ロジカルシンキング研修 の誤解と真実|「単なる知識」から実務スキルへの変換方法は?

2023.09.15

 

ロジカルシンキングはビジネスパーソンに求められる必須スキルの1つです。

とくに、管理職、経営幹部と役割が高くなっていくほどその重要性が高くなります。
 

一方で、企業が行う「 ロジカルシンキング研修 」は、若手研修や管理職の初歩的な研修の科目に含まれている場合が多いです。
 

もちろん若手時代に学ぶ意義は大いにありますが、若手時代に「ロジカルシンキング研修を受けただけ」の社員が、それを中堅幹部になって実際の仕事の場面で活かせているでしょうか?

 

今週のブログでは、ロジカルシンキング研修の誤解と真実についてお伝えします。

 

ロジカルシンキングはコンセプチュアルスキルの根幹

 
まずは有名なロバートカッツモデルで、コアスキルの重要度を解説します。

このモデルでは、ローワーマネジメント、ミドルマネジメント、トップマネジメントという3つの段階において、3つのコアスキルの重要度を分けています。

 

 
 
「コンセプチュアルスキル」は、ミドルマネジメント➡トップマネジメントと役割が上がるにつれて、重要性が高まっていきます。

このコンセプチュアルスキルの根幹にロジカルシンキングがあり、若い時からベテランになるほど継続的に高めていくべき能力となっています。

 

逆に、若手時代は「テクニカルスキル」が重要ですが、経営層に近づくほどその比率は落ちていきます。

そしてどの段階でも「ヒューマンスキル」は常に一貫して重要です。これがロバートカッツモデルの考え方です。

 

ロジカルシンキングは地頭のいい人だけができるものではなく、誰でも訓練すれば向上させられる能力でもあります。

人の脳はもともとロジカルな構成でできていると言われていますので。

 

「ロジカルシンキング」の誤解

 

20代の若手時代にロジカルシンキングを学んだという人は数多くいます。

しかし、それを学んだ人が実際のビジネスの現場で活かせているかというと、決してそんなことはありません。

このギャップが生じる要因が大きく2つあります。

  

ロジカルシンキングは「学ぶ」ものではなく「学んで鍛える」もの

 
ロジカルシンキングは学ぶものではなく学んで鍛えるものですが、ビジネスで活かしきれない理由の一つ目は、そこに誤解があるということです。
 

「ロジックツリー」や「MECE」などのロジカルシンキングで学ぶ定番メニューは、理屈を理解することはさほど難しいことではありません。

ピラミッドストラクチャーがどういうものかという理解も十分可能です。
 

ところがこれを頭で理解しているのと、使いこなすことの間には大きな断絶があります。

その断絶を乗り越えてこそ、ロジカルシンキングの正式な免許を取得したと言えるでしょう。

 

 

ロジカルシンキングをビジネスで活用する例を見てみましょう。

 

研修担当者が、マネージャー研修の企画を練るために、マネージャーのタイプを4象限のマトリックス図で分類することにしました。

目的は、自社のマネージャーのタイプをターゲット別に分かりやすく整理するためです。

そして、どのような4象限がしっくりくるかを皆で議論します。
 

例えば出てくるアイディアとして、
 

  • 『達成へのこだわりの強さ×部下の面倒見の良さ』のマトリックス
  • プレイヤーとしてのスキル×マネジメントスキル』のマトリックス
  • 『在籍年数 × マネジメントスキル』のマトリックス

 

いずれの分類がしっくり来るかは、たくさんのパターンを書いてみて、お互い議論し、もっと分かりやすく分類できる方法が探っていきます。

この思考作業の繰り返しによって、出来のよい4象限マトリックスが完成します。
 

こうした思考訓練を行った人は、やがて短時間で良いマトリックスを書けるようになります。
 


 

しかし、実際に自ら手を動かして作る経験をしない限り、いつまで経っても「仕事で使えるロジカルシンキング力」は身につきません。
 

ロジックツリーを活用してMECE状態の分類を行なうという練習は研修でも行いますが、それだけでは不十分です。

実際の仕事の場面で短時間で的を得た整理ができるかは、何度も何度もロジックツリーを作ってみて、それについて他人と議論してブラッシュアップするプロセスを経験したか否かによります。
 

筋トレと全く同じで、継続的にたくさん訓練してこそ身につく力です。
 

 

ロジカルシンキングは「シンキング」にとどまらない

 

2つ目の要因は、ロジカルシンキングは “シンキング” にとどまらないということです。

 
シンキングという名称になっているため、ロジカルに頭の中で考えて情報を整理してアウトプットするという自分の頭の中で完結するプロセスのイメージが強いですが、実はそれは全体の一部でしかありません。

ロジカルシンキングの目的は、当たり前ですが、「ロジカルシンキングをできるようになること」ではありません。
 

「ロジカルな思考を通じて仕事でより良い成果を出すこと」です。
 

ビジネスの場面でそれを発揮するには以下のような連続的な能力が求められます。
 

ロジカルシンキング研修

 
もしロジカルシンキングが得意な人であっても、1「問題を発見する」というプロセスを生み出せなければ、思考力を発揮する機会もありません。
 

身近で起きる問題に異変を感じることができるか、何も感じられず流してしまうかという「感度の差」です。
 

さらに2「原因を分析する」3「対策を考え出す」の段階はロジカルシンキングをフル活用できますが、仕事場での原因分析や対策検討は1人で行うより複数の関係者で話し合います。
 

そこで必要とされるのは、関係者同士フラットな目線で問題の原因について話し合い、チームとして良い結論を出す「組織思考力」です。

自分だけが考えるのではなく、周囲のメンバーにも考えてもらい、良い意見やアイディアが引き出し、良い議論を重ねる力が求められます。
 

 

このようにチームで考える際には、相手の意見を正しく聞く力と、自分の意見を分かりやすく相手に伝える力も求められます。
 

相手の話が少々分かりづらくても、それを論理的に整理してあげながら、皆が分かる情報に導くのが「ロジカルリスニング」

自分の頭で考えたことを、周囲の人に伝わりやすいような順序や構成で口頭で伝えるのが「ロジカルスピーキング」です。

会話ではなく文章で伝える時には、「ロジカルライティング」が要ります。
 

改めて整理しますと、ロジカルシンキングをビジネスで活用するめには、以下のような周辺スキルが必要となります。

 

ロジカルシンキングをビジネスで活用するための周辺スキル

 

  • 問題や異変に気づく感性
     
  • 日々の情報収集
     
  • 個人の思考力に加えて組織思考力
     
  • ロジカルリスニング
     
  • ロジカルスピーキング
     
  • ロジカルライティング

 

以上、ロジカルシンキング研修を行っても、実際の仕事場で活かされない要因について説明しました。

では実際に「仕事で使えるロジカルシンキング能力」はどのように育成したらよいでしょうか?

 

実務で活きるロジカルシンキングの鍛え方

 
若手向けの初歩的なロジカルシンキング研修は、ロジックツリー、MECE、なぜなぜ思考、ピラミッドストラクチャー、PREP法など様々な手法の理解と簡単な訓練にとどまります。

そこで、学習する皆さんには、誤解が生じないよう以下の3つを伝えてください。
 

1. ロジカルシンキングは上の役職になるほど大事なスキル

ずっと磨き続ける必要がある
 

2. 筋トレと同じで学んだ事を実践した回数だけ上手くなる

実践しない限り永遠に仮免許で終わる
 

3. ロジカルシンキングは考える力だけ養っても使えない

情報をキャッチする感度、問題発見力、人に伝える力、人の話を聞く力などが掛け算となって初めて発揮される

 

初回の研修では基礎知識の習得で十分ではあるものの、それだけで習得が完了した気にならないようにすることが大切です。

上記3つの注意点を伝えて、今日がスキル習得のスタートであることを認識してもらいましょう。
 

ロジカルシンキングの実践活用力を向上させるには様々な有効なトレーニング法があるので参考にしてください。

 

ロジカルシンキング研修 トレーニングに盛り込むべきポイント

 

トレーニング設計時に留意すべきポイント

トレーニングを設計する際には、次の観点を盛り込むことで、より実践に使えるトレーニングになります。

  • 日々考える機会を持たせる。漫然と1日を終わらせない
     
  • 何かに気づく機会を与える。感度を高めてもらう
     
  • 人前でロジカルシンキングを使う機会をもたせる
     
  • 報告の際には常にロジカルな説明をさせる
     
  • 自分の考えを持ってもらう
     
  • 自分の考えを人に伝える場をもたせる
     
  • できるだけ書かせる(話し言葉より文章の方が論理性、整合性を問われる)
     
  • 自分の職場の課題や改善策を考えさせ機会をあたえる
     
  • 忖度会議など悪い会議をやめ、あるべき会議ができるよう仕向ける

 

 

具体的なトレーニングの例

上記設計時のポイントを踏まえると、具体的には次のようなトレーニングプログラムにつながります。

  • 日々の仕事における気づき日報を毎日書かせる
     
  • 朝礼でその日の気づき、思ったことなどを話してもらう
     
  • 世の中のニュースから自社で有効なアイディアや自社事業に活かせることを定期的に発信してもらう
     
  • 良書を読ませ、その内容について自分の考え、仕事に活かせる点などを書かせる
     
  • 社内の報告を必ず「結論⇒理由⇒背景/詳細」という順番でさせる
     
  • 原則として報告資料は1枚にまとめるルールとする
     
  • 年に1回職場改善提案を書かせる
     
  • ディスカッション時に、その論点をホワイトボードに書いてもらう。情報が複雑になってきたらロジックツリーを書いてもらう
     
  • 正しい会議のやり方を指導し、真剣に皆で議論して結論を導き出すという会議運営をさせる

 

まとめ

 
ロジカルシンキングはビジネスパーソンのコアスキルの1つ。
特に管理職、幹部へと役職が上がっていくほどそのスキルが問われます。
 

「ロジカルシンキングを若手時代に学んだことがある」という人は多くいます。

しかしそれを実務で使いこなせるようになるには、反復練習が欠かせません。

筋トレのようにやり続ければ、地力がつき、瞬時に物事の本質を見極め、論理的に解を導き出す力がついていきます。
 

ロジカルシンキングは、学ぶものではなく実践するもの。
 

頭で考えるだけでなく、感度を磨き、議論し、人に伝え、人から聞く中で磨かれる力です。

そしてロジカルシンキングは鍛えれば誰でも上達するものでもあります。

トレーニング方法もたくさんありますので、会社として、または一個人として、是非磨きをかけていきましょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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