どのくらいの会社規模になったら「 人事制度の導入 」を検討すべきか?と聞かれることがあります。
人事制度がなくても会社経営は可能です。
規模が小さいうちは社長が全社員のことをよくわかっているので、人事制度がなくても社長が直接評価して給与を決められます。
特段社員から不満が出ることもありません。
しかし社員数が増え、社長が社員1人1人の仕事を見ることができなくなると、人事制度なしでは運営が難しくなってきます。
今週のブログでは、人事制度を持たない中小企業が人事制度を整えるべきタイミングについてお伝えします。
目次
人事制度とは?
最初に「人事制度」について簡単にご説明します。
人事制度は大きくは3つの制度によって構成されます。
等級制度、給与制度、評価制度です。
等級制度
社員の能力・経験に応じた「等級」を設定するものです。
例えば
新入社員はA等級
業務に慣れてきた2~3年目はB等級
後輩を指導できるチーフクラスをC等級
5人程度の組織の管理職をD等級
というように区分します。
何段階の等級を作るか、それぞれの等級レベルをどのように定義するかは会社の考え方が色濃く出ます。
どのような場合に等級が上がったり下がったりするかのルールも決めます。
給与制度
上記の等級に対して
A等級の月給は20~23万、B等級は23万~27万、C等級は27~32万というように「給与額・給与レンジ」を設定するものです。
月給と賞与の配分の設計や、各種手当の設計、支給ルールなども含みます。
さらに後述の「評価結果」にもとづいて昇給がどのように決定するかの基準も定めます。
評価制度
社員1人1人の仕事の成果をどのように測定するかを決めます。
能力評価、目標達成度評価、行動評価などの物差しを定め、誰がいつどのような基準で評価を行なうかルールを作ります。
(ex.評価は半期に1回行う。1次評価者は直上司、2次評価者はその上の上司。などのルール)
人事制度のない会社の運営はどうなっている?
では、上記のような人事制度のない会社ではどのような運営がされているでしょうか?
通常、人事制度のない会社の給与決定は次のように行われています。
■ 新卒採用
- 初任給の金額は採用募集時に定めており、その金額で採用
- 入社後は何となく毎年〇〇円UPという暗黙のルールで昇給させる
- 特に優秀な子については昇給幅を大きくする
■ 中途採用
- 前職給与を基準に入社時の給料を決める
- その後、優秀な人材や役職に登用された人は適宜給料を上げる
- そうでない社員はずっと横這いか、ときどき下がる
- 「給料上げてくれないと辞める!」などと交渉のあった人には個別に昇給させるときもある
等級制度は存在しないので、誰がどの程度の実力かという明示的な基準はありません。
社長の頭の中で各社員と報酬のバランスが整理されており、その範囲の中で程よく調整がなされます。
評価制度がないので評価者は社長のみか一部の幹部も担う程度。毎年の働きぶりを見て、直観的に個々の評価をつけます。
社員から1年間の振り返りシートなどを提出させ、それを参考に決めることもあります。
人事制度がない会社のメリット/デメリット
人事制度のない会社にはメリット/デメリットがあります。
【人事制度がない会社のメリット】
- 評価者が社長1人であれば評価者によるバラつきがない
- 経営者の視点で、会社にとって価値のある仕事をした人を評価できる
- 会社のトップによる評価なので基本的に誰も文句を言わない
- 評価業務(~給料決定までの業務)にほとんど手間がかからない
【人事制度がない会社のデメリット】
- 社長が社員の業務を理解していないと適切に評価できない
- 社長と接点の多い人や声の大きい人は評価されやすいが、そうでない人が評価されにくくなる
- 社員は自分が何で評価されるかわからない
=何に向けて頑張ったらよいかわからない。どうやったら給料が上がるかわからない
- 部下を育成する責任意識・評価する責任意識が育たないため、中間管理職が育たない
人事制度の導入 を検討すべきタイミング
人事制度のない会社のメリット/デメリットのうち、メリットよりもデメリットが大きくなってきたら、それは制度を整えるべきタイミングです。
社員数の拡大
人事制度を整備しようと決断する会社の理由の多くは社員数の増加です。
現場や各部署業務に精通した社長であれば、社員数100人程度までは制度なしで公平な評価をされているケースもありますが、100人を超えてくると社長の負荷も含めて現実的でなくなります。
経営者によっては、30人を超えたあたりから自分1人による評価は難しいと感じる人もいます。
若手や中途入社者の不満
新卒入社した若手や最近入ってきた中途入社者から不満の声が上がることがあります。
- 高い給料をもらっているベテラン社員が働かない
- 能力や貢献が給料に反映されない
- 何を基準に評価されているのかわからない
- 結果を出したのに給料が上がらない
- 社長に近い社員だけが給料が上がっている
どれもあまり良くない不満です。
「この会社で頑張っても意味がないな」
と思われて、前向きに頑張ろうという社員や成長意欲の高い社員が離職するリスクにつながります。
社歴の長い社員は長年の「人事制度不在状態」に慣れているので、あまり不満は出てきません。
しかし新たに入社した社員は会社の課題に敏感であるため、彼らの声は非常に重要です。
自分はどのような貢献をしたら給料が上がるか?
何をもって評価されるのか?
これらをしっかり明示するとともに、給料と貢献度のアンバランスを徐々に適正化していくべきタイミングです。
特に最近は規模の小さい会社でも人事制度を整える会社が増えています。
先行きの見えない感を嫌い、成長ステップを明示してくれるのを望む社員が増えています。
制度がない事自体が、若手社員や中途入社者にマイナス印象を与えかねないことに要注意です。
中間管理職の育成意識の欠如
また「中間管理職が育っていない」と感じるならば、それも人事制度を整えるタイミングかもしれません。
部下の育成というのは、部下に仕事の目標をしっかり伝え、その取り組みをサポートしながら必要に応じて指導や励ましを行ない、期末に結果に対して評価を行う・・・というサイクルで成り立っています。
評価の場では、良かった点や強みを認めつつ、来期に向けた要望や改善すべき点を伝えます。
中間管理職の部下育成スキルは、この一連の育成業務に責任を持たない限り育ちません。
さもなければ、せいぜい「部下の業務の進捗管理を行うだけの上司」にとどまってしまうでしょう。
人事制度が導入されると、中間管理職には部下の評価責任が与えられます。
これは、「自分の部下を育てる責任」を持たせることに他なりません。
中間管理職は、部下をしっかり見て、成果が出るよう指導し、時には厳しく叱咤激励する責任を負います。
人事制度の導入は、まさにそういう意味を持っています。
中小企業の 人事制度の導入 まとめ
中小企業に人事制度は必要でしょうか?
人事制度の目的は、社員が育ち、活力をもって働き、重要なコア社員が最大限に力を発揮してくれる状態を作ることです。
よって、人事制度がなくても上手く経営が回っているならば、何ら問題ありません。
人事制度の導入は、制度設計に労力がいりますし、制度開始後は評価作業などに時間や手間を要するものなので、中途半端に入れるのはおすすめしません。
一方で、人事制度がないことに起因するデメリットが生じてきたならば、それは人事制度を作るべき時です。
- 社員数が増えてきて社長1人での評価に限界がある
- 社長の評価にバラつきや不公平が生じている
- 新たに入ってきた社員から人事制度を巡る不満がたくさん出ている
- 制度の不備が社員の行動に悪影響を与えている
- 中間管理職が育っていない
上記のような兆候が見られる場合は、人事制度づくりを検討してみてください。
中小企業の限られた人員体制でも運用可能な軽量な人事制度もあるので、あまり重く考えずに検討することもできます。
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