会社の「 理念の浸透 」は、経営において常に立ち返る原点であり、事業活動の骨格でもあります。
理念が会社に浸透すれば、大いなる推進力が生まれます。
しかし、理念を定めて壁に貼り出したり、毎朝社員が唱和したところで、社員が自然に意識して行動できるようになるほど、単純なことではありません。
今週のブログは多くの経営者が頭を悩ます「経営理念の浸透」についてお伝えします。
目次
経営理念が浸透した状態とは?

経営理念の浸透策を考えるときに大事なのは、「経営理念が組織に浸透した状態」とは一体どんな状態のことか?を意識することです。
「経営理念の浸透」の目的は、その浸透自体ではなく、理念の浸透を通じてより良い会社になっていくことです。
その真の目的から外れないためにも、「経営理念が浸透した状態」を具体的に描いておきましょう。
経営理念が浸透した会社はこのような状態になります。
【意思決定の場面において】
- 経営者が大事な経営判断をする時、単に儲かるか儲からないかの基準だけでなく、経営理念に沿った意思決定であるかを検証している
- 幹部や管理職も、同様に意思決定する時に経営理念に反していないかを考えている
【日常の活動において】
- 社長や幹部・管理職が、経営理念のフレーズを日常的に使っている
- 会議や上司と部下のやりとり・部下の指導の際に経営理念の言葉が使われている
- 社員は経営理念に則った行動が求められていることを理解し、実際に実行しようと心がけている
【人事評価において】
- 人事評価の評価項目の中に経営理念に連動した行動指針の項目が含まれている
- 管理職や幹部登用する際、対象人物が「経営理念をきちんと理解し、それに沿った行動をとっているか」を見て判断している。
- 経営理念に反する人材は、たとえ営業の成績が良くても要職には登用しない
ここに挙げたような状態が実現できていれば、「経営理念が浸透している会社」と言えるでしょう。
「経営理念を暗記している」「毎日読み上げている」ということはあくまで手段であって、
決して経営理念の浸透をあらわすものではないということをご理解ください。
経営理念を浸透させる方法
経営理念を浸透させるためには主に5つのアプローチがあります。
- 上の立場の人が率先して経営理念を活用する
- 日々の活動に経営理念を取り入れる
- 人事評価を通じて経営理念に沿った行動を促進する
- 経営理念を意識する(思い返す)機会を増やす
- 事業そのもので理念を体現する
それぞれ説明していきます。
上の立場の人が率先して経営理念を活用する

まず経営陣や幹部が率先して経営理念の言葉を発信していきましょう!
例えば、近年飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているワークマンさんの経営理念では、「ワークマン社員の行動指針」として以下のことが定められています。
① お客様と仕事に常に関心を持ち自ら学び考える(Interest)
② 常にお客様の身になって工夫と改善を積み重ねる(Improvement)
③ 積極的な提案と実践が革新を生み出す(Innovation)
④ 高い目標を持ち具体的な計画を立てる(Desire)
⑤ スピーディに決断し、タイムリーに対応する(Decision)
⑥ パーシステンスの精神で最後までやりぬく(Dedication)
⑦ 仕事にはプライオリティをそしてポイントに集中する(Concentration)
⑧ 報告・連絡・相談は組織を動かす命綱(Communication)
⑨ 失敗をおそれず挑戦し新鮮な心とロマンを持ちつづける(Challenge)
経営陣や幹部が大事なことは、まずこのように定められた項目を自ら実践し模範となることです。
上に立つ人間が経営理念を意識せず行動もしていないのに、「現場にだけはしっかり浸透している」などという状態は現実的にあり得ません。
その上で、社内を見渡し、社員を導き、励まし、時には厳しく指導しながら、経営理念に沿った社員の行動を促していきましょう。
何より大事なのは社長からの発信です。
全社ミーティングなどの場、社長から社員宛てのメールやブログ、社内報などで積極的に経営理念に対する考えや問題意識を発信していきましょう。
日々の活動に経営理念を取り入れる
日々の仕事の中で経営理念の言葉が使われるような工夫、仕掛けが必要です。
例えば取締役会の決議の最後に「本日決めた判断が経営理念に反していないか?」を確認しましょう。
様々な部署で行われる会議においては、何か議論が行き詰った時や結論が出ない時、管理職の口から「一度経営理念の観点から考えてみよう」という議論のアプローチを示してください。
部下を指導する際にも、経営理念の言葉をどんどん活用しましょう。
例えば、報連相を積極的にやろうとしない部下を指導する際、先のワークマンさんの行動指針にある「報告・連絡・相談は組織を動かす命綱」を使えばやりやすくなります。
単に「君は報連相が疎かになるから、ちゃんとやるように」とだけ指導してもあまり説得力がありませんよね。
そこで経営理念の言葉を使い、「当社では報連相は命綱と位置づけるほど大事なものだから、しっかりやろうね」と伝えれば、遥かに説得効果が出てきます。

迷ってなかなか行動しない社員がいたら、
経営理念の「スピーディに決断し、タイムリーに対応する」を用いて、
「迷うことは誰しもあるけど、そういう時こそどちらかに決めてスピード優先でやってごらん」と言えば指導しやすいですよね。
上司は皆、どのようにして部下の行動を正しい方向に導くか悩んでいます。
そんなとき、「経営理念」は、上司にとって非常に便利で有難いツールになってくれます。
人事評価を通じて経営理念に沿った行動を促進する
経営理念に沿った行動をとってもらうには、ある程度強制力も入れるべきです。
その最たるものが人事評価です。
人事評価項目の中に「経営理念で重視する行動」を入れ、それがダイレクトに会社から評価される循環を作り上げましょう。
経営理念が大事だと言っておきながら、人事評価においては経営理念など関係なく数値結果だけを評価されるような矛盾があると、「理念、理念って、結局口だけじゃん・・・」となってしまいます。
先のワークマンさんを例にすれば、「経営理念に書かれている9項目の行動指針が人事考課の評価項目にきちんと含まれている」ということが大事です。
そうすることで、評価の時期が来る毎に、「経営理念に沿った行動ができているか」を各自が振り返る良い機会にもなります。

人事評価だけでなく、表彰制度にも経営理念を反映させましょう。
企業によって様々な表彰制度があります。
例えば四半期に1回MVPを決める際、MVPの選出項目の中に「経営理念に沿った行動ができていたか」を入れておくのも良いでしょう。
「理念アワード」という賞をもうけて、理念に沿った素晴らしい行動をとった社員を表彰している会社もあります。
理念経営で有名な京セラさんでは、「京セラフィロソフィー論文」という制度があります。
毎年理念に沿って素晴らしい成果を出した社員が論文を書いて応募します。
この論文には、高い目標に向かって苦労したこと、どのように壁を乗り越えたか、職場の仲間とどのように協力したか、などが記されており、論文の優秀者には表彰がなされます。
経営理念を意識する(思い返す)機会を増やす
日常的に経営理念を意識して仕事してもらうためには、経営理念を思い返す機会も必要です。
具体的な方法としては、
- オフィスの壁など社員が目にする場所に掲示する
- 会議室の机の上に理念ボードをおいておく
- 社員に理念手帳や理念カード等を携帯させる
- 毎朝理念を唱和する
などなど。
これは経営理念を浸透させようとしている会社ではよく使われる方法ですが、注意が必要です。
形から入る方法なので、この方法だけで浸透させようとしてはなりません。
これは他の活動と一体となったときに初めて効果を発揮します。
形だけで経営理念を浸透させようとするのは社員に最も嫌悪される方法なので、決してその間違いは犯さないようにしましょう。
意識する機会を増やすには、勉強会も良い方法です。
週に1回部署ミーティングをする際、10分でも良いので、「この1週間で経営理念と照らし合わせて課題に感じたこと、よくできていたことなどを話し合いましょう」という時間を設けます。
この時間があることによって、皆が経営理念を思い返し、自分の行動を振り返る良い習慣になります。
事業そのもので理念を体現する
経営理念で掲げている理想と、今やっている事業内容とのギャップが大きい場合があります。
例えば「世界を変える!」みたいに勇ましい理念を掲げていても、実際に行っている事業内容が程遠い状態だとしたら、理念が絵空事に聞こえてしまいます。
社員は理念を自分事として捉えることができません。
今すぐ目指す理念に到達している必要はありませんが、理念に向かって事業が一歩ずつ動いていること、常にそこに向けて改善、革新が行われ、いずれ理念に到達する期待が持てるかが重要です。
口だけの理念に終わることなく、飽くなき執念で理念に邁進している姿が必要です。
まとめ
経営理念は組織の推進力を高める有効な経営ツールですが、浸透させていくには地道で粘り強い努力が必要です。
- 上の立場の人が率先して経営理念を活用する
- 日々の活動に経営理念を取り入れる
- 人事評価を通じて経営理念に沿った行動を促進する
- 経営理念を意識する(思い返す)機会を増やす
- 事業そのもので理念を体現する
上記の観点を踏まえながら、組織への浸透を進めていってください。
経営理念の浸透とともに、会社が強くなっていくのを感じられるでしょう。
こちらの記事もおすすめです