幹部候補をいかに育て抜擢していくか ~海外(中国)に見る究極の競争システム

2018.02.03

幹部候補人材をいかに育てていくかは企業の長期的発展の生命線と言えます。

今回は視点を転じて海外の幹部育成を見てみたいと思います。
お隣中国の共産党の幹部人材育成システムについてです。

中国共産党は党員1億人以上を抱える巨大組織。
その権力闘争の激しさたるや日本の官僚機構など比べ物になりません。
権力闘争が激しいため幹部がよく失脚させられますが、後釜に次々逸材が上がってくる人材の厚みがあります。

それを支えるシステムはどのようになっているのでしょうか。

幹部候補はドサ回りしながら競争を勝ち抜く

中国共産党の幹部育成は、非常にシンプルで強烈な競争システムで成り立っており、企業にとっても参考になる仕組みです。

その特徴は以下の3点にまとめられます。

・シンプルな目標(各地域のGDPなどの数字)と結果による成果主義
・ドサ回り(地方政府を転々と異動)しながら成果を出し続ける競争システム
・優秀な人材の抜擢

日本の国家公務員キャリアに相当する中国共産党の役人達は、地方転勤や部署異動を繰り返しながら、常に数字の成果を求められ、壮絶な競争を繰り返します。
異動の度に各地で成果を上げ続けられる、実力と運を兼ね備えた逸材が幹部になっていくシステムです。

幹部候補人材の厚みを目の当たりにしたエピソード

重慶市の凄腕副市長

私が中国にいた時に、このシステムの凄みを感じた2つのエピソードがあります。

2013年に重慶市を訪れた際、市長の講演を聞く予定がありました。
ところが市長が何かの都合で来れなくなり、代わりに副市場の講演となりました。

代役なので大した話は聞けないだろうと思っていましたが、その予想が完全に裏切られました。

副市長の迫力、話す内容の深さ、鋭さが凄かったのです。
日本の副知事くらいのスピーチをイメージしていたら全く別物でした。

経済の話が中心でしたが、市の産業別GDP目標、環境対策、農村対策など様々なデータが全て頭に入っているのです。
何も見ずに現状→課題→目標数値→対策などを、「立て板に水」とはこの人のためにある言葉じゃないかと思うくらい、流れるように話をされました。

プレゼンテーション力、構想力、説得力など全てにおいて圧倒されるレベルで、こんな人が副市長なのかと恐ろしく感じたものです。

江蘇省塩城市若手幹部の部下マネジメント

2つ目は、2014年に江蘇省塩城市という中規模都市の幹部と会食した時の事です。

当時、塩城市と私のいた上海の会社が業務提携を行い、市の幹部(会社で言うと部長クラス)とその部下約10名と共に食事をしました。
幹部は若くして抜擢された方で、部下には年上もいます。

円卓で和やかに乾杯を繰り返し、盛り上がってきた頃、その幹部が立ち上がって部下1人1人にお酒をつぎ始めました。
お酒をつぎながら、1人1人の役割、仕事ぶり、その人の何がすごいか、どんな貢献をしているかを、提携先である我々に順々に紹介していくのです。

その表情は部下への信頼、愛情に溢れており、お酒を注がれる側も尊敬と感謝の眼差しで上司を見ていました。

普段はとても厳しく仕事の要求も厳しい方です。
しかし宴会の場ではこのように振る舞い、組織の結束力、部下の自分に対するロイヤリティを育てているのです。

当然演技の部分もあったかもしれませんが、部下の信頼を集めるためにどれだけ真剣かが伝わってきました。

部長クラスといえ共産党の幹部は自分が受け持つ範囲のGDPや企業誘致の数など、明確で非常にハードルの高い数字目標を課されています。
その数字を達成しなければ上に上がっていけません。

無理難題とも言える数字を達成するには、部下がいかに頑張ってくれるかにかかっています。
上へのゴマすりも当然やりますが、それ以上に部下を大事にする方が業績に直結するため、彼らはどうやって部下を束ねるか、信頼を獲得するか、必死に考えているのです。

仕事の能力や実行力は勿論のこと、人望や継続力、更には派閥争いや権力闘争を乗り切る政治力まで求められます。

この強烈な育成システムを経る過程で、強いリーダーシップと実行力、人望と権謀術数などが徹底的に磨かれ、重慶の副市長のような存在に育っていくのだと感じました。

日本における幹部候補人材の育成との違い

日本の大企業の人材育成システムには一部似たところがあります。
ジョブローテーションで色々な部署をまわり、それぞれで結果を残した人が出世していきます。

ただし共産党の仕組みと大きく違うのは、数字目標や責任が曖昧な場合が多いところです。

どちらかというと“任期をつつがなくこなした”とか、上司部下含めて周囲との関係をうまく築いて仕事もきっちりやったみたいな人が評価され、突破力やリーダーとしての強さはあまり重視されません。
上司にゴマする一方、部下にはふんぞり返っている方が散見されるのも日本の特徴です。

中小企業の場合、頻繁なジョブローテーションは真似できませんが、共産党のシステムから参考になる点が沢山あります。
・明確な数値目標(かつ目標レベルが高い)を与えているか?
可能性ある社員を抜擢して責任と権限の大きい仕事をさせているか
・成果を出したら更に抜擢し、もっと大きなチャンスを与えているか?
・組織の力を束ねて成果を出す仕事をやらせているか?
・幹部候補生にライバルはいるか? いなければ己を客観的に知る機会を与えているか? もしくはライバル人材の育成や採用を行っているか?

幹部候補人材の育成は運頼みにしない

幹部候補人材は放っておいてもなかなか育ちません。
稀に放っておいて勝手に育つ人もいますが、運頼みであり再現性がありません。

人材輩出企業と言われるリクルートさんは、小規模だった時から人材育成に様々な工夫や試行錯誤を繰り返してきたといいます。

幹部候補がどんどん生まれる会社になるには、人が育つ仕組みが必要です。
ただ漫然と仕事をやらせるのではなく、仕事の与え方、権限、目標設定、競争、昇進、報酬などを適切に見直す必要があります。

以上、「幹部候補をいかに育て抜擢していくか ~海外(中国)に見る究極の競争システム」でした。

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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