てこないかもしれませんが、生産効率はきちんと数字で把握すべきものです。
普段から数字に置き換えて考える癖をつけてもらうためにも、この質問が欠かせません。
何となく「効率が改善して良かったね」で終わらせず
「時間当り生産量がどの位増えたか?」
「作業員が部品を取りに行く時間が何分削減されたか?」
これらの科学的な問いが会社のレベルを上げていきます。
まとめ
会議等の場で、良い意見が出ない、発言者が偏っている、議論がかみ合わない、声の大きい人の発言で結論が出てしまう、などの悩みはありませんか?
そんなときに大きなブレイクスルーとなるのが質問力です。
質問によって人の思考、発言はダイナミックに変わります。
1対1の対話、多人数の会議、どちらも良い質問を投げかけるほど対話の質が高まり、良い結論を導いたり、皆の納得度を高めることができます。
質問力は誰でも磨くことが可能です。
質問力が高い人ほど、リーダーシップを発揮し、組織を導いていくことができます。
質問力を高めるには実践あるのみ。上記でご紹介した質問手法をどんどん試してみてください。
・投げかけた質問に対してどんな答えが返ってくるか?
・問いを繰り返すことで、相手の思考がどう変わるか?
そのダイナミズムを大いに楽しんでもらえたら幸いです。
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