「自分には 権限がない 」「だから〇〇ができない」という言い訳をする人の中で、仕事ができる人を見たことがありません。
仕事ができる人は「権限が云々」とは言わず、上司を巻き込みながらどんどん仕事を進めていきます。
両者の違いは一体どこにあるのでしょうか?
「権限がないと自分が思うように采配できない」
「上司が任せてくれないからできない」
このような言葉だけを聞くと一見まっとうな理由にも聞こえるので、誤解が多くなりやすいのだと思います。
今週のブログでは、「自分には権限がない」と言う時の「権限」とは一体何か?について考察していきます。
目次
仕事の権限は曖昧が当たり前
権限を具体的に定義するのは非常に難しいことです。
多くの会社で明確に定められている権限には、主に以下のようなものがあります。
- 役職に応じた支出の権限
(ex.課長は〇〇円までの支出は承認可能)
- 株主総会や取締役会で決議すると決められている事項
(=つまりその会議以外の場では決定できない)
- 経営会議などの社内の重要会議で決議すると定められている事項
(ex.組織の改廃、役職者の任命など)
上記のような支出に関わることや経営の重要事項については権限が定められている場合が多いですが、
逆に言うと、上記以外のことはほとんど明文化されたルールはないのが一般的です。
会社で日々決定されているさまざまな事象については、実際には明確な権限など定められていないことが多いのです。
事例:課長の権限
例えば、課長の仕事を考えてみましょう。
あるメーカーの営業部 東北営業課(事務所は仙台)のA課長には8人の部下がいます。
A課長は日常的に以下のような事を自分で決めて実施しています。
A課長が自ら判断している業務例
- 8人の部下の間で、一部の担当顧客を入れ替え
- 課で使用している製品パンフレットを修正
- 月曜朝の定例会議の内容を一部変更
- 社歴の長いXさんに入社したばかりのYさんを1ヶ月間つきっきりで指導するよう指示
- 最近課内で皆で集まる機会が減っていたので、懇親会を開催(費用は個人負担)
さて、上記でA課長が自ら判断して行ったことは、それぞれ権限が定められている業務でしょうか?
私の知る限り、このような細かい所まで権限を決めている会社はないですし、そこまでやったらきりがありません。
続いて、A課長は以下の事項に関しては、上司であるB部長に事前相談して承認をもらってから進めました。
A課長がB部長に相談して行なっている業務
- 部下Wさんから「夫の東京転勤に伴い自分も東京に異動したい」との希望があったので、その可能性について本社人事と相談を開始
- 部下Zさんからの退職願いを正式に受理
- 長年のお付き合いの関係で、本来の価格よりも安く契約してきたH社に対して、正規価格に戻す交渉を開始
- 本社営業部と打合せしたい事項があるので、東京に日帰り出張
A課長は上記業務においては事前にB部長の承認をもらいました。
しかしながら、これらの業務について、A課長の権限で行ってはならない(=B部長の事前承認が必要)とはどこにも明文化されていません。
権限ルールは定められていませんが、A課長は自分の判断でB部長に相談するというステップを踏みました。
その理由は、「B部長に事前相談した方が仕事を進めやすいと思ったから」です。
上司と部下間の権限というのは、どこの職場においても、大体こんなものではないでしょうか?
日常行うことのほとんどは権限など定められておらず非常に曖昧なもので、両者で摺り合わせしながら丁度よい状態を探っているのです。
仕事の権限は常に変動する
権限は曖昧であるだけでなく、状況に応じて変動するものです。
例1:権限あり→権限なし
先のA課長の事例で、B部長に相談なく自ら決めて進めたものに、
>8人の部下の間で、担当顧客を一部入れ替え
がありました。
これまでもA課長は担当顧客の入れ替えを自分の判断で行ってきましたが、この件について後からB部長に
「今後は事前に私に相談してください」
と言われました。
なぜなら、今回の担当顧客入れ替えにより、大口顧客を引き継いだ担当者がポカをして取引を失ってしまったからです。
B部長としては、これまではA課長の判断に任せていたけど、担当顧客の入れ替えは業績リスクが高いので、自分に事前相談してもらった方がいいと判断しました。
結果として、今後はこの件についてはA課長には決定権限がなくなり、B部長の事前承認を得ることに変わりました。
例2:権限なし→権限あり
先の事例でA課長がB部長に事前に相談していたものに、
>長年のお付き合いの関係で、本来の価格よりも安く契約してきたH社に対して、正規価格に戻す交渉を開始
がありました。
長年の取引先に関わることなので、A課長は事前にB部長から承認をもらうようにしていました。
しかしB部長は
「価格を正常に戻す話なので、私の承認は不要です。A課長の判断で行ってください」
と伝えました。
結果として、今後は取引先の価格正常化の話はB部長への事前相談をしなくなりました。
このように、A課長が自ら決めてよいか否かがどこにも明文化されていない事については、上司であるB部長との話の中で、課長権限に変わったり、部長権限に変わったり、常に流動的なものです。
上司と部下が100ぺアいれば、権限も100通り
A課長とB部長の間で、権限は微妙なバランスのもとに成り立っていることを理解してもらいました。
では、A課長とB部長に人事異動があり、新たにC課長とD部長が着任したとします。
仕事内容は全く同じですが、C課長とD部長の権限のあり方はA課長B部長の時と全く同じになるでしょうか?
ご想像の通り、全く同じになることはありません。
仮にC課長が社内でも有数の優秀な人材で、D部長は大ざっぱなタイプだとしたらどうなるでしょうか?
恐らくかなり多くのことはC課長が、D部長の事前承認を仰ぐことなく、進めていくと思われます。
逆にC課長が、課長として能力不足だとしたら、大ざっぱなD部長であっても、できるだけ細かく報告させ自ら判断する割合を増やすでしょう。
つまり、どこにも明文化されていない上司と部下間の権限バランスは、両者の能力、信頼関係、性格、マネジメントスタイルなどに大きく左右されるため
上司と部下のペアの数だけ権限にも違いがある、つまり正解はない、ということが分かると思います。
優秀な人の「上司をマネジメントする力」
優秀なビジネスパーソンは、なぜ「権限がないからできない」という言い訳をすることなく、スイスイ仕事を進めていけるのでしょうか?
それは「上司をマネジメントする力」を備えているからです。
優秀な人は多くの業務の権限が曖昧だということを理解した上で、以下のようなことを心掛けています。
上司に小まめに報告する
承認を得る段階の前に「〇〇の件、今こんな感じで進めてます!」というように、途中状況を適宜報告する
一つ一つの報告は時間をかけずスピード重視(立ち話+αの場で伝えたり、メールやチャットで一報入れる等)
権限が曖昧な状況において、このような報告は非常に有効です。
上司としても、小まめな報告により途中経過がよくわかるため、いざ正式に承認の相談をされた時にゴーサインを出しやすくなります。
部下と仕事の入り口から出口まで同期がとれている状態なので、承認のために1から経緯確認する必要もなく、すぐに判断が可能な状態になっているのです。
権限は与えられるものではなく取りにいくもの
そして、このようなこまめなコミュニケーションを上司と部下の間で何度も経験していると、上司は部下への信頼が高まり、その部下の仕事であれば、大抵のことはすぐOKを出してくれるようになります。
やがて「あなたの事は信頼しているから、いちいち報告せずにどんどん進めていいよ」とまで言われることでしょう。
以上のように、権限は部下の仕事のやり方次第でどんどん拡大していくものです。
よく「権限は与えられるものではなく取りにいくもの」と言われますが、それは正にこういうことを意味しているのだと思います。
上司に小まめに報告して、良い仕事をしていれば、上司は部下を信頼し、どんどん任せるようになり、結果として権限を広く持てるようになるということです。
上司を知れば、権限の悩みなし
上司とのコミュニケーションは非常に重要です。
自分の仕事を進めやすくするためには、上司の考え方を理解し、上司がどのような報告をどのようなタイミングで欲しがるか、という特徴を熟知しておく必要があります。
特に初めて一緒に仕事をする上司とは、必要以上にコミュニケーションをとり、上司を理解し、上司を動かすコツを探ります。色々な事象について互いに摺り合わせします。
やがて信頼関係ができ、お互いのやり方に慣れてくれば、権限で悩むこともなくなります。
自分が進めている仕事において、上司がどのようなポイントを気にするか?どのような指摘をされるか?などがあらかじめ予想できるので、その観点で準備がやりやすくなります。
結果として上司から承認を得られないことがほとんどなくなり、ほぼ自分の提案に近い形でスムーズに仕事が進むようになります。
これにより、あたかも部下である自分が決定権限を持って仕事をできているような状態が得られます。
「権限がない」と嘆く人の特徴
ここまでお伝えしてきた話の裏返しとなりますが、「権限がないので仕事が進まない」と言う人には以下のような共通の特徴があります。
- 上司とのコミュニケーションが足りない。上司との関係構築が弱い
- 途中経過の報告が少なく、いきなり承認をもらいにいくので、そこでNGになる
- 会議など決まった場での報告に依存し、立ち話やメール等の小まめな報告を行なっていない
- 指示を仰ぐばかりで、自分はこうしたいという考えや案を伝えられていない
- 報告や提案のクオリティが低いので、上司からなかなか信頼を得られない
このような状態に陥ると、部下への信頼が深まらず、上司は「自分が最後の砦として細かくチェックしなければ」という気持ちが強くなります。
部下は部下で「権限をもらえない」という認識が強くなってしまいます。
こうした事態に陥らないよう、日々の業務において自分の立場や行動を見直すことが重要です。
まとめ
仕事ができる人は、権限が曖昧であることを理解しながら、上司や同僚とのコミュニケーションを密にし、信頼を築きながらどんどん仕事を進めています。
逆に「権限がない」と嘆いているだけの人は、権限以前にその意識自体が仕事の進行を妨げる要因となっています。
さらにコミュニケーション不足や報告の質が低いことで上司からの信頼を得られず、結果としていつまで経っても権限を与えられない、という負のループに陥りがちです。
「権限がもらえない」という言い訳に甘んじるのではなく、自らが状況を改善するための行動をとることが大切です。
「権限」の捉え方や仕事へのアプローチを再考し、自らの行動を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
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