現在急速に進行中の円安は 労働市場 にも影響を及ぼす可能性があります。
これまでも人手不足に悩む企業は多くありましたが、それがさらに加速する恐れが出てきました。
準備不足の企業には早い段階で危機が訪れかねません。
この危機に対応するために、企業はどうしたら良いでしょうか。
今週のブログでは、労働力の危機と、それを乗り越えるための対策をお伝えします。
目次
海外へ出稼ぎに行く日本人
今、日本から海外に出稼ぎに行く人が増えています。
「日本人の出稼ぎ」というと、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ハワイ、ブラジル、フィリピン、オーストラリアなどへ仕事を求めて移民する時代の印象が強いです。
戦後は日本の復興・高度成長に伴い逆に南米やアジア諸国から多くの外国人が日本に出稼ぎに来るようになり、「日本人の出稼ぎ」という話はほとんど聞かなくなりました。
ところが近年、外国に出稼ぎに行く日本人が再び増加しつつあります。
典型的なのは「日本では低賃金だが、国際的に見たら高い技能を持っている人たち」です。
アニメーターが中国に渡ったり、美容師がアメリカ、アジア、ヨーロッパなど世界の様々な国で活躍しているケースがあります。
またIT人材や経営者人材など賃金水準の高い人材も、海外企業からヘッドハントされ、日本でもらうより遥かに高い報酬を得る人もいます。
加えて急激な円安で円の価値が下がっている今は海外で働いた方が現地給与が円換算で増えるため、日本人が海外に出ていく流れはますます加速しています。
海外で働くとこんなに稼げる
私の娘は現在オーストラリアに留学しており、学校に通う合間にレストランでアルバイトをしています。
普段の時給は日本円換算で2,200円程度。
休日は労働法のルールで倍額の4,000円以上になると聞いてびっくりしました。
先日テレビ番組で放映されていましたが、オーストラリアの金属加工工場で働く日本人は月に70万円を稼いでいます。
日本にいた時は25万円程度だったので、3倍近い上昇です。
オーストラリアでは「ワーキングホリデー」という、日本人が短期間現地での労働を体験する制度がありますが、現在はその制度を利用して出稼ぎに行く人も増えているようです。
果物の収穫や工場の単純作業などで月に40万円程度を稼げるので、少なくとも日本にいる時の倍は稼げるということです。
現地の物価高を考慮しても毎月手元に残る金額が大きいので、海外で働いた方が資産形成が明らかに有利です。
外国人が日本に働きに来なくなる
現在の日本は多くの外国人労働力に支えられています。
ベトナム、中国、フィリピン、インドネシアなどから技能実習生や留学生が来日し、日本の農業や製造業、建設業、サービス業などを支えています。
彼らは「母国で働くより日本に来た方が稼げる」という理由で来ていますが、円安で母国に送金できる実質額が減少してしまうと日本で働くメリットがどんどん薄れます。
アジア諸国の経済成長と日本の円安がさらに進めば、外国人労働力の将来は全くもって楽観できません。
「日本より中国や韓国やタイで働く方が稼げる」という時代になりつつあります。
円安時代の労働力の確保
日本人が海外に流出し、外国人が日本に働きに来なくなったら、どうなるでしょうか?
円安はその主因の1つですが、いずれ円高に戻ると思うか、円安がこのまま継続すると思うかで、経営者の判断は変わるでしょう。
為替相場については私は専門家でないので何とも言えませんが、少なくとも金利を上げられない限り円高に大きく是正される可能性は低いでしょう。
仮に金利を上げるとなると、低金利で助かっていた国家財政、低金利で何とか生き延びている中小企業とそれを支える銀行、低金利ローンで需要を生み出している住宅業界など多くの業界がダメージを受けるため、政府が決断できるか微妙です。
金利を上げる決断ができず円安が長らく放置されれば、外国人の労働力確保はどんどん難しくなると思っていた方がいいでしょう。
先ほど記載したオーストラリアの金属加工工場で働く日本人は、いわゆるブルーカラーワーカー(現場作業に直接従事する労働者)です。
これまで日本の製造業やサービス業の現場では外国人労働力に頼っていましたが、今後は外国人の減少だけでなく、限られた日本人すら流出するリスクを考えておくべきでしょう。
企業が円安による人材流出危機を乗り切るには?
外国人も日本人も確保が難しい時代において、企業はいかにして備えを進めればいいでしょうか?
労働市場 危機を乗り切る方法1 生産性向上
備えの1丁目1番地は「生産性向上」です。
生産性が高ければ、社員の給料を上げる余裕ができます。
社員を増やさなくても(社員が減ったとしても)売上を伸ばす余地が生まれます。
逆に生産性が低いまま停滞すれば、給料を上げる余力はありません。
社員が減ればその分アウトプットが減るので売上も減少し、利益も減り、じり貧にならざるを得ません。
生産性の計算式は「付加価値÷労働量」です。「付加価値=売上高-所定のコスト」なので、生産性向上の最大の鍵は価格を上げることです。
日本の生産性が低いのは、IT活用が遅れているなどの色々な理由がありますが、社員1人1人の能力で考えると、他国に比べて劣っているとは思いません。
教育レベルは今でも世界トップクラスです。
生産性が低い最大の理由は「いいものを安く!」
これを大企業もそれに連なる中小企業も追求してきたため、知恵も汗もホスピリタリティも安売りしてきた結果です。
もう1つは「経営資源の分散(戦略なく広げた結果)」
得意な商品があるのにも関わらずそこに絞らず、顧客から要望されたからといって特段強みのない商品かつ利益の上がらない商品をずるずる作り続けてきた・・・そんな会社も多いでしょう。
過去は過去で仕方がないですが、いかに自社ならではの商品やサービスを磨き、強いところで勝負し、しっかり対価をもらうか。
「いいものを高く!」
これを追究するのが経営者の仕事だと思います。
並行して、色んな支出の無駄を全部減らし、その浮いたお金をIT投資など業務効率化に投下することで、より少ない人数で業務が回る状態を作ることです。
労働市場 危機を乗り切る方法2 社員教育
「社員教育」は会社の未来の方向性や戦略あってのものです。
その未来に近づけるために社員の能力をどのように磨くかが、本来の社員教育です。
ところが、将来像の曖昧な会社は社員教育にも個性がありません。
目の前にある仕事の技能や知識を教え、新人にマナーを教え、新任管理職にマネジメントを教える程度で終わってしまいます。
そのような教育で他社と人材力の差別化を図ることはできるでしょうか?
生産性向上を進めるためには、1でお伝えしたようにビジネス戦略を明確にすることと、それを推進する人材力を磨き、人材の競争力をつけること(=社員教育)が必要です。
人の能力向上は見事に生産性向上につながります。
地方の製造業でも、グローバル取引を加速するため社員全員が必死に英語を学んでいる会社があります。
また、デジタルスキルの教育は多くの会社で盛んになっています。
社員全員がSNSで自分が社会に対してできることを発信し、会社に依存しない自律型の人材育成を進めている会社もあります。
毎週勉強会を開催し、世の中の最先端のトレンドを社員全員で勉強している会社もあります。
オンラインを活用したセルフ学習の仕組みもどんどん進化しています。
こういった「人への投資」は、時間軸の差こそあれ、必ずや生産性向上という果実をもたらしてくれるでしょう。
労働市場 危機を乗り切る方法3 働く人の価値観多様化への対応
人材確保においては生産性を高めて給与も上げる努力が必要です。
その一方で考えておくべきは「働き手は給料だけで会社を選ぶわけではない」ということです。
今の時代は、リモート環境、休暇休日、育児や家庭との両立などを重視する人たちがたくさんいます。
1つの会社に全てをささげるのではなく、副業等を通じて経験を広めたいという志向もあります。
都市に住んで地方企業で働く人、地方に移住する人、地方にいながら都会企業で働く人、家を持たずに転々と放浪しながら1つの企業で働く人・・・そういう自由と自分らしい生活を重んじる人もいます。
まだまだ日本では女性の潜在能力を十分に生かし切れていない課題もあります。女性の有能な労働力がまだまだ眠っているということです。
このような働く価値観の多様化がマイナーな現象で終わるのか、これからもっと広がっていくか、どちらとお考えですか?
私の考えは、既に国民全体の豊かさにおいては世界トップレベルに達した日本は人々がより精神的豊かさを求めていくため、働き方に多様性を求める今の動きはじわじわと加速していく・・・というものです。
働く人の価値観に対応できる会社は、人材受け入れの幅が広がり、人手不足の環境下においても人材獲得力のある会社になれます。
人材管理の煩雑さなど乗り越えるべき課題はありますが、今の流れを静観するか、一歩を踏み出すか、判断を問われるタイミングです。
まとめ
人手不足の日本は、円安の進行によってますます人材確保が難しい時代になります。
無策のまま手をこまねいていると、5年後10年後は人材が誰も集まらない・・・なんてことになりかねません。
しかし悲観する必要はなく、とにかく今のうちから備えを進めておくことです。
備えの鍵は、生産性向上(値上げとIT投資による効率化)、社員教育、働く人の価値観多様化への対応の3点セットです。
時代の変化に対応し、万全の態勢を整えておきましょう。
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