上司が管理できる 部下の人数 は何人が適正だと思いますか?
100人の営業本部の本部長であれば部下は100人ですが、100人全てを本部長が直接マネジメントすることは現実的に不可能です。
通常はいくつかの組織に分けられ、それぞれの上司が直接管理する部下の人数は、少ないと3名程度、多くても10名程度というのが一般的ではないでしょうか。
実際のところ、部下の適正人数はさまざまな要因に左右されるため、何人が適正か?というのはなかなか難しいテーマです。
今週のブログでは、部下の人数は何人が適正か?について、組織設計に必要な視点をお伝えします。
目次
部下の人数 の「多い・少ない」を左右する要因
先ほど例に出した100人の営業本部を例に考えてみます。
100人の営業スタッフが3つの営業部(首都圏営業部、名古屋営業部、関西営業部)に分かれており、3営業部それぞれに部長がいます。
さらに3人の部長の下にはそれぞれ課長が数名ずつ、各課長の下にはメンバーが7名程度いる組織構成となります。
さて、課長の直部下が7名というのは多いでしょうか、少ないでしょうか。
人によっては7名でもマネジメントが大変、人によっては7名なら楽勝という人もいるでしょう。
その感じ方の違いは主に以下の要因に影響されると考えられます。
【課長のマネジメント能力と、マネジメントに割く時間】
- 課長のマネージャーとしての力量
- 課長のプレイヤー業務とマネジメント業務の時間割合
【部下の能力】
- 部下の自己管理能力
- 部下の業務遂行能力
【仕事環境】
- 課長&7名の勤務場所が同じか、離れているか
【仕組み、システム】
- 業務報告や情報共有の仕組み
- 業務マニュアルや教育カリキュラムなどの有無
【仕事の内容、進め方】
- 部下それぞれの仕事内容は同じか、バラバラか
- ルーティン作業中心か、課題解決型の仕事か
- (保険営業のように)担当1人1人が個別に動くスタイルか、高額機械のBtoB営業のように担当者が上司や他部署も巻き込んでチームで動くスタイルか
以上の要因を下図に示してみました。
以上のように、置かれている環境や仕事の内容、関わる人の力量次第で、上司がマネジメントできる人数は異なってきます。
スパン・オブ・コントロール
有名なスパン・オブ・コントロール(コントロール可能な範囲)の考え方では、管理職1人が直接管理できる適正人数は、概ね5~8人程度です。
この考え方は誰か特定の人が提唱したというより、経験則によって積みあがってきたもので、軍隊でも参考にしているようです。
その昔、モンゴル帝国を築いたチンギス・ハンは、軍事兼行政組織として「千戸制」を整備しました。
十戸を10集めて百戸、百戸を100集めて千戸とし、それぞれに十戸長、百戸長、千戸長を設置。軍隊でも十人、百人、千人、万人の部隊が編成され、それぞれに長が置かれたようです。
(「モンゴル帝国の興亡」杉山正明より)
つまり1チームの人数は10名規模が適正と考え、そのようにしたのでしょう。
Amazon.comの創業者であるジェフ・ベゾス氏は「2枚のピザ理論」を提唱し、実践しています。
2枚のピザで足りる人数(つまり多くても10名程度)でチームを編成しようというものです。
ピザ理論は”上司が直接管理できる人数”とは考える角度が異なるものの、多くて10名程度のメンバーに1人のリーダーという点は同様で、チンギス・ハン時代から組織編制の根底にあると言えます。
上司は最大で何人まで見れるか?
スパン・オブ・コントロール、チンギス・ハン、Amazon、それぞれの考え方に通じる5~10名程度の直部下というのは組織デザインの際の1つの参考になります。
一方で、それに従って組織をつくればよいか?というとそう単純ではありません。
半導体業界で世界をリードするエヌビディア(NVIDIA)のファンCEOに興味深い発言がありました。ファンCEOには60人の直部下がいることについてです。
(以下、日本経済新聞より抜粋)
「エヌビディアのリーダーシップ・チーム(注: 日本で言う経営会議)は60人のメンバーから構成されていて、彼ら全員がCEOである私に直接リポートしている。つまり60人全員が私の直属の部下で、その中間には誰もいない。こうすることで、組織を随分とフラット化することができた。恐らくは7階層くらいを削ることができているはずだ」
「社内の階層を少なくするというのは、非常に重要なポイントだと思っている。ある特定の人物だけが情報にアクセスできる特権を持つというのは間違っている。最悪なのは誰かが『CEOはこれをやってほしいと言っていた』と間接話法的に言い始めることだ」
質問:「通常のCEOは直属の部下がせいぜい6人とか多くても10人程度だ。あなたのように多数の直属の部下を抱えてうまく機能するのか」
ファン氏回答:「CEOに直接リポートするような有能な人間は、(上司であるCEOの立場からすると)ほとんど手間暇がかからない連中だ。彼らは人生のアドバイスなど必要としないし、自分が進むべき道(キャリア)に関する指導も必要ない。彼らは自分の管掌分野ではトップレベルであり、信じられないほど優秀な人材だ。管理の手間などほとんど必要ない」
ファンCEOの直部下60人は一般的には難しいかもしれませんが、部下が優秀であればできないことはないということを示しています。
通常の職場において真似はできないとしても、組織をできるだけフラットにして情報の伝達を早くする、階層を減らして1人のマネージャーにできるだけ多く部下を見てもらう、という考え方には、賛同する方が多いのではないでしょうか。
変化が早い時代は、人間の知覚系統のように、指先で感じ取ったことをすぐに脳(経営中枢)に伝達し、的確な指示を出す必要があります。そのためには階層はできるだけ少ない方が望ましい。
階層が少ないと中間管理職1人1人に負担がかかることとなりますが、近年はマネージャーの成り手が減っていることも考慮すると、1人の管理職になるべく多くの部下をみてもらうためにどうすればよいか?というのは真剣に考えるに値するテーマだと思います。
上司が管理できる部下の数を増やすための方法
部下の適正人数を議論するためには、部下の管理とは何か?という議論に立ち返ることになります。
何ができていれば、「部下の管理がしっかりできている」と言えるかの判断軸がない限り、直部下の人数が多すぎる少なすぎるの議論ができないからです。
「部下の管理ができている」をシンプルに絞り込むと、次の3つがしっかり回っていることだと考えられます。
① 部下1人1人が日々やるべき仕事を進め、その総和として部署全体の仕事が着実に前進している
② 部下が能力を高め、より成果を出せる存在に育っている
③ ①と②の結果として、仕事の生産性が上がっている
これらを効率的に実施し、より多くの部下を管理できるためのキーワードは、「情報」「育成」「マネジメント力の向上」です。
情報
仕事の進捗状況(つまり情報)を適切なタイミングで正確に把握できれば、すぐに手を打つことができます。
遅れが生じている部下がいても、すぐに指示やリカバーが可能です。
情報収集・集計・分析の仕組み、システム、報連相のやり方、報告書の内容や書き方、会議の運営方法など、情報流通に関わることをそれぞれ工夫することで、マネジメントの手間を飛躍的に減らすことができるでしょう。
育成
部下が早く仕事を覚えて1人で動けるならば、上司が介入する回数が減ります。問題が発生しても部下自身に対処する力がついていれば、上司のサポートは少なくて済みます。
さらに部下の報告が上手かつタイムリーになれば、上司は自ら求めずとも必要な情報が入ってきます。
教育を通じて部下の能力を高めれば高めるほど、上司のマネジメントの手間は軽減していきます。
ただし教育といっても手間をかけて教える事に依存せず、基本業務をマニュアル化/教材化して独学で学べるようにしたり、成功事例をメンバー間で共有して学び合いの場を持つなど、効率的な教育の仕組みが肝要です。
上司自身のマネジメント力の向上
上司のマネジメント力が高まれば、部下との会話の中から問題を発見したり、部下の悩みに気づいたり、先回りして”問題発見 → 問題解決”でき、結果として時間を節約できます。
業務プロセスの仕組み化、ルール化、効率化を進められれば、その分部下のミスや誤解が減り、余分な仕事がなくなるでしょう。
以上のように「情報」「育成」「マネジメント力の向上」の観点から精度を上げることで、管理できる部下の人数を増やすことが可能です。
情報のコントロール
「情報」「育成」「マネジメント力の向上」の中でも「情報」のコントロールは、直部下の数を増やすために特に鍵を握る要素だと考えます。
スパン・オブ・コントロールの人数は昔から続く組織鉄則なので非常に説得力がある一方、ITの進んだ現代においては、もっと多くの人数を管理できてもよいはずです。
仮に部下が15名いたとしても、上司からの指示やアドバイスは電子メールやチャットで瞬時に全員伝達可能です。離れた部下とはZoomで打合せもできます。
業務進捗状況は、各メンバーが日々の状況を業務システムにインプットし、1日の終わりに簡単な報告書をメールで送れば、上司は必要とする情報の大半を手元のPCで把握できます。
かつては部下から上がってくる報告書を上司が別のファイルに再入力&集計し、「この数字はどうなっているんだ?」みたいな確認作業をあちこちで行われていましたが、今の時代はこのような仕事はノイズでしかありません。
その浮いた時間で、何をすべきかを話し合う時間に充てられます。
営業であれば、部下のKPI進捗データに対して、AIが(過去のデータと照らし合わせて)次に何のアクションをすべきかアドバイスすることも余裕でできてしまうでしょう。
このように情報技術の進化を十分に取り込めば、スパン・オブ・コントロールをもっと拡げることも可能になるのではないでしょうか。
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