管理職育成 がうまくいかない理由とは?|管理職不足の背景を知り、育成の道を切り開く

2023.04.13

管理職育成

社長が自信を持って「社内の管理職が十分に育っている!」と仰る会社を、私は今まで一度も見たことがありません。

多くの会社で「管理職が育っていない」「管理職が不足している」「管理職が管理職の仕事をしていない」といった悩みが聞かれます。

 
この問題は、会社固有の問題と、社会全体の問題や労働市場の問題が混然一体となっています。

どうやって育成するかを考える前に、なぜ管理職が育たないか、その理由を把握することが重要です。

まずはあなたの会社で管理職が育っていない原因の把握から対策を始めてみませんか?

 

管理職不足の4つの原因

 

管理職が足りない理由・育たない理由は、下記のような複数の要因が絡み合っているものと考えられます。
 

① 人口構造要因

② ビジネス環境変化要因

③ 魅力減退要因

④ 育成不足要因

 
それぞれ参考データなどとともに見ていきたいと思います。

 

① 人口構造要因

 
人口構造の変化は管理職不足に直結しています。

こちらの表は年齢別労働力人口の推移ですが、中間管理職の典型といえる世代(35~44歳)の労働力人口が、2014年から2022年まで、9年間一貫して減少し続けています。

管理職育成

引用:総務省「労働力調査」(2022年)

 

30代~40代の管理職の成り手が少ないため、中間管理職がどんどん高年齢化し「50代の中間管理職がいつまで経っても次の世代にバトンタッチできない」という構図が浮かび上がります。
 

 

また中間管理職の高年齢化は、若手社員と中間管理職の年齢ギャップ拡大にもつながります。

年齢差が大きいため、管理職は若手世代の気持ちや価値観がわからないことに悩み、マネジメントに苦労しています。

 

 

② 環境変化要因

 
管理職を取り巻く環境が大きく変化し、従来型のマネジメントが通用しなくなっています。
中間管理職の仕事の難易度が激化しています。

具体的な例を見ていきましょう。

 

プレイングマネジャー化

 
現代では、管理職も自分自身の担当業務を持ち、数字責任も負っています(=プレイングマネジャー)。

上司自身が多忙なため、部下とじっくり話す時間がとりづらい。限られた時間で効率よく部下マネジメントをすることが求められるようになりました。

 

 

働き方改革

 
働き方改革の流れで残業時間管理の厳密化が進みました。

従前はサービス残業で何とか業務をこなしていた社員に、業務時間内に効率よく終わらせるよう指導する必要が出てきました。

しかし、部下の能力育成には時間がかかります。

片側で業務効率化の指導を行いつつ、もう一方では部下の終わらない業務を上司が引き取って残業する事態も増え、上司にシワ寄せがいってしまいました。
 

加えて、少子高齢化・人手不足を起因とする採用難や働き方の多様化により、正社員という雇用形態だけでなく、時短社員、育休明け社員(男性も増大)、業務委託社員、副業者、外国人など多様な人材が混成するチームのマネジメントも求められるようになりました。

従来の正社員のみの組織管理に比べて管理職の仕事は遥かに難しくなっています。

 

 

リモートワークへの流れ

 
コロナ渦ではリモートワークが普及したため、従来とは異なる指導方法が求められるようになりました。

オフィスで顔の見える部下の指導だったものが、見えない場所で働く部下のオンライン指導に切り替わるなど、未知の仕事が増えたため、管理職は新たな課題に直面しています。

 

一律の人材マネジメントから個を見るマネジメントへ

 
以前のような年功序列的な人事制度下では、個々の能力を細やかに見る必要はありませんでした。

新卒の給料はどこの会社も横並び、社内の出世スピードも大差がなかった時代は、上司がケアすべきことも限られていました。

しかし今の時代は1人1人に向き合い、個々の能力に応じた適切な評価をすることが必要不可欠です。1on1が注目されているのもこの流れです。
 

同期で給料の高い人と低い人がいる場合、上司はその違いを説明できなければなりません。

納得いく評価が得られなければ退職につながりかねないので、細心の注意を払って1人1人を丁寧に評価する必要があります。

 

 

ビジネス環境の変化

 
IT革命によってビジネスの変化のスピードが非常に早くなりました。

次々新しい技術やビジネスが出現し、あらゆる市場が激しく変化しており、従来のやり方の維持では生き残ることができません。
 

このような環境下では、管理職には「新たな発想による商品開発、人海戦術に頼らない営業手法の構築、業務改善、マネジメント改善」など高度な能力が要求されます。

また、部下に対しては過去のやり方を教えるだけではなく、変化に応じて自律的に動ける社員育成が求められます。

管理職はこのような高度なミッションに取り組まなければいけないフェーズに移行しているのです。 

 

 

コンプライアンスの要求

 
パワハラ、セクハラ、マタハラなどなど、職場のハラスメント問題がクローズアップされるようになりました。

今や上司と部下は対等であり、部下を尊重して接することが求められています。

昔ながらの部下マネジメントに慣れた世代は気づかぬうちにハラスメントに該当するのを恐れ、部下との接し方に悩むようになりました。

時には部下を叱るべき時もありますが、ハラスメントを恐れて遠慮する上司が増え、それが部下を甘やかすこととなり、結果として組織の人材育成が進まない要因にもなっています。

 

以上、環境変化に伴う管理職の負担増を見てきました。

 

こちらは、管理職が日々の仕事で困っていることのアンケートです。

 

引用:リクルート「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」(2022年)

 

上グラフを見るだけでも、管理職がいかにたくさんの事をしなければならないかが分かると思います。

これらを全てバッチリこなせる管理職などいるでしょうか?

そのくらい、管理職は多岐に渡る仕事、難しい役割、たくさんの仕事量を求められており、会社が求める管理職レベルに到達しない人が多く出現しているのも無理からぬことです。

 

③ 魅力減退要因

 
2つ目の環境変化もあいまって、管理職の魅力が減退しています。

マンパワーグループの調査において、管理職になりたくない理由の上位はこちらです。
 

引用:マンパワーグループ「今後、管理職になりたいか」(2020年)

 

管理職の負担が増え、難易度が高まったが故に、その任につくのが重たすぎると感じる人が増えています。

そして「責任が重い割に報酬があまり上がらない」というのも大きな問題です。

 

 

アジア諸国と比較すると、日本人の管理職以上の給与は相対的に低いと言われています。

アジア諸国はどこも若者の転職率が高いので、管理職は人材の定着と育成に苦労します。

積極的に給料交渉もされるので、管理職は経営側の立場で人員の採用・育成・定着に尽力することが求められ、その分報酬も高くなっています。
 

これまでの日本の管理職の処遇は、「優秀」「組織に協力的」「転職も少ない」「会社の処遇に文句を言わない」部下達、つまり手のかからない部下達であることを前提に決まってきました。

しかし管理職の仕事が以前と比べて遥かに大変になった今、彼らの報酬は見直さざるを得ない段階にきているのではないでしょうか。

 

④ 育成不足要因

 
管理職が育たないのは、育成方法に起因する問題もあります。

 

見本不在

 
新しく登用される管理職に模範となる管理職がいない場合、当該管理職は手探りで業務をこなすことになります。しかし今の時代の管理職の業務内容は高度化しており、手探りではなかなかうまくいきません。

このようなことから「見本がいないから育たない、育たないから次の見本も生まれない」という悪循環に陥っています。

 

 

管理職の役割の曖昧さ

 
管理職の役割、なすべき事が明確にされているでしょうか?

多くの管理職が、何となく部下をもって、何となく部下を管理して・・・という曖昧な役割認識で仕事をしているように感じます。

しかし、自動車免許がない人は車を運転できないように、本来管理職の任につく以上は管理職ライセンスを取得するなどして、新しい知識や仕事のスタンスを学ぶ必要があります。

そういうハードルもなく、ミッションも曖昧なまま管理職になってしまうと、管理職としての成長が遅々として進みません。

 

育成に対する戦略がない

 
担当者として成果を出した人間を管理職に登用して「あとは実践で学んでください」となっていませんか?

担当者として成果を出す力と管理職に求められる力は異なるため、これは有効な方法とは言えません。

管理職に求める仕事は何か?その仕事に適した人材はどのような人材か?

管理職を育てるためのOJT以外の育成方法などを真剣に考える必要があります。

 

 

社長のマネジメントスタイル

 
社長のマネジメントスタイルによっても、管理職の育成は影響を受けます。

中小企業の場合、社長が全てを決め、管理職には「▲▲をやってくれ」「■■を直しておいてくれ」とタスクベースで指示するばかりの社長がいます。

その場合、管理職は言われたことを忠実に遂行する実行役でしかなく、マネジメント力を磨く機会にはなりません。

何か問題が生じたら「社長、〇〇〇の件はどうしたらいいでしょうか?」と答えを求めるスタイルが染みついてしまい、自ら問題を発見し、自ら改善のイニシアチブをとる力が身につきません。

これでは管理職の大事な仕事である「PDCAを回す力」が育ちません。

Dをするばかりで、PとCを社長に委ねてしまうので、「PDCAを回す力」が育たないのです。
 

計画を立てる、問題発見し修正する、自ら判断する、決断するという経験を積ませ、失敗経験もさせてこそ、管理職の力は育つのです。

 

まとめ

 
今回は管理職が育たない理由に焦点を当て、その対策を考察してきました。

今の日本で管理職が育たない原因を紐解くと、人口構造要因、ビジネス環境変化要因、魅力減退要因、育成不足要因の4つの観点からさまざまな問題が浮かび上がります。

 
あなたの会社においても、これらの要因を考慮しつつ、管理職育成に向けた取り組みを改善・強化することをおすすめします。

将来を見据え、組織全体が一丸となって管理職育成に努めることは、会社の競争力を高め持続的な成長を達成するための重要な一歩です。
 

積極的な取り組みを通じて、より強固な組織を築き上げましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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