決まらない
ビジネスにおいて、物事を決めて前に進めなければならない課題があるにも関わらず、なかなか方針を決まらず後手に回ってしまうケースがあります。
私はこれを「組織の優柔不断」と呼んでいます。
個人で優柔不断の性格というのはありますが、人と人が集まった集合体である「組織の優柔不断」に陥ると、組織の活動が前に進まなくなります。
人は解決の難しい問題に直面すると、何となくその問題の解決を先送りしがちですが、それをいかに防ぎ前に進めるか、を考えて実行するのもマネジメントです。
今週のブログでは、組織の優柔不断を克服し、物事を決めて前に進める方法についてお伝えします。
目次
「 決まらない 」のは「決め方(決めるプロセス)」を決めないから
「今日のお昼に何を食べようかな?」と迷って、なかなか決まらない優柔不断君がいたとします。
この場合は個人のことなのでそのまま決まらなくても何ら問題ありませんが、仮にあなたが「迷ってなかなか決まらないランチ」を決めるとしたらどのような方法をとりますか?
ランチの決め方の例
- 人におすすめを聞いてそこに行く
- 自分の迷っているお店(3つ程度)を誰かに伝え、選んでもらう
- 「何を食べたいか?」だと迷うので、今いる場所から一番近い店にする
- 候補のお店の中からあみだくじで決める
- 実際に迷っているお店を順番に見て回って、一番行きたいと感じたお店に行く
このような方法をとるのではないでしょうか?
あえてこんなことを考えて行動している人は実際はいないと思いますが、無意識にそのような行動をとっているものです。
つまり「決められない問題」を解決するために、「決められる方法」を選んでいるのです。
これを組織の意思決定に当てはめた場面をお伝えします。
事例 営業パンフレットの見直し
営業部内で、「A製品を紹介するパンフレットが使いづらい」とずっと問題になっていました。
お客様にもっと魅力を訴求しやすいパンフレットにしたいと誰もが思っていました。
実際「A製品パンフレット見直し検討会議」ということで、関係者複数人で集まって何度か会議も行いました。
会議の場で問題点が出され、見直しのアイディアもいくつか出ましたが、「いいね!それでいこう!」とはならず、結局何も具体的には決まらず、月日がずるずると過ぎ去っていきました。
さて、あなたがこの営業部のマネージャーだったらどうしますか?
このまま放置したら受注のチャンスを逸する可能性もあり、少しでも早く魅力を伝えられるパンフレットにしなければなりません。
仮に仕事の早いマネージャーSさんがこの問題を仕切ることとなったら、おそらく以下のような指示、アクションをとることでしょう。
マネージャーSさんの方法
■ いつまでに改訂版を作成完了するか、期限を決める
■ 本業務を取りまとめる実務責任者を決める
■ 最終意思決定権者(ゴーサインを出す人)が誰かを確認する ➡ 営業部長であると理解
■ 最終意思決定権者の(パンフレット改訂に関する)意見を事前に聞いておく
■ 改訂版の案を決めるために必要な準備タスクを割り出す
①営業担当者からこれまでに出た声(パンフレットのどこが使いづらいか? 改訂版への要望は何か?等)を集約する。
②ライバル商品のパンフレットを集めて比較検証する
③予算上限を確認する
■ 上記タスクの担当者をそれぞれ決める
■ 全体スケジュールを決める。締め切りまでに行う打合せ回数、打合せ日時も決める
■ 会議開催時は、あらかじめ当日議論する内容を伝え、適切な参加メンバーを人選し、会議の場では議論を活発化させるためのファシリテーターを用意する
上記の一連の流れでSさんが行ったことは、パンフレット改訂版を決めるために何をすべきかという決め方(決めるプロセス)のデザインです。
従前のやり方のように、ただ関係者が首を揃えて問題点を議論するだけでは何も決まりませんでした。
しかしSさんがゴールまでの道筋を見える化し段取りを組んだ結果、パンフレット改訂版がちゃんと出来上がるイメージが湧いてきたのです。
決め方(決めるプロセス)の要素
Sさんが行った流れを見ると、決め方(決めるプロセス)の大事な要素が入っています。
期限を決める
当たり前といえば当たり前ですが、まず仕事の期限を決めることです。
期限がない限り、ずるずると先送りになります。
なお期限は可能な範囲で短い方が望ましいです。
下手に期限を長くとると、長い期間ダラダラ議論が続いたり、せっかく決めたことを再度ぶち壊してみたり、無駄なエネルギーを使うこととなります。
期限が短ければ、そこに向けて一気に集中して寄り道せずゴールに辿り着くことができるからです。
責任者を決める
どんな仕事も「自分が本件の責任者である」と自覚している人がいない限り、仕事は着地しません。
責任者でない人達だけで議論しても、最終的に誰が取りまとめ、次のステップに導いていくのでしょうか?
必ず期限までに一定の成果物に仕上げることに対して責任を持っている人が必要です。
なお責任者を決めるというと、その人ばかりに苦労を負わせ、周りの人は勝手気ままな意見を言うだけになる場合がありますが、それは組織のあるべき姿ではありません。
勘違いしてはいけないのは、責任者は「全ての業務を担う人」ではなく、「全体の進行が適切に進むようコントロールする人」です。
よって責任者は細かい業務を全てメンバーに指示して、自分は進行管理に徹するのもありですし、自ら担当業務を持つのも自由。
各メンバーの忙しさなどを勘案して最適な分担をすればよいだけです。
メンバーは責任者に「おんぶに抱っこ」するのではなく、自らもゴールに向けて最大限できる役割を担う必要があります。
最終意思決定者を抑える
仕事の意思決定は必ず誰か最終的に決める人がいます。
その人が誰であるか?を抑えておかないと、最後に大きくひっくり返ったり、全く方向のずれた作業をしてしまうことになりかねません。
最終意思決定権者の見解を事前に聞いておくとともに
「その人が意思決定する上で何を重視するか?」「どのような点を気にするか?」を先回りして抑えておきましょう。
準備タスクを割り出す
「パンフレット改訂案を決めるために必要な情報や材料は何か?」を考え、そのための準備タスクを割り出します。
普段パンフレットを使って不便を感じている営業担当者の話を聞くとか、よい良いアイディアを出すために競合製品のパンフレットを参考に集めておくとか、必要なタスクを考えます。
仮に何の準備もなく皆で集まって、その場で
「今のパンフレットを改訂したいと思いますが、皆さんどうですか?意見を出してください」
としても
「えーと・・・」
となり、その場の思いつき程度は出てきますが、いいアイディアが出る可能性は低いです。
会議に臨む前にしっかり関係者の意見を集め、ライバルのパンフレットやアンケート結果などの参考になるものを用意しておけば、当日の議論は質の高いものになるはずです。
ミーティングで確実に結果を出すためには、このような「準備タスクの割り出し」が必要です。
担当を決める
タスクを割り出したら、それぞれを担当する人を決めます。
担当が明確になれば、期日までに必要な材料が準備されていきます。
スケジュールを決める
ここまで来たら期限までにやるべき事が明確になるので、それをスケジュール化します。
誰がいつまでに何をやり、会議は何回、いつ開催するかなども明確に決めます。
生産的な会議を設計する
会議でより良い議論をするための仕掛けも考えなければなりません。
- 参加者は誰にするか?
- 最終意思決定権者の部長が会議に参加すると活発な意見が出にくいかも?
- 開発部の〇〇さんを呼んだ方が商品コンセプトなどが改めて明確に分かるので呼んだ方がいい?
- あまり人数が多いと議論が散漫になるので、営業各チームから1名参加とし、他のチームメンバーの意見は事前にその1名に集約してきてもらおう
- 当日はファシリテーター役を置いた方が議論が活発になりそう
このようにさまざまな観点から、質の高い会議になるための方法を設計します。
以上のような観点で段取りをすることにより、今まで決まらないままずるずるきていた「パンフレット改訂問題」が前に進むイメージが持てたと思います。
「組織の優柔不断」はマネジメントの問題
ここまで読んでくださった方は、物事が決まらない問題は、結局のところマネジメントの問題だと気付いたのではないでしょうか?
アイディア不足が原因でも、問題解決の難易度が高いのが原因でもありません。
決めるために何をすべきかを考えていないからです。
「もっといいアイディアを出せ!」と部下に発破をかけても、急にいいアイディアが出てくることはありません。
「早く決めなきゃ」と気持ちだけ焦っても物事は決まりません。
適切に物事を決めるためには、「決め方(決定プロセス)の決定」、つまり「決めるための段取り」というマネジメントが欠かせないのです。
決め方(決定プロセス)は担当者でも決められる
先ほどの事例は、マネージャーが製品パンフレット改訂の決め方(決定プロセス)を仕切った事例でした。
しかし、決め方(決定プロセス)を決めるのは決して管理職の仕事とは限りません。
担当者でも十分できることであり、逆に言えば役職にかかわらず、これをできるようにならないと物事を動かせる人にはなれません。
例えば、100人ほどの事業部の忘年会の企画実行責任者を2年目の社員が任されたとします。
ちなみに事業部100人のうち、自分以外の99人が先輩方です。
しかも忘年会の企画は標準型のない意思決定であるため、決定に導くのが簡単ではありません。
人によって忘年会に期待するものは異なり、会場も予算も当日の企画もお酒の種類も全て考えて決めなければならないからです。
2年目の社員は自分が仕切ることに少し躊躇するかもしれませんが、マネジメントは年齢ではなく手法なので、恐れることはありません。
先ほどの流れを参考に、以下のような段取りを組むことが先決です。
忘年会の企画実行 担当者がすべき「決定プロセス」の例
- 事業部長に「今年の忘年会はどんな会にしたいか」という要望をヒアリングする
- 過去の忘年会幹事に、当日の企画内容、会場、時間などの情報を簡単なメモにまとめてもらう
- 同時に、好評or不評だった出し物、皆さんから出た要望、当日発生した問題などもまとめて提出してもらう(先輩方が書きやすいよう記入フォーマットをつけて上げると親切)
- 経理担当者にこれまでの忘年会の予算と費用明細、支払い方法などを調べ、会議の時に発表するようお願いしておく
- 忘年会企画の打合せには、各部署から1名代表者を出してもらうよう部署長にお願いし、人選を行う。初回打合せまでに、各部署からの忘年会への要望を聞いておいてもらう
- 初回の打合せ日程を決める
- 企画最終決定の期限を決め、そこまでに順次何を決めていくかの予定を組む
以上のような段取りを一つ一つ決めて実施していけば、ぼんやりしていた輪郭が徐々にくっきり見え始め、企画が最終的にちゃんと着地するイメージが持てると思います。
「先輩方は忙しそう」と遠慮して、全て自分でやろうとしたり、自分で全てアイディアを出そうと思ったら墓穴を掘ります。
そもそも自分1人で考えるなんて無理なので、他人の知恵や経験を上手く引き出しながら、ゴールに向かっていく指揮者の役割を担えばいいのです。
指揮者はマネジメントでありリーダーです。
リーダーの仕事に役職も上下もありません。
リーダーを担おうと思いさえすれば、誰でもリーダーに育っていくことができます。
まとめ
「組織の優柔不断」に陥ると、重要な決定がなかなか下されず、やるべき仕事がずれ込み、ひいては会社の弱体化につながります。
特に複雑な問題に直面した際、先送りしたくなる気持ちは誰にでも湧き上がりますが、それを防ぎ前に進めるためには、マネジメントが重要な役割を果たします。
具体的な手順としては、次のようなポイントが挙げられます。
期限を決める
責任者を決める
最終意思決定者を抑える
準備タスクを割り出す
担当を決める
スケジュールを決める
生産的な会議を設計する
組織の意思決定が滞ると、ビジネスの成果や競争力に大きな影響を及ぼすため改善が不可欠です。
最初に「決め方(決定プロセス)を決める」という意識を持ってリーダーシップを発揮し、組織全体を前に進めていくことが、成功への道を切り開く鍵となるでしょう。
こちらの記事もおすすめです。