私はマネージャー研修等で部下育成の話をする際「 あなたの 部下の長所 は何ですか? 」と尋ねることがあります。
意外と多くのマネージャーがすぐには答えられません。
一方で、「あなたの部下の課題や問題点は何ですか?」と尋ねると、すぐに答えが出てきます。
これは何を意味しているでしょうか?
人は他人の欠点に目がいきやすい反面、長所には目が向きづらいということです。
部下育成というマネージャーの仕事において、このような人間の特性はあまり望ましくありません。
なぜなら、部下育成の基本は「長所を見つけ長所を伸ばし、短所を補うこと」だからです。
今週のブログでは、部下のキラリと光る長所を見つけて伸ばす人材育成についてお伝えします。
目次
部下の「キラリと光る強み」
少し考えてみてください。
あなたの部下にはどのような長所・強みがありますか?
どんな人であっても必ず強みはあります。
私自身これまで数多くの人と仕事をしてきましたが、長所・強みのない人は1人としていませんでした。
人には短所・弱みも存在しますが、それも分かった上で、着目すべきは長所・強みです。
実際に接点のあった人を思い浮かべると、こんな人たちがいます。
(仕事は遅いけれど)正確で着実にこなす人
(仕事は粗いけれど)とにかく仕事が早い人
(コミュニケーションは苦手だけれど)エクセルの計算やシミュレーションが得意な人
(口頭説明は下手だけれど)資料を作らせたら天下一品の人
(特技はないけれど)粘り強く絶対に途中であきらめない人
(口は悪いけれど)クリティカルシンキングができ、本質をつく質問ができる人
(プレッシャーに弱いけれど)細やかな配慮ができ色んなことに気づく人
(他人への配慮は足りないけれど)自分の目標達成に向けて何が何でもやり抜く人
(会社への提出物を遅れるなどだらしない面はあるけれど)顧客志向が圧倒的に高い人
(創意工夫は足りないけれど)決められたことを愚直に完遂する人
(よく抜け漏れが出るけれど)常にポジティブでチームに明るい雰囲気をもたらす人
(ちゃらんぽらんなところはあるけれど)人脈がすごい人
などなど。
あなたの回りにも多種多様なタイプの長所・強みを持つ人材がいることでしょう。
この長所・強みを見つけることが部下育成の第一歩になります。
なぜ、 部下の長所 からスタートすべきか?
部下を持つ上司の中には短所の改善からアプローチする人がいますが、私はこれはおすすめしません。
仮に、現在の仕事で既に長所を発揮しており、本人も自分の長所を認識している段階にいるならば、次のステップとして、足を引っ張っている短所の改善に着目するのはいいでしょう。
しかし、自分の長所に気づけていない人や、まだ長所を十分に発揮できていない人に対しては、長所を伸ばすのが先決です。
このような人に短所改善から入ってしまうと以下のような問題が生じかねません。
短所改善からスタートした場合に起こり得る問題
- 職場に貢献できている感覚をいつまでも持てず、実際に周囲からも認められにくいので、承認欲求が満たされない
- 長所を発揮できていない(=仕事の成果を十分に出せていない)ので、自信が持てない。仕事が面白いと思えない
- 「担当業務が自分に合っていないのではないか」とネガティブ思考に陥ってしまう
こうなってしまっては、長所を活かそうにもその段階まで進めません。
逆に、先に長所を活かした仕事ができればこのような効果があります。
部下の長所 にフォーカスする効果
「職場に貢献でき、周囲からも認められる」と承認欲求が満たされる
長所を発揮して成果を出すことで自信がつく
長所を褒められると、さらに加速して長所は伸びていく
担当している仕事が面白くなり、もっと頑張ろうと思える
想像してみてください。
部下が5人いる職場において、5人全員が長所を活かして仕事をしているならば、職場には活気があり、皆が主体的に仕事に取り組んでいるでしょう。
逆に5人全員が長所を活かせず短所の改善にばかり取り組んでいたら、職場の雰囲気はあまり良い状態ではないはずです。
欠点に目が向く理由
なぜ上司は部下の欠点に目がいき、長所を見つけるのが苦手なのでしょうか?
部下の欠点に気づくのは何ら悪いことではありませんが、誰しもその特性を備えていることを自覚した上で、部下の長所探しに臨むべきです。
そもそも長所を見つけようとしていない
部下の長所を見つけるには、まず「長所を見つけよう!」と強く思っているかが大事です。
短所は目につきやすいですが、長所は意識して見つけようと思わなければ見えづらいものなので、常日頃から部下の長所を見出そう!という姿勢が何より求められます。
自分と同じ強み以外を認めない
自分の強みと同じ強みは認めるものの、自分と異なる強みは認めない上司がいます。
例
Aマネージャーは、お客様に寄り添ってたくさん話をして常に悩みを聞くスタイルで高い成果を出した営業マネージャーです。
一方で、部下のB君は、お客様と必要以上に接点を持とうとはしません。
その代わり、お客様の課題を解決する方策をとことん考え、さまざまなデータや事例にあたり、競合比較なども行なった上で、内容の濃い提案を行います。
Aマネ―ジャーからすると、B君は机に座っている時間が長く、お客様と小気味良いキャッチボールをしないので、そのやり方に納得感がなく、B君に対して
「もっと顧客商談回数を増やし、お客様と仲良くなるように」と強く指導します。
Aマネージャーは自分流の成功体験がある上、B君の強み自体が自分にできるスタイルではない。だからよく分からない。認めないという状態です。
仕事で成果を出すアプローチは人によって異なります。
Aマネージャーの良さはもちろんありますが、B君のやり方の良さもあります。
自分にはない部下のやり方を否定したりせず、そのやり方自体の個性や良さを考え、尊重し、支援することが重要です。
万能を求めてしまう
上司の気持ちとしては、部下に多くの能力を求めたくなります。
しかし「万能な人は滅多にいない」のも事実です。
多くを求めるが故に、次々と短所を改善していって欲しいという思考になってしまいますが、
本来組織はメンバー1人1人の強みと弱みを補い合って成り立たせるものです。
「1人1人のキラリと光る各自の長所の組み合わせによって強い組織を作る」という発想が必要です。
自分とウマが合うことを前提としてしまう
自分とウマが合う部下に肩入れし、タイプが全然違う部下には時間を割かない上司がいます。
部下の性格であったり、上司と気が合うか合わないかは、本来は仕事の成果には関係ありません。
自分と合う合わないでバイアスをかけてしまうと、大いに成長する可能性を秘めた部下をつぶすことになりかねません。
ウマが合わない部下であっても、それはそれとして、その部下の長所がどこにあるかをしっかり観察しましょう。
自分より優れた人を認めない
上司にとって自分より優秀な部下は恐い存在でもあります。
自分のポジションを奪われるのではないか?という不安を感じることもあるでしょう。
結果として優秀な部下を認めたがらない人が出てきます。
「優秀と認めたくない」という強いバイアスがあるので、長所や強みが顕在化したところで上司はそれを認めようとせず、フタをします。
この結果、部下は大いにストレスを抱えることになります。
冷静に考えてみると、上司が部下より優秀とは限りません。
普通レベルの上司であれば、部下が10人いたら半分程度の5人はその上司より(ポテンシャルとしては)優秀と考えられます。
よって、まずは「上司は部下より優秀でなければならない。優秀なはずだ」という固定観念から脱却しましょう。
そして、優秀な部下の力をどんどん引き出し、自分の部署全体がよい成果を出せるよう頑張ってもらうのです。
それが結果として上司のマネージャーとしての評価を高めることにもつながります。
部下の短所への対処
部下の光る長所を見つけ、それを伸ばす重要性を伝えてきました。
これは決して短所を放置してよいという意味ではありません。
優れた長所があっても、短所がひどければ、結果として長所も活かせなくなります。
長所を活かす、長所を更に伸ばすためにも、短所の改善を指導するのも上司の仕事です。
ただし大事なのは、長所を尊重し、長所を更に伸ばしながら、短所改善も必要であることを納得してもらうことです。
単に短所だけを指摘しても本人の内面にすっと刺さっていかないので、工夫が必要です。
例:コミュニケーションが苦手なCさんへのアプローチ
優れた技術を持つプログラマーCさんはコミュニケーションが苦手です。
一人で作成する作業は全く問題なく品質も抜群に高いものの、チームとしてシステムを作り上げる段階ではコミュニケーション不足がボトルネックになります。
そんなCさんに対してのアプローチは、強みを活かしながら弱みを補っていく方法です。
[本人に伝える内容のイメージ]
Cさんのプログラミング技術は突出しているよね。チームにもすごく貢献してくれている。
今後Cさんには更に大事な役割を担って欲しいと思っているんだ。会社の中でも難題のプロジェクトと言われる仕事の〇〇パートのプログラミングを是非お願いしたいと思う。
この仕事はCさんの能力が正に活きる仕事。
ただし、この仕事は優秀なプログラマー5名の協働作業でやり取りが多く発生するから、そこは少し心配しているんだ。
この仕事を完遂するためにも、Cさんのコミュニケーションはもう少し◇◇◇の点で改善できるといいんじゃないかな。
Cさん自身、苦手意識はあるかもしれないけど、一歩ずつ改善をしていけば必ずよくなっていくし、Cさんの今後の仕事の幅もキャリアの幅も大きく広がっていくと思う。
手始めに△△の本を読んだり、学んだりするとことから始めてみてはどうかな。
このような伝え方をすれば、Cさんも自分の長所を承認してもらいつつ、新たなステップに向けた課題指摘をされるので、悪い気持ちにもなりません。
自助努力の必要性も感じてもらえるのではないでしょうか。
まとめ
上司は部下の短所にはすぐに気づく一方で長所は見落としがちです。
しかし人材育成においては、常に部下の強みを見つけ出し、それをどのように伸ばすかを考えることが重要です。
長所の発見と育成に焦点を当てることで、部下も自信を持ち、チーム全体の士気が向上します。
マネージャーとして、常に部下のキラリと光る長所を見つけ、大いに伸ばし、強い組織を目指していってください。
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