管理職不足
企業が成長していく中で欠かせないのが「次の管理職を、誰に・いつ任せるか?」という判断です。
多くの会社は管理職人材が不足しているので「できるだけ早く登用したい」と考えるものの、早すぎる登用は本人を潰してしまいかねません。
逆に登用を待ちすぎると、管理職不足が解消しないどころか、候補人材のモチベーションが低下し、離職につながる可能性もあります。
今週のブログでは、管理職登用の適切なタイミング、登用前から登用後のステップについて、成功確率の高を高める方法についてお伝えします。
目次
登用の判断は「実力」か「ポテンシャル」か

管理職登用タイミングの議論になると、よく出てくるのが次のような対立構造です。
A. 一定の実力が備わってから登用すべきか?
B. 登用してから育てるべきか?
管理職としての能力が整った人材を登用する企業もあれば、将来性や意欲を重視して、少し早めにポジションを与える企業もあります。
それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。
![]() メリット | ![]() デメリット | |
実力登用 | ・成果が出やすい ・周囲が安心して任せられる | ・該当者が限られる ・チャンスが少ない |
ポテンシャル登用 | ・成長の機会になる ・若手の抜擢により組織が活性化 | ・マネジメント業務に合わないリスク ・能力不足のリスク ・周囲のサポートが求められる |
どちらにも一長一短があり「こちらが正解」ということはありません。
しかし私は「ポテンシャル登用」を、より正確に言うと「管理職になりたい意欲のある人材のポテンシャル登用」をお勧めしています。
その理由は3つあります。
ポテンシャル登用をお勧めする理由
測定したマネジメント能力が正確とは限らない
そもそも管理職をやっていない人のマネジメント能力を測っても、それが通用するかどうかは実際にやってみないとわかりません。
「なりたい」という意欲がある事自体を評価すべき
管理職の成り手が少ない時代に登用基準が厳しすぎると、次世代管理職が出てこなくなってしまいます。
「成りたい」と本気で思っているなら、それだけで一つの重要な資質を備えていると言えるのではないでしょうか。
しかるべき手順で学んで実践すれば十分に通用する
マネジメントの仕事の大半はスキルでカバーできるものです。スキルはしっかり学んで実践を繰り返せば必ず上達します。
生まれもった素質や特別な能力は要りません。
マネジメント能力は未知数であったとしても、「人として信頼できる」、「物事に真剣に取り組める」、「学習意欲と吸収力がある人」ならば、十分通用するはずです。
ただし、登用の前後にいくつか注意点があります。
登用の成功確率を高める登用前後のステップ
多くの中小企業の管理職登用は、以下のステップが見られます。
業績の良い人を将来の管理職候補に
↓
管理職に登用
↓
簡単なマネジメント研修を実施
↓
管理職の仕事をスタート
一方で、ポテンシャル人材を管理職に登用する場合、以下のような流れに変更することによって、成功確率を高めることが可能です。
(赤文字の箇所が流れの異なっている部分です)
業績の良い人を将来の管理職候補に
↓
後輩数名の指導や相談にのるようなリーダー的役割を担ってもらう(A)
↓
本当に管理職になりたいか意思を確認する(B)
↓
実践的なマネジメント研修を実施し、管理職の仕事・責任などを学ぶ(C)
↓
管理職に登用
↓
管理職の仕事をスタート
↓
定期的な振り返りの場を用意(D)
この2つの流れを比較し、なぜ後者が望ましいかを具体的に見ていきましょう。
A. 後輩数名の指導や相談にのるようなリーダー的役割を担ってもらう
管理職になる前に、疑似的に管理職っぽい経験をしてもらいます。
後輩の面倒を見たり指導を通じて、他人をマネジメントする難しさや、自分自身が部下指導や育成の仕事を好きかどうかが分かり、実際に管理職になった時の仕事を想像することができます。
後輩をもつ経験を与えるのが難しい場合には、部署横断的なプロジェクトの取りまとめ役をやってもらうなど、何らかの疑似的体験でも代用可能です。
B. 本当に管理職になりたいか意思を確認する
意思確認はとても大切です。
管理職は組織を率いる立場なので、「やらされて嫌々やる仕事」ではありません。
「是非やりたい!」ではなくても構いませんが、
少なくとも「管理職になりたくない!」と思っている人は登用すべきではありません。
嫌々やらされた人は、上手くいかない時に他責になりやすいためです。

C. 実践的なマネジメント研修を行い、管理職の仕事・責任などを学ぶ
管理職になった後に研修するのではなく、なる前に研修を行うところがポイントです。
管理職候補人材として名前があがった段階で、以下のような研修を受けてもらいます。
管理職の仕事が担当者時代とどのように異なるか?
管理職ならではの役割とは何か?
プレイヤー業務とマネジメント業務をどう両立するか?
部下の仕事の管理や育成をどのように行うか? など
管理職になる前に学べば、登用後の仕事がある程度想像でき、自分は本当に管理職になりたいかを考える判断材料にもなります。
D. 定期的な振り返りの場を用意する
管理職登用後には、たくさんの困難に直面します。
管理職になる前には想像もしなかったような壁にぶつかることもあり得ます。
「部下が全然言う事を聞いてくれない」
「プレイヤー業務とマネジメント業務の両立ができない」
こんな悩みが日常的に勃発します。
管理職の上司が面倒見の良い人であれば、都度相談にのりアドバイスもしてくれますが、そのような上司はどちらかというと少数派です。
結果として、壁にぶつかった新米管理職がひとりで悶々と悩みを抱え続け、精神的に追い込まれるケースもあります。
そこで、管理職登用から1ヶ月後、3ヶ月後などの節目において、マネジメントの仕事を振り返り、悩みを打ち明け、相談できる場を用意します。
これが、内省・学び・気分転換などの機会になります。
理想的には、社内の管理職数名が集まり、お互いの悩みを話したり、新任管理職の相談にのったりするなどができるといいですね。
そのような同僚がいない場合には、経営陣や人事が相談にのってあげてもいいと思います。

ポテンシャルで管理職を登用するならば、上記のような経験の場や機会の提供、サポートをセットにしてこそ成功確率が高まります。
早期にポテンシャル登用するだけで、その後何のサポートもなければ、会社として管理職失敗予備軍を自ら増やしているようなものなので、ご注意ください。
管理職登用をためらうケース
ポテンシャル人材を管理職に登用するとはいっても、躊躇しがちなケースがあります。
候補者の年齢が若すぎる
候補者が部下より年下になる
候補者の上司が手放したがらない
このようなケースでは、議論した上で登用が見送られることがありますが、この躊躇こそが会社の次なる発展を阻害する要因になりかねません。
今の時代、年上部下はよくあることなので、それを理由にしていたら望ましい組織が描けなくなります。
若かろうと、ポテンシャルと意欲があるならば、積極的に登用してみていいのではないでしょうか。
マネジメントスキルは、部下が年上でも年下でも関係なく通用するスキルなので、そのようなスキルを身に着けてもらえば十分に対応可能です。

また、「優秀な部下を手放したくない!」という気持ちはわかりますが、会社の発展にとっては乗り越えなければならない壁です。
管理職への意欲と能力がある優秀人材をいつまでも担当者のまま置いていたら、やがてその人は管理職になれる会社に転職していくでしょう。
仮に転職しないとしても、遅すぎる登用は、モチベーションやエンゲージメントの低下につながりかねません。
有望な人材がいたら、先ほどのステップを踏みながら、早期に管理職に登用していくことをお勧めします。
まとめ
ポテンシャルのある人材を早期に登用することは、企業の成長に不可欠です。
とりわけ人材不足が続く今、管理職としての実力があるかないかにこだわりすぎるよりも、ポテンシャルと意欲を評価し、早期にチャンスを与える「ポテンシャル登用」が現実的かつ効果的なアプローチです。
ただし、ポテンシャル登用を成功させるには、以下の要素を押さえたステップ設計と丁寧なフォロー体制が不可欠です。
事前にリーダー的な経験を与える
管理職登用前に実践的なマネジメント研修を行う
管理職になりたいかの本人の意思を確認する
登用後に振り返りの機会を設ける
人材不足の中、未来の組織をつくる第一歩としてぜひ実践してみてください。
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