ある会社のマネージャーAさんは、誠実で部下のことを大切にする人です。
しかし最近、 部下が辞めていく 、他のメンバーからも不満が出てくる、などの事態が起きてしまいました。
なぜそのようなことになってしまったのでしょうか?
Aさんと対話する中で見えてきた問題は、Aさんは部下との会話において部下の本音を引き出すような会話をしていませんでした。
今週のブログは、仕事の用件だけのコミュニケーションに留まらない、対話の広がりの重要性についてお伝えします。
目次
仕事の用件のみの会話では本音が見えない
Aさんはある会社の人事マネージャーです。
とても忙しい人で、社長からの特命ミッション、新卒採用と中途採用、労務管理体制の整備、営業部門の研修の企画など、日々業務に追われています。
Aさんの下には5人の部下がいました
(採用担当2名、労務担当1名、教育担当1名、アシスタント1名)
この中で、最近、採用担当1名と労務担当1名が相次いで退職してしまいました。
2人それぞれの離職理由はこうです。
採用担当者の離職理由
- 仕事を丸投げされ、自分の仕事を見てもらえず、これでよいか不安があった
- 孤立して仕事している感じがした
- 同じ仕事の繰り返しが多くこの先成長できるイメージが湧かなかった
労務担当者の離職理由
- 煩雑な業務が多すぎて非常に神経を遣った
- 効率をもっと上げたいが、会社としてIT投資等どこまで対応してくれるのかわからなかった
- 同僚との関係もあまりよくなかった
ショックを受けたAさんは色々反省しましたが、最大の原因は、部下との会話が仕事の用件ばかりで、膝を突き合わせて本音を引き出すような会話をしてこなかったことでした。
採用担当者との間では、「●●職種の応募は順調?」、「次回の説明会には何人エントリーが入ってる?」などの会話は頻繁にしていました。
やり方が分からず質問された時は、いつも丁寧に指導していました。
労務担当者には、各部署から来る質問への回答の仕方や、行政提出書類の書き方など、細やかに教えていました。
残業が多い時は、Aさん自ら手伝い、担当者の負荷にも気をつけていました。
仕事の合間には、子育て、趣味のキャンプのことなど、雑談もしていました。
ところが、2人の担当者の離職理由について、Aさんはほとんど認識できていませんでした。
業務の進め方ついては密にやりとりしていたものの、2人の担当者が何に悩み、何に困っていたか、何に不安を感じていたか、Aさんは全然わかっていなかったのです。
本音を引き出す対話の重要性
Aさんの上司が退職した2人から話を聞いたところ、2人ともAさんのことは信頼しており、上司として悪い人ではないという認識でした。
仕事をたくさん教わり感謝もしていました。
一方で、「あまり深い話はしない。本質的な問題を解決してくれる人ではない」とも見られてもいました。
部下の本音を引き出すのは簡単なことではありません。
「本音を聞かせてよ」とお願いしたところで本音を話してくれる人は稀です。
もし本音を引き出そうと思ったら、大きく2つの方法があります。
A. 部下から本音の相談を持ちかけられるくらい、お互いに深い信頼関係を築く
B. 日常の対話の中で本音の一端が垣間見えるようなコミュニケーションをとり、それを繋ぎ合わせることで部下の本音を想像する
Aは理想的な上司部下関係ではありますが、部下の数が多く接する時間も限られるマネージャーにとってはハードルが高いので、Bの方法を体得するのが現実路線ではないでしょうか。
部下の本音を引き出す問い
部下が悩んでいること、不安に思っていることは、仕事の用件の会話だけでは見えてきません。
会話の入口は仕事の用件でも構いませんが、それにプラスして(少しくだけた雰囲気の時に)次のような問いを発してみましょう
「仕事には慣れた?職場には慣れた?」
「仕事全般で何か困ってることはある?」
「最近の職場の雰囲気についてどう思う?」
「職場で何か問題に思っていること、気がかりなことはある?」
「最近、仕事は楽しい?」
「●●さんは業務に相当慣れているけど、新しく学べていることや刺激的なことある?」
「忙しそうだけど、体調は大丈夫?」
「先月入社した新人の△△君は、●●さんから見てどう?」
このように声をかけることによって、本音ズバリとはいかなくても、部下の悩みや困り事がぼんやり伝わってきます。
見えてきた問題に対して、上司としてできる限りのサポート、解決行動をとることで、部下からの信頼度も上司への期待度もあがります。
転職理由ランキングから探る部下への接し方
転職理由をヒントに、部下への接し方を考えてみましょう。
doda「転職理由ランキング2021」の上位10の理由はこちらです。
1位の給与、7位の先行き不安などは全社に関わることなので上司の力だけでは何ともなりませんが、他の理由は、各職場単位にて上司がリーダーシップをとって改善可能な要素です。
上記の転職理由は4つのカテゴリー
【自己成長】【人間関係】【承認】【働く環境】に分類可能です。
【自己成長】
キャリアアップが望めない(2位)・スキルアップしたい(6位)・業界・会社の先行きが不安(7位)・社員を育てる環境がない(8位)・尊敬できる人がいない(10位)
【人間関係】
社内の雰囲気が悪い(4位)
【承認】
会社の評価方法に不満(3位)
【働く環境(労働条件)】
給与が低い・昇給が見込めない(1位)・肉体的または精神的につらい(5位)・労働時間に不満(9位)
上司は部下との日常のコミュニケーションの中で、4つのカテゴリーから部下のことをよく観察してみてください。
【自己成長】成長できているか?
【人間関係】職場の人間関係は良好か?
【承認欲求】本人の頑張りを周囲が認めているか?
【働く環境(労働条件)】過度な残業や精神的肉体的負担を強いていないか?
これら4つのカテゴリーに関する問いを投げかけて部下の声を引き出し、必要があればすぐに解決行動に出てください。
まとめ
繁忙感のある職場では上司と部下の会話が仕事の用件ばかりに偏りがちです。
用件ばかりの交流では、部下の本音の悩みや困り事が見えてきません。
見えてこないからといって何も手を打たず放置していると、ある日突然「辞表」が出される悲劇につながります。
退職理由は人それぞれではありますが、身近な職場の問題(上司との関係、同僚との関係、仕事内容、成長、労働環境など)が影響しているケースがほとんどです。
上司は日々のコミュニケーションの中で、いかにして部下の本音を引き出し、皆が働きやすい環境、成長できる環境を作っていけるか、その力が問われています。
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