「 日本型雇用システム 」の変遷は中小企業にどう影響する? 

2022.02.04

ここ最近、ジョブ型雇用の話題があちこちで取り上げられています。

それに関連して、 日本型雇用システム の在り方や変遷なども論点にあがりますが、実はその話のほとんどは大企業の話です。

 
「日本のこれまでの雇用システムの特徴は 『 新卒一括採用・終身雇用・メンバーシップ制 』 にある」などと言われます。

かつての大企業は確かにその通りでしたが、中小企業には元からあまり当てはまりません。

 
よって中小企業が抑えておくべきことは、「現在大企業を中心に起きている雇用の変化が、今後中小企業にどのように影響するか?」という点です。

 
今週のブログでは中小企業の雇用の動向・在り方についてお伝えします。

 

日本型雇用システム の議論は大企業の話ばかり

大企業 メンバーシップ制

 
日本の企業数のうち、大企業の割合は0.3%程度です。

そして大企業またはその企業グループで働く人の数は全体の3割程度と言われています。

しかし雇用の歴史やあり方の議論になると、そのほとんどは大企業特有の話題ばかりとなり、中小企業にとっては芯を食った議論になりません。

そこで、雇用に関する議論を大企業と中小企業で整理・比較してみましょう。

 

日本型雇用システム の特徴

 
以下は、大企業(以前→近年)と中小企業の雇用システムの比較です。
 

 

※メンバーシップ制=総合職として入り、数年おきに異動・様々な職種を経験する

このように、中小企業は大企業のような「終身雇用」「新卒一括採用」「メンバーシップ制」いずれにもさほど当てはまらないスタイルをとってきました。

 

日本型雇用システム の変遷 現在起こっている流れ

 
近年「ジョブ型雇用」の議論が盛んな背景には下記の理由があります。
 

  • 年功序列的な報酬の見直し
  • 専門性の高い人材ニーズの高まり
  • 内部登用だけでなく外部から機動的に中途採用できる仕組みが必要なこと

 

今後日本の雇用が完全にジョブ型になるとは思えませんが、「ジョブ型の専門人材」と、「総合職的に広く経験させながら会社の幹部に育てる人材」が並立するのが現実的にありうる姿ではないでしょうか。

実際、ITエンジニアなどはスキル・経験に応じた報酬相場が何となく市場として出来上がっており、転職頻度も高く、会社間を超えたジョブ型っぽい働き方になりつつあります。

  

ジョブ型雇用

 
専門性のニーズが高まるにつれ、能力の高い人材とそうでない人材の報酬格差は更に拡大していく傾向です。
すでに新卒入社者の入社時点における給与格差は広がりつつあります。

 
コロナに翻弄されたこの2年間は雇用の在り方にも大きく影響をもたらしました。

リモートワークで大半の業務は回ることが判明し、今後転勤や単身赴任はどんどん減っていくでしょう。

地方にいながら都市部企業に勤めることも可能になりました。

働き手の意識もより自由で束縛されない方向に羽ばたき始めたので、今以上に転職頻度は高まり、副業者も増えていくでしょう。
 

この目まぐるしい変化に、中小企業はやや置いてきぼり感があります。

どう対応したらよいか見定められないまま、時が過ぎ去っている印象です。

しかしこのまま手をこまねいているわけにはいきません。今後どのように対応していったらいいでしょうか。
 

日本型雇用システム の変遷 中小企業の対応

日本型雇用システム

 
先の表のとおり、中小企業は元々社内異動が少なく、基本的には1つの職種にとどまり、そこで専門性を高めていく方式です。

新卒採用よりも必要に応じて中途採用するのが通常の採用方法でした。

これは今でいうジョブ型に近い運営形態と言えるかもしれません。

とはいえ本来のジョブ型のように明確な職務記述書があるわけではなく、職務と報酬の関係も曖昧、役割も責任も明示されない状態でした。
 

また、中小企業の人事制度は大企業の制度を形ばかり真似たものが多く、自社としてのポリシー(制度の根幹となる軸)に欠け、制度運用も何となく・・・という実態もよく見られます。
 

つまりこれまでの中小企業の雇用や人事制度には「あまり個性がなかった」とも言えます。

 

中小企業はポリシーを確立する

中小企業のポリシー

 
今後日本型雇用システムが変化していく中、中小企業は以下の観点において、自社としてのポリシー・独自の考え方を打ち出す必要があるでしょう。

 

報酬ポリシー

採用ポリシー

育成ポリシー

働く環境ポリシー 

 

これらがないと、弱者である中小企業は戦っていけなくなります。

逆に明確なポリシーがあれば、雇用の流動化と人材の専門化が加速する今の時代においても、労働市場での戦いに負けない会社になっていきます。

 

報酬ポリシー

 
「何をもって人を評価し報酬に差をつけるか」というポリシーが必要です。

「能力、成果、行動や姿勢、役職、年齢、社歴」など様々な要素から、何をどのように組み合わせて報酬を決めるかというポリシーです。

「当社は今後も年功序列的に皆が平等で少しずつ給与が上がる給与制度でいきたい」

これも立派な考え方です。時代に逆行する印象はあるかもしれませんが、自社ならではの明確なポリシーが伝わってきます。
 

大事なのは自社のビジネスモデルや方向性に合ったポリシーを持てているかであり、世の中一般の動きに合わせる必要はありません。

ただし、今の環境下で共通して言えることは、いい人材を採用するには報酬も相応に出さなければ来てくれないし、いい人材に低い報酬しか出さないと他社に引き抜かれる可能性が非常に高くなるということです。

 

採用ポリシー

採用ポリシー

 
「どのような人材をどこから採用してくるか」という基本的な考え方です。

毎年多数の採用が必要で、かつ未経験の若い人材を育てるのが得意であれば、新卒採用に力を入れるのが効率的です。

即戦力が欲しければ中途採用になりますが、そういう人材は引っ張りだこです。

なので、自社で育てるのか、競争倍率の低いシニア層を狙うのか、育児から復帰する層を狙うのか等々、何か戦略が必要です。
 

全ての機能を正社員採用でまかなうべきか、役割によっては外注、副業者や顧問活用などで代替するのか、活用する雇用形態も選択肢が増えます。

 
地元にいない人材をリモート社員として採用する方法もあります。

どのような人材を活用するのであれ、採用倍率の高い人材を狙えば自ずとコストも高くなり、倍率の低い領域の人材を活用できれば経営の自由度は高まります。

 

育成ポリシー

 
かつての大企業はジョブローテーションで色々な仕事を経験させながら、会社全体を深く理解し、管理職を多数養成していくシステムでした。

段階的に管理職のポストが減り、各々の部署において高い専門性が求められるようになった今、異動頻度を減らしたり、一つの部署で専門性を高めるキャリアも奨励するようになりました。 

さて、あなたの会社の育成ポリシーはいかがでしょうか?

ジョブローテーションや専門性向上に限らず、社員育成の方法は色々とあります。

自社ならではの育成のやり方を考えてみましょう。

社員育成の様々なやり方、改善法についてはこちらのブログをぜひご参照ください。
 

 
 

働く環境ポリシー

 
コロナを経て、リモートワークが可能か否かが転職先選びの基準に加わりました。

特に通勤地獄の都市部で顕著ですが、車通勤の地方でも通勤せずに済むメリットは大きいため、若い世代を中心に今後ますますニーズは高まっていくでしょう。

フルリモートまでいかなくてもいいですが、週のうち何日かリモートを選択できるのは採用上も社員の定着上もアドバンテージになります。
 

リモートワーク 中小企業

リモートワークに踏み切れない会社の問題は、紙の書類が多すぎて出社しないと処理できなかったり、業務フローが定まっていないため、IT化するにもやりようがないというものです。

初期投資と手間は必要ですが、外部の業務改善専門家など取り込みつつ、早期にオンライン上で完結する仕事を増やしていくのが望ましいです。

IT化は単に働き手にとってのメリットだけでなく、会社としてもコスト削減、残業削減、業務スピード、確実性、リスク防止などが進むので、やらない手はありません。

コロナが全ての会社に「IT投資まったなし」の号令をかけたとも言えます。

 

まとめ

中小企業の雇用システム

 
日本的雇用の在り方が変化する中、中小企業をめぐる雇用の在り方はまだまだ昔のやり方の踏襲が多く、自ら変化を先取りしてチャンスにつなげる動きが少ないように感じます。

大企業には知名度や報酬水準で敵いませんが、中小企業は中小企業ならではの武器を打ち出しましょう。

それは「個性」であり「ポリシー」です。
 

大きい会社は様々な業務や組織を抱えているので色を出しにくいですが、中小企業は経営者の個性に始まり、「らしさ」を発信しやすいのが強みでもあります。

万人受けする必要はありません。

自社が必要とする人材にどのようにメッセージを届け、自社の社員が高い意欲で働ける仕組みをどのように設計するかを、ぜひ考えていきましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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