「当社の 離職率 は○%です」という議論がよくなされます。
「離職率」は自社の社員定着の観点から着目する指標であると同時に、就活や転職活動などで外部からも注目される指標でもあります。
近年は人的資本開示の流れにより、その重要な開示情報の1つとして離職率を公表する企業も出てきています。
ところが離職率の算定方法には厳密なガイドラインがないため、各企業が独自の方法で算出しています。
違う会社同士の離職率を比べるのは一筋縄ではいかないのが現状です。
今週のブログでは、離職率を定量化するために適用されるさまざまな方法を評価し、どの方法が最も信頼できるかを明確にします。
また企業として離職率をどのように管理するのが望ましいかをお伝えします。
離職率 の算定方法は企業によって大きく異なる
離職率をどのように算定するかは共通のガイドラインがないため、公表されている数字も会社によって根拠が異なります。
例えばこちらの表をご覧ください。
この例は、期初に比べて社員数がかなり増えている会社です。
左から順に、3月決算の会社の年度始まりである4月期初の社員数(①)、年度が終了する3月期末の社員数(②)、その平均(③)、そして1年間の離職者数(④)が記載されています。
この場合の離職率算定には以下の方式があります。
離職率の算定は「離職者数÷社員数」と単純ではありますが、このように「分母の社員数にどの数字を使うか」で数字が大きく異なってきます。
離職率Aは期初の社員数で割っているため離職率が高く出てしまい、離職率Bでは期末の社員数で割っているので低く出てしまいます。
離職率Cは期初と期末の平均社員数をのるので、ある程度妥当な離職率が算定できています。
しかし分母の社員数はある一時点を切り取った数字であるため、どの時点を切り取って使用したかによって結果が大きく異なることに注意が必要です。
成長が大きいこの会社の場合は、期初と期末の平均社員数で算出したCでも適切とは言えません。
そこで、月次データを使って離職率を抽出します。
ここで算出した離職率Dは、毎月の社員数の年間平均値を分母に使いました。
このように成長中の会社の場合は月々の入退社数が多く変動が激しいため、各月の数字を元データに使った方がリアルな離職率を把握できるからです。
以上のように、同じ会社の離職率としてA26%、B17.9%、C21.2%、D19.6%のように4つの結果が出てきましたが、Dの19.6%が最も実態に近い離職率と言えます。
目的によって使い分ける離職率
離職率動向を経営に活かすためには、目的に応じた活用が求められます。
先ほどの「離職率D: 19.6%」は会社全体の離職推移の基本となる数字ですが、さらに実態を詳しく把握するには、以下のような算定も必要です。
離職率上段は先ほどと同じ。下段の離職率は、会社として問題のある離職率を算定したものです。
離職理由の中には「本人は仕事を続けたかったがやむを得ず退職する場合」があります。
例
- 配偶者の転勤に伴う離職
- 病気や怪我に伴う離職
- 介護離職 など
そのようなケースを総離職者数から差し引いた数が、会社として何らかの問題がある「問題離職者数」です。
この表を見ると今年の「問題離職者」の離職率は12.8%ですが、継続的にこの推移を見ることにより、定着率改善がどのように進んでいるかを把握できます。
また、全社の離職率データをいくつかの切り口で見ると、問題の所在が明確になります。
- 営業部:30%
- 開発部:8%
- 製造部:12%
- 広報部:15%
- 管理部:26%
このように部署別の違いを見ると、特に営業部と管理部で対策が急がれることがわかります。
また、世代別離職率によって見えてくることもあります。
- 20代:28%
- 30代:31%
- 40代:8%
- 50代:11%
その他、職種別、男女別、採用ルート別など様々な切り口から検証することができるので、あなたの会社で問題があると思われそうな切り口を仮説に立て、数字検証を進めてみましょう。
新卒入社の離職率
新卒採用に力を入れている会社は、「新卒入社者の離職率」の分析が欠かせません。
新卒の離職率分析は通常以下の様に、入社年次別で把握するのが望ましいです。
さて、上表の例では以下のことがわかります。
①2019年入社者は3年後までに56%の人が辞めており、非常に高い数字となっています。
②しかし2020年入社者では37%に下がっており、改善傾向にあることがわかります。
③2021年入社者の2年後の離職率は21%であり、その前の44%→27%からさらに下がっているので、こちらも改善トレンドと言えます。
新卒入社の場合、年度によって市場環境が異なり、企業側の採用手法や選考方法も変化します。
よって、このような入社年次単位での離職率分析を行うと今後の改善課題が見えてきておすすめです。
まとめ
離職率といってもその算定には様々な方法があり、各社共通のガイドラインが定まっていません。
社員の離職は会社の競争力を落とす要因なので、離職率データを適切な計算式にもとづいて把握し、対策につなげることが必要です。
また人的資本開示等の流れによって外部に離職率を公表する場合、そのデータの根拠を明確にするとともに、公表を持続できる出し方を検討してください。
離職率データは会社全体の数字だけ見ても対策を施しづらいことがあります。
部署別や世代別の傾向を把握したり、特定年度に入社した新人の離職率を定点観測するなど、さまざまな切り口から分析し、離職防止に向けた活動につなげていきましょう。
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