「名選手、名監督にあらず」という言葉があるように、 トップ営業 が必ずしも良き指導者になるとは限りません。
あなたの身近でも、トップ営業を管理職に引き上げて部下育成を任せたものの、期待通りいかないケースがあるのではないでしょうか。
トップ営業はずば抜けて実力のある人です。
それにもかかわらず指導役として上手くいかないのはなぜでしょうか?
上手くいく人といかない人の分かれ道はどこでしょうか?
どんな人に指導役を任せればいいでしょうか?
今週のブログでは、指導者に必要な姿勢、資質について、ゴルフの松山英樹選手のコーチの話なども交えてお伝えします。
目次
トップ営業 が必ずしも指導者に向かない3つの理由
まずは、トップ営業だったにもかかわらず、部下や後輩に教えるのが上手くない人について考えてみましょう。
自分が売れた理由がわかっていない
トップ営業が良い成績を残す理由は色々あります。
市場環境、競合状況、商品、営業戦略、商談、アフターサポートなど、様々な要因が関係しています。
新規開拓が上手な人もいれば、既存顧客からのリピート受注に強い人もいます。
商品のベネフィットを分かりやすく伝えるのが得意な人もいれば、顧客の悩みを聞き出すのが上手な人もいます。
大事なのは、自分が売れた理由を客観的に分析できているか否かです。
客観視したことがないと、なぜ自分の成績がよいかわからないので、いざ人に教える時に要素分解して教えることができません。
結果として根性論に依存したマネジメントなどに陥るリスクがあります。
自分のやり方を強要する
仮に客観視して自分が売れた理由がわかっていたとしても、自分のやり方をそのまま部下にやらせては上手くいきません。
トップ営業は自分のやり方に自信がある分、要注意です。
売れる営業のタイプは千差万別。同じやり方で誰もが成功するとは限りません。
商談数など行動量が強みの人もいれば、戦略的な頭脳派もいます。誰からでも好かれるキャラクターで勝負する人もいます。
売れる営業に育つためには、上司のやり方を真似るだけでは限界があり、自分のスタイルに辿り着くことが重要です。
仕組み化の発想が弱い
トップ営業は個人としての力があります。しかし部下達が同等の力を持っているとは限りません。
力量の劣る人に同レベルの成果を出してもらうには、なるべく業務を共通化し、個人の力量に依存する度合いを下げなければなりません。
例えば、これらを整備して仕組み化することが重要です。
- 共通の営業ツール
- 誰でも説明できる分かりやすいパンフレット
- 営業進捗の見える化
- 見積作成ツール
- 最新情報の共有や勉強会
このようにメンバー全員の平均的な力を底上げするような仕組みづくりが必要ですが、そこに発想が及ばないと結果がついてきません。
指導者は部下より優秀でなければならないのか?
ビジネスの現場では、「教える上司の方が部下よりも実力があることが当然」という風潮があります。
「営業で優秀だったら当然、部下の指導もできるはず」という考え方です。
それは本当に正しいことでしょうか?
スポーツの世界に目を転じてみましょう。
名コーチのやり方に学ぶ
目澤秀憲コーチ
ゴルフの松山英樹選手が2021年4月のマスターズで優勝しました。
アジア人初の快挙です。
松山選手はずっとコーチをつけていませんでしたが、2021年の年初から目澤秀憲氏がコーチとして就任しました。
目澤氏も元々ゴルフプレイヤーでしたが、学生時代に日米の指導法の違いに驚き、コーチに転換した方です。
したがって、ゴルフの実力は松山選手に遠く及びません。
その目澤コーチが興味深い発言をしています。
選手に重要なのは、その人なりの哲学や、考え方、練習方法を持っているかどうかです。
一方で指導するコーチは、幅広い知識を持っていることは必要不可欠であり、その知識を増やす努力を続けていかなければいけません。
コーチが一つのことしか知らない、というのはダメだと思います。
(引用:Newspicksより)
いくら選手とコーチの関係であっても、「この方法がいいからやりなさい」というアプローチは取らない。昔はそういう指導もありましたし、それがいい方向に進んでいたのだろうと思います。
ただ、若い世代と会うほど、その方法は現代では通用しないな、と感じています。
必ず、「なんでそういう方法でやらなきゃいけないんですか?」と聞かれますからね。
「こうすれば、こうなる!」というアプローチでは、いい関係性が築けない。
詰まるところ、この仕事は、人と人との触れ合いがあって進むもの。選手には、この人とだったら、苦しいときを共有できる、と信頼感を持ってもらうこと。
(引用:Newspicksより)
ここで目澤コーチが言っているのは
- 選手以上の幅広い知識や方法論を持っていることの重要性
- 一方的な指示の仕方は今の時代では通用しない。相手に納得いくまで考えさせるコーチングのアプローチが必要
- 信頼関係を築くこと
ということです。
先ほど述べたような、「トップ営業が自分のやり方を押し付ける」方法とは全く異なります。
平井伯昌コーチ
また、競泳界の名伯楽と言われる平井伯昌コーチは、金メダリストである北島選手や萩野選手を育てました。
平井コーチも元々は水泳選手ですが、大学時代に選手からマネージャーに転身したことをきっかけに、その後コーチの道を歩みました。
よって水泳の実力では、北島選手や萩野選手には全然かないません。
その平井コーチが、近年スランプに陥っていた萩野選手に「金メダルを取ることは『目標』であって、人生の『目的』ではない」と仰ったそうです。
単に技術を教えているのではなく、人としての生き方、生きる意味について考えさせる指導をしていますよね。
両コーチとも一流選手が指導対象なので、コーチング的なアプローチに寄る側面はあるかもしれません。
しかし相手のポテンシャルを最大限引き出し、その人が高い目標に辿り着くよう支援するという役割は、ビジネスの指導においても変わらないはずです。
両コーチから学べる部下指導の要件は以下の通りです。
- (自分のやり方に固執せず)部下が成果を出すための様々な手法や考え方を学び、部下に合う方法を提案する
- 一方的な指示ではなく、本人に考えさせ自ら納得してもらう
- 目先の目標達成だけでなく、仕事の意義やその人の人生の目的までが指導の範囲
- ベースの信頼関係をつくる
指導者として上手くいく人
最後に、指導者として上手く人はどんな人か整理しておきましょう。
トップ営業には勝てなかった人でも、以下の条件を兼ね備えていれば良き指導者の資質があります。
指導が苦手な人は、以下の要素を修正することで指導の質が上がります。
試行錯誤の上で成果を出した人
営業の才覚があって最初から成果を出した人は指導者にはあまり向かないでしょう。
逆に、最初は結果が出ず苦労し、自分なりに悩み、たくさんの工夫・改善を重ねた末にようやく結果が出るようになった人は指導者に向いています。
結果を出すために何をしたら良いか深い実体験と共に語ることができます。成績が出ないで苦しんでいる人の気持ちが理解できるのも強みです。
観察力・人物眼にすぐれた人
人を見る目、観察する力があれば、対象者が成果の出ない理由、その人の葛藤や内面まで探ることができるので、より本人ニーズにあった指導が可能です。
対話重視、伝える力、訊く力のある人
部下指導は基本的に全てコミュニケーションを通じてなされます。
部下の話をしっかり聞いて受け止め、意見やアドバイスを分かりやすく伝えられなければなりません。
深い対話を重んじ、すぐ答えを与えるのではなく相手に考えさせるコミュニケーションが必要です。
信頼、愛情、忍耐がある人
部下から信頼される人間性を備え、部下の将来も見据えて辛抱強く成長させようという愛情(+厳しさ)があると、良き師弟関係ができます。
以上、トップ営業が必ずしも指導者として成功しない要因、指導者に必要な姿勢や資質についてお伝えしました。
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