他人に期待しない
1950年代に交流分析(TA)を提唱した精神科医エリック・バーンさんの有名な言葉があります。
「過去と他人は変えられない。 変えられるのは未来と自分自身」
この言葉はマネジメントにおいても金言であると思います。
どのような立場の人であれ、ゴールに向けて仕事を進める上で、他人とどのように関わっていくかが問われます。
他人に期待しすぎたり、期待の高さ故に失望したり、他人を変えようと思いすぎると、結果として自分の仕事が思うように進まなくなります。
今週のブログでは、他人に期待しすぎず、他人の行動言動に振り回されないマネジメントについてお伝えします。
目次
他人に期待しない マネジメントとは?
これは正確に言うと、まったく期待しないわけではありません。
自分の上司にも部下にも同僚にも、期待はかけるし、皆が成長していくようサポートもします。
一方で、他人に期待し過ぎるとそれが原因で自分が苦しくなってしまうので、他人に期待し過ぎないようにしましょう!ということです。
・期待をかける一方で、思ったように動いてくれなくても失望しない。
・期待したほどの結果を出してくれなくても、がっかりしない。
・最初から「期待の6~7割対応してくれれば十分」くらいの気持ちでいる。
他人の考え方や行動はコントロールできません。
自分がコントロールできない事で思い悩まないような仕事の進め方を体得していきましょう。
他人に期待し過ぎていた反省
私自身、若手ビジネスマンだった頃は上司に色々と求めすぎていた気がします。
無意識的にそうなっていました。
- 上司は優秀であって欲しい
- こちらからお願いして「分かった」と言ったことは必ずその通りやって欲しい
- 人格面でも優れた人であって欲しい
- あまり細かいことを言わないで欲しい
- 配慮のある言動をして欲しい
- 自分のことをちゃんと評価して欲しい
・・・などなど。
とっても面倒くさい部下ですよね(笑)
上司との関係は良かったものの、どこか上司を客観的に見ているようなところがあり、上記のような私流の勝手な原則から外れることがあるとイライラしていました。
ところがいざ自分が部下を持ってみたらどうでしょうか?
上司になったからといって、自分自身が大して成熟もしていないことに気づかされます。
部下と話した内容を忘れるし、配慮を欠く言動をして後から後悔することもあります。
忙しさにかまけて、部下の業務をしっかり見てあげられない時もあります。
さらに人格まで求められても「上司である自分もまだまだ修行の身」でしかありません。
自身がその立場になって初めて「上司はこうあるべき」という私の思い込みが全く見当違いだったと思い知りました。
そういう思い込み自体が、余計な負の感情を抱いたり、人間関係をややこしくする原因になるとも理解しました。
仕事は他者との相互作用で成り立っているが故に、人間関係の悩みはつきません。
だからこそ、「他人の行動・言動に左右されない仕事のスタイルを身につけること」が、マネジメントとして成果を上げる1つの重要な要素ではないでしょうか。
他人に期待しない マネジメント 具体的なマインドセット
あなたが課長だとします。上に部長がいて、下に5人の部下がいるとしましょう。
この時、どのような心持ちでいればマネジメントがよりスムーズに進むかを考えていきます。
上司は同志。部下も同志。
課長であるあなたも、部長も部下5人も、たまたま何かの縁によって今同じ会社にいて、同じ部署で仕事をしています。
組織には役職ごとの役割分担があり、部長・課長・担当者にはそれぞれ異なる責任があります。
しかし皆の目指すゴールは共通しており、それは「部署の業績向上・発展」です。
同じ目標に向かって進むチームである以上、役職をあまり上下関係と捉えず、全員を“同志” と捉えましょう。
その方が気持ちが楽になります。
上司は自分より優秀とは限らない
上司である部長が課長のあなたより優秀とは限りません。
確率論に基づくと、部長の方が課長より優秀な確率が50%、逆もまた50%です。
部長という役職は、実力だけでなく、社歴や経験年数、過去の実績などを考慮して任命されていますが、それ自体が仕事の能力が課長より上ということを意味するわけではありません。
よって、「部長が自分より優秀でなければならない」という固定観念を持つと、さまざまな局面で失望してしまいます。
もし課長であるあなたが部長にない強みを持っているならば、部長の弱点を補完してあげればよいのです。
ビジネスパーソンの成長を考えると、優秀な上司の下で働く経験はプラスになりますが、頼りない上司の下で働く経験はもっとプラスになります。
上司が頼りない分、自分がしっかりしなければという気持ちが強まり、通常であれば上司が担う仕事も担当することで実力が引き上げられていきます。
これはチャンスとも言えるのです。
上司はあなたの仕事をいちいち覚えていない
上司には複数の部下がいるので、1人の部下ばかり見ているわけではありません。
例えばこのような場面がよくあります。
課長:「前回ご報告した材料費の低減施策の件、稟議書を書きましたので確認をお願いします」
部長:「その件、前回どんな議論になったんだっけ?確かA案とB案でどちらがいいか議論したのは覚えてるんだけど・・・」
課長:(ええっ、それしか覚えてないの?! またA案orB案の話しから説明しなきゃ駄目なの・・・)
部長に悪気はなく、記憶力が劣っているわけでもありません。
部長はさまざまなテーマの仕事を抱えており、課長ほど特定の案件の細部を覚えているわけではないのです。
そのため、部長にスムーズに承認をもらいたい時は、課長自ら報告の流れを工夫することが不可欠です。
課長:
「前回、材料費低減施策の議論があったと思います。●●さんと■■さんも一緒に議論して、A案対B案でかなり意見が交わされました」
「ただA案の方が品質とコストのバランスが良かったので、安さ一辺倒のB案よりいいね、という話になりました」
「その後、私の方でA案に関して業者との打合せ、開発部門との摺り合わせなどを行い、稟議書にまとめた次第です」
このように報告すれば、部長は「ああ、その件、そうだったね!」とすぐに思い出し、課長の稟議書をじっくり見てくれることでしょう。
課長が上司に対して「自分の仕事の経緯を覚えていてくれて当然」というスタンスでいると、ストレスがたまるばかりか、決裁をスムーズにとることもできません。
相手の記憶力に期待して失望するより、最初から相手がスムーズにその話を思い出せるよう、自分のコミュニケーションを工夫した方が早道です。
部下はあなたが言ったことを理解していない
部下に指示を出したら、部下はその指示通りに動いてくれるでしょうか?
そう単純でないことはお分かりだと思います。
その1つの理由は、指示を出した段階で既に正しく伝わっていないことにあります。
部下がそもそも指示の内容をしっかり理解できていないので、動くことなどできません。
会議の場では、課長の指示に対して「はい、わかりました!」と返事があるかもしれませんが、その時に「では今の指示を自分の言葉で説明してもらえますか」と返してみてください。
恐らくかなりの確率で、課長が出した指示を正しく回答できないことでしょう。
これは部下が悪いわけではなく、単にコミュニケーションの精度や深さが十分でないということです。
課長の使う言葉、言い回し、強調するポイントなどの1つ1つが、説明を分かりやすくすることもあれば、説明を小難しくしてしまうこともあります。
最初から「コミュニケーションは難しいものだ」と割り切っていれば、部下が指示通りに行動しなくてもイライラしません。
「ちゃんと理解しているはずだ!」と思い込むからストレスになるのです。
簡単には伝わらないものだと思ってコミュニケーションをすれば、自然と伝え方も工夫でき、指示伝達の精度は着実に上がっていきます。
メールも伝わらない、読まれていない
メールも同様です。
相手と誤解が生じた時に「この前メールで送ってますよね 」とイライラする人がいます。
では、自分自身は他人からのメールをそこまで1つ1つじっくり読みこんで理解しているでしょうか?
読み込む時間がない時もあるし、読んでも意味がわからなくてそのままにしているケースもあるでしょう。
もちろんちゃんと読んで対応するのが社会人のマナーではありますが、そうでない場合も多いと割り切っていた方がいいでしょう。
書き言葉で意図を伝えるのはなかなかの高等テクニックであり、伝える側の文章力も問われます。
分かりやすく書いたつもりでも、相手が適切に理解してくれないこともあります。
そのため、メールでは伝わっていないことも多々あるという前提で行動することが重要です。
私の場合、メールに対してしっかり読む人か読まない人か、理解力のある人かない人か、お願いをしっかり守る人か忘れる人か、という観点で相手を個々に把握し、それに応じた対応をとります。
例えば、レスのないことが多い人には、一定期間後に再度メールを送るようにします。
「そこまでやらなきゃないの?」って声もあるでしょう。
しかし期待して待っていても自分の仕事が進まないだけなので、多少面倒でも自分からリカバリー策を打った方が、仕事の成果につながると体感しています。
「一度決めたことは絶対」ではない
この光景を想像してみてください。
営業会議において
部長:「A製品の販促を強化するよりも、B製品を重点的に販促した方がいいかもしれないな」
課長:「部長、先週の会議でA製品を強化するという話になりましたが」
このとき、課長は内心「なぜ先週決まった話をまた蒸し返すんだ 」とイライラしています。
イライラする原因は、「一度決まったことは覆すものではない」という先入観に捉われているからです。
この先入観はマネジメントをする際の大きな足枷となるので要注意です。
意見は変わっていくもの
人は同じ事象に対して、毎回同じ結論を出すとは限りません。1週間経てば、その間に色々新たな情報も入ります。競合の動きも変わります。
部長自身が1週間の間により深く考えた結果、先週の結論と変わることもあるでしょう。
それは何ら悪いことではなく、むしろ管理職として正しい姿勢です。
なぜなら、「常に全身全霊を傾けてその時に最善の意思決定をする」という姿勢こそが会社を守るからです。
前回と結論が変っても問題はありません。
言われる課長の立場としては面倒くさいことかもしれませんが、この状況を受け入れることができれば心穏やかに仕事に取り組め、結果もよりよいものになるでしょう。
課長の望ましい姿はこうです。
部長:「A製品の販促を強化するよりも、B製品を重点的に販促した方がいいかもしれないな」
課長:
「先週A製品を強化という話がありましたが、改めてどのようにお考えですか?」
「私も固定観念でA製品強化と思っていましたが、●●の観点からも考える必要がありますね」
さらに将来的には課長は自ら次のように言える存在になるべきです。
「先週A製品強化という話にはなっていましたが、この1週間自分なりに□□の観点から考えてみました。顧客にも話を聞いてみました。その結果、実はB製品強化の方がいいと思いまして・・・」
部長の指示で動くのではなく、自らが部長を動かすくらいの存在を目指しましょう。
自ら話を覆す存在になってこそ、経営者視点のマネジメントに近づいている証です。
まとめ
「他人に期待しすぎないマネジメント」は業務を加速させ、組織を成長させる大きな力を持っています。
上司、部下、同僚に期待しすぎず、自分がコントロールできる範囲を広げることで、不必要なストレスを軽減でき、結果的に皆のパフォーマンス向上につながります。
今回紹介したマインドセットや事例が、マネジメントスタイルの見直しや改善の一助となれば幸いです。
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